魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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現場に出向いてきた国家元首

 原子力潜水空母『バージニア』は日付変更線を越え、艦内時計が設定し直された。時間は18時を示しており、見込みではあと1時間でミッドウェー監獄に到着する。

 当初の予定では達也と悠元がミッドウェー監獄を襲撃後、パールアンドハーミーズ環礁基地にいる面々が合流して暴れる予定だったが、真一の方で予定変更をしなければならなくなった。理由はハワイ諸島に向かっている大統領専用機(エアフォース・ワン)。そこに搭乗している人間は定かでないが、少なくともUSNA政府高官なのは間違いない。

 そのため、パールアンドハーミーズ環礁米軍基地では真一が支配下に置いた[パラサイト]を全員冬眠状態にして、愛波と共に日本へ帰還する方針を固めた。そのため、達也にはエアカーで真一と愛波を連れ帰ってもらうこととし、[パラサイト]の治療は悠元が担当することとなった。

 今回、あくまでも達也は“協力員”の立場であるが、四葉家としてもUSNA政府とのパイプを持っていても問題は無いと判断している。向こうとしても、かの『触れてはならない者たち(アンタッチャブル)』と誼を結べるのならば、多少の不利益には目を瞑るだろう。

 そして、悠元はカーティス艦長の招きで『バージニア』の艦長室にいた。

 

「かの上泉殿に付き添っていたということから只者ではないと思っていたが……伯父の言葉も腑に落ちる次第だ」

「まだ何もしていないのですがね。少なくともこの国に対して本気で敵対した覚えもないので」

「……その“本気”でなくてあれだけのことをしたとなれば、十分すぎるだろう」

 

 ワシントンでの反魔法主義者によるテロ騒ぎの際、悠元は一人を大西洋方面に飛ばしたわけだが、残りの面子は市街地への被害を避けるように海の方向へ全員吹き飛ばした。尚、剛三が吹き飛ばした輩は全員“お星様”となった。無論、生きているとは到底思えないだろう。

 悠元の言葉に対し、カーティス艦長は率直な意見を述べた。

 

「君の言葉を疑うわけではないし、風の噂で君がスターズ最強格の魔法師を倒したことも聞いている。親族であるカノープス少佐からも君のことは聞いた。あの乱暴者のラルフを難なく沈めたことも」

「あれですか……あの時は同盟国とはいえ他人様の問題に首を突っ込んできて何様かと思いましたよ。本来、自国のことは自国だけでケリをつけるべき問題であらねばなりません」

「……そうだな。実に耳が痛い話だと思う」

 

 南盾島の件に関しては、戦略級魔法という観点で出張る意味も分からなくはないが、日本国内で片が付けられる問題に首を突っ込んだ挙句、危うく核戦争の再来になり掛けたのだ。その意味をしっかり反省してほしい―――という意味を含んだ悠元の言葉に、カーティス艦長は「ご尤もだ」と呟きながら頷いた。

 

「その君の実戦を間近で見られるのだから、私は幸運だと思うよ。かの万夫不当を成した上泉剛三殿の傍らにいた少年が織りなす戦い……軍人としては失格なのかもしれんがね」

「ご期待に沿えるかどうかは分かりませんが、少なくとも頼まれた要請を完遂することだけはお約束いたします」

「それを明言できるというだけでも、非常に心強いよ……伯父に代わり、どうか親族を含めた冤罪の兵士たちを救ってくれ」

「心得ました」

 

 カーティス艦長は、まるで少年のように心躍っていた。彼も上泉剛三に憧れ、彼のように意志が通った人間でありたいと心掛けてきた。

 その憧れを傍で見続けて来た少年がどんな戦いの構図を描き出すのか……軍人として味方に被害が出ることを喜んではいけないが、伯父が認めるほどの人間が織りなす戦いの在り方に、カーティス艦長はその期待も込めて悠元に頭を下げたのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 現地時間7月16日午後6時(日本時間7月17日午後3時)。原子力潜水空母『バージニア』は所定の位置に着いた。悠元は既に戦闘服へと着替え、達也の準備を待っていた。リーナとセリア、ジェラルドについては後詰という形で待機することとなった。いくら秘密裏にとはいえ、同じ国同士の兵士が争えば[パラサイト]の問題が表面化しかねない。

 悠元とて必要以上の混乱など望まないため、その事情については了承した。

 

