USNA軍が共同利用協定に基づく通告前に上泉家が情報を入手したのと同時に、神楽坂家も情報を入手していた。表向きでは新ソ連に対する牽制の一つだと見做す専門家もいるだろうが、乗員の中にアレクサンダー・アークトゥルスの名があれば話は別だ。
悠元は情報の共有を達也とすることにした。
「ハワイからの輸送機か。到着予定は?」
「通告に掛かる時間を考慮すると、明後日の夜になる。新ソ連が変な動きを見せる前に片を付けたいし、向こうの状態を見る上で指標になるだろうが、どうだ?」
「こちらは問題ない。到着次第仕掛けることにする」
水際で被害を抑制することも重要だが、アレクサンダー・アークトゥルス以外にパラサイト化した兵士の数で、『スターズ』の侵食度合いを見定めることも目的の一つ。そして、悠元は今回の封印に際して他の面子も巻き込むことにした。
「俺と幹比古がか?」
「パラサイト化した人間との戦闘経験で言えば、レオと幹比古が妥当な人選になるからな。それに、今回は封印が目的であって殺すことはしない。彼には利用価値があるから」
「……何も聞かなかったことにしておくよ」
悠元に目を付けられた時点で『ご愁傷様』と幹比古は内心で呟きたそうにしつつ、幼馴染として悠元を咎めることなくスルーした。その一方、文句を言いたそうにしているのはエリカだが。
「何であたしじゃないのよ」
「今回潜入するのは国防軍の共同利用基地だ。エリカだと些か目立つだろうに」
「……分かったわよ。その代わり、レオを好きにしていいわよね?」
「俺に聞くな。レオに聞け」
恋人同士の絡みに関与する気はないので、悠元はエリカの問いかけを投げやり気味に返した。
「僕は関与しなくてもいいのですか?」
「流石に“色々忙しい”燈也を引っ張り出す訳にもいかんからな」
「あはは……お手数をお掛けします」
人には限度というものが存在する。燈也の場合、現時点で三人も囲う羽目になっているわけだし、達也も二桁は下らない婚約者を囲うことが決まっている。尤も、一番囲う羽目になっているのが悠元に他ならないが。
「正直、燈也や達也が羨ましい。もう増えるなと何度願ったことか……」
「何かあったんですか? また愛人が増えたとか?」
「ああ。今度はアメリカ人でな」
「……悠元って、歩くフラグ製造機ですか?」
「んなわけあってたまるか」
しかも、愛人とかの枠とか関係なしに英国の女王までもが子種をせがもうとしている始末。彼女を鍛えたのが神楽坂家もとい千姫のため、既に話が通ってしまっているし、千姫を通して婚約者や愛人たちにまで話が既に通されている。
その代表として深雪曰く『悠元さんが素敵な存在だからこそ、惹かれてしまったのでしょう。でも、一番を譲る気などありません』と言われた直後にベッドへ引き摺り込まれた。その後のことはと言うと……まあ、夜間戦闘が発生不可避となったとだけ。
仮に子が出来ても父親は公表せず、『精子提供者のプライバシーを考慮して発表は控える』という公式見解で通すとのことらしい。流石に金銭面で支払っておこうかと思ったら、千姫曰く『そこについてはイギリスに責任を負わせます』とのことで、イギリス連邦政府には既に話を通しているそうだ。
「ここだけの話、新たな愛人は先代のスターズ総隊長だ。しかも若返ってるし、最近知り合った外国の魔法師の母親だと……家に引き籠って不貞寝でもしたい気分だ」
「……達也君。悠元ってある意味この世の不条理を一身に受けてる気がするんだけど」
「奇遇だな、エリカ。俺も同じ意見だ」
繰り返しになるが、自分はハーレムルートを開拓した覚えなどない。あくまでも友人関係は築くが、一線は弁えるように立ち回った結果、最終防衛ライン以外が既に攻略されている有様に発展した。
戦略シミュレーションで例えると、周りの国家を刺激しないように立ち回った結果、何故か周りの国々から次々と嫁を迎えることとなったようなもの。『一種のなろう系じゃねえか』と独り言ちてしまったほどだった。
容姿に対する一目惚れもあるのかもしれないが、こちらとしては原作知識を知っているが故に距離を置いたし、社交辞令以上のことを積極的にやろうとは思わなかった。深雪に対する感情が九校戦まではっきりとしなかったのもあってか、それ以外の女子に対しては親切にしても踏み込む様なことは避けていた。
自分から言わせれば、もう少し世の中の男子連中がしっかりしていれば、自分や達也に婚約を申し込もうとする女性が減ったのではないかと思う。これに関しては、達也も『確かにその通りだが、俺たちが特殊過ぎるのも悪いと思う』と呟いていた。それに関しては達也だけだと声を大にして言いたかった……え、違う?
