魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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傍から見ればテロリストみたいなもの

 克人が降伏の意思を示し、戦闘を続行する意図は無いと判断して悠元は[天陽照覧(てんようしょうらん)]で克人を回復させた。瞬く間に引いていく痛みに驚きを隠せないが、それを成したのが数字(ナンバー)を持たない一介の魔法師という事実に敗北を認めざるを得なかった。

 そして、ゆっくりと立ち上がると神坂に対して頭を下げた。

 

「此度は自分の負けを認める。神坂殿の要求通り、この結果を日本魔法協会に持ち帰って報告することと、司波に対する干渉を取り止める様進言することを十文字家当主の名に懸けて約束する。だが、一つ尋ねたい」

「何でしょうか? 生憎魔法の詳細は教えられませんが」

「貴殿が師族会議議長の名代ということは、神楽坂殿がディオーネー計画に反対する理由も伺っているのか? もしそうだとすれば、その理由をお聞かせ願いたい」

 

 克人が尋ねたのは、神坂の魔法ではなくディオーネー計画に反対する悠元の意図について。そこの部分を聞いているとは必ずしも言えないが、依頼を受けたからには少なからず賛同した部分があるのだろう、という克人の憶測を読み取ったのか、神坂もとい悠元は一息吐いた上で話し始める。

 

「正直に考えて、ディオーネー計画自体が“たかが10人”で完遂できる規模を遥かに超えている―――それは少しでも考えれば分かる筈の事実だと存じますが。それがいくら[十三使徒]の名を有する戦略級魔法師が入ったとて同じこと」

 

 そもそも、イギリスと新ソ連の戦略級魔法師が持つ魔法など、金星のテラフォーミングには何ら寄与しないに等しい。いくら現代魔法の権威といえども、使用した魔法の帳尻を一体どこで合わせるのかも不透明。

 世界の秩序を保つというのであれば、それこそ数人から数十人規模でも事足りる。前例にあるのは世界群発戦争時の超法規的魔法師部隊に他ならない。だが、星一つをテラフォーミングするという大事業となれば、動員される予定の人員は平気で億単位になることが想定される。

 

「そもそも、魔法師同士の戦闘を()()()()()新ソ連とUSNAの事情を鑑みれば、いくら同盟国といえども他国の増長を許せるはずがない。彼らの最終的な目的は、『四葉』をこの国から切り離し、最悪滅ぼすこと。それを縁者となった議長殿が許容できるとお思いで?」

「……確かに、それは出来ない相談だな。だが、その暗闘というのは?」

「8年前、ベーリング海で起きた魔法師同士の暗闘。これによって双方二桁に及ぶ一線級クラスの魔法師を喪っています。尤も、私は依頼主(クライアント)から聞いたにすぎませんが」

 

 その戦闘によって、本来年齢を鑑みなければならない『スターズ』の序列にリーナが加わり、そのサポート役としてセリアが加わった。一方、新ソ連がその不満のはけ口として佐渡侵攻やウラジオストク軍港からの艦隊出撃、更には宗谷海峡での一件に繋がった。

 

「貴方は司波殿との会話の中で、十師族の責務として互いに助け合うべきだと仰った。だが、貴方が述べた魔法協会の提案は四葉家に『犠牲になれ』と言っているに等しい所業。神輿や生贄を互助の類だと錯覚させるような提案など、相手の感情を逆撫でするものでしかない」

「……」

「どいつもこいつも四葉家を何だと思っていらっしゃるのか理解に苦しみますな……『物好きな邪魔もの』を含めて」

 

 そう言って悠元が指を鳴らすと、突如降り注ぐ雷雨の嵐。だが、それは無秩序に放たれたものではなく、克人や真由美たち、そして達也たちを避ける形で降り注ぎ、各所で悲鳴に近い声と地面に突き刺さる者ども。

 そして、悠元はそれを冷ややかに見つめていた。

 

「余程期待されていたようですな、十文字殿。ですが、彼らについては警察を呼んで対処いたしますのでお気遣いなく」

「……余計な詮索はしない方が良さそうだな」

「ええ、それが議長殿の機嫌だけでなく、未来の奥方様のためでもあります」

「ホント、かっちゃんは不器用なんだから」

 

 地面に突き刺さった人物たちの素性を探るのは宜しくない、と判断した克人に対して悠元が意味深な言葉を述べると、そこに姿を見せたのは怒っている雰囲気を漂わせた三矢美嘉がいた。

 美嘉は克人に近付くと、頬に一発ビンタを打つ。そして、克人はそれを避けることもせずに甘んじて受けた。

 