 そして、午後7時半。悠元は達也と共にエアカーへ乗り込み、一路ミッドウェー監獄へ飛ぶ。今回はエアカーに搭載されたステルス機能のテストという側面と、それにパールアンドハーミーズ方面にいる真一たちに“合図”を送る意味で派手に暴れることで合意していた。

 ただ、派手にとは言ったものの、ミッドウェー監獄そのものを消滅させることは禁じられている。別にそんなことをする必要が無いし、今回はターゲットの救出が主目的。よって、如何に手っ取り早く事を進めるかが鍵となる。

 

 ミッドウェー監獄はミッドウェー島(島というよりは小島からなる諸島)のサンド島東半分を占める大規模な施設。魔法師を閉じ込めるという意味では、これほど規模が大きくなっても無理はないだろう。

 エアカーは既に監獄の対空砲火の射程圏内に入っているが、発砲はない。その理由はエアカーに搭載されたステルス機能にあった。

 

 [恒星炉]に使われている人造レリックを用いたシステムで、ドライバーの魔法技能に依存することなく高度な探知妨害・認識阻害の魔法を発揮する。この開発には無論悠元が関わっており、最大持続時間は当初の12時間から24時間へと大幅に伸びている。

 尤も、四六時中ステルスすることが出来る悠元本人に比べれば大したものではない、と達也が完成時に述べた言葉に対し、悠元がジト目を向けたのは言うまでもない。

 

 島の北西部に着陸した後、達也は[フリード・スーツ]に着替え、二人は監獄施設に向かう。悠元は平然と塀を越えるが、それでも警報は鳴らない。だが、流石に達也が塀を越えようとしたところで警報が鳴るが、それを見た悠元の動きは早かった。

 起動しようとした迎撃兵器に対し、悠元は[ラグナロク]で兵器全てを無力化。その上で対空レーザー砲を土台ごと強引に“引き抜いた”。一体何をする気なのかと達也が見つめる中、悠元はレーザー砲本体を空高く放った。

 そして、悠元は耳に付けていたレシーバーに話しかけた。

 

「セリア、やってくれ」

『了解、お兄ちゃん』

 

 その短い遣り取りの直後、上空に放り出されたレーザー砲がプラズマ状になり、上空で強烈な爆発を起こす。その衝撃波は悠元の[ミラーフォース]で中和されたので被害は出ていないもの、監獄の正門部分に相当する部分は見事に融解していた。

 

「……いいのか?」

「派手に引き付けるのは常套手段の一つだ。達也はこのままカノープス少佐とシャウラ少尉を頼む。達也ならカノープス少佐のいる場所も“視える”だろうからな。俺はアルゴル少尉を救出する」

「分かった」

 

 ミッドウェー監獄を“全壊”させてはいけないのなら、“一部を破壊”することは許容されている―――という悠元の解釈。それに、派手な動きは敵の動きを一箇所に集めやすくなる。それに、どうせ後片付けの手段を持ち得ている以上、達也としても任務を優先することに舵を切った。

 悠元は南盾島の件でラルフ・アルゴルと直接対峙している。なので、その情報はよく覚えている。だが、彼が囚われている部屋の前で立ち止まった悠元は中にいる存在が数人いることに気付いた。

 

(罠……にしては、稚拙という言葉を覚えようか)

 

 分かり切った罠など罠ではない。悠元は[ラグナロク]を部屋の向こうに向けて[オゾンバレット]を放つ。いくら魔法師であっても、肺の中にある空気をオゾンで満たされてしまえば、忽ち意識を失う。

 これが達也ならば若干力業になっていたが、悠元は[叢雲]を展開して鍵を破壊し、ベッドの下から感じた気配を頼りに確認すると、ラルフ・アルゴルが縛られた状態で見つかった。薬を嗅がされた形跡があるようで、揺すっても起きる気配はなかった。

 

「……このまま運んだ方が早いな」

 

 起こしてもいいが、過去に対決した人間同士での諍いは勘弁だと考え、悠元はアルゴルを肩に担ぐ形で監獄ビルを後にした。悠元はそのまま達也の存在を確認した上でビルの屋根伝いに走り、ほぼ魔法を使わずに合流した。

 そこには達也だけでなく、ベンジャミン・カノープス少佐とアリアナ・リー・シャウラ少尉もいて、カノープスは悠元の姿に驚きを隠せなかった。

 