「マジでしっかりしろよ、世の中の男子連中……」
「それは少し同意できます。ミキはもっと積極的になっていいですのに。美月ももっとがっつくべきです」
「佐那ちゃん!?」
「似たような意味で、ほのかはもっと積極的になるべき。立派な武器があるのに勿体ない」
「何か飛び火したんだけど!?」
いや、そもそも高校生の段階で許嫁までいる方がおかしいのかもしれない……五十里と花音、修次と摩利の件は確かにあるが、魔法師全体から見ればそこまで数が多いというわけではない。
自身の場合だと泉美との婚約は存在したが、一度破棄されて再婚約している。この場合は国防軍絡みなのでどうとも判断できないが、泉美の年齢からすれば早いとも言えなくはない。
「魔法師は結婚が早いとはよく言ったものだが。まあ、五十里先輩と千代田先輩のことも有るから一概には言えん……唸らないの、深雪さんや」
「悠元さんの一番は絶対に渡しません」
「……別の誰かに渡す気は毛頭ないんだが」
話を[パラサイト]絡みに戻す。原作ではアークトゥルスを放置する形を取ったが、封印が解けて暴れ出すリスクなど誰も負いたくないのが本音だ。そこで、アークトゥルスに関しては封印後に真一の許へ送り出す腹積もりでいた。
先に制御しているレグルスやレイモンドと同じように支配し、真一の手駒として働いてもらう。表向きはあくまでも軍の任務を遂行しているように見せかけた上で、USNA軍に対する反撃を担ってもらうために。
「達也からしたら排除したいだろうが、ここは堪えてくれ」
「いや、別に俺とて無秩序に相手を滅ぼすことはしないんだが……」
「あたしたちからしたら、二人とも異質なんだけど」
「黙れブラコン」
独立魔装大隊もとい国防軍に対しては、悠元の権限で『米軍に対する臨検』の名目で襲撃を行うと説明している。超法規的措置の一環だが、パラサイトのリスクについては八雲から風間や響子に昨年の九校戦の時点で伝えられている。
現代ではその存在すらも聞かなくなりつつあった“デーモン”=[パラサイト]が科学技術と魔法技術の進歩によって表面化した。いや、実際のところはこれまでも観測されていたが、水際で止める方法があった。
その事情についてはヴィルヘルミナから聞いていた。ただ、その教訓が生かされずにスターズのパラサイト化が発生した。『現代魔法の先進国として胡坐を掻いた結果』だと彼女は辛辣に吐き捨てていた。
「そっちはいいとして……“第三陣以降”が来る可能性が高まったからな」
「まだ増えるの? ゴキブリみたいな増え方をされても困るんだけど」
「どうにも、達也やリーナを排除したくてたまらない連中がいるようだからな。まずは兵士を早急に捕まえて、唆した奴ら全員のアキレス腱を消滅させるようなスキャンダルをぶち込むのは確定事項となったが」
「……達也。苦労していますね」
「俺が狙われる程度など、まだ可愛い方なんだろうがな」
USNAはおろか、大国から一切脅威に思われない悠元。その反動がハーレムとして形成されたと考えれば、自分の命を狙ってくることなどまだ児戯のレベルなのではないかと思えるほどに……達也は燈也の労いにそう返したのだった。
「更に付け加えると、九島閣下のシンパである部隊の指揮権を譲渡されたが……そんなものを貰っても使い道に困るだけだと蘇我大将に押し付けた」
「普通の軍人なら喜びそうな案件のはずだが……」
「俺や達也は“特殊”すぎるんだ。ワンマンアーミーや少数精鋭ぐらいならばまだしも、一個小隊なんて扱う領分を超えてる」
国防陸軍第一師団所属・遊撃歩兵小隊―――通称『
悠元に指揮権を譲渡したいと申し出たのは、他ならぬ第一師団長。彼は新陰流剣武術の門下生であり、剛三のシンパでもある。悠元の素性を知っているが故に、指揮権の譲渡を申し出たのだ。
「さらに問題があるとすれば、その部隊に仮所属している防衛大生が二人。エリカなら一番よく知ってる二人だ」
