魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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急転編
過去から来た戦略級魔法師


 真一は悠元の帰りを見送った後、隠れ家の奥に引っ込んだ。真一を新たな主として乗り込んでも、そこで働く者たちは何の疑問も抱かなかった。なお、宝物庫の中に置かれたガラクタの類は悠元が全て持ち帰った。

 

(しかし、パラサイトを利用する形で戦力にする。それも、[パラサイドール]とは異なる形で使役し、同調していた。凄いな、彼は……)

 

 真一もとい九島光宣であっても、周公瑾の知識と九島家の魔法を駆使して漸く自我を保ったままパラサイトに至る道筋を見つけ出したというのに、人間のままでパラサイトの力を行使することなど思いもしなかった。

 ただ、真一の場合は生来の病弱を克服するために肉体の強化が急務であり、その結果としてパラサイトになることを選択した。そうなったことで、真一は多くのものを失った。

 

(しかも、敵を騙すために彼らを含めた面々に襲撃を起こさせる……その真意を聞いたときは僕も納得せざるを得なかった)

 

 本来なら、敵を抑止した時点で何もさせないのが何の被害も生まない。敢えて襲撃を起こさせるという悠元の意図を真一が尋ねると、悠元はこう答えた。

 

『今は良くても、科学技術の発展によって今後[パラサイト]に侵食されないという保証などない。それならば、今の内に[パラサイト]に対する知識を否応なしに身に着けてもらう必要がある。この国だけでなく、国外を含めた世界の魔法師が負うべき責務なのだから』

 

 今ここで防いでも、今後再発しないリスクが無いとは言えない。科学技術が進歩すれば、ブラックホール関連の研究も本格化する可能性がある。その際に日本から一々派遣する手間やリスクを負っている余裕などない。

 ならば[パラサイト]の知識を学び、戦闘経験を積むことで世界各国で[パラサイト]に対する抑止力を修得させる。それが悠元の述べた答えだった。

 

(そして、それは僕にも同じことが言える)

 

 周公瑾の知識やパラサイトによるアドバンテージを有しているが、これが通用しない可能性も出てくる。真一の場合、戦闘経験の意味では日本国内での対魔法師戦闘やスターズの兵士相手ぐらいしかないため、それ以外の魔法師を相手にしたときのリスクも当然生じる。

 

(幸い、戻るまでの時間は沢山ある。この時間を使って、もっと強くなろう。手始めに、支配した二人の制御がどこまで出来るか試してみる必要がある……僕も結局は“井の中の蛙”だったというわけですね、お祖父様)

 

 優れた魔法師として生を終えたい―――その我儘によって、いろんな人間を巻き込み、最終的には自分が好きになった人間まで同じ道を歩ませてしまった。今更後悔など出来ないが、もし自分があの場所で再び目覚めることがあれば、今度は達也たちの助けとなれるように……真一は、自分が手に掛けてしまった祖父のことを思いつつ、静かに立ち上がったのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 6月27日、木曜日。

 原作ならば大亜連合が新ソ連への侵攻を始める前日。ここまで穏便に事が進んでいたことは僥倖だと思っていたが、悠元の許に置かれた[時空の道標(エターナルポース)]は、更なる人物を呼び込んだ。

 まだ日が昇らない早朝の時間。悠元が目を覚ますと、近くには金髪碧眼の女性が覗き込んでいた。流石に全裸ではなかったが、誰かが招き入れたわけではないというのは直ぐに理解できた。とはいえ、ベッドには他の婚約者たちも寝ている為、彼女たちを起こさないように女性を肩に担ぎ、そのままリビングのソファーに座らせた。

 女性は驚きこそしたものの、ソファーに座らせた後の機嫌は良かった。

 

「それで、何方様ですか? 貴女のことは知りませんが」

「自己紹介がまだでしたね。ヴィルヘルミナ・バランスと言います」

「バランス? ヴァージニア・バランス大佐の御親族ですか?」

「大佐!? 姉さんが大佐って本当!?」

「……」

 

 この時点で[エターナルポース]によって未来に来たとみるのが妥当だと判断した悠元は、特殊な暗号回線でヴァージニア・バランス本人に連絡を繋ぐ。向こうは夕方の時間帯の為、直ぐにモニターに表示された。

 向こうも悠元の側から連絡を貰うとは思わなかったが、開口一番謝罪を口にする。

 

