魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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怒りの説教(肉体言語込み)

 ジョーリッジ・D・トランプUSNA大統領の登場―――原作知識にはない行動の為、さしもの真一であっても動揺を隠しきれなかった。一国の国家元首がいることもそうだが、[パラサイト]の侵食を受けることなく圧倒出来てしまう実力。

 その理由を悠元は[天神の眼(オシリス・サイト)]で改めて確認したところ、納得したように息を吐いた。

 

「……真一、この人は()()()()()()()だ」

「え、ええ? でも、魔法の兆候は確認できませんよ?」

「その少年の発言も尤もだ。私は、現代魔法を発動できなかったのだよ」

 

 ジョーリッジの能力は、自身に対する全ての魔法を打ち消してしまう強力な体質を有していた。似たような能力は悠元の姉である美嘉も有しているが、こちらは完全に防御へ振り切った形と言えるだろう。

 しかも、先天的な能力故に魔法師相手はおろか、[パラサイト]などと言った霊子情報体相手でも能力が有効なため、相手がいくら強かろうが魔法を無視できる。いわば『魔法師殺し』の存在とも言える。

 だからこそ、魔法師が傍にいても何ら支障が無かったわけだ。その反面、魔法を使うことが出来ないという側面があった。

 

「……悠元さん、僕は一体何を見せられているのでしょうか?」

「この世の非常識の塊の一端」

 

 かつてジョーリッジは『スターズ』の本拠地であるロズウェル基地司令として勤務していたことがあり、武術指導もしていたことがある。中にはズルをして魔法を使う人間もいたりしたが、真正面から拳で叩きのめしていたらしい。

 そんな話はともかく、悠元はジョーリッジに対して話しかける。

 

「それで、閣下は如何なる御用で此方に? どうせ単独で乗り込んで来たのでしょうけれど」

「うむ、ハワイから戦闘機に乗ってな。久しぶりに『スターズ』の連中を揉んでやったが、妖魔如きで自我を無くすとは嘆かわしいものよ」

 

 相変わらずだな、と心の中で呟きつつも悠元はジョーリッジの説明を受けた。

 

 USNA政府としては、神楽坂悠元および司波達也に対して敵対しないことを明言。これは何度も大使館経由での手紙で伺っている為、そこに嘘はないだろう。そして、財界や北米魔法協会もSTEP計画への賛同を取り付けたことに加え、ワイアット・カーティスとの話で出していた要求を全て吞むとジョーリッジは口にした。

 

「元々、我々の身勝手で始めたようなものだ。出来れば我々の手でケリを付けたかったが、日本を巻き込んだ以上は隠しきることも出来ん。神楽坂殿、どうか妖魔の脅威を祓っていただきたい」

「分かりました。真一、この部屋に該当者を集めてくれ。その方が早いだろう?」

「ですね。直に取り掛かります」

 

 そうして、真一の支配下に置かれたパラサイト化した『スターズ』と『スターダスト』の兵士に対して[領域強化(リインフォース)]で自我を拡大し、[パラサイト]を完全に塗り潰す。時間ではほぼ一瞬だったのと、実験の実施日以降から読み取ったために負担は重くなかった。

 なお、輸送機で封印したままだったアークトゥルスは巳焼島で追い返した連中と一緒にしていたため、彼もようやく意識を取り戻した。

 

 ただ、レイモンド・クラークについてはわざと治療しなかった。何故なのかと疑問を抱く人間もいるだろうが、今の状態で彼を人間に戻しても『利が無い』という結論に至ったためだ。尤も、流石にパラサイトのリスクを考慮して、制御は預けたままにしている。

 

 話を戻すが、自我を取り戻した『スターズ』の兵士が表情を強張らせていた。部外者である悠元や真一、それと様子を見に来た愛波に対してではなく、笑顔だが口元が笑っていないジョーリッジを見た瞬間、一斉に敬礼をした。

 

『か、閣下!!』

「……諸君、私はいま非常に機嫌が悪い。何故だと思うかね、アークトゥルス君?」

「い、いえ……その、理由に心当たりはあるのですが……」

 

 これはマズい雰囲気になると判断した悠元は、聴覚に指向性を持たせて真一と愛波を呼んで静かに部屋を去った。そうして1分も経たない内に聞こえてきたのは……悠元にとって一番聞いたことのある展開だった。

 

『貴様ら! 一回り位下の小娘に対して嫉妬するのはまだいいとしても、あまつさえ同僚に刃を向けたことは言語道断! いつから貴様らはマフィア擬きになり果てたのだ!! それでもスターズやスターダストの兵士か! 答えろ、レグルス君!』