「……あー、次兄に摩利先輩ね。って、ミキ。何を驚いてるのよ?」
「いや、今まで渡辺先輩のことを“あの女”って言ってたじゃないか。それと僕の名前は幹比古だ」
エリカの摩利に対する呼び方の変化に反応したのは幹比古。何せ、今まで摩利のことを認めないような呼び方をしていただけに、名前呼びは何かしらの変化があったのだと思わざるを得なかった。
「……考えても見なさいよ。先輩の義理の姉が三矢家―――悠元の元実家に嫁いでるのよ。つまり、この時点で三矢・渡辺・千葉のラインが完成しちゃうの。あたしがレオに嫁いでも、千葉の繋がりは切りたくないでしょうし……あのクソオヤジは特に」
剛三の渡辺家に対する我儘もあったりするが、桜井穂波が渡辺家に養女として入り、三矢家長男の元治と婚姻を結んだ。そして、摩利が修次と恋仲ということは周知の事実。この時点で、渡辺家を介する形で千葉家と三矢家が近付いている。
先代当主となった丈一郎は幼馴染の悠元とエリカを結びたがったが、互いに悪友の領域を超えることはなく、それぞれ好いた相手と結ばれている。事あるごとに口煩かった父親の有様に、エリカからすればいつの間にか摩利への不満よりも父親への不満が上回ってしまった。
「えーと、つまりエリカっちは父親への反抗心が摩利先輩への不満を上回ったってこと?」
「そういうことね。それに、いつまでも次兄に迷惑なんてかけられないし、次兄が本気で先輩を好いているのも事実だし」
「まあ、ようは納得したってことでいいのか?」
「そういうこと。ちゃんとわかってくれて嬉しいから、今日はサービスするわよ」
「……程々にしてくれ」
それに、エリカ自身が恋をしたことで摩利の心境も理解できるようになり、兄の幸せを考えるのならば口煩く言うべきではないと心を入れ替えた。その反面、レオに対して積極的なアプローチも見せるようになってしまい、当のレオ本人は程度を弁えてほしいとリクエストするのが関の山だった。
「聞いてるだけでも色々大変なんだね……で、泉美は何故に目を輝かせているの?」
「無論、色んな人の恋路を聞いて参考にするだけですが?」
「……ボクより先に女子を卒業した泉美が何を言ってるのさ」
双子だからこそ、互いの変化というものに敏感でもある。一種の
「何を言っているのですか。私などまだまだです。詩奈ちゃんの話を聞くだけでも、精進せねばならないことは山ほどあるのですから」
「……詩奈」
「すみません。泉美ちゃんがその、どうしても参考に聞きたいと止まらなくて」
「いや、詩奈は悪くないから。悠元兄のことになると暴走気味な泉美が全面的に悪い」
「嫉妬が強いお姉様ほどではありませんよ。尤も、兄様の包容力で骨抜きにされてましたが」
ガールズトークの領域を超えてしまった“夜の事情”。泉美、香澄、詩奈の三人が話している合間を見て、悠元が侍郎に話しかける。
「侍郎、妹が苦労を掛けるな」
「い、いえ! 自分も精進せねばならないことは一層自覚しましたので」
「そうか。ちなみに……どんな感じだ?」
「……一人で寝る時間が消滅しました。奥様の命令で、一緒の部屋で寝泊まりまですることになりまして」
侍郎と詩奈が一緒の部屋で暮らしている。普通ならばプライベートの空間を作るべきなんだろうが、孫の顔が早く見たいという詩歩の我儘によって一緒の部屋にさせられたのだろうと推察した。
「仕郎さんが良く認めたな」
「……母からも『孫が早く見たい』とせがまれた結果、父も黙認せざるを得なかったようで」
「あー……その、頑張れ。ちゃんと心身は鍛えておけよ?」
「そうしないと早死にしそうな気がしますので」
まだ放課後の時間だというのに、話していることが生々しいのは……そこまで切羽詰まった状況ではないというのも大きいのだろうと思う。侍郎に関しては矢車本家からの嫁ぎもあるため、一層鍛えると発言した。
