魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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出来ればエイプリルフールに間に合わせたかった。


閑話 とある出家人のけじめ

 儂の名は東道(とうどう)青波(あおば)。既に出家している身なので、青波(せいは)入道(にゅうどう)という呼び名で俗世から認識されている。ただ、これはあくまでも“この体”の固有名詞―――まるで自分ではない言い方をしているが、本当の自分は俗に言う“転生者”だ。

 前世は研究者だったが、海外の論文発表会に赴く最中、飛行機が墜落してそのままお陀仏。そして、気が付けば赤ん坊に乗り移っていた。成長していく中で魔法の存在や様々な単語を聞いた結果、()の出した結論は、ここが『魔法科高校の劣等生』の世界―――それも、主人公が生まれる前の世界だという事実を知った。

 

 正直、救えるものならば救いたかった。いくら古式魔法と現代魔法の違いこそあれども、同じ人間。魔法という価値が無ければ、等しく生ける命。

 だが、それを妨げたのは……当時生きていた私の父だった。

 

「……何が元老院四大老よ。変えるべきことも変えられぬものに、何の意味がある」

 

 元老院―――この国の秩序を逸脱しないように見守るための組織。現状維持・保守的という意味では良く聞こえるが、悪く言えば腐敗しても構わないようにも聞こえてしまう。そもそも、組織としての体を保とうとすることに腐心するあまり、その時点で腐り切っていたのかもしれない。

 

 当時、東道家次期当主・四大老となることが確定している身として、そんな椅子に一体どれほどの価値があるのかと自問自答することは少なくなかった。そんな最中、四葉真夜が誘拐され、当時婚約者だった七草弘一が大怪我を負った。

 

 その時点で、私は疑問を抱いた。

 

 大陸の気質を考えれば、当時十代でも期待のホープとされた七草弘一を一緒に連れて行かなかったことが何故かおかしかった。彼らなら、魔法師の実験が出来るとなれば嬉々として連れ去っていただろう。

 だが、連れ去ったのは四葉真夜だけ。しかも、子を成せない体にされるまで実験道具にされたこと。それを聞いて激怒した四葉家が一国を相手に復讐戦を敢行した。その戦が進む中、父親が見るからに表情を綻ばせていたところを見て、嫌な予感が過った。

 

 『この父親は今回の経緯に至る何かを知っている』と。

 

 父親が外出した隙を見て、あらゆる情報を調べた。その結果、予感は現実として突き付けられた。私は飛び出す様に家を出て、頼ったのは同じ四大老の一角である上泉家。東京の別邸で応対してくれたのは、当時存命だった上泉剛三の子息こと上泉碇綱だった。

 私は全ての情報を話した。この際、私の命はどうなっても構わない。その代わり、四葉を助けてほしいと願い出た。彼が『約束しましょう』と聞き遂げたのを見て、やるべきことはやったと立ち上がろうとした瞬間、突然碇綱が自分を突き飛ばした。

 何が起きたのかを私が知った時には、彼の胸にぽっかりと穴が空いており、既に事切れていた。

 

『上泉、どの……っ!? 何故、何故助けたのですか!!』

 

 何故……何故助けたのだと……問いかけても答えなど返るはずもなく、泣き崩れた私に声を掛けたのは、見るからに麗しい若い女性だった。

 

『……何があった、東道の倅』

『どちら、様です……か?』

『四大老が一角、神楽坂家当主・神楽坂千姫よ。話してくれるな?』

『……はい、勿論です』

 

 何故その場にいる事などは聞かなかった。気が付けば、泣いていた筈なのに涙が枯れていた。その時から、最早私は泣くことを止めてしまったのかもしれない。事の仔細を全て話すと、千姫殿は手を翳して碇綱の血痕を綺麗にしていた。

 その光景に見惚れる間もなく、彼女の視線を感じて踵を正した。

 

『……お主には覚悟をしてもらう。ここから先、四大老たる道化を演じ続けることを死ぬまで。よいな?』

『異存は……有りません』

 

 もし、あの時碇綱が居なければ死んでいた命。ならば、精々精一杯足掻いてやろうではないかと。そして、千姫殿の連絡を受けて戻って来た上泉剛三殿も加えて自宅に戻った。

 武家の趣を強く残す上泉家らしくない振舞いで部屋を荒らす様なことはせず、剛三殿は一目散に父の許へと向かった。そして、躊躇うことなく真剣を突き付けていた。

 

