魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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奮闘する若者たち、苦悩する大人たち

 6月30日、日曜日の夜。

 原作ならば座間基地の外にいる形だったが、悠元と達也、レオと幹比古、そして修司は基地の中にいた。悠元は自分の部隊や派閥を持たない代わり、監察・査察に関する権限を防衛大臣から附託されている。

 以前、宇治の国防軍基地における洗脳騒ぎの件に対するお詫びも含んでいるが、ワンマンアーミーの気質が強いものの、過去の沖縄の件や横浜事変に関する事も含めれば『妥当』であるという総理大臣のお墨付きもあった。

 

「しかし、こうやって堂々と基地の中に入れるとは……良かったのか?」

「別に構わん。階級を剥奪されても俺にとっては枷が一つ外れたに過ぎなくなるからな」

「悠元の枷を外したところで相手にデメリットしか生まないというのも大概だけれどね」

 

 そんな中、達也が[イントレピッド]のチェックを済ませ、[フリード・スーツ]のヘルメットを被る。今回の件は国防軍と無関係とまではいかないが、アンジー・シリウスに関する超法規的な臨検という体裁を整えた。

 輸送機はゆっくりと滑走路を走っている。ここ1週間で記録されている中で唯一の米軍機だ。

 

「つーか、パラサイト化した『スターズ』を放置するとか正気か? この分だと、『スターダスト』や非正規部隊(イリーガル)の連中も疑わしくなってくるぞ」

 

 修司は輸送機から感じた“気配”を見ながらぼやく。それを言い終えた後に、達也の乗る[イントレピッド]がアクセルを吹かして格納庫の中から発進して輸送機へ一直線に向かっていく。

 そして、達也は輸送機の壁を[分解]すると、バイクから飛んで壁の中に入り、壁は[再成]によって自然と修復されていく。

 

「……レオ、幹比古の守りは任せる」

「え? そりゃ勿論だが……何をする気だ?」

「修司、行くぞ」

「ああ、承った」

 

 悠元と修司は同時に駆け出し、超高速の走りで輸送機に向かう。そして、壁にぶつかる直前に突如として空いた穴へ二人が飛び込み、壁は瞬く間に修復された。その非常識を目撃してしまったレオと幹比古の反応はと言うと、そこまで驚いていなかった。

 

「……幹比古」

「言わないでくれ、レオ。さて、達也からの合図が来たら封印するから、レオは周りを頼む」

「おうよ」

 

 二人が何をするのかという懸念よりも、幹比古は頼まれた役割を果たすことを優先し、レオもそれに頷いた。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 パラサイト化した兵士は四人。だが、それ以外にも意識誘導によってコントロールされた米軍兵士が数十人乗っていた。悠元と修司が輸送機へ突入したのは、その兵士を無力化するためでもあった。

 銃を向けてくる兵士。だが、放たれた弾丸は悉く跳ね返って的確に兵士の四肢を撃ち抜いていく。痛みでのたうち回る兵士が次々と増える有様に、一人の兵士が英語で叫ぶ。

 

「この、悪魔が!」

「―――別に呼び方に拘る気はないが、人様に対して随分な物言いだな」

 

 悠元が英語でそう返した後、[天都御魂叢雲]を振るって想子の情報体“魄”にダメージを与えて兵士の意識を刈り取る。[天刃霊装]は物理的なダメージと精神的なダメージの取捨選択までできるようになれば[天魔抜刀]の領域に踏み込める。

 悠元の視界の向こうでは、纏った炎の結界で放たれた弾丸を蒸発させ、全員を斬っていく修司の姿があった。時間にすればたった1分。完全な無力化を果たしたところで悠元が[天神の眼(オシリス・サイト)]を達也の方に向けると、アークトゥルスに対して封印の要となるナイフを突き立てた。

 

 達也自身はまだパラサイトに対する有効な攻撃手段を持っていない。なので、今回はナイフを介する形で幹比古が封印を施すという段取りとなっている。それをアークトゥルスは察したのか、手に持ったトマホークを輸送機の外に向けて放り投げ、その軌道は幹比古に向けてのものだった。