「正直、世の中の魔法師を志す男子連中に真っ当な人材がいたとして、確実に俺や達也たちの二の舞が増えるんだろうな」
「いや、前例を作る様なことになるのは確かだが……こればかりは環境も左右されるだろうからな」
「でも、確か来年度には二科生制度が廃止になるという噂もありますし、“青田買い”の流れは生じるでしょうね」
悠元、修司、そして燈也の言葉。それらの発言の真意は、今後の魔法科高校で将来の嫁ぎ先確保という競争が激化しかねないという可能性が出てくるということ。
「こうなったら来年度以降は師族会議議長として壇上に立って、初っ端からエリート意識を粉砕することも辞さない。それで心が折れたとしたら、魔法師として社会に立つことが出来ないも同義だし」
「……鬼だな」
「場合によっては殺傷事にまで踏み込みかねない職業だからな、魔法関連の職業というものは。狙われるリスクを覚悟してもらわないと、その先なんてやっていけるはずがない」
とりわけ一高の現3年生組は一昨年のテロリスト襲撃を体験しているし、今年の初めごろに反魔法主義による執拗なストーキングの件もあった。魔法に関わるということは、狙われる対象として家の出自など関係がなくなる可能性も秘めている。
悠元や達也の場合は極端な例なのかもしれないが、それに匹敵することをレオや幹比古だって経験している。魔法師を志すということは、自分の身を自分で守り切れるようになることが必要最低条件になりつつある。
だが、魔法の魅力に憑りつかれるが余り、そのことを自覚していない輩が多すぎる。
「正直、生徒のセキュリティを考慮するなら全寮制にしてでも囲い込めばいいのに、そこまでする勇気が学校側に無いのも問題だと思う。一発国立魔法大学の学長の尻にタイキックでも撃ち込みたい気分だ」
「お兄ちゃん、そんなことをしたら学長さんが弾け飛ぶと思うよ。物理的に」
「加減はする」
「本気でやればできるんですか!?」
蹴り一発で人一人を大西洋横断させたのが数年前。そこから成長した悠元も、流石に本気で蹴り飛ばそうと思っていない。何せ、その旅行中に加減を間違えた蹴りによって生じた衝撃波だけで、新ソ連の特殊部隊―――約100人を消滅させてしまった。
なので、剛三との旅行は魔法のみならず武術の手加減の手法を学ぶ鍛錬の意味も含まれていた……現状で本気を出したら、多分衝撃波だけで建造物を破壊できるんじゃないかと思えてくる。
自分で言ってて悲しくないかって? ……笑えよ、
「どんどん人間を辞めていくね、悠元は」
「そんな悠元に惚れてしまったわしらも大概じゃが……パラサイトすら取り込みそうじゃな」
「……自分の守護をしてくれている存在にその可能性を言及されたんだが」
「パラサイトすら敵わないって十分凄いと思いますよ」
[アリス]に言われた際、正直自分の耳を疑いたくなったほど。が、周公瑾の亡霊に襲撃された際、彼を消滅させて知識を得た。それに伴って、周公瑾が保有していた魔法力も吸収してしまったと教えてくれた。
原作の九島光宣が行ったのは亡霊の“制御”。一方、悠元が行ったのは亡霊の“吸収”。この時点で彼我の魔法力の強さが歴然となっているのは『言うに及ばず』と述べるべきだろう。
「絶対自堕落な生活なんて送りたくないが……色に溺れているに等しい状態で言っても何の説得力もないな」
「寧ろ、私たちが溺れているに等しい。それについていけてる深雪が一番“潜ってる”と思う」
「もう、雫ったら。私はもう堕ちているに等しいだけよ」
「……男子の連中に絶対聞かせちゃいけない発言ね、それは」
学校ではカリスマのある生徒会長。その実態は悠元の婚約者兼下僕(ここに愛人関係で義父という要素も加わる)で、「とでもではないが聞かせられない」とエリカがぼやくほどだった。
たまには魔法科高校らしい(?)要素のお話。