「……何で怒っているか、分かる?」

「分かっている」

「なら、司波君たちにちゃんと謝罪しなさい。今すぐに」

(うーん、流石美嘉姉さん。十文字先輩の手綱をきちんと握ってるよ……)

 

 美嘉の一言で、克人は達也たちに対して「魔法協会の要請とは言え、このようなことに巻き込んですまなかった」と述べた上で頭を下げた。そして、克人は悠元に対しても頭を下げた。

 

「神坂殿。議長殿の名代を相手に手荒な真似をして申し訳なかった」

「私からはこれ以上申し上げることはいたしません。その代わり、そちらの婚約者殿から沢山説教があるようですので、これ以上は野暮というものです」

 

 美嘉の説教という文言に対し、冷や汗を流したのは克人だけでなく真由美や亜実もであった。ともあれ、静かに去っていく四人を見届けて姿が見えなくなったところで悠元は[仮装行列(パレード)]を解除した。

 

「ふう、流石に冷や汗ものだった。馬鹿の一つ覚えにタックルを連発してくるとか正気の沙汰じゃないわ」

「お疲れだな、悠元。それで、あちこちに刺さっている人たちはどうする?」

 

 見るからに脳天から地面に突き刺さっていて、ホラーよりも怖い有様に深雪は苦笑していた。達也が動じないのはこれまで人を殺すことを散々やって来たからだし、水波も対人戦の訓練を受けているお陰で何とか正気を保っていた。

 すると、そこに達也たちが見知った顔が現れた。

 

「うへー、これはまたホラーよりもエグイわね」

「綺麗に地面に突き刺さってるからな。抜けるのか、これ?」

「寧ろ窒息死する未来しか見えないんだけど」

 

 姿を見せたのはエリカ、レオ、幹比古。それとほのかや燈也、更には光宣までいた。この場に姿を見せていないが、雫や修司、由夢と姫梨、それに佐那や美月もいるのは間違いないだろう。

 

「いやー、流石悠元ですね。僕だと精神を殺すので精一杯です」

「それでも十分に凄い気もしますが……大丈夫ですか?」

「俺たちの方はな。主に頑張ったのは悠元だが」

「相手の油断を誘いまくって罠に嵌めまくっていたエリカたちがそれを言うか?」

 

 実は、ゴルフ場の近くにある山から襲撃を掛けようと国防軍情報部の部隊がいたが、それを古式魔法の面子で部隊を掻き乱し、実力行使ができる面子(主にエリカやレオ)で部隊を壊滅させた。なお、護送には千葉家の伝手で警察の特殊部隊まで動員し、彼らは魔法関連法違反及び国防軍法違反という罪状で逮捕されることが決まっている。

 

「光宣君が頑張ってくれたからね。僕は相手の感覚を狂わすことに専念できたわけだし」

「いえ、それを言うなら吉田先輩の魔法も凄かったです」

「というか、そこまで見抜くなんて流石よね」

「それ以上は止めろ」

 

 あまり褒められても嬉しくない、と言わんばかりの悠元に対し、周囲の面々は笑いを零していた。埒が明かないと見たのか、悠元は一息吐いた上で別荘への帰り道を進む。エリカたちはここまで警察の車で来たので、そのままとんぼ帰りすることとなった。

 

 なお、悠元もバイクで来ていたのでそのまま帰ろうとしたところに深雪から引き止められ、更には帰ったはずの雫や姫梨が水波まで巻き込んで……その光景を見た達也は悠元に内心で謝罪を送りつつ、ピクシーに家事を任せたのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 悠元がこのような形で戦闘に介入したのは、無論達也のためでもあるが、克人のためでもあった。正確に言えば十文字家に嫁ぐ自分の姉の為、と言うべきなのだろう。その根底にあるのは達也が原案を出し、悠元が協力して完成させた[トリリオン・ドライブ]にある。

 本来、原作の[バリオン・ランス]の時点でも中性子バリアを無力化する時点で強いのだが、[トリリオン・ドライブ]は固形の炭素杭ではなく気体の窒素を用いた副産物として、射出されるバリオンの密度は極めて高い。無論、威力を制限すれば局所を狙い撃つだけで済むが、もし[バリオン・ランス]の感覚で[トリリオン・ドライブ]を行使した場合、人一人が簡単に消し炭になってしまう。

 

 そこに追い打ちを掛けるように、達也の制限がすべて解除されたことでその公算が高くなった。これでは克人と達也が対峙した場合、最悪克人が消し炭になってもおかしくはない。その最悪の事態を回避するべく、悠元が矢面に立つこととした。

