魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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ブラッディ・ペンタゴン

 セリアの言葉で一旦出鼻を挫かれた様な格好となったが、悠元は気を取り直して話を続ける。

 

「まず、深雪と雫、姫梨と愛梨、沓子の現3年組はエリカたちのフォローに入って欲しい。厳密に言えば、非戦闘要員になってしまいがちなほのかや美月、それと達也の婚約者たちだな」

「具体的に名前を挙げるということは、誘拐紛いのことが起きるとみているのですか?」

「そういう類の連中がハワイから来ると情報提供を受けた。最悪の場合は殺してもいいと許可は貰っている」

 

 根底にあるのはジェラルド・バランスからの情報で、イリーガルMAPの『ホースヘッド』がハワイから日本に来る手筈となっているそうだ。聞けば、8年前のベーリング海の暗闘の遠因にもなっているらしく、長らくミッドウェー刑務所に収監されていた連中が来るとのこと。

 その時点で“問題児”以外の何物でもなく、どんな手を用いるかも分からない。なので、誘拐に備えて暫くは集団下校してもらった方がいいと考えている。

 

「水波は深雪の護衛を頼む。今後、俺が長らく一人で動かなければならないことも増えるからな」

「は、はい! 承りました」

「そこまで気張らなくても……学内のことは怜美に任せる」

「この中だと私が一番非力なんだけれど」

 

 当時は幾ら二科生とはいえ、後に達也の婚約者となった平河千秋を関節技で抑え込んだのだ。それでいて非力というのは筋が通らないが。

 

「大学方面や三矢家への連絡は夕歌と真由美に任せる」

「それは構わないけど、悠君の元実家絡みで何かあったの?」

「正確には国防陸軍絡みで元実家に圧力を掛け始めてる。そっちの対処は自分でやるので」

「……(悠元君に目を付けられた時点で、物理的に潰れる未来しか見えないんだけれど)」

 

 大学生組の真由美と夕歌には、彼女らの友人や後輩、それと悠元の姉たちを介して三矢家への連絡網を構築しておく。直接連絡を取ることは可能だが、ある程度バレても問題が無いようにコントロールすることで、相手の出方を探る目的もある。

 

「茜は金沢方面で頼む仕事があるからいいとして、澪は立場上東京から動かせないが、場合によっては外敵の排除という体で仕事を頼むことが出てくる。ミーナとアーシャは上泉家から護衛を頼んでおいたし……」

 

 深夜にはマンション周りのことを任せることになるし、泉美は香澄と一緒に動ける状態を作る為、役割は押し付けない。そうなるとエフィア、セリア、ヴィルヘルミナの上位戦力勢が残る形となる。

 

「フィーは深夜の護衛という体でマンションを守ってほしい。セリア、ルミナの二人には……俺の講じた策に協力してほしい」

「どんな策ですかな、ワトソン君ぴゃっ!?」

「誰がワトソンだ、誰が」

 

 真一とレグルス、レイモンドの乗った貨物船は大阪港を出発し、今夜に横須賀港へ到着した後、ちょっとしたコネを使って空母『インディペンデンス』に乗り込ませる。そして、レイモンドを唆してUSNAの輸送艦を調達し、ハワイ方面に逃亡してもらうのが一連の流れ。

 ただ、輸送艦とて瞬時に調達できるわけではないため、その時間稼ぎとして新ソ連の艦隊を利用させてもらう形とした。

 

「ここだけの話にして欲しいが、現在USNAから入ってくる[パラサイト]に侵食された『スターズ』の兵士らを制御下に置けるように仕込んでいる。『インディペンデンス』にも同様の人間がいることは確認済みだ。真一には彼女らの制御も任せる」

「ちなみに、そっちには誰が?」

「レイラ・デネブ、ゾーイ・スピカ、シャルロット・ベガ―――『スターズ』の三名が監視カメラ映像で確認出来たが……ルミナ、知り合いか? いや、元職場なら知っててもおかしくは無いと思うが」

 

 悠元が話した内容に関してセリアが尋ね、悠元が答えるとヴィルヘルミナが「へぇ」とでも言いたげな表情を見せたことに、悠元が気付いて問いかける。ちなみにだが、ヴィルヘルミナの素性は婚約者や他の愛人らにも開示されたが、セリアという前例がある為にそこまで追及が来なかった。

