魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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次を継いだ者達と更なる未来への苦悩

 九島光宣による桜井水波への執念。そして、ディオーネー計画に端を発したレイモンド・クラークによるスターズのパラサイト化。だが、前者を実質的に封じたことで後者に専念できるという強みが生じた。

 これによって達也が無系統魔法[封玉(ふうぎょく)]に至る道まで閉ざした形となった訳だが……その達也は天刃霊装を通してパラサイトの封印方法を探っていた。天刃霊装自体は心象を現実に描き出す魔法技術であり、いずれ来る妖魔の封印が解けたときの対策を第一として編み出された経緯がある。

 

 幹比古の力を借りる形で道を模索している達也に対し、悠元は他の面々の鍛錬も行いながら[天魔抜刀]を研鑽していた。かつての祖が最終解放とした極致だが、悠元はここから更に進化させることを念頭に置いていた。

 元々魔法自体が人の手に余るものだからこそ、己を厳しく律さなければならない。ただ、今の現代魔法師の殆どが、その現実を直視できていない。無論、それは十師族にも言えたことだ。

 

「凄いな、悠元は。そこまで力を扱えてるなんて」

「色々人を辞めかけた事実も付随するけどね。元継兄さんもあっさり至ったし」

「あの爺さんに散々振り回された結果というのは釈然としないが」

 

 第一高校の演習場にはOBでもある元継が足を運んでいた。目的は天刃霊装の研鑽で、元継は天刃霊装である[龍爪]の[天魔抜刀]形態―――[大典太光龍宗世(おおてんたこうりゅうそうせい)]を手にしながら、ぼやき気味に呟いた。

 

「それと、あのジジイの戦略級魔法まで受け継ぐ羽目になるとは。いや、上泉家の宿命は理解しているがな。あの魔法を継ぐ意味も分かっているが」

「釈然としない感じは分かる。俺も母上から継いだから」

「悠元もか……正直、兄貴が家を出る羽目になって騒動が起きるよかはマシなんだろうが」

 

 元継が[天魔抜刀]に至ったことで、剛三の戦略級魔法[雷霆終焉龍(ヘル・エンド・ドラゴン)]を使いこなすことができる算段まで整ったこととなり、これによって元継は名実ともに上泉家当主としての地位を確立させた。

 

「確かに、下手にお家騒動にならないだけマシだと思う」

「神楽坂家のことは爺さんから聞いている。うちの場合は、あのジジイが直接殴り込んでいたみたいだからな」

 

 元継が上泉家を継ぐ段階に入った際、剛三が自ら分家に殴り込んで元継に家督と家業を継がせる旨を伝えただけでなく、その際に決まって『儂が自ら決めた後継者に文句があるのなら、儂に勝ってから物申せ。いつでも挑戦は受け付けておるのでな』と言い放っていたらしい。

 

「母上の場合は『私に直談判したら話ぐらいは聞いてあげるといいましたのに、誰も来ないんですもの。それでいて外野で騒ぐのはいかがなものかしら』とぼやいていたけど」

「かつての英雄に面と向かって喧嘩なんぞ普通は売れんからな。俺の場合は主に家族絡みか武術絡みでしか啖呵を切ることはしていない」

 

 その際は当主だけでなく家族単位で集めた上で公言しており、それでも文句を言いたそうな直系の孫世代に対して『強くなりたいなら遠慮せずに言うといい。儂の鍛錬はおぬしらが受けているものの十倍以上はきついがな』とも言い放った。

 それが決定打となり、元継の後継者指名に対して文句は一切出なくなった。上泉分家でも各々鍛錬は積んでいるようだが、剛三直々の鍛錬の辛さは風の噂レベルで流れてくるためか、自ら無謀な挑戦を試みる輩はいなかったようだ。

 

 尤も、十倍以上という単位自体が剛三の価値観によるものなのは言うに及ばずで、それが一般的な新陰流剣武術の鍛錬量に当て嵌まらないのは……悠元と元継、それに彼の愛弟子たちが良く理解していることだった。

 

「しかも、分家の連中から天刃霊装の技術を捨てるべきという声まで出始めて、とうとう母上がキレて呼び出した挙句、最悪自刃させることも厭わない状態にまで発展したからな」