 原作以上に強化された本気の達也なら[魔導解散(キャスト・ディスパージョン)]で片が付くのは言うに及ばずだが、それで克人が[オーバークロック]を連発して魔法技能を消失することになっても困る。一番困るのは十文字家であり、悠元の姉である美嘉もその中に含まれる。

 強化し過ぎたが故に加減を考えなければならず、しかも[誓約(オース)]を完全解除したばかりの達也が加減を間違えないとも限らない。となれば、現時点で魔法の加減が出来る悠元が矢面に立つことで克人の死亡を回避する方向性に持っていった。

 

 克人はあくまでも魔法協会の要請を持ち込んだにすぎず、達也に対する姿勢は十師族としての役目を達也に履行するように求めた―――という方針は既に上泉家と示し合わせている為、今回大人たちの貧乏籤を押し付けられた側の克人に罰は求めない。

 ただ、今回の一件に際して、日本魔法協会にディオーネー計画の参加を求めたいのならば魔法協会の責任者自らが達也を説得しろ、と抗議の文書を送付している。それも、悠元だけでなく政財界の重鎮たちの署名も含めてのもの。

 

 月曜日の朝、悠元はマンションのリビングで朝食を摂っていた。

 元々鍛錬の都合で朝は早く、それに参加している深雪や他の婚約者たちもそれに準じた時間に起きることが多い。昨日は克人との戦闘の後、別荘に連れ込まれて局所的な大規模戦闘(ないようはおさっしください)になったが、何とか勝ちを拾った。

 その後、神楽坂家の迎えで深雪たちが帰り、悠元はバイクで帰路に就いた。別荘に泊まっていってもいいと達也は提案してくれたが、“今日のこと”を考えると東京に戻ってきた方がいいと判断してのものだった。

 食後のコーヒーを飲みつつテレビの報道番組に目を向けていると、想定されたアクシデントはテレビの中から飛んできた。アナウンサーが慌てるとなると、余程のことだろうと思いつつも悠元は画面を見つめる。

 

『緊急ニュースです。こちらの画面をご覧ください』

 

 そうしてモニターに映し出されたのは如何にも怪しさの塊と言うべき姿の人物。灰色のフード付きローブをすっぽりと被り、顔には白い樹脂製と思しき仮面を着けている。まるで『パラサイト事件』の時にUSNAを脱走した連中がしていた恰好を想起させる。

 

「……怪しさ満点」

「うむ、そうじゃな」

 

 一歩間違えればテロリストと思われても仕方がない様な出で立ちの人物に雫が直球を投げ、沓子も反論する余地がないと賛同するように述べるほど。リビングにいる面々が注目する中、不審人物が声を発する。

 

『私は七賢人の一人。第一賢人とでも名乗らせてもらおう。私は日本の皆さんに、ある真実を伝える』

 

 そもそも、大半の一般の民衆は『七賢人』という言葉の意味すら知らない。それを知らずに聞いたとしたら、どこかのトチ狂った愉快犯が“犯行声明”をメディアに送り付けたとしか思わないだろう。尤も、その言葉を知る側からしても……仮に原作の知識がなくとも想定される事態は予測済みだが。

 

『私はUSNAが主導するディオーネー計画が、速やかに実行されることを望む。その為に日本からも、トーラス・シルバーの参加を望んでいる。トーラス・シルバーこと、司波達也氏の参加を望む。トーラス・シルバーは、国立魔法大学付属第一高校3年生、司波達也氏である。日本の方々よ、司波達也氏を説得してほしい』

 

 ビデオメールはこの言葉を以て終わった。『第一賢人』―――レイモンド・クラークが変装して達也の説得を呼び掛けたようだが、その中には悠元が含まれていない。しかも、[トーラス・シルバー]そのものが個人名ではなくチーム名という事実に触れずに。

 その映像を見終えた所で、深雪が問いかけてきた。

 

「悠元さん、何故お兄様だけが対象となったのでしょうか?」

「そこなんだよな……第一賢人(やつ)は俺が[トーラス・シルバー]だと察していたわけだが」

 

 『パラサイト事件』の時点でレイモンドは悠元のことを戦略級魔法師[殲滅神(エクスキューショナー)]と呼称していた。百山に送られた書状でも嫌疑を掛けてきたのに、今回の一件では達也に対象を絞って狙い撃った。達也を説得した上で悠元も芋蔓式で強制しようと目論んだとすれば、まだ行動の論理に一貫性が伴う。

 

「トーラス・シルバー? え? 悠兄ってそういう立場なの?」

「あー……そういや説明してなかったな」

 