 

「その三人なら、元職場で教育係として教えていた子たちよ。[パラサイト]に負けるような軟弱者に育てた覚えはないんだけれど……これは、元教官として活を入れないといけないわね」

「……説教や扱きは事が済んでからにしてくれ」

 

 その三名がヴィルヘルミナの教え子という事実に加え、彼女たちはパラサイトを治療した後にヴィルヘルミナの扱きを受けることが確定したわけだが……自分が剛三から受けた人間卒業の為の鍛錬よりはマシだと思い、止めることはしなかった。

 

「話を戻すぞ。制御した[パラサイト]の連中を巳焼島に送り出し、向こうで滞在している連中と対戦させて[パラサイト]との戦闘経験を積ませる。保険という形でセリア、ルミナが巳焼島に出向くことになる。その際、“彼女”には真一の守りということで一緒についていってもらう」

「彼女って、水波さんとそっくりで最近道場に来ていた桜庭さんのこと?」

「ああ。彼女の実力は十分だと兄さんも言っていたからな」

 

 実は[領域強化(リインフォース)]で愛波を治療した際、水波と同じ現象―――ブラのホックが盛大に千切れると共に、意味を成さなくなった。水波の胸の大きさを羨ましく思っていたのが反映された形で、これで元の世界に戻った時、向こうの世界の深雪が羨む事態になるのでは、と思わなくも無かった。

 体格的な面だけでなく魔法の部分でも成長が見られ、魔法演算領域の性能で言えば真一にほぼ匹敵する能力を獲得した。その能力を十全に生かすため、上泉家で新陰流剣武術の手解きを受けていたのだ。なお、その場面に立ち会った水波から甘えられて、結果的に水波を押し倒してしまったのはここだけの話。

 

「問題が出てくるとすれば、その後のことになる」

「? どういうことでしょうか?」

 

 泉美が首を傾げるが、これも仕方がないことだ。

 

 確かに、東シベリア方面の局地戦は新ソ連の勝利で終わるだろう。大亜連合政府は新ソ連政府に対して東シベリア方面で休戦を呼び掛けるのも確認済み。だが、そうなると残る問題は中央アジア方面で見られる大亜連合軍の動きと、西方面へ潜伏している大亜連合軍の特殊部隊。

 

 考えられる線としては、破壊工作を行って東欧や北欧に新ソ連の目を向けさせるという策。特殊部隊のメンバーの中に陳祥山(チェンシェンザン)呂剛虎(ルゥガンフゥ)が含まれていることからして、劉麗雷を暗殺する方法自体が不明となるが……可能性があるとすれば、護衛部隊の中に“もしもの場合”を想定した人員が組まれているというもの。

 

 どうせ真一たちを輸送艦に乗せてハワイまで行かせたとしても、確実に時間が掛かるのは明白。ならば、その間にUSNA政府との交渉を済ませた上でミッドウェー刑務所を襲撃し、ついでに支配下に置いた[パラサイト]を全員殺す。無論、憑りついたものを排除するだけなので、その時は達也の魔法の練習台になってもらう算段だ。

 

「大亜連合側がどう動くかは分からんが、自国の利益の為に悪者を切り捨てることは大陸国家の“御家芸”に近い以上、最悪は劉麗雷を切り捨てることも躊躇わないだろう」

「[十三使徒]の一人を切り捨てるって……そんな簡単に?」

「連中なら確実にやる」

 

 大亜連合の国民全員がそうであるという保証はないものの、“先鋭的かつ民族的な思想を持ち得ている国家の集合体”という言い方をしても不思議ではないほどに、彼らのやり方は悪質極まりない。それは5年前の沖縄侵攻もそうだし、一昨年の横浜事変、それと今年3月の西果新島絡みの一件。

 最後のものは大亜連合軍の脱走兵という“失点”を隠す為に協力を申し出たのであって、これが数か月後に手のひらを返して嫌がらせをしてくる可能性だって十分考えられた。その結果が、今まさに日本へ亡命しようとしている劉麗雷の存在に他ならない。

 