「神楽坂悠元……いや、今は必要な詮索をするべきではないな。ここからどうする?」

「早急に脱出しましょう。てなわけで達也、彼らを頼む」

 

 悠元はそう呟いて[音速瞬動(ソニック・ドライブ)]でエアカーのある場所に達也を含めた四人を飛ばした。それを確認すると、悠元はそのまま上空へ飛び、パールアンドハーミーズ環礁米軍基地へ向けて飛翔する。

 

  ◇ ◇ ◇

 

「ミスター司波から帰還のシグナルが発信されました」

 

 通信士の報告に艦橋が騒めく。それを聞いたマイケル・カーティス大佐が報告を促す。

 

「出撃して20分、実質15分か……被害の状況は?」

「正門部分に大きな被害と、迎撃兵器の全無力化を確認。主要な監獄部分に対するダメージや人的被害は現時点で認められません」

「そうか……」

 

 日本で新たに生まれた戦略級魔法師。カーティス艦長は事前に伯父のワイアット・カーティスから彼らの素性を聞き及んでいた。

 

『……彼らが、あの復讐劇を起こした一族の子孫だと?』

『このことは国家機密に準ずるものと思え。これを明るみにした場合、一族が歴史から抹消される覚悟を持て。私から言えるのはそれだけだ』

 

 大漢を滅ぼした四葉の一族と上泉剛三。そして、神楽坂の名を持つ少年の存在。カーティス艦長も噂ながら耳にしたことがある名。勘気を被れば、歴史から存在諸共抹消される……それは、世界群発戦争における神楽坂千姫の公表されている功績からすれば、容易に想像できることだった。

 そして、今回は『バージニア』から放たれた戦略級魔法のことがあったとしても、少ない被害で最大の利を得るという戦いの最適解を証明させられてしまった。これを目の当たりにしたクルーの中には動揺を隠せないものも少なくなかった。

 

(……これでは、戦う前に負けを宣告されたも同じだ。伯父の言う通り、私に出来るのは彼らと敵対しない道を選ぶだけ。我が国屈指の魔法師でも負けたのは……当然の結果とも言えような)

 

 カーティス艦長はそんな心の内を表情に出すことなく、現在与えられた任務を全うすべくクルーに指示を飛ばした。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 達也らと別れた悠元は、飛行魔法で一人パールアンドハーミーズ環礁米軍基地へと飛んでいた。ミッドウェー監獄襲撃の報が既に伝わっていたのを示すかのように、F-141のコードを持つマルチロール機にして米空軍の主力機―――『ホーンドアウル』が40機ほど向かってきていた。

 その奥には空母『シャングリラ』と駆逐艦『シュバリエ』『ミラー・デービス』の姿も確認された。更には……[パラサイト]に侵食されたスターズの兵士が二人いることも確認できた。

 

(『シャングリラ』に搭載されている『ホーンドアウル』は60機……本気だということか)

 

 悠元はそう悟り、高度を下げて海面に“降り立った”。そして、左手を眼前に翳した。その刹那、悠元を中心として白銀の光が誰の目から見ても分かるほどに光の柱となって形成されていた。

 そして、悠元は自らの武装の名を呟く。

 

「―――天魔抜刀、[天都御魂叢雲(アマツミタマノムラクモ)]」

 

 光の柱が崩れるように消えていくと、悠元の手には[天都御魂叢雲]が握られていた。

 

 これまで[布都御魂剣(フツノミタマノツルギ)]を介することで安定させていた[天魔抜刀]。だが、この状態でも[最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)]を完全制御するには至らなかった。

 色々考えた末、悠元は発想を変えた。外から制御できないのであれば、[ロンゴミニアド]そのものを媒体として[天魔抜刀]を発現させるという方法を考案した。

 

 規格外の能力を触媒として[天魔抜刀]を発現させる―――それは、三代目神楽坂家当主が目指していた[天魔抜刀]の最終到達点。悠元は、意図せずしてその領域に到達せしめた。

 

 悠元は[天都御魂叢雲]を構え、横一線に薙いだ。その瞬間、空母も駆逐艦も……40機の戦闘機も全て『時が止まった』。そして、悠元が[天都御魂叢雲]を振り上げ、振り下ろすと……艦載機はまるで自動操縦でもしているのかのように空母へ帰還していく。空母のクルーもそれを疑問と思わずに誘導していく。