『そ、そのようなことは決してありません、サー! ごはあっ!?』

 

 そして、聞こえてくるのはジョーリッジの怒号と必死に取り繕う兵士たち。そして、明らかに尋常ではない打撃音が扉を介していても聞こえてくる始末。これには真一や愛波が完全に引いていた。

 

「あの、悠元さん。本当にあの人は一国の大統領なのでしょうか?」

「それは間違いない」

『唆されたという意味では、貴様らにそのような言い分が通用すると思うな! デーモンに唆された貴様らの愛国心は所詮その程度か!!』

 

 ジョーリッジの気持ちは分からなくもない。何せ、愛国心の強すぎる連中によって国家の存亡に関わりかねないインシデントをいくつも抱えてしまった。最大のものとしては、エドワード・クラークとイーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフがディオーネー計画によって“繋がってしまった”こと。

 

『これならば、まだウジ虫の方が遥かに利口だ! 今の貴様らはウジ虫にも満たないと思え!』

「……何にせよ、USNA国内の問題に戻してくれたと考える方がまだ楽だと思う。変に考えるのは疲れるだけだ」

「そう、ですね……パラサイトになっても、まだまだ至らぬ部分があると痛感させられてしまいます」

「そら、真一は知識があっても20年も生きていないんだから」

 

 扉の向こうから聞こえる音は敢えて遮断することもできるが、事が済む見通しが見えないために切らなかった。そうして15分程経った頃に扉が開き、非常ににこやかな表情を浮かべているジョーリッジが出てきた。

 

「いやはや、本当にお恥ずかしい所をお見せしたようだな」

「それはいいのですが……死んでませんよね?」

「あの程度でくたばるようならば、スターズ以前にUSNA軍人として失格だ」

「ええ……」

 

 会話自体は日本語で交わされており、とても彼らと同胞とは思えないようなジョーリッジの言葉に愛波が真一の背後に隠れるほどだった。これにはジョーリッジも苦笑を滲ませた。ともかく部屋の中に入ると、いつの間にか部屋に来ていたセリアが左手の油性マジックで『スターズ』の連中の顔に落書きをしていた。

 

「あ、お兄ちゃん……ダメ?」

「好きにしろ。誰か一人は額に肉の漢字でも書いとけ」

「オッケー」

 

 悠元は別に彼らを辱める気などないが、セリアのストレス解消ならば大目に見ることとした。ただ、度が過ぎれば容赦なく関節技を行使することとなる。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 そうしてジョーリッジとセリアによる仕置きが終わった後、達也へ連絡をして一足先に日本へ帰るよう言い含めた。達也もこの先のことを考慮してなのか、『リーナのことを頼む』とだけ述べた後に通信を切った。

 その後、達也の運転するエレカーに真一と愛波が搭乗し、三人は日本へ向けて飛翔した。なお、レイモンドは強制的に眠らせて真一が連れ帰る形となった。

 

 今回、日本への襲撃を行った治療済みの『スターズ』と『スターダスト』は輸送機でUSNA本国へ送られることとなる。そして、USNA組と残った悠元の眼前にあるのは、USNAでも最新鋭のステルス実験戦闘機であるF-X350『ソニックラプター』だった。

 

「……大統領閣下。操縦は出来なくもないですが、何故この機体を?」

「カーティス上院議員からの要求だけを呑むのは溜飲が下りないと判断し、君に提供する。魔法技術を使っているので、航続距離は太平洋横断ぐらいならば問題ない。私も何度か乗っているからね」

「政治家が何をやっているのですか」

 

 ジョーリッジとしては視察も兼ねて乗っていたのだろうが、いくら元軍人と言えども大統領が戦闘機に乗るというのは創作物の範疇の話になる……この世界も転生前の自分から言えばその範疇に含まれるが。

 何を言っても無駄だと判断した悠元は、申し訳程度にヘルメットを被って操縦席に乗り込む。そして、後部座席にはセリアが乗り込んでいた。隣には同型機が停泊しており、そちらにはジェラルドとリーナが搭乗することとなった。

 

「お兄ちゃん、いつ経験していたの?」

「国防軍絡み」

 

 簡潔に答えつつ、計器類を立ち上げていく。分からないところは[天神の眼(オシリス・サイト)]で必要な情報を入手して操作するため、特に困ることはない。

 この戦闘機は魔法師が搭乗する前提の機能もいくつか実験的に搭載されているが、悠元はそれを使うつもりなどなかった。最大の理由は『検証もせずに使って痛い目を見たくない』というものだが。