 

「……遅いな。レオなら簡単に止めるぞ」

 

 狙いは確かに間違っていない。アークトゥルスの決死の攻撃は、対象を的確に狙い撃った。だが、それを守る相手が悪すぎた。その顛末など分かり切っているが如く[オシリス・サイト]を解除した。悠元はそのまま輸送機のコックピットに乗り込み、[天都御魂叢雲]をパイロットに突き付けた。

 

「国防陸軍特務大将、上条達三だ。貴殿らにはパラサイトに協力した嫌疑で拘束させていただく。このまま指定通りに所定の格納庫へ輸送機を移動させろ」

 

 パイロットたちは驚きを隠せなかったが、悠元の有無を言わせぬ気配を察して大人しく従った。そして、蘇我大将の命令で格納庫内で待機していた『抜刀隊』の隊員によって非パラサイトの兵士は連行され、輸送機に残されたアークトゥルスを含むパラサイトの兵士は悠元によってさらに厳重な封印が施された。

 一連の処置が終わった後、パラサイト化した兵士は一旦“旧”特殊戦術兵訓練所に存在する地下牢に収容された。

 

 こうして、アレクサンダー・アークトゥルスを含む四名の兵士が拘束された。

 

 その後、[パラサイト]に知見のある魔法師によって確証を得る形で、日本政府はUSNA政府に対して『昨年の脱走兵事件の再発』という体で大使館を含めた外交ルートで正式に抗議。納得のいく回答が得られない場合や更なるパラサイトの侵入が起きた場合、共同基地利用の申請を受け入れられないという申し出を行った。

 USNA政府は国防総省(ペンタゴン)に対して早急な事態の説明を要求。だが、ペンタゴン内の達也に対する強硬な意見を有する派閥が匿う形で、『特にパラサイトによる問題は生じていない』という返答しか返ってこないことに、大統領の手によって被害を増す丸太の数が増えていった。

 

 余談だが、USNA大統領によってボコボコにされた丸太の行く先はと言うと、ヘルシーブームの再来でキノコの原木として活用された挙句、『ジョーリッジ』という品種の食用キノコまで生まれたのは……近い未来の話。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 現地時間6月30日10時。達也や悠元がUSNA軍の輸送機を襲撃し、乗っていた兵士に[パラサイト]化した『スターズ』のアレクサンダー・アークトゥルスに関する情報を掴んだヴァージニア・バランス大佐は、すぐさま大統領府(ホワイトハウス)の大統領執務室に駆け込む様な形で訪れた。

 普通ならばボディチェックなどを介しなければならない事案だが、ジョーリッジは既にデスクに座った状態でバランスを待っていた。気分が晴れない大統領の表情は、その事態を既に把握していたように話し始める。

 

「来てくれたか、バランス大佐。日本で何が起きたということか?」

「はい。それでは報告させていただきます」

 

 そうしてバランスがアレクサンダー・アークトゥルスに関する報告をした後、ジョーリッジはカップを手に取り、一口コーヒーを啜って静かにカップを置くと、席を立って丸太に正拳を一発撃ちこんだ。それだけならばまだしも、彼は憤りを言葉として発した。

 

「どいつもこいつも馬鹿しかいないのか! 新ソ連が暴れている状況で、彼らに同調や協調するような動きをしている連中も連中だ! ……すまないな、バランス大佐。怒鳴ってしまって気分を害しただろうに」

「……いえ、お気持ちは察します。それと、これは秘密なのですが……」

 

 バランスはヴィルヘルミナ・バランスの生存―――“蘇生”に近い現象を報告。それを聞いたジョーリッジの反応はと言うと……動揺や驚きと言うよりも、納得が上回ったような表情を見せてデスクに戻った。

 

「……その事実は君と私以外には?」

「少なくとも、USNAにおいてはいないかと。エドワード・クラークが掴んでいるかもしれませんが」

「彼女を人質にとるようなことをしたら、私は大統領権限を以てエドワード・クラークをこの場で“処刑”する。それはともかく、そうか……ジェラルド君もきっと会えたことだろう」

「……彼女をこちらに戻す気は無いと?」

 