「パラサイトが再出現するリスクは向こうも知っているはずだと思うが……悠元はいいのか?」

「最悪本気で叩きのめして、死んだほうがマシと思わせるまで心を折る。それで廃人となったとしても、それは自業自得の結果だと認識してもらうまでだ」

「そうか……(物理的に死ぬか、精神的に死ぬか……どちらも苦痛だな)」

 

 元継は上泉家に入ったことで価値観が家に染まった訳だが、悠元の場合は元々の価値観が神楽坂家のそれに最も近いが故に、違和感なく馴染んでしまった。悠元の恩情で一度は許したことを知っていたが、そう言い放ってしまうあたり、彼も正直嫌なものは嫌と言いたいのだろう……と、元継はそう思った。

 

「天刃霊装だって元々はパラサイトを念頭に置いた妖魔対策の一環で、専門的に処理する人間の幅を狭めないために確立した魔法技術だ。天神魔法の技巧に抵触しないかどうか母上と確認して纏めた苦労を何だと思っているのやら」

「つまり、この技術はある程度外に出すと?」

「いっそのこと魔法科高校で教えていくのもありだと思ってる。天刃霊装が現実的な技術になれば、魔法の可視化にも繋がるから」

 

 どうあっても犯罪に用いられるリスクは付き纏う為、教える人間をある程度限定する方策も考慮しつつ、天刃霊装については世に出していく技術として道筋をつける。尤も、最初の解放段階へ至るまでに自身の精神を形にする関係で己を律する必要があり、現時点での魔法科高校の一般的な生徒では精神の成熟が難しいだろうと思われる。

 

「現代魔法を行使するように想子を感知するだけでは、天刃霊装に至ることは決してできない。想子はあくまでも世界の理にアクセスするための手段(キー)でしかない」

「……悠元。それでは、想子だけで魔法は成立しないと?」

「想子の性質を考えれば、それは元継兄さんにもわかるだろう? 特に[天魔抜刀]に至った兄さんなら、それが一番理解できるはずだと思う」

 

 想子単体で“想子同士による同一座標上の情報の重複”は発生しても、想子で構築された“魔法式の重複による同一対象への魔法効果の重複”は発生しない。同じ情報を有する想子の観点で言えば、魔法は想子だけで完結しないことが誰の目から見ても分かる。

 

 これまでの魔法研究では、魔法式は次元の壁から事象改変に必要なエネルギーのすべてを引っ張ってきているという通説も存在するが、仮に短時間で戦略級魔法を放つのに必要な事象干渉力を生み出すとなれば、その反動が術者に対して即座に掛かる。

 たとえ魔法式が形成された時点で魔法式との接続が切れるとしても、膨大なエネルギーを扱うとなれば、少なくない負担が圧し掛かる事は明白。それは、天刃霊装とて同じことが言えてしまう。寧ろ、継続的な展開を求められる天刃霊装のほうが術者に強い負担を強いる形となる。

 

「想子を以て世界の理と調和し、霊子の力を以て世界の運命を変える。ただ一つの例外もなく、この世界に存在する全ての魔法はこのプロセスを以て事象を改変している。尤も、現行の古式・現代の魔法は霊子の存在をそこまで重く見ていない。強いて言うなら、精霊魔法が一番それに近しい使い方をしているけど」

「……その常識を聞かされると、確かにその通りだと思わされるな。今まで何故疑問に思わなかったのかと恥じるばかりだ」

「十師族の形成過程が、そもそも政府や『あの連中』にとっての都合でしかなかったから」

 

 魔法の使い方が限定されてしまったのは、核兵器という強大な力が明確に存在していたからこそ。核抑止を担う為に現代魔法が生み出され、ウランやプルトニウムといった放射性物質を扱うリスクを無しにできる利点から、魔法は核兵器に代わる軍事力として世の中に広がった。

 だが、魔法を軍事力として扱うということは、同時に国家として扱える範疇の力を超えてしまうリスクを孕んだ諸刃の剣。それを制御する方法の一つとして、この国が取った方法は師族会議の設立による相互抑止。