『これは、神楽坂殿。この度はエドワード・クラーク博士のせいで多大な迷惑をお掛けしている件に加え、リーナの件でもご迷惑をお掛け致しております』

「いえ、『スターズ』の件はどの道起こるべくして起こった可能性もありますので……それで、大佐殿に連絡したのは自分の隣にいる女性絡みでして」

『……まさか、ルミナなのか?』

「そう呼ぶってことは、ニアなんだね!」

 

 死んでいたと思っていた人物がモニターの向こうにいる事実。それを見た瞬間、バランス大佐は大きな息を吐いた。彼女自身、スターズやディオーネー計画の件でてんやわんやになっているというだけでなく、身内と話せる機会が来るとは思っていなかったようだ。

 

『どういうことだ? ルミナは8年前のベーリング海で死んだはずでは?』

「それについては、自分から説明します」

 

 バランス大佐に連絡を取る前、悠元はヴィルヘルミナから粗方の事情を聞いた。

 まず、彼女が8年前に戦略級魔法[トゥマーン・ボンバ]に巻き込まれた直前まで記憶を保持していること。そして、彼女は魔法の直撃こそ避けたものの、衝撃波によってアラスカの山中まで吹き飛ばされた。

 そうなると後は凍傷による死を待つような状態だったが、そのすんでのところを[エターナルポース]が拾い上げた。更に、彼女の肉体の状態が一気に若返り、20歳相当まで巻き戻っていた。服装は自宅で寝ていた時の寝間着という話も確認した。

 何故そうなったかまでの理由は不明だが、ヴィルヘルミナが死ぬ直前に『せめてあったかい布団で寝たかったなぁ……』と思ったらしく、その願いが反映されたとみるしかなかった。

 

『……魔法によるもの、ということでしょうか?』

「そう認識していただいて構いません。ただ、その詳細は教えられませんが」

『むしろそうして頂けると助かります。軍上層部がそれを知ったら、政府がブチ切れて血の雨が降りかねないので』

「そうしそうなのはジョー君だけど、まだ大統領なの?」

 

 政府と言うよりは大統領なのだろうが、彼とて自然の摂理を捻じ曲げてでも戦力補充をする気など無い。それが常態化すれば、その技術を巡って世界大戦が起きかねず、損失が桁外れになってしまう……というバランス大佐の言葉。彼女としても、これ以上の心労など重ねたくないという気持ちの表れなのかもしれない。

 ヴィルヘルミナの言葉によって、彼女が先代の“シリウス”であるという確証を得ることになったのはどう反応すべきか困る部分もあったりする。

 

『……ルミナは、USNAに戻る気はあるのか?』

「無いよ。旦那はもう死んでるし、私だって既に死んだも同然の身。気掛かりはジェイのことだけど、それは悠元君から聞いたよ。ありがとう、ニア。ジェイを立派に育ててくれて」

『いや……私は特に何もしていないさ。神楽坂殿、お願いがあるのですが』

「彼女のことは不自由がない様に手配しておきます。なので、大佐殿はご自分の職務を全うしてください。何か困りごとがあれば相談に乗らせていただきます」

『……重ね重ね、苦労をお掛けします』

 

 そうして通話を終えると、リビングに姿を見せたのは寝間着にガウンを羽織った姿の深雪。隣に悠元がいなかったことで起きてきたのだろうが、隣にいるヴィルヘルミナを見て大方の事情を察した。

 

「おはようございます、悠元さん。新しい愛人候補が時を超えてやってきたのですか?」

「おはよう、深雪。俺とて何でもかんでも愛人にする気はないんだが」

「?」

 

 笑顔を浮かべる深雪、深い溜息を吐く悠元、そして首を傾げるヴィルヘルミナ。三者三様の姿を早く起きてきた水波が目撃する形となった。朝食後、悠元はヴィルヘルミナに改めて現在の状況を説明する。

 

「―――以上が現在の世界情勢です。それで、どうしますか? 一応外に出ても問題が無いように戸籍の手続きはしておきますが」

「そうねえ……悠元君は、今困っていることとかないの?」

「そうですね、強いて言うなら諸外国の対応ぐらいですが……驚かないので?」

「私や『ノア』が居なくなったとなれば、多分バルクも軍を辞めてるでしょうし、今の腑抜けたスターズに対して“既に死んだ”私が義理を果たす理由はないから」

 

