魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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明確な拒否の為に

 形はどうあれ、部活連のメンバーには遅かれ早かれ伝わるとみて悠元は招集を掛け、一連の事情を搔い摘んで説明した。流石に[トーラス・シルバー]絡みについては『嫌疑を掛けられた』というレベルに抑えた上で話している。

 

「そういうわけで、妙な嫌疑を掛けられた上に行く気すら起きないプロジェクトの参加を打診されたが蹴り飛ばした。何か質問はあるか? 遠慮せずに問いかけていいぞ」

「質問なんだが悠元、そんな簡単に事情を明かしていいのか?」

「元々トップの決裁以外仕事が無かったが、今後の引継ぎも考えて七宝に会頭代行を頼みたいからな。その為に事情を明かした。なに、いきなり全部背負わせるわけじゃないから気を楽にしてくれ」

「は、はい!」

 

 いくら百山が魔法教育の権威と言っても、交渉の対価を学校レベルから逸脱できない以上は悠元にとって満足できる報酬を支払うことは難しい。とはいえ、あと4ヶ月後には会頭を継いでもらうためにも、今から会頭としての仕事を琢磨にもこなしてもらう腹積もりでいた。

 授業の出席や定期考査の試験が必要という枷が外れた以上、悠元としても学校に縛られる時間が減った形となる。その分を充てるだけなので特段気にすることではない。五十嵐の質問に対して淡々答えると、琢磨は少し緊張しつつも返事をした。

 

「じゃあ質問なんだけど、悠元はそのディオーネー計画をどう見ているの?」

「言い表すなら『未来の地獄への片道切符』に他ならない。どうしてそう思ったのかは各々資料を見て考えろ。自分で考えて冷静に判断するのも魔法師として求められる役割だからな」

 

 宇宙という未知の世界に希望を抱く人間の理想を叩き落す様なものだが、別にロマンを抱くこと自体に何も問題はない。全て説明しても納得してくれるかどうかはまた別の問題であり、悠元はエリカの問いかけにそう答えた。

 

「じゃあ質問なんだが、悠元は授業に出ないのか?」

「いや、忙しくない限りは普通に出るつもりでいるが。大体、校長自身がやったことは教職員の面子に泥を塗ったも同然だろうに」

「お、おう……そこまで平然と言えるのも悠元らしいが」

 

 百山としては国際的なプロジェクトを輩出するという名誉に駆られての行動だろうが、言い換えれば『悠元を教えられる教官がこの学校に居ません』と公言している様なものであり、第一線で活躍している魔法師でもある彼らの面子を傷つけたに等しい。ひいては百山の魔法教育の権威としての面子にも直結し得る問題。

 

「俺はそこまで偉ぶるつもりもないし、この学校に来て学んだことも多い。習熟の判断をロクに生徒も見れていない学校長が何をぬかすとは思ったが、存在感を出すだけで止めておいた」

「アンタが存在感を出した時点で相手が死にそうなんだけれど」

「俺はドッペルゲンガーか?」

 

 ともあれ、悠元がディオーネー計画の招集をされたが拒否したということは部活連メンバーの中で止められることが決まった。元々深雪の抑止力として多大な信頼を寄せられているだけに、余計なことをして報復などされたくない……という意見の下での決定に、悠元は盛大な溜息を吐いた。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 部活連での話し合いを終え、悠元はそのまま町田のマンションに帰宅した。すると、38階の生活スペースで最初に出迎えたのはエフィア・メンサーだった。

 

「お帰りなさい、悠元」

「ただいまフィー(エフィアの愛称として悠元が名付けた)、他の人たちは?」

「皆リビングにいます」

「分かった。着替えて来るから先に行っててくれ」

 

 悠元の会話を終えてエフィアが先に行くのを見届けると、そのまま自室に入って手早く私服に着替え、再びリビングに降りてきた。テーブルには深雪を除く13人の婚約者が揃っていて、悠元は声を掛けつつ空いている席に腰かけた。

 

「気を遣わせてすまない」

「いやいや、これで深雪も加わる以上は下手にお兄ちゃんの機嫌なんて損ねられないしあうちっ!?」

「余計なお世話だ、と言いたいが……まあ感謝はしておく」

「素直じゃないなんてやっぱりお兄ちゃんってツンデレえぇっ!?」

 