 悠元は、それを理解しつつも師族会議のあり方を根本的に正し、師族会議そのものをこの国の抑止力として外敵からの侵略を退ける組織に作り替えようとしている。

 

「けど、それじゃこの国はまた戦火に見舞われる。国土の大小で国の価値が決まるというのなら、そんな固定概念諸共叩き壊す。新ソ連が攻めるつもりなら、その動きを見せた時点で二度目の崩壊を味わわせる。今度は二度とソビエトの夢など見れないぐらいに完膚なきまで」

「USNAはどうするつもりだ?」

「いっそのこと、日本に停泊する米軍の兵器全部徴収してやろうかなと思ってる。そんなことをしたら政府や国防軍が泡を噴きかねないけど、人に迷惑をかけた以上は責任を全部押し付ける」

 

 兵器を一から作ると金や労力がかかる。ならば、ライセンス関連もふんだくった上で兵器全部を接収することも辞さない。更に国防軍仕様に魔改造すれば、USNAに支払うライセンス料も大分安く抑えられるし、国防軍としても大幅な装備更新ができる。

 元々過去の経緯からして旧合衆国時代から兵器を買っていたことも含めれば、整備関連で慌ただしくなるだろうが、それは必要経費と割り切らせることにしようと考えている。国防軍で接収できない場合は、次善策も考えておくこととする。

 

「レイモンド・クラークもパラサイト化した裏付けが取れた以上、エドワード・クラークがパラサイト化していようがいまいが、奴が四葉の排除を諦めるとは考えづらい。米軍の兵器を用いた時点で、向こうの判断を待たずに『神将会』として敵性勢力の排除を敢行する。その前に来るであろう連中の排除も考えないといけないけど」

「パラサイト化したスターズの連中か。達也君のことは理解できなくもないが、新ソ連との暗闘で苦心した件を取っ払ったとしても、時間稼ぎに利用して新ソ連の軍事力を削げると考えられる思考が欠落しているとしか思えん」

 

 苦労した人間とそうでない人間では、当然考え方が異なるのは言うに及ばずだ。当事者に近い立場を経験した側(主にジェラルド・バランスを含めた周囲の人間)からすれば新ソ連の脅威を分担する方向に舵を切るが、そんな苦労を味わったこともない人間からすれば達也という明確な脅威を排除する方向に舵を切る。

 それだったら、パラサイト事件や日本にスターズを送り込んで暗殺するような真似をしている時点で、日本を同盟国ではなく“属国”のように見ているとしか思えない。国土が広がって名前が変わっても、結局国としての性根は変わり切らなかった。むしろ悪化したようなものだろう。

 

「苦労の違いか……ジジイが現場主義に拘る理由も分かってしまうのがなんとも。その意味で、『あの連中』はどうする気だ?」

「九重先生には話したけど、一連の件が終わってから手を付ける。いつまでも第三次大戦に引き摺られていられる余裕などない」

 

 繰り返しになってしまうが、四葉の悪名に頼り切って怠けるなどということはもう許されない。達也がその再来になってしまうリスクは避けられないとしても、いつまでも墓の下に眠る故人の成したことにしがみ付くのはもうお終いだ。

 

「爺さんと母上が一線を退いた時点で察するべきだったのに、意味を理解しようともせず与えられた椅子にしがみ付く時点でいい大人がみっともないと思う。まあ、自分は直系世代が当主に足り得ると判断したら一線を退いて世界を気ままに旅行するつもりだけど」

「……爺さんとの旅行が波乱含みだったのは聞いていたが、その言葉で現実味を感じたよ」

 

 九島烈のように長年居座るつもりなどなく、自分がいなくてもやっていけると判断した時点で魔法界の表舞台から退いて、残りはトライローズ・エレクトロニクス関連の仕事に従事しつつ、世界を気ままに旅するつもりでいる。

 なお、元継も自分の子が成熟したら家督と家業を継がせるつもりのようで、互いに似た思考となったことに苦笑を零したのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 巳焼島に建設された職員用の宿舎には、魔法師も定住してもらう関係でCAD調整や魔法訓練のための設備が充実している。[トーラス・シルバー]を擁するFLT製の設備が多いため、世界トップレベルの充実ぶりを味わいながら生活できるという環境。

