魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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二代に亘る仕打ち

 悠元らがチャンドラセカールの会談に臨んでいる頃、リーナとセリアは真夜との会談に臨んでいた。ただ、その雰囲気というものは非常に和やかだった。

 

「にしても、セリアさんがそんな簡単に割り切れたなんて、祖国に対する未練はなかったのかしら?」

「隣にいる姉のことはさて置くとしても、小娘扱いばかりする大人たちの面倒を見たいがために軍人の道を選んだわけではありませんでした。なので、婚約が決まった時には喜んで辞表を投げつけてやりましたよ」

「あら、噂程度に聞いていた九島閣下の弟さんに負けず劣らずですね」

(……なんでそこまで喜んで話せるのよ)

 

 セリアは悠元の婚約者。一方、真夜は当主を辞めたら悠元の愛人として転がり込むことが決まっている。普通ならば諍いごとに発展する事案だが、悠元の精力を鑑みた時に愛人の存在は逆に救われるようなものだった。

 とはいえ、その対象となる悠元本人はいささか疑問を呈していたが。

 

「って、セリア。何でそこまで親しげに話せるのよ」

「だって、真夜さんはお兄ちゃんの未来の愛人だよ?」

「え? は? ……悠元ってそっちの傾向が強すぎるの?」

「それ、お兄ちゃんに言ったら、漏れなく関節技(にくたいげんご)の餌食だからね?」

 

 なお、セリアも転生特典で強力な自己修復術式を有している為、悠元に関節技を掛けられても即座に回復してしまう。寧ろ、強大な魔法力を維持するために強制的な発動を促す意味で悠元をからかっていることが多い。

 流石にそんな関係をリーナに話すこと自体は避けたが。

 

「リーナさんは、何か不満とかはありますか?」

「いえ、寧ろ軍にいる時よりも豪華すぎるぐらいで恐縮するほどです。些かオーバーすぎるのではないかと思うぐらいでして」

「何か要望がありましたら、遠慮なく言ってくださいね。そういえば、学校には何時から通うのかしら?」

「来週からの予定です。クラスは聞いていませんが」

 

 リーナの帰化手続きは既に完了しており、彼女が日本国内にいても咎めるような人間はかなり限定されるため、来週から第一高校に通うこととなった。戸籍上は『六塚(むつづか)理奈(りな)』となり、燈也とは叔父・姪の関係、泉美と義理の姉妹になる。

 なお、それを聞かされた燈也は盛大に頭を抱えたが。

 

「リーナさんは……覚悟はいいの?」

「はい。ただ、その為に一度USNAに出向いて全ての決着をつける必要があると考えております」

「お姉ちゃんがまともな事を言ってる……」

「セリア!? 折角の台詞に茶々を入れないでよ!!」

 

 真夜の問いかけに対するリーナの決意にセリアが呆れ気味に呟くと、リーナがそれに噛み付いて取っ組み合いに発展する。それでも用意された菓子やお茶に被害を及ぼさない範囲での争いを見て、真夜が笑みを零していた。

 

「ふふ、リーナさんは妹さんに愛されているのですね」

「あ、す、すみません。セリアも謝りなさい」

「すみませんでしたー」

「ふざけてるんじゃないわよ! ワタシにとっては未来の姑なんだから!」

 

 結局、リーナとセリアの取っ組み合いは二人の気が済むまで続けられてしまい、それをまるで試合観戦するかのように見つめる真夜であった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

「神楽坂殿は、現在の魔法師の境遇についてどうお考えでしょうか?」

 

 チャンドラセカールが悠元に尋ねる。悠元に対しては名字呼び、達也は『ミスター』、深雪は『ミス』、そしてチャンドラセカールは『博士』の呼び方となった。悠元自身の功績もあるが、それ以上に“神楽坂”の肩書きの強さが色濃く出た結果であった。

 

「もっと具体的に言うと、各国政府による魔法師管理の在り方についてです」

 

 その問いかけに対して、悠元は考えることなく答えを返す。

 

「現状における話であれば、どの国も十分な管理がなされているとは言いにくい―――魔法師の側からすれば、不十分と評しても不思議ではないでしょう」

「そうですね。私もそう考えております」

 