 そうして空母と駆逐艦しかいない状態となったところで、悠元は海面を蹴り飛ばし、姿が“消えた”。

 

 遠隔座標固定魔法―――いや、正確には空間座標情報連結魔法[鏡の扉(ミラーゲート)]。この魔法の真骨頂は、あらゆる“情動”に関する情報を座標と連結させることで、世界のあらゆる場所に転移できる能力を有する。

 仮に悠元が知らなくても、第三者が当該人物に対して何らかの感情を有していれば、第三者を介する形で座標を結び付ける魔法。“人の(えにし)”を結ぶ魔法であり、悠元にしか使うことが出来ない唯一無二の術式。

 

 悠元が飛んだ先にはアンタレスとサルガスが眼前に迫っており、二人も突然姿を見せた悠元の姿に驚愕する。この一瞬の隙をつき、悠元が[天都御魂叢雲]を振るうと、二人は操り糸が切れたように崩れ落ちた。

 二人に対して悠元は[領域強化(リインフォース)]を使用し、残っているアンタレスとサルガスの自我で[パラサイト]の本能を全て塗り潰す。掛かった時間はほんの数秒程度で、二人は当分目を覚まさないが、[パラサイト]の治療に極めて有効だと証明できた形となった。

 

 事が全て済んだところで、悠元はレシーバーのスイッチを入れて空母『シャングリラ』に向けて通信を入れる。

 

「こちら、日本の師族会議議長・神楽坂悠元。当方に戦闘継続の意思はない」

『こちら空母「シャングリラ」。貴公の要求を聞こう』

 

 遣り取り自体は英語だが、向こうも一体何が起きたのかという混乱からまだ抜け出せていないのは明白だった。それを感じつつ、悠元は要求を述べる。

 

「パールアンドハーミーズ環礁基地に連れていかれた友人の救出と、我々の追撃の断念。もしこれを破れば、貴国の政府と結んだ約定を破棄することも視野に入れる。なお、そちらにいた[パラサイト]に侵食された兵士は治療したので、安心して頂きたい」

『……そうか。要求を受け入れよう。そして、図らずも悪魔に憑りつかれた同胞を助けて頂いたことは、必ず報告することを誓おう。貴公に神の加護があらんことを』

 

 その言葉を聞いて、転生した時に出会った女神のことが脳裏に過り、ある意味加護が付いているのは否定できないと思いながら、悠元は飛翔して一路パールアンドハーミーズ環礁米軍基地に飛んだ。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 原作のパールアンドハーミーズ基地では、九島光宣の[人体発火]によって多数の犠牲者が出ていた。この世界の場合だと基地の兵士は生存していても、全員が眠りに就いていた。恐らく真一が精神干渉系魔法で余計な被害を出さないよう配慮した結果なのだろう。

 悠元が存在の在処を頼りに進んだ先は、病院棟だった。誰かが負傷したのだろうかと思いながら歩を進めると、出迎えるように立っていたのは真一だった。

 

「悠元さん、思ったより早かったですね」

「ああ。で、何故病院棟に? まさか、愛波に何かあったのか?」

「いえ、彼女は無事です。ただ……とにかく、来てください」

「???」

 

 何かを言い淀む真一に悠元は首を傾げるが、彼の案内で病室の一角に案内された。すると、部屋に入ると同時に衝撃が響いた。

 

「この、軟弱者があっ!!」

「ごはっ!?」

 

 日本で著名な某プロレスリング漫画の代名詞と言わんばかりの投げ技が炸裂し、股関節を抑えて悶えているジェイコブ・レグルス。そして、その技を掛けた当人―――ジョーリッジ・D・トランプUSNA大統領は平然とした顔で二人に声を掛けた。

 

「お、ミスター真一。それにミスター神楽坂、久しぶりだな」

「ええ……成程、病院にいた意味が分かった」

「察して頂けて何よりです」

 

 さしもの[パラサイト]に侵食されていたとしても、相手はUSNA軍の最高指揮官。しかも、魔法師相手でも平然としている政治家の存在に、真一が動揺するのも無理はないと納得したように呟いた悠元だった。

 




 戦闘シーンが息していないって? 犠牲になったのだ。演出の犠牲にな。
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