 宿舎の地下に建設された広大な訓練場は高さ10メートル、四方500メートルという広大さを誇り、魔法に耐えられる障壁展開機能がつけられた支柱によって、この島で起こりうる火山活動に伴う地震にも耐えられる構造となっている。

 その訓練場では、ハンス・エルンストがタンクトップにズボン姿で汗を流していた。その様子をハンスの中にいるルーデルが話しかける。

 

『今日は一段と気合が入っているじゃないか、エルンスト』

(そりゃあな……俺よりも年下なのに、あれだけの実力を肌で感じれば『負けていられない』と思ったからな)

 

 ハンスが汗を流しているのは、鈍っていた体をたたき起こす意味合いもあるが、それ以上に悠元との二度目の出会いが彼を奮起させていた。これまでルーデルに振り回されて訓練を強制されていたようなものだが、自ら訓練をすることにルーデルは喜んでいる様な口ぶりを見せていた。

 

『そうか、そうか。なら、本気で飛ばしてもいいな?』

(俺を殺す気しかしないんだが!?)

「あ、お兄ちゃんだ!」

 

 流石に慣性を無視して飛ばされたら死ぬ未来しか見えないと反論したところで、運動着姿のナーディアが姿を見せた。普通のジャージ姿なので露出度は無いわけだが、それを見たハンスは内心でホッと息を吐くような心境を抱いた。

 

「一人で訓練してたの? 実家にいたときもそうだけど、マメだよね」

「俺はお前のように優れているわけじゃないからな」

 

 伯父から貰ったペンダントによって第二次大戦のエースパイロットが憑りつき、図らずも戦略級魔法師としての実力を得た兄:ハンス。一方、奇妙な出会いで[ドラキュラ]の力を継いだ戦略級魔法師の妹:ナーディア。

 日本に到着後、ハンスはドイツの実家に経緯を報告したところ、母が意識を手放して倒れた。その事実を電話越しに父が母を介抱しつつも伝えつつ、ドイツ首相から直々に説明を受けていたことを明かした。

 

『うちは名立たる魔法師の家ではなかったのだがな……まあ、二人とも早めに孫の顔を見せてくれ』

 

 そう言い放った父親が、まるで一気に精神が老けた様な達観を滲ませていたのは……気のせいだと思いたかった二人だった。

 

「親父に今度何かプレゼントしてやろうと思ったよ。あとお袋にも。ナーディアもちゃんと贈っておけよ?」

「うん、それは流石にそうしようって思ってる。でも、孫って……私はお兄ちゃんに勝てる人でないと交際を受ける気なんてないのに」

「恋人の判断基準に俺を巻き込むな」

 

 ルーデルというチートブーストはさておくとしても、妹の交際基準に兄の強さを指定するな、とやや諦め気味に呟く。正直、二人の父は現実逃避気味に呟いたのだろうが、ハンスの場合はあと5年以上は待つ必要が出てくる問題だ。

 

「じゃあ、そんなことをいうお兄ちゃんはどうなの? 恋人がいるなんて話は聞いてないけど」

「……ドイツと伯父公認の婚約者はいる。歳はお前より年下だが」

「……マジ?」

「嘘は一切言わん」

 

 ナターリヤのことをもう受け入れることは確定しているが、それ以外にも複数の愛人候補を宛がうと言われた際、ハンスは正直血が吐けそうな気分に苛まれた。戦略級魔法師の確保が難しいことは承知しているが、それでも複数の女性と関係を持つことなど、考えてもいなかったことだった。

 

「そっかあ……じゃあ、お兄ちゃんよりも先に恋人を作って、お兄ちゃんを伯父さんにさせてあげないとね」

「お前は人のことをどう思っているのか聞きたくなってきたんだが?」

 

 苦労性の兄と賑やかな妹。本来ならスポットを浴びることなかった二人は、常識の埒外によって歴史の表舞台に立つこととなった。それが果たして本人たちにとって幸せだったのかどうかは……本人たちが決めるべきことである。

 

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