 ジョーリッジの口ぶりからするに、ヴィルヘルミナをUSNAに戻すことはしないように聞こえ、バランスは尋ねた。それに対するジョーリッジの反応はと言うと、静かに頷く仕草であった。

 

「既に死んだ人間を戻して、スターズを更に混乱させること自体が悪手だろう。連絡した際、彼女は何か言っていたか?」

「『彼女とバルクホルンがいないスターズに戻る気はない』とのことです。この分ですと、日本の彼の許に身を寄せることとなるでしょう」

「……彼に払う迷惑料を法律に照らし合わせても、100億ドルは下らなくなるな」

 

 半数近くの恒星級の魔法師の穴埋めがまだ完全に終わっていないところで、スターズの騒動が発生した。国防総省(ペンタゴン)の言い分では『叛乱は鎮圧した』となっているが、リアム・スペンサー国防長官からの報告では、司波達也への対応の強硬派が抵抗しているために、『スターズ』関連に踏み込めないという報告を受けている。

 その皺寄せを司波達也や神楽坂悠元を含めた日本が受けている為、同盟国や大国としての面子などに拘っている場合ではないとジョーリッジは痛感していた。そんな二人の許に、突然の来訪者が姿を見せた。

 

「ジョーリッジ」

「ケン!? どうしてここに!?」

「教え子のバルクホルンやランドルフから事情を聞いた。どこぞの馬鹿がまたマイクロブラックホール実験を敢行して、今度はスターズの隊長クラスにまで波及したこともな。バランス大佐も久しぶりだな。義理の息子さんは元気でやってるか?」

「お久しぶりです、九島将軍。息子は今日本で任務に当たっています」

「そうか……」

 

 九島健―――リーナとセリアの母方の祖父にして、九島烈の実弟。

 過去の功績により、日本のみならずUSNAでも影響力を有している人物。その彼が元教え子の知らせを聞いて、ロッキー山脈からワシントンまで出向いてきた。その目的は、ジョーリッジやバランスも自ずと察していた。

 

「ジョーリッジ。以前、このまま日本に迷惑を掛け続ければ、その報いは政治生命どころですまなくなると警告したな? だが、この状況はどういうことだ? 該当し得る[パラサイト]に感染したと思しき兵士は皆日本へ派遣されているようだぞ?」

 

 健は軍部に強いシンパを持っている為、そこから[パラサイト]と思しき兵士の情報を得ていた。いくら[パラサイト]に意識誘導されていたとしても、その意識に反しないならば情報を得る方法は幾らでも存在する。

 

「な、何だと!? ……何を要求する?」

国防総省(ペンタゴン)の掃除を敢行するから、許可をくれ」

「正気ですか!?」

「俺は本気だ。どうせ、老い先などたかが知れている人間ならば、その先のことに大きな影響は出にくいだろう」

 

 足を引っ張られているのならば、政治的な制裁で社会的に抹殺する―――それが健の出した結論だった。そんなタイミングを見計らったように、バランスの端末に一本の連絡が入る。

 

「私だ。……何、メディアが?」

 

 バランスが執務室のモニターを操作すると、USNAでも大手のメディアが国防総省(ペンタゴン)に関する政治献金を含めたスキャンダルに繋がるリーク情報の報道をしていた。これにはジョーリッジのみならず、健までも目を見開いた後……健は盛大に笑った。

 

「は、はは、あはははっ! これは私も一本取られたな! 多分だが、千姫か彼女の後を継いだ彼の仕業だな」

「私もだよ……バランス大佐、スペンサー長官に指示を出せ。今すぐ対象のスキャンダルを洗い出せとな。人員が必要ならばCIAやFBIにも要求しろ。ただし、主導はあくまでも内部監察局だと私が書類を作っておく。メディアにはリーク情報の提供を要求してくれ」

「はっ、了解いたしました」

 

 対象となったのは、先日の顧傑の一件で割を食った一派や、達也に対して強硬な派閥に関するリーク情報。ジョーリッジはバランスに指示を出すと、彼女は急ぎ足で執務室を出ていく。そうして部屋の中にジョーリッジと健の二人しかいなくなったところで、ジョーリッジが話しかける。