 セリアの一言に悠元が軽い空気弾の魔法を放ち、セリアの更なる一言でプロレス技を掛ける羽目となったことに周りからは苦笑にも似た声がちらほら聞こえた。一先ずセリアへのお仕置きはいったん中断して悠元は席に戻った上で話し始める。

 

「どこかの阿呆のせいで出だしから狂ったが、今朝一高の百山校長にプロジェクトの参加打診が言い渡された」

「えっ、悠兄はそれに対してどう答えたの?」

「断ったし、そもそも俺にはやるべきことがこの国にある以上は宇宙に出る気など無い」

 

 前世でも宇宙飛行士は立派な職業として成立しており、それは義務としてではなく本人たちの意思によるものだった。いくら魔法師だからといって、宇宙開発プロジェクトに参加する義務や義理は無い。茉莉花の心配そうな問いかけに対して悠元はハッキリとディオーネー計画への参加拒否を示した。

 

「反魔法主義の広がりが無視できないのも分かる。だが、ここで魔法師を宇宙に送り出す名分なんて作り出したら、反魔法主義が却って声高に主張するという発想に至ると思うんだが」

「確かにその通りですね。幸い、この国の反魔法主義は大分抑えられていますが」

「また再燃しないとも限らないからね……ウチのタヌキが画策しそうだけれど」

 

 この部分はエドワード・クラークが非魔法師という側面も大きい。少しでも息子に対する愛情があるというのならば、魔法師に配慮できるような施策に修正するだろう。そこまでしなかったのは、達也ひいては四葉家に対する明確な敵意に他ならない。

 悠元と姫梨の会話を聞いた真由美が頭を抱えたそうな口調で述べると、それを聞いた泉美も「同感ですね」と吐き捨てたことで周りの人々に冷や汗が流れた。

 

「でも、声を掛けるなんて普通じゃないね。表向きは高校生の悠君に何ができるの? ってことになると思うんだけど」

「そうですよね、澪さん。悠元君の見立ては?」

「連中―――少なくともエドワード・クラークには俺が国家非公認戦略級魔法師だという事実が知られているとみている」

 

 婚約者たちが殆ど揃ったため、話し方も年齢相応ではなく悠元が一家の長たる側面もあってタメ口になっている。その要因は“夜の生活”に起因している部分が多く、流石の悠元本人も苦笑しか出てこなかったのは言うまでもない。

 澪の疑問に対して夕歌が賛同しつつも悠元に問いかけ、その答えとして婚約者には知らされている事実を改めて口にした。その中には悠元が[トーラス・シルバー]の功績に加担している事実も含んでいるが、それ自体を敢えて言うのは止めた。

 

「じゃが、金銭でも地位でも靡かぬ悠元に支払えるものなんてあるのかのう? わしらはそれを支払える対価を有しておるが……悠元に加減されているのは癪じゃが」

「あれでも一応抑えているからな。本気でやったら壊しかねない」

「お兄ちゃんの本気……」

 

 話が明らかに下方向へと向けられており、このままだと夜を迎える前に無差別級バトルロワイヤルに発展しかねないと判断して悠元は話題を切り替えるように話を切り出した。

 

「で、校長室を出た後に達也とすれ違ってな。十中八九達也も似たような提案をされた可能性が高い。そうなると、近いうちに深雪と水波をこのマンションに引っ越させることになる。まあ、ローテーションの司波家の部分がこのマンションに書き換わるだけだが」

 

 現在はマンションと司波家の往復だが、マンションに一本化することで身を守りやすくなるという利点が生じる。流石にマンションに向けて魔法を放つ愚か者はいないだろうが、国防軍情報部の件もあった以上は油断できない。

 

「本家の本格的な引継ぎは大学に入ってからでも構わない、と母上が言ってくれたからな。大体、神楽坂家の仕事の半分以上を既に引き継いでいる状態なのに、こんな状態でほっぽりだして宇宙に行けだなんてやったら、確実に国内事情が悪化するわ。少なくとも潮さんをはじめとした財界の面々が過労死するわ」