 何せ、佐伯主導であんな案が罷り通ろうとしたほどだ。確かに、魔法による“見えない恐怖”を感じてもおかしくはないし、それならば目に見える形で管理するのは道理である。だが、それをされた側からすれば『魔法資質を有しているだけで管理される』という恐怖を抱くことにも繋がる。

 そこから反発して、最終的に少数の魔法師が多数の非魔法師を支配する未来の可能性を誰しもが危機として受け止めていないことも問題と言えた。だからこそ、悠元は魔法師でありながらも合法的・社会的な方法で相手を駆逐する手段の構築に余念が無かった。

 

「現在の世界は、魔法師に認められるべき基本的人権が軽視されている傾向にあります。民主主義社会においても、彼らを人間として扱おうという基本的なことが蔑ろにされています。魔法師の軍事利用はその顕著な例です」

 

 元々、チャンドラセカールは魔法師として十分な能力を持っていない。だが、戦略級魔法をはじめとした軍事用魔法を開発した手腕を以て、魔法師の軍事利用に加担した側―――政府側の人間の彼女がその意見を持ったことに、達也や深雪は驚きを見せていた。

 

「神楽坂殿は、本来私が考えていた魔法師の併存ではなく、共存の道を模索している。そして、欧州に蔓延っていた反魔法主義の芽が潰され、魔法師の人権について真剣に議論する場を作り出した。その行動に感銘を受け、相談したいとこの場に現れた次第です」

 

 チャンドラセカールは、悠元と達也が『灼熱と極光のハロウィン』の戦略級魔法師であることも推察している。だが、戦略級魔法が持つ可能性と危険性を誰よりも理解しているからこそ、彼女は今回の訪日の目的を明るみに出した。

 達也と深雪が悠元に視線を向ける中、悠元は少し考えてこう切り出した。

 

「私は、国際魔法協会そのものが全てをカバーできる組織ではないと判断し、魔法資質保有者の基本的人権を守る国際組織の立ち上げを考えております。ですが、仮に日本が音頭を取ったとしても、中立性を保つための本拠地選定は必要と考えております」

「……関与はするが、統治はしない。そういうことですね?」

「その通りです」

 

 何かしらの関与は避けられないとしても、魔法資質保有者の基本的人権の保障・保全はあくまでも中立的な視野の下で実行されるべきこと。それに、ESCAPES計画とSTEP計画はその根幹を成す目的で提案されたもの。

 無論、チャンドラセカールの来日も悠元や達也の[恒星炉]を利用したいと考えている筈。ならば、インド・ペルシア連邦の政府中枢に近い彼女の協力を得られるのは、これ以上ない好機でもあった。

 

「ならば、市民(シビリアン)と一定の線引きをするという意味で『magian(メイジアン)』という呼称は如何でしょうか?」

「『magician(マジシャン)』でないのは、奇術師のイメージが拭えないからですね?」

「ええ……神楽坂殿が一番実感していると思われますが」

「それは今更なので諦めたことです」

 

 その後、魔法技能師については『魔法を組み立てる者(マジック・コンストラクター)』ではなく『magist(メイジスト)』―――メイジアンの専門職業人(テクノロジスト)という意味だが、魔法専門職のスペシャリストという意味合いも込められての言葉と位置付けられた。

 そして、会談が一区切りついた後に悠元から話を切り出した。

 

「博士。この後、時間はございますか?」

「ええ、元々プラントを視察する予定もありましたので。何かご用件でも?」

「実は、この島にイギリス軍空母が寄港する手筈となっております。そして、その艦に乗っている人物―――[十三使徒]ウィリアム・マクロードとの会談に御同席願いたいと考えておりますが、如何でしょうか?」

 

 旧インドを有するインド・ペルシア連邦からすれば、イギリスは連邦の首長国にして過去の因縁を有する欧州の先進国家。悠元の提案にチャンドラセカールは少し考えた後、悠元に尋ねる。

 

「時間は何時になりますか?」

「昼食後の時間を指定しておりますので、休憩時間は当然ございます。その分、プラント視察の時間が削られることになりますが」

「……私どもとしても、この時期にイギリス空母が寄港すること自体異例な事です。その提案、快く受けさせていただきます」

 