『……事の仔細はお前の息子から聞いた。真夜も深夜も、元造だけじゃなく、四葉の一族の半分が命を賭けて魔法師の人としての在り方を貫いた。ならば、次は貴様が人間としての命を完遂してもらう―――その命と引き換えにな』

『な、何を言っているのだ、剛三殿。儂は何も』

『黙れ! 家の没落という危機も顧みずに命を賭けてくれた貴様の息子を碇綱が救った。その術者は当然殺すが、その雇い主である貴様も同罪。上泉家を貶めた罪も含めて、ここで引導を渡してくれるわ!』

 

 父の命乞いが最期の断末魔として響く中、父の首が宙を舞った。その首は私の胸元に飛んできたが、私はそれを拒否することなくキャッチした。何故だかは分からないが、私なりの覚悟を示すため……きっと、そうだったのかもしれない。そして、これは紛れもない私の罪なのだと受け止める意味においても。

 

 その後、東道家の家督と四大老の基盤を継ぎ、そして上泉家から嫁を宛がわれることとなった。一種の政略結婚に近いが、今の私に断る気など無かった。その際に剛三殿から警告にも近い言葉を投げかけられ、私は臆することなくその言葉を心に刻み込んだ。

 不幸中の幸いなのは、その嫁が非常に理解のある人間だということ。私にとっては過ぎたる妻とも言えるだろう。

 

 それから30年以上が経った。私は転生前に趣味の一環で原作小説を読んでいたので、歴史の流れは歳による忘却があっても忘れることはなかった。そんな中、私は一つの変化に首を傾げた。

 十師族・三矢家の家族構成もそうだが、その三男が突如として義父の道場に通っていると聞いたときは、流石に物の怪の類を疑ってしまった。

 

 何度か彼を見て、その動きがまるで原作世界の価値観に囚われない動きを見せていたことが、私にとって衝撃的だった。そして、それは私にとって少なくない興奮を覚えていた。彼も、恐らくは私と同じ存在である、と。

 先日、思わず尋ねてしまったのは迂闊だったが、見逃された形となったことに改めて自分のしたことを恥じた。

 

 彼が神楽坂家に移った直後、次々と増えていく婚約者や愛人たち。聞いた話では20人にも上るそうだが、その意味で私は実に幸運だったのだろうと思う。今でも20歳代後半の若さを保っている妻にせがまれて断れない辺りは……ここだけの話にして欲しい。

 流石に養子を迎えるのに、これで子供が増えた日には東道家のお家騒動に繋がりかねない。かといって、女性として魅力的な妻を蔑ろにも出来ない……きっと、彼も似たような気持ちなのだろうと思う。だからこそ、するべき処置はきちんとしているわけだが。

 

 そんな事情を九重八雲が知ったらからかうのが目に見えている為、私はいつも決まって“不味い茶を馳走になった”と吐き捨てていく。流石に原作世界では別の理由があるのだろうが、これは私なりの意趣返しだ。

 言っておくが、決して味は不味くない。彼といると見定めをしてくるような目を向けるため、居心地が悪くなるが故の“不味さ”を言葉に示しているだけだ。幹比古君には悪いと思うが、彼が高校卒業したら当主として就任してもらい、暫くは後見としての日々を過ごすことになるだろう。

 

 だが、死ぬまで道化は演じる。それは彼らが亡くなったとしても続ける。これが、前世に遺してきてしまった“息子”やそれを引き取ったであろう兄の息子たちに対する、自分が唯一出来る『けじめ』なのだから。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 放課後の詩歩と詩鶴による料理教室。詩歩からすれば義理の娘たちにあたる面々なので、気合が一層入っていた。そんな中、味見役として座っていた面々の中で達也は少し満腹気味だった。

 

「……無理に食べんでも良かったのに」

「流石に自分の為に作ってくれたものを残すなんてことは出来なかったんでな」

「惚気かよ」

 

 料理教室は悠元の婚約者たちだけでなく達也の婚約者たちにまで波及し、達也は参加した婚約者(ほのか、リーナ、スバル、英美、鈴音、香澄、小春、千秋、栞)の料理を食べきっていた。なので、休憩の為に居座っていた。

 