「……まあ、それは分かる」

 

 そうして事情説明を終えて解散した後、風呂場でのスキンシップ(ソフトタッチで済んではいないが、描写できない状態)の後に自室へと戻った。そして、自室に招いたのはエフィアとセリアの二人。

 婚約者の中では知り合いが少ないエフィア。なので、表向き同じ立場になるセリアと一緒にすることでホームシックのケアをすることとした。なお、その際にセリアから『そういう気遣いをするから奴隷になりたいって言いだすんだと思うよ』と言われた際は反射的にトールハンマー(こめかみグリグリ)をお見舞いした。だが、セリアの言葉は深雪の例で実証されている為、あまり強く言い返せないのも釈然としなかった。

 無論、話題となるのはディオーネー計画のこととなった。

 

「リーナがアメリカに?」

「お姉ちゃんがそう言われたって。四葉家当主の許可は取り付けたとも聞いてる。それで、私はどうしたらいいかなって」

「ふむ……」

 

 書面上は日本人として帰化しているリーナだが、ここで呼び出すとなると『アンジー・シリウス』の肩書きが今も尚生きていることに他ならない。セリアが相談したのは、リーナの付き添いとして当然シルヴィアがいる訳だが、彼女だけで対処できるのかという不安があるからだ。

 学校は暫く休学となるが、そもそも成績優秀なセリアであれば『祖国の事情』で帰ることもできる。これを交渉材料にしようものならば学校長と教頭を更迭してもらうように働きかけるだけだが。

 なお、リーナが[十三使徒]アンジー・シリウスであることはエフィアにも知らされている為、特段驚く素振りを見せずに話を聞いていた。

 

「万全を期すならセリアにも行ってもらった方がいいが……悪いけど頼めるか?」

「任せて。ちなみに、今何を考えてたの?」

「ああ。もしもの時のことを考えてリーナの味方に成り得る『スターズ』の隊員に御守りでも持たせようかなと」

 

 原作では成り得なかったパラサイト化が余計に進行する可能性がある。その可能性が捨てきれない以上、その対策として御守りとなるものを渡す腹積もりでいた。

 

「セリアならこっそり渡せるだろうから、いくつか渡しておく。少なくともカノープス少佐の手に渡るようにしてくれ」

「それだとバレたりしない?」

「ここはちょっとした細工ですぐに出来る」

 

 軍人ならば誰しもが有しているドッグタグ。『スターズ』で使われている認識票の仕様はセリアから事前に聞いており、材料に必要な金属は魔法の訓練がてら大量に生み出された金属の塊から精製するだけで済む。

 文字を刻む方法は以前幹比古に渡したCADの技術を応用したもので、ドッグタグを渡された当人の記憶から認識情報を無系統魔法によって読み取った上で刻まれ、以後は普通のドッグタグと何ら変わりない形となる。

 そして、そのドッグタグに特殊な金属板を仕込み、魔法陣を刻み込むことで装着者以外の霊子を強制的に遮断する魔法式が刻み込まれている。この魔法は元々ネイティブアメリカンの魔除けとして用いられた(まじな)いの一種の為、技術が明るみになっても特に問題はない。

 

「実を言うと、婚約者に渡したアクセサリー類にも同様の魔除けを仕込んでいる。意識して使えば相手の魔法を難なく防御できる代物だ」

「それ、[ファランクス]の存在意義を殺してるんだけど」

「そんな事を言われてもなあ……フィー、大丈夫か?」

「あ、はい。つくづく悠元さんが素晴らしい人だなって感動してました」

 

 泉美のような反応は行きすぎだと思わなくもないが、これはこれで何だか気恥ずかしい気分になる。ともあれ、一応対策を立てた上でアメリカに戻ることは決定したが、問題はリーナをどうやって帰国させるかだ。

 原作だと逃亡するように日本へ入国しているが、そこに加えて光宣もとい九島家・藤林家のトラブルや新ソ連の一件が出ていた。この世界の修正力を鑑みれば、いくら民間機だろうと無事に帰れる保証がない。プライベートジェットでも同様だろう。