 普通に考えれば、増長する新ソ連の抑制の為に派遣されたという筋は通る。だが、イギリスは新ソ連やUSNAとディオーネー計画の部分で協力を結んでいた背景がある。いわば日本に対する敵対行為に近い所業を見せておきながら、堂々と空母が派遣されてくること自体“異常”だとチャンドラセカールも感じ、悠元の要請を承諾した。

 

「分かりました。それで昼食ですが、ご希望のものを可能な限りお出し出来ます」

「では、日本に来たことですから、『スシ』を所望します。数年前に剛三殿が握ってくれたものが忘れられなくて」

「……悠元」

「あの爺さん、若い頃は家督を継がなかったら寿司職人になるって修行してたらしいから」

 

 寿司のことを知るには、色んな職人を見なければいけない―――そう思った剛三は剣術修行の片手間に寿司屋の住み込みで働いていたことがあった。それこそ老舗の寿司店で働いていたこともあり、上泉家の家督を継がなかった時は店を開いて寿司職人になりたかったらしい。

 だが、父親や兄、息子の急逝によって家督を継がなければならず、更には四葉の復讐劇で多くの仲間や親友を喪った。剛三が東道氏や樫和氏を殺したのは、自分の夢を奪ったことに対する復讐の一面もあったのだろう。

 

 とはいえ、長男を除けば娘ばかり子沢山となった剛三。女系で言えば13人もおり、その内の一人は剛三が住み込みで働いていた寿司店の店主の息子に嫁がせた。彼は父親から『剛三の技を盗んで職人として大成せよ』という名目で一時期修行に来ていたらしい。

 その店には剛三と何度か訪れているが、前世でも食べたことの無いような美味さに感動したほどだった。以降、上泉家だけでなく神楽坂家や三矢家御用達の寿司店となったのは言うまでもなく、お祝い事には必ずここの店の寿司を頼むほどだった。

 

 閑話休題。

 

「なら、出前になるけど頼んでみるか」

「え? この島で出前が出来るのですか?」

「出来るよ。ちょっと手の込んだ方法だけど」

 

 離島となると、当然食生活が本土と変わってきてしまう。当然、当たり前のように出来ていた出前やデリバリーサービスが受けられないという不便さも生じる。それを解決するため、悠元は[疑似瞬間移動]を用いた方法を模索していた。

 仕組みは単純で、本土の特定の場所(神楽坂家系列の企業)に配達してもらい、そこから[疑似瞬間移動]系列の魔法を用いて品物だけ移動させる方法。刻印型術式を用いるため、決まった二点間での移動に制限されるが、それでも海の天候に左右されない確実性の高い方法。

 

 そうして、悠元が端末で連絡をして30分少々……リクエストのあった寿司が立派な器に入って届けられた。流石に量が多いため、リーナとセリアも同席する形で昼食の時間となった。

 

「う、美味い……これが、日本の寿司……」

「流石に向こうのアレはねえ……」

 

 別に貶すつもりはないが、悠元も前世の『SUSHI』がイメージにあったためか、苦笑を滲ませたのは言うまでもない。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 巳焼島の空港拡張工事と共に、南部の港湾部分も大幅な工事が行われ、戦艦・空母クラスの停泊が可能なほど大規模の施設が整っている。これを見て四葉家が異常だと論じる人間もあるだろうが、巳焼島の土地利用は神楽坂家が最終決定権を有している為、誰しもが口を挟めない。

 そして、港にイギリス軍空母『ジブラルタル』が接岸し、出迎えに来た車が島西部のビルに到着したのは13時過ぎのこと。車から降り立った人物は、イギリスの[十三使徒]ことウィリアム・マクロードだった。そして、その隣にはスーツ姿の中年ぐらいの男性が険しい表情を見せていた。

 

 悠元と達也からすれば、西果新島の件にイギリスが関与しているのは明白であり、その事実はイギリス王室と政府に事態の説明責任を要求した経緯がある。本来ならばマクロードが言葉を発するところだが、その代わりとして隣にいた男性が深く頭を下げた。

 

「イギリス王室特使、アーヴィング・ヴィンセントと申します。此度は、隣にいる我が国の戦略級魔法師(おろかもの)が多大なご迷惑をお掛けしたにもかかわらず、会談の申し入れをしていただけたことに感謝しております」