「ただ、俺の場合は13人分だからな……出てくるもの次第だが」

「そう言って、この前食べ放題のバイキングで米4合も食べてたよね? どこに消えてるの?」

「もしや、ブラックホール内臓なのか?」

「永遠に空腹はシャレにならんが?」

 

 単純に魔法や武術で消費したエネルギーを補っているだけだが、正直太らないというのはありがたいことだった……その代わり、夜の激しさは累乗加速の気配を漂わせている。それでも週末は自分だけの時間を作れている。

 結局は深雪が尋ねてきて熱い夜に発展しているわけだが。

 

「……いやさ、モテないよりはモテる方がいいというのは確かなんだが、物事には限度があると思うのよ」

「唐突な発言だけど、それは同意するよ」

「確かに」

「ああ……」

 

 事の発端は『達也と対立する関係にならない』ということを決めてからだった。最悪中立の立場も覚悟していたわけだが、達也以上の立場に置かれるなんて想像すらしていなかった。

 そもそも、戦略級魔法抜きでも強い達也を本気で管理・制御しようとしていた輩は、元から頭の理性のネジそのものが消滅していたのだろうと思う。でなければ、国際問題などお構いなしに戦略級魔法をぶっ放したりすることなどない筈だ。

 その意味で、セリアから聞かされたこと―――原作の達也が述べていた『戦略級魔法師は特殊である』と言う台詞―――は実に的を射ていると思う。

 女性陣の料理を待っている最中、ふと言葉を漏らしたのはレオだった。

 

「なあ、悠元。三高の一条のことなんだが、どうしてアイツはあそこまで諦めないんだ?」

「……悠元の実力は既に証明されているし、司波さんの言葉は僕やレオも聞いていたからね」

 

 直接場面を見たわけではないが、3月の時に一緒となって交流していたレオ。将輝の告白を断ったことは深雪がエリカからの質問でハッキリ断言していたため、それを傍から聞いていたレオや幹比古も把握していた。

 レオの言葉を聞いて、幹比古も首を傾げている。

 

「まさかとは思うけどよ、戦略級魔法師になったから悠元と同等になったとか思ってるのか? 彼には悪いとは思うが、無理だろうに」

「ハッキリ言うね、レオ」

「そりゃそうだろ。悠元と深雪の仲の良さは目の前のお兄さんが認めてるわけだからな」

「……俺は深雪の兄であっても保護者じゃないんだが」

 

 第一高校において悠元と深雪の仲の良さを知らない人間はいない。そして、それはネットワークによって第三高校に伝わっていても何ら不思議ではない。悠元は元十師族でありながらも護人二家の当主として師族会議を取り仕切る立場にいる。その意味で、魔法界に影響を与えている重さはかなり違う。

 レオと幹比古の会話に対して、達也は溜息を漏らしながら呟いた。

 

「例えばよ、アイツにも婚約者なりいるんじゃねえのか? 十師族直系の男子ならそういうのが一人ぐらいいても不思議じゃないだろ?」

「将輝に婚約者ねえ……案外、レオの予測は合ってるかもしれん」

「何か心当たりがあるのかい?」

「ああ。本人絡みで少しな」

 

 一条将輝という人間を対外的に見た時、家柄で言えば十師族・一条家次期当主という肩書を有している。当然、彼の夫人の座を狙ったりする女子は少なくないだろう。それと、彼が政略結婚に対して余り気分のいい反応を見せていなかったこと。これらのことから踏まえれば、将輝に許婚の関係を持つ人間がいたとしても不思議ではない。

 

「ただなあ、それであんなアプローチかましてたとしたら、男として最低な部類だわ。それを見越してやっていたとしたら強かだが……」

 

 前世も含めて、そこまで積極的に動かない(必要最低限の礼儀だけはしっかり払うが)スタンスを継続してきたため、将輝が何を考えて行動しているのかが読めなかった。ましてや、深雪に振られた挙句、悠元に対して殴り掛かったのだ。

 普通に考えれば神楽坂家の信用問題にも関わる為、時代が時代なら下手すると一条家が取り潰しになる案件だった。なので、レオの発言にも一定の説得力が生じるのは確かだった。

 

「もしくは……婚約相手を恋愛の対象として見ることが出来ない、とかはあるかもな」

「あー……それは何となくわかるかな。一番の代表例は悠元とエリカだよね」

「アレはそれ以前の問題だからな」

 