 婚約者の中で悠元が国家非公認(皇族公認)の戦略級魔法師かつ[トーラス・シルバー]の片割れと知っているのは、深雪、雫、姫梨、沓子、夕歌、セリア、澪、そして真由美の七人。茉莉花の言葉を聞いて、改めて事情を説明することとなった。

 

 なお、反応としては逆に納得されてしまった。解せぬ。

 

三高(うち)が負けた理由も納得できますわ。ただ、少しぐらい自慢しても罰は当たらないと思いますが」

「自慢したところで[どこかの色惚け王子(クリムゾン・プリンス)]が変に拗れても困るだけだからな。この先数十年は顔を合わせることになるであろう奴と因縁なんて持ちたくないし」

(今、酷い言葉にルビを振ったように聞こえたんですが……)

 

 時間は現在朝の6時半。普通ならば早い時間だが、レイモンドが動いた以上はこちらも手を打つ必要がある。尤も、FLTに対しては昨晩の時点で既に手を打っている。悠元は「片付けを任せてもいいか」といいつつ席を立って、自室で『神将会』のスーツ姿に着替える。

 

 その上にライディングスーツを纏った上で[ドレッドノート]を駆り、出向いたのは東叡山(とうえいざん)円頓院(えんどんいん)寛永寺(かんえいじ)。開山(初代住職)は天海、本尊は薬師瑠璃光如来(やくしるりこうにょらい)。江戸幕府を担った徳川家十五代の将軍のうち六人が眠る菩提寺で、歴代住職の第三代から幕末の時代まで皇族が就いていたこともあって朝廷との関係も深い。

 そして、現在この寺の住職を務めるのは元老院四大老の一角を担っている東道家当主・東道(とうどう)青波(あおば)。世間体では青波(せいは)入道(にゅうどう)の名で出家している身だが、古式魔法の大家として四葉家のスポンサーの一角を担っている。

 

「朝早くに突然の来訪となったことについて詫びさせていただく、東道殿」

「今朝の事情は大まかに掴んでおる。寧ろ、こちらが出向かなければ礼を失するべきところを出向いてくれたことに感謝せねばならぬ、神楽坂殿」

 

 悠元と青波の関係は義理の甥・伯父の間柄だが、互いに一家の当主であると共に元老院四大老という重鎮の立場。しかも、青波は父親の罪で厳しく見られており、樫和家ほどではないにせよ、早々に立場を譲らなければならなくなった。

 年齢こそまだ十代にせよ、立ち振る舞いや存在感は最早政治家の重鎮ですら頭を下げかねないほど。それを作り上げた義理の父親に感服しつつも、青波は目線を悠元に向ける。

 

「して、あの不遜の輩に対する策はあると見ておるが、こちらは何をすればよい?」

「東道殿には樫和家を抑えて頂く。こちらで既に手は打ったが、子飼いの輩が何をするか分かったものではないのでな」

「それは……重大な責任であるな」

 

 細かくは述べなかったが、東道家には汚名返上として樫和家、その子飼いとなっている十六夜家への抑止に舵を切ってもらう。併せて、四葉家のスポンサーは今後神楽坂家と上泉家の二家による運営とすることで、青波の父親が起こした“四葉殺し”に対する罰とする。

 

「そして、血族の縁故がある四葉家とは今後の付き合いに距離を置いてもらう。スポンサーは神楽坂家と上泉家が担う故、ご承知おき願う。異存はないか、東道殿?」

「……異存はありませぬ」

 

 四葉の復讐心を作り上げた原因を作ったのが自身の父親とはいえ、そのことを素直に明かすことなく保身に走った罪は事実。それに、古式の術者としての実力は青波よりも悠元が圧倒的に格上。

 青波は悠元の提案に一切の不平や不満を唱えず、静かに深く頭を下げたのであった。

 




 というわけで、ここで章は区切りとなります。次話からエスケイプ編に突入します。
 今回はコメントでも疑問に思われていた部分への答え合わせもありますが、原作の時点でも戦略級魔法を平気で放てる達也が最低でも数倍以上強化され、おまけに新戦略級魔法まで保持しているという事実を踏まえると、克人の腕だけが切り離されるだけで済まないと考えたからです。
 大抵のなろう系ならある現象ですが、『本人の能力が強化され過ぎて初級程度の魔法でも大惨事になる』現象が起こり得ない保証がないと考えての悠元の参戦です。
 まあ、最近説明やら策謀回ばかりでこの先書くことになる戦闘シーンへのリハビリという側面もあったりしますが(苦笑)

 次章『ジェラルド・メイトリクス、怒りのロケラン乱舞』(嘘字幕)
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