「だが、人様に責任を押し付けるというならば、その対抗策は既に周辺国家と協力体制が得られている。大亜連合には対象品目1000種以上の高関税制裁を科す。それで軍事行動に出るのならば、爺さん以上の損害を覚悟してもらう」

「……悠元が戦略級魔法を使用するってこと?」

「ああ」

 

 一昨年春に使った精神干渉系魔法[流星雪景色(ミーティア・スノーライト)]。その魔法は国内の強化体・調整体の更生に用いたわけだが、この魔法は本来“別の用途”が存在する。

 この魔法の本来の用途は“振動反転魔法”―――自分の先天性異常聴覚を基に、粒子の振動によって生じる現象全てを無効化するために作られた。極端な言い方をすれば、摩擦係数を極端に跳ね上げることで運動エネルギーをゼロにしてしまう魔法。

 無論、この魔法を作った真の目的は別に存在するが、今ここで明かすことはしない。

 

「どうせ、相手に認識された以上は隠す理由も無くなった。今後明かさないというリスクを負うぐらいならば、こちらから名乗り出る。尤も、師族会議には相応の責任を負ってもらうこととなるが……主な対処は将輝にやらせる」

「一条に? そう上手くいくでしょうか?」

「愛梨、同じ三高の人間として少しぐらいは信用してもいいと思うんだが……」

「実力を信用しているのは否定しませんけど……」

 

 将輝が何処か頼りなく感じる、と言いたげな愛梨の疑問に対して窘めると、愛梨も将輝の実力だけは認めるような答えが返ってきた。これには同じ三高組の沓子が苦笑を零した。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 所変わってUSNAのバージニア州。国防総省(ペンタゴン)の長官室でリアム・スペンサー国防長官は積み上がった報告書の山に頭を抱えていた。ディオーネー計画のものが少なくなったかと思えば、今度はメディアがリークしたスキャンダルによる調査報告書が段ボール単位に膨れ上がっていた。

 世界群発戦争によって隣国のカナダとメキシコを吸収した結果、闇に葬られたものは数知れず。流石に時効レベルのものまで対処することは出来ないものの、これまで見逃されてきたに等しいものまで。

 

 だが、一番頭を悩ます問題は[パラサイト]が『スターズ』の隊長クラスに蔓延してしまっただけでなく、その殆どが日本へ出国している。目的は“アンジー・シリウス”ことリーナの抹殺と司波達也の暗殺。

 そして、部下が持ち込んだ軍参謀本部によるプラント破壊工作の命令を聞いた瞬間、スペンサーは護身用に立て掛けていた特殊合金製の棒を掴んだ。それが何を意味するか悟った部下たちは、スペンサーを抑えにかかった。

 

「は、離せ! 私は今から愚か者たちを病院送りにする仕事があるのだ!!」

「長官を人殺しにさせる訳には行きません! 誰か、手伝ってくれ!」

 

 リアム・スペンサー……原作でもUSNAの国防長官だったが、この世界の彼は先代“カノープス”から武術の手解きを受けたことがある元軍人出身の政治家。大統領ほどではないにせよ、敵対勢力から銃撃を受けた際は犯人を自らの手で殴り飛ばし、SPがスペンサー本人を取り押さえるというエピソードまで存在した。

 

 スペンサーを複数人の屈強な職員が取り押さえる喧騒。そんな騒ぎが遠くから聞こえつつも、ペンタゴンの国防副長官室では部屋の主であるキャスバル・バランス副長官と、バージニア州上院議員ワイアット・カーティスが面と向かって会談していた。

 

「まずは、この時期に訪問したことを詫びよう。長官のフォローもしている君も大変な身だからな」

「いえ、カーティス閣下の申し出とあらば、例え多忙でも時間を捻出することは必要なことだと心得ておりますので。今日の訪問は、現在ミッドウェーに収監されているご親族関連とみても?」

「無論、それもあるだろう。だが、本題はもう一つ存在する。この国を蝕んでいるデーモン―――[パラサイト]の排除について」

 

 カーティスも水面下で[パラサイト]と現在の『スターズ』の状況を情報収集していた。だが、現代魔法が発展しているUSNAでは決定的な有効打が見いだせないと結論付けた。

 