 

「孫娘の婿たちは本当に優秀だな。その優秀さを見習う意味でも、彼らの爪の垢でも煎じて飲んでみたいものよ」

「何を言うか。ジョーリッジが凡人なら、大半の役人は凡骨未満になるぞ」

「私はただ恵まれただけに過ぎんよ」

 

 ジョーリッジが軍人として働いていた頃、日本から来た健と出会った。互いに意気投合した結果、自分たちの子を婚約関係としてリーナとセリアがこの世に生を受けた。二人の孫が生まれたばかりの時、彼らはUSNAにとって益を成す可能性と害をなしてしまう可能性の両方を見てしまった。

 そして、その可能性が奇しくも現実のものとなったことは……ジョーリッジはおろか健ですらもどう評価すべきか悩ましかった。

 

「私はかつてスターズの基地司令を経験したからこそ、魔法師に対する理解の深さもあって、政治家として大成したに過ぎない。だが、[パラサイト]については私も迂闊だった……肚を括らねばならんな」

「日本の要求全てを呑まざるを得なくなる―――そういうことか?」

「[恒星炉]関連技術の提供を受けるとすれば、自ずとそうなってしまうのは仕方がないことだ。『スターズ』の再編成に軍上層部の刷新、処分されてしまった兵士の名誉回復も含めて、やるべきことは多い……あの馬鹿共が」

 

 エドワード・クラークに[エシェロンⅢ]を好き勝手に運用させたがために、ここまでの事態に発展した。軍に蔓延る[パラサイト]化した兵士の数も不明。とはいえ、流石に米国内で戦略核・戦術核に匹敵する威力の爆弾を使ったことろで、忽ち無力化されてしまうのがオチだろう。

 魔法師が無事でも非魔法師は決して無事で済まない。リスクが高すぎてどうにもならないのが腹立たしくあった。

 

「ケン。今回の新ソ連にも関わる一件が収束次第、リーナを正式に軍から除隊する。そういう風に命令を出しておいたが、軍の連中には彼女を国外に追放してパワーバランスを崩すことを危惧したがあまり、暗殺を目論む輩がいるのも事実」

「……そちらはスキャンダル絡みで追い出すにせよ、『スターズ』の兵士が動くとみているのか? いや、正確には[パラサイト]がか」

「護衛としてメイトリクス大佐を送り出した。彼ならば立派に務め上げることだろう。その彼がフランスから日本へ向かう前、大使館経由でエアメールを寄越してくれた。彼は……『母が誇りにしていた“シリウス”の名を継ぐ覚悟を決めた』とな」

 

 戦争を嫌う魔法師が世界最強の魔法師部隊―――『スターズ』の総隊長の称号である“シリウス”を継ぐ。国家元首としては頼もしく思える一方、孫同然の青年に重責を背負わせることに心苦しさを感じていた。

 彼が別に政府の役人として一生を終えることでも、ジョーリッジは決して文句などなかった。だが、世界が次世代への流れを加速させている中、彼にそこまでの決意をさせてしまったことに、内心で謝罪の言葉を浮かばせたほどだった。

 

「私は無力だ。青春を謳歌しても許される年頃の若者に、この国の抑止力を担わせることを止める権利などない。なにがステイツの大統領だ……私など体の良い傀儡だよ」

「ジョー……それを言えば、欲を掻いた連中たちを止めきれなかった俺も同罪だ」

 

 なまじ強大な魔法力を手にしてしまったが故に、彼らを体の良い道具として扱おうと画策した者達。決してそうなってはいけないと思いつつも、結局は彼らの未来を守ることが出来なかった。

 愚痴同然の言葉を零したジョーリッジに対し、健も『同罪』と言いたげな言葉を漏らした。

 




 アークトゥルスは犠牲になったのだ。達也たちが強化されたが故の蹂躙劇のハイライトの犠牲にな……。
 前半はハイライト気味の処理。後半はUSNAにおける反応。USNAでのスキャンダルのリーク……イッタイダレノシワザナンダ(棒読み)
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