 そこで、悠元はある手段を思いついた。

 

「フィー、フランスの大統領にコンタクトは取れるか?」

「はい。取ることは出来ますし、悠元さんからのお願いなら快く引き受けてくれると思いますが……何を考えているのですか?」

「フランスにリーナの帰国を手伝わせる」

「それはまた……エグイ手だね」

 

 悠元が考えているのは、国内線でアルバカーキからワシントンに飛んで、そこからフランスの大統領専用機で一旦フランスを経由し、そこからアラブ同盟、インド・ペルシア連邦、東南アジア同盟を経由して日本に帰ってもらうルート。遠回りとなるのでリーナやセリアにとって負担となるが、これにはメリットも存在する。

 それは、[アンジー・シリウス]の海外派遣という理由に『新ソ連への牽制』という最大の要因がフルに使えるからだ。西回りでの帰国は『USNAの[十三使徒]として新ソ連の横暴は許さない』という暗黙のメッセージを突きつけることにも繋がるし、何よりイギリスに対しての牽制の意味も含まれている。

 

 ヴァージニア・バランス大佐に話を通す必要は出てくるが、ただでさえパラサイト事件はおろかセブンス・プレイグ落下未遂事件でUSNA側が多大な借りを負っている以上、この案はすんなり通るだろう。

 そして、セリアには既に新たなCADを持たせている。いくら『スターズ』といえども更に成長した“ポラリス”相手に出来るのかが正直不憫だと思わざるを得ない。

 

「フランスが何故こちらにコンタクトを取って来たのかなど想像は付いている。だったら、対価として存分に働いてもらうだけだ。なんだったら、ついでに西欧で暗躍して反魔法主義の結社を潰せば向こうの政府関係者も喜ぶと思うぞ」

「それはいいね。でもまあ、フィーちゃんのお陰で反魔法主義の連中が勝手に潰れてそうだし」

「あ、あはは……私のお陰かは分かりませんが、そんな噂は聞いたことがあります」

 

 エフィアがフランスに移住して軍に入った後、フランスにおける反魔法主義の活動がかなり激減した。『ブランシュ』の残党もそうだが、主だった魔法結社は悉く“謎の爆発”で壊滅に追い込まれた。

 セリアに聞いたところでは、USNAのエージェントが巻き込まれて已む無く対処したような痕跡があったそうだ。名前はジェラルド・バランスといい、ヴァージニア・バランス大佐の甥にあたるらしい。

 彼が“転生者”なのかどうかはさておき、彼もバランス大佐と同様に苦労人の気質を抱えていそうで少し同情したくなった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 セリアやエフィアと一夜を過ごした翌日の放課後。そのまま帰宅した悠元は真由美のプライベートルームを訪れた。真由美のほうも予め悠元から『相談事がある』というメッセージを受け取っていたため、既に大学から帰宅していた。

 更に、協力者として市原鈴音もその場にいた。

 

「失礼する。遅くなったか?」

「ううん、リンちゃんと談話してたからお構いなく」

「こうやって会うのは久しぶりですね、悠元君。この我儘猫は迷惑を掛けていませんか?」

「大丈夫ですよ、市原先輩。先輩の癇癪は今に始まった事じゃありませんから」

 

 まるで姑と婿のような遣り取りに対して真由美が少し膨れるような様子を見せたため、悠元は一息吐いた上で二人と相対した。

 

「市原先輩。真由美には説明しましたが、自分と達也をディオーネー計画に参加させようと目論む連中が動きました」

「計画の概要は目を通しました。もしかしたらとは思っていましたが……達也君からは『参加する気など無い』と断言に近い口調で述べていました」

「それもそうでしょう。何せ、下手すると人類を滅亡させかねない最悪の一手ですから」

 

 単に宇宙開発によって人類の生存戦略を図るというのであればまだいい。問題は、その計画に動員される魔法師の数が半端ない数へと膨れ上がるだけでなく、最悪魔法資質保有者全員が宇宙に追い出される可能性を秘めた悪魔の計画。

 

 それを自覚してやっているとすれば、エドワード・クラークは間違いなく魔法師の“敵”に他ならないだろう。

 

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