 だとしたら、まず一条家の殆どの人間が把握できる範疇にない、ということになる。そして、現段階では婚約として通達する段階に無いことも事実。何せ、当の将輝本人が深雪にその感情を向け続けている限りは、現当主・一条剛毅と言えども無理強いは出来ない。

 それに、将輝の自主性を重んじている点において述べるとするならば、剛毅としては将輝の結婚相手を自分で見つけてほしいという思いもあるのだろう。立場的に政略結婚の線が完全に消えない点に加え、彼が戦略級魔法師となったことで重婚の可能性まで生まれてしまったことを将輝当人はまだ深く認識していない。

 

「ただ、将輝はどうあっても避け得れない婚姻を強いられる可能性が生じてきた。なまじ戦略級魔法師になったが故にな」

「……流石に、悠元や俺のようなことにはならんと思うが」

「俺や達也の場合は例外中の例外だと思いたいぐらいだよ」

 

 将輝がどこまで食い下がろうとも、一条の名と戦略級魔法師の名誉を捨てない限りは逃げることなど出来ない。なお、将輝がそのゴタゴタに巻き込まれていない最大の理由は、将輝と深雪に関する問題が一条家と四葉家、神楽坂家と当事者に近しい関係者にしか明かされていない点が大きい。

 悠元は千姫にその公表をするかどうかの判断を尋ねられたが、その時点で深雪との入籍時期まで話していた。なので、どうせ入籍した時点で公表したも同然となる為に公表は控えることとした。

 

「九校戦の個人戦の申請はどうやら通ったようだし、代表は俺が務める。十師族当主達全員を驚愕させるような魔法を連発する……無論、ルールの範疇ではあるが」

「寧ろ、悠元相手に誰が勝てるんだ?」

「うーん……達也は?」

「俺は普通の魔法に関して苦労している側だからな。その意味で悠元に勝てない」

「お前ら、今度饅頭食わすぞ」

 

 結局、この話は女性陣が完成した料理を持ってきたことで中断されたのだった。

 

 悠元は頑張って女性陣の料理を食べきり、特に不満は唱えなかった。そこまで極端な味付けもなく、普通に合格点をあげてもいいとは思ったが、それを拒否したのは深雪だった。曰く『悠元さんに合格点を貰ったら、逆に惨めに感じてしまいますので』とのことだった。解せぬ。

 その日の夕食は、エフィアのリクエストで一品だけおかずを悠元が作った訳だが……その後に起きたことを敢えて表現するとなれば、“激しすぎて表現することすら出来ない一夜”となった。

 

 翌日、朝食を終えた悠元は食後のお茶を啜っていた。今日は受けたい授業も無いため、大人しく家にいることを選択した。その様子を深夜がにこやかな表情をしながら見ていた。

 

「昨晩は大変だったわね。私も腰が抜けちゃったわ。ご主人様でも精神的には大変かしら?」

「……まあ、否定はしない」

 

  これでも年頃の男子なので、当然性欲はある。ただ、好きな人に対して箍が壊れているのはどうかと思わなくもない。ただ、それでも深雪曰く『ご主人様は優しすぎて、もっと激しくしてほしくなります』とのこと。

 

「結局、魔法で治して学校に行かせたが……ハーレムも楽じゃない。というか、深夜まで惚れるとか想定の範疇に無かったんだが」

「……ご主人様は、魔法のことじゃなくて達也や深雪を気遣って私を治した。そんな気質の人なんて、私が知る中だと父や剛三さん、それに千姫さんぐらいだもの」

「いや、流石に限定的すぎなくも……ないな。それで、頭に当たってるんですが?」

「誘惑してますから」

 

 直球の言葉と悠元に対するスキンシップ。その結果に起きたものは……既定路線とだけ述べておくことにする。

 




 前半部分は東道青波に関する独白。今までに出てきていた伏線をいくつか回収した形です。当然、上泉家や神楽坂家でも調べられなくはないですが、真実を知ったから消されてしまった部分の回収をするとなれば、これが一番妥当だと判断しました。
 古式魔法なら媒体を介して燃やすことも出来たりするので、風穴を空ける魔法ぐらいはあると踏んでの死因です。古都内乱編でも色んな古式魔法が出ていますし、東道家の伝手なら出来なくも無いと判断しています。

 後半は日常パート(?)な巻。
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