 『ノア』と呼んだのはセリアの先代として“ポラリス”を名乗っていた人物で、バルクと呼んだ人物は先代の“カノープス”とのことらしい。

 ヴィルヘルミナから現状のスターズについても尋ねられたため、リーナの脱走とパラサイト化した兵士による叛乱まで伝えると、彼女は盛大な溜息を吐いた。奇しくも彼女が危惧していた事態が現実のものとなったためだろう。

 

「そして、今の私が義理を果たす相手は命を救ってくれた悠元君だもの」

「正確には自分が所有している聖遺物(レリック)のせいなのですがね」

「それでも、貴方は私の命を救ったも同然よ。貴方が望むなら、何でもする覚悟はあるわ。何なら、妾でも」

「婚約者だけでもお腹一杯なんですが……」

 

 正直、別にプレイボーイ的な事を望んで[エターナルポース]を所有しているわけではない。まるで前世の分の皺寄せを受けるが如く女性関係が連鎖しまくっていることに、匙を月に向けて全力投球したい気分だ。

 話し合いの後、ヴィルヘルミナは婚約者たちの魔法の教師兼愛人というポジションとなり、その日の夜は婚約者たちだけでなく愛人たちまで押し掛けられて、無差別級・時間無制限の夜間戦闘(バトルロワイヤル)に発展した……流石に学業への影響が出ない範囲での行為となったことは言うまでもないが。

 

 翌朝、ヴィルヘルミナからは『婚約者がここまでいるのも納得できるだけの強さね。私も服従させられちゃった』と述べていた。解せぬ。

 

 後日、このことをジェラルドに話すと、彼はその場で綺麗な土下座をした上で『本当にうちの母が申し訳ありません』と述べた。ヴィルヘルミナと再会したことは良かったものの、その彼女が悠元の愛人となったことを聞かされると、ジェラルドがその行動に至った。

 

「悠元が義理の父親か……義父(とう)さんと呼ぶべきか?」

「やめて、俺の胃のライフが音速で削れるから。こうなってくると、ロッキー山脈で暮らしている九島閣下の弟さんが羨ましく思えてくるな」

「九島将軍か……その気持ちを理解できてしまうのが何とも」

 

 ヴィルヘルミナの存在で義理の家族の関係になってしまった二人がそんな噂をしたころ、ロッキー山脈の麓の小屋で盛大なクシャミをした男性の姿があったのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 リーナの引き渡しの件は、国防陸軍の上層部の判断で差し止められた。蘇我大将曰く『君を敵に回すリスクに加え、アンジー・シリウスがUSNAのトップから直々に命令を受けているという事実は大使館経由で国防総省(ペンタゴン)の関係者から確認が取れた』とのことで、第101旅団へ情報が漏洩するリスクは格段に減った。

 そもそも、USNA政府としては『新ソ連方面の情勢を鑑み、アンジー・シリウスの入国については必要以上に新ソ連を刺激したくなかったため、極秘の入国措置を取った』というスタンスで動いている為、同盟国の責務として新ソ連に近しい日本へ派遣した、という体裁を取っていた。

 

 ヴィルヘルミナ・バランスは帰化への手続きを取ることで合意に至り、養子の受け入れ先は東道家が全面的に責任を負うこととなった。これで戦略級魔法師がまた一人増えることになる為、抑止力を欲する意味でも四大老の一角として責任を負ってもらう。青波が盛大に頭を抱えたとしても、こればかりは四葉の悪名を放置したツケである。

 

 真一は神戸の中華街に留まり、制御下に置いたレイモンドやレグルスを操りつつ、自身の鍛錬に余念が無かった。彼も思うところがあったのか、鍛錬に励んでいるらしい。

 

 原作に近しくも全く異なる流れが形成されている中、6月28日の金曜日。世界を震撼させるニュースが飛び込んで来た。大亜連合軍による新ソ連侵攻だった。朝食中ではあったが、悠元も箸を置いてニュースを見ていた。

 

「ウスリースク郊外での衝突か。狙いは十中八九ウラジオストクの奪取による半島方面の安全確保だな」

「けど、ウラジオストクを放棄するとは思えないわね」

「流石に完全復旧したばかりの軍港があるからな。新ソ連軍も全力で抵抗するだろう」

 