「師族会議議長・神楽坂悠元です。それで、此度の訪問理由をお聞かせいただいても宜しいでしょうか?」

「無論です。事情を問いただしたところ、こちらの国の軍人から何かしらの提案をされてのものだと聞き、王室としては看過できないと私が派遣された次第です」

 

 その男性もといアーヴィングは、佐伯広海によって何かしらの交渉を持ち掛けられたところと、日本の戦略級魔法を抑止する方法の模索ということでマクロードが出向こうとしたところを王室と政府が特使としてアーヴィングを派遣し、その真意を探れと命ぜられたこと。

 事情を話すアーヴィングに対し、口を噤んだままのマクロード。確か、日本に来ているアニエス・ヴィンセントはマクロードの孫娘だと聞いている為、マクロードはアーヴィングの舅にあたるのだろう。

 

「恐らく、戦略級魔法師を管理・制御しようということなのでしょうが、神楽坂殿は如何お考えかお聞かせ願いたい」

「予め言っておきますが、交渉相手だった佐伯広海少将は新ソ連に備えるため、北海道に異動しております。それと、彼女が提案していたのは『戦略級魔法師管理条約』―――その事前交渉を国際魔法協会経由で貴方方の国と行っていた事実も掴んでおります。必要ならばその資料をこの場で提示いたしますが」

「何と……馬鹿な真似を……」

 

 悠元が述べた事実にアーヴィングが絶句した後、彼はマクロードを睨んでいた。

 アーヴィングは魔法師だが、誰しもが疑わぬほどの国家に対する忠誠をイギリス王室に買われ、イギリス王室の要人として働いている。そして、彼の娘も魔法師として十分な資質を備えており、政府機関所属の魔法師として勤務している。

 だが、彼の目の前にいる人物は国益と謳っておきながら日本を貶めようとした。そこに新ソ連を加えれば、どんなことになるかなど明白だというのに、それを止めるどころか焚き付けたことはアーヴィングも把握していた。

 第二次大戦前に国交を絶たれ、その後に伝統ある王国同士としての国交を回復させた信頼を、マクロードは根本から絶とうとしたも同義。

 

「ウィリアム・マクロード。アンタがどう取り繕うとも、西果新島の件をエドワード・クラークと共謀して実施した事実は把握している。イギリス王室の配慮から直接的な報復は実施しなかったが、東西EUの再統合によってイギリスは面目を失した」

「……成程。その差し金は其方か、神楽坂悠元」

「御明察。俺にとって魔法はあくまでも差し迫った事態に対する手段の一つでしかない。この場でイギリス連邦に対して戦略級魔法を行使はしないと明言する。だが、日本に対する不利益を被る様な行為に加担した場合、その限りではないと心得てもらう」

 

 ディオーネー計画そのものに対する言及はしなかったが、悠元の言葉でマクロードもその本気度を肌で感じ取り、冷や汗が頬を伝うほどだった。

 

「さて、ウィリアム・マクロード。これまでの二国間の信用に泥を塗った対価を支払ってもらう。エドワード・クラーク及びイーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフとの会話によって得た情報全てを話してもらおう。特使殿もよろしいでしょうか?」

「無論です。女王陛下より神楽坂殿に対する最大限の便宜を図るよう言い含められた上、『マクロードが嘘を吐いた場合、容赦なく罰せよ』とも仰せつかっております故」

「分かりました。言っておくが、俺は先天的な聴覚で相手の真偽を見抜ける。騙せるとは思わないことだな?」

「……分かった。いえ、承知いたしました。私の知る事実の全てをお話いたします」

 

 父親は先代の神楽坂を蔑んだがために半殺しに遭い、そして自身は今代の神楽坂に詰め寄られる事態となった。事ここに至っては無力だと察したマクロードは、エドワードやベゾブラゾフとの会談で得た情報全てを正直に話すことでしか生き延びる手段を見いだせなかったのだった。

 




 またオリキャラの登場。アーヴィングはアニエスの父親に当たり、彼からすればマクロードは舅に当たる存在です。とはいえ、彼の行動原理は職務に忠実で公私混同を一切せず、身内だろうと容赦なく扱き下ろします。
 ましてや、今回の一件は本来なら日英間の国際問題に発展してもおかしくはない事案でもありますので。正直天皇陛下の前で正座して土下座するレベル。
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