「別に政府の怠慢を唱える気はない。だが、魔法戦力の殆どを『スターズ』に依存したが故に、それを監査・抑止する力が無いのも事実だと思われるが」

「……否定は出来ません。閣下はペンタゴンに……いえ、現政権に何をお望みですか?」

「明日、日本行きの軍用輸送機に同乗して訪日する。デーモンの排除が出来そうな者たちに心当たりがある故な。大統領には既に話を通したが、彼らの行動の正当性を担保してほしい。それが私の希望だ」

 

 “彼ら”と言葉をぼかしたカーティスだが、キャスバルの脳裏には最近話題の人物となっている司波達也なる少年が関与している、とそう結論付けた。日本は昨年の[パラサイト]関連事件を自力で解決し、その後[パラサイト]による侵食は確認できていない。カーティスの行動は、USNA政府にとっても利となるのは明白だった。

 

「……分かりました。スペンサー長官には後で話を付けます。この国に跋扈する悪魔を排除するためならば、私は喜んで泥水を啜りましょう」

「そうか。君のところで引き取った先代“シリウス”の息子とは何度か面識を持つが、彼は良き養親に恵まれたな」

「私はただ、彼の人としての心を守りたかっただけです。魔法の力があるからといっても、彼は彼だ。亡くなった()()もきっと同じことをしていたでしょうから」

 

 政府上層部の意向としては、エドワード・クラークを直ぐにでも処断したい。だが、彼の行動や『スターズ』のパラサイトによる侵食を好機として日本の戦略級魔法師を排除しようと考えている派閥があるのも事実。

 更には全世界傍受システム[エシェロンⅢ]にバックドアシステムを付けて私物化するような動きがあるのを既に把握していた。だが、これまで国益に反しないと見做されたからこそ、見逃されてきた。

 だが、もうそんな悠長なことを言っていられる状況でないことはキャスバルも把握していた。

 

「先日、FRB議長が直々に来訪しました。『軍部の暴走を抑えないと、我が国は国家予算規模の賠償を迫られることになる』という伝言を聞いた次第です」

「こちらも財界の陳情を受けることとなった。現大統領が悪い訳ではないが、国家の利益という名目で同盟国の抑止力を低下させることを許容した覚えはない。多少苛烈に行かなければ、立ち直ることは出来ぬぞ?」

「心得ております、カーティス閣下」

 

 カーティスとしては、別にキャスバルの不徳を問うつもりなどなかった。ただ、最近財界の度重なる陳情を受け続けた身として、一言ぐらいは言わないと気が済まなかったからこそ出たものであり、それはキャスバルも実感していた。

 

『マジで許さんぞ! 博士(あのバカ)を庇った奴はこの棒の錆にしてくれるわぁ!!』

『長官が逃げたぞー!!』

『追え、逃がすな!!』

 

 外から聞こえてくる長官の怒りとも言える叫びと、職員たちの喧騒。その言葉を聞いたカーティスがせめてもの配慮を口にすると、キャスバルが丁重に頭を下げた上でカーティスを労る。

 

「流血事になったとしても、私が責任を持とう。ただ、相手が死んだら私でも責任は取れんが」

「重ね重ね、ご足労をお掛け致します」

「気にしなくともよい。この程度など、大統領に比べれば可愛い方だ」

「……確かに、その通りですな」

 

 この騒動の結果、対日強硬派が軒並み閑職もしくは新ソ連との最前線になるアラスカ方面へ左遷という処分が下された。その半数が長官が引き起こした暴走劇によって病院送りとなって、収容先の病院に対して大統領がポケットマネーから謝礼を支払うことになったのは別のお話。

 




 原作では非力だったリアム・スペンサーですが、今作は強化しました。理由はこれぐらい屈強な政治家じゃないと次期大統領を務め上げられないだろうという単純な理由からくるものです。
 半分はネタ要素もふくんでいますが(何

 今更連絡することではありませんが、真一(九島光宣)が海外に出ていく展開が大幅に早まったため、追跡編のほぼ全部が展開無視された状態で突入することになります。
 その代わり、総校戦編が追加されるので全体的な尺埋めとしてはあまり変わり無さそうな状態になりそうです……現時点ではまだ予定の段階ではありますが。
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