 大亜連合側には戦略級魔法[霹靂塔]があるが、原作で乱発しなかったのはアフリカでの戦闘によってインフラ破壊に伴う負担が大きかったことに起因する。

 別に[霹靂塔]に限った話ではないが、魔法の威力や改変規模・強度が増せば増すほど、魔法に要求される制御能力も当然増える。更に、現代魔法の特性で魔法式に必要な事象干渉力が揃った時点で術者との接続が切れてしまうため、そこから魔法を制御することが出来なくなる。その結果として何が起こるのかと言えば“魔法の暴走”に他ならない。

 

「この時点で踏み切ったとしたら、先日一高を狙ったベゾブラゾフの魔法攻撃が関係しているのですか?」

「関係は無くもない。それに加えて、未確認情報だが新ソ連国内にあるいくつかの無人ミサイルサイロが破壊されたそうだ」

 

 簡単に言えば、遠隔で設置した時限爆弾を放置するような行為に等しい。しかも、魔法式で制御しているとはいえ、事象次元内の事象改変に伴う想子の復元力が働いたとしても、事象改変に伴う余波によって科学的な干渉が起きた場合、科学的変化に対する復元力は一切働かない。

 

「つまり、ベゾブラゾフが居ない、あるいは簡単に動けないから踏み切ったってこと? 確かな確証も無いのに?」

「日本は別に、ベゾブラゾフの生死について何も発表していない筈なんだがな。それを拡大解釈して“死んだ”もしくは“人事不省”とみるのはおかしな話だが」

 

 モニターに映るニュースではアンカーパーソンとコメンテーターが話しているが、大亜連合軍内ではその噂が流れた結果として軍の侵攻に踏み切ったとみる線が濃厚だった。とはいえ、実際に首を獲った訳でもないのに、ベゾブラゾフの生死を明確に把握できていない時点で詰んでいる。

 

「悠元兄様から見て、ベゾブラゾフの生存確率はどうなのです?」

「9割生きているのが濃厚だな。残る1割は死んでいる確率だが、現状ではそれもないだろう」

 

 佐渡沖の不審船の一件から含めたとしても、ここ数か月で数回も[トゥマーン・ボンバ]を行使していたベゾブラゾフが突然消息不明となったという時点で、噂になっても何ら不思議ではない。

 

「根拠は?」

「新ソ連の性格上、そんな噂を流されてしまってはベゾブラゾフの健在をアピールさせるしかなくなるし、対処をした達也も『CADの破壊しか狙っていない』と明言してたからな。俺はクレムリン宮殿を半分消し飛ばしただけだが」

「全壊じゃなくて綺麗に半壊させるなんて芸当、悠元君以外に出来る人がいないと思うわよ……」

 

 気になるのは、ここから劉麗雷が原作通りに日本へ亡命してくるのかという疑問が出てくる。スパイを粗方国外追放した際、当然大亜連合方面の工作員も追放している。まともに身内の伝手を取れない国へ亡命するとは思えない。

 そもそも、劉麗雷の近くにいた新ソ連の工作員の存在からして、この侵攻自体が最初から新ソ連もといベゾブラゾフの描いたシナリオではないかという線が浮上する。

 

「大亜連合の矛先がこちらを向かない限り、俺や達也が出張ることも無いし、強いて言うならリーナ絡みでパラサイトの連中が密入国することにリソースを向けられる。尤も、リーナにはその対処が率先してできるように叩き込んでる最中だが」

「となると、[天刃霊装]を修得させるつもりなのじゃな?」

「ああ。セリアはあっさりと[天魔抜刀]まで会得したわけだが……押し付けるな」

「スキンシップなのですよ、お兄ちゃん」

 

 ここまで来た以上は、それの是非について敢えて問うことはしない。だが、敵意を向けた以上は相応の報いを受けてもらう。別に彼らをストレスの捌け口にしているつもりなどないが、図らずもそうなっている有様に対して悠元は一つ息を吐いたのだった。

 




 これ以上人数を増やすのはどうかと思いましたが、USNAに致命的な一撃を与えられる判断材料を提示できる人物がいても何ら不思議ではないと考え、原作にいたものの既に故人で掘り下げられる可能性が最も低い人物をサルベージしました。
 悠元にはセリアがいるから必要ないんじゃないかって? 最大の理由はスターズに対する仕置きを鑑みた際、一番説得力のある言葉を放つことが出来る人物を登場させてもいいかなと思った次第です。
 どういう感じになるかはネタバレになってしまうので控えておきます。
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