 それ以外は既存のF-35『ライトニングⅡ』(F-22ならラプター)を踏襲している為、基本操作自体は魔法が無くても操縦できるようになっている。なので、ジョーリッジが操縦出来ていてもおかしくは無い、という訳だ。

 

 基地の兵士は大統領の指示を受けた『スターズ』と『スターダスト』によって起き上がり、早急に発進準備が進められる。

 予定航路はまずハワイ・ホノルル島のコナ国際空港へ向かい、ジョーリッジが大統領専用機(エアフォース・ワン)に乗り換える。そして、必要な補給を受け次第ロズウェル基地へ向けて飛び立つ。いわば二機の実験機は護衛ということになり、USNA空軍―――『ファントム』の認識コードを暫定的に与えられる。

 

 基地の兵士による誘導のもと、滑走路へ自走する三機の戦闘機。まずジョーリッジの乗る戦闘機が飛び立った後、ジェラルドとリーナの乗る戦闘機が離陸する。そして、最後に悠元とセリアの乗る戦闘機が離陸体制に入る。

 その際、基地の管制塔から言葉が掛けられた。

 

『ジャパニーズの若きサムライ、此度の救いに感謝している。其方に神の加護があらんことを。ファントム(ワン)、発進を許可する』

「―――ファントム1、離陸する」

 

 スロットルを上げるとエンジンが唸りを上げ、急加速して次第に機首を上げ、滑走路から飛び立った。セリアは任務上、空軍の戦闘機に乗せてもらったこともあったが、その彼女からしてもベテランパイロットと遜色ないほどの機体コントロールに感心を覚える。

 

「おー、流石お兄ちゃん。パイロットでも食べていけるんじゃない?」

「変な恨みなど買いたくないからパス」

 

 そうしてスロットルを更に上げ、先行している二機の後を追う形で飛び立つ。

 

 ここで気になるのはミッドウェー監獄から救助された三名だが、ラルフ・アルゴルとアリアナ・リー・シャウラの二人は輸送機組となった。残るベンジャミン・カノープスはというと……ジョーリッジの操縦する戦闘機の後部座席に搭乗していた。

 大統領の命令とは言え、カノープスの心中は複雑だった。そんな心境を見越してか、ジョーリッジが話しかける。

 

「カノープス少佐は疑問に思うかね? 何故貴官だけ同行させようとしたのか。厳密にはシリウス少佐もいるから、君だけではないが」

「それは……否定は致しません。もしや、大叔父上のご依頼でしょうか?」

「いや、そこまでの要求はしていなかった。これは私からの不躾な願いもある故な」

「願い、ですか?」

 

 ジョーリッジが零した言葉の真意を測れず、カノープスは首を傾げるような素振りを見せる。だが、その話は誘導灯に照らされたホノルル空港の滑走路が見えてきたために中断されることとなった。

 そして、カノープスが更に驚いたのは親族であるワイアット・カーティスが出迎えたことだった。これには反射的に敬礼をしてしまう始末で、カーティスはそれを見た上でゆっくりと敬礼で返した。

 

「ベンジャミン、元気だったか?」

「はい、大叔父上。大分無茶なことをされましたが、よろしかったのですか?」

「構わん。この程度など、ケインの大馬鹿者の尻拭いには足りんよ」

 

 日本を巻き込んだことによる代償を懸念するようなカノープスの問いかけに対し、カーティスは吐き捨てるように呟いた。そうして、ジョーリッジとカーティス、カノープスに加え、リーナとジェラルドの五名が大統領専用機(エアフォース・ワン)に乗り込んだ。

 なお、護衛ということで悠元とセリアはそのまま戦闘機に乗り込んだ。悠元曰く『帰る際の言い訳が省ける』という理由からくるものだった。ただ、今度は悠元とセリアがそれぞれ二機の戦闘機を操縦する形になっている。

 

 現地時間7月16日午後10時(日本時間7月17日午後7時)。ハワイ州ホノルル島・コナ国際空港を飛び立った大統領専用機(エアフォース・ワン)が安定飛行の体制となったところで、ジョーリッジが話を切り出すと共に座ったまま頭を深く下げた。

 

「ベンジャミン・カノープス少佐。君とラルフ・アルゴル少尉、アリアナ・リー・シャウラ少尉に掛けられていた容疑を最高指揮官の最終判断によって“無罪”とする。これは国防総省(ペンタゴン)との共通見解である……窮屈な思いをさせてしまい、すまなかった」

「頭をお上げください、閣下。[パラサイト]による跳梁があったとはいえ、疑われるような行動を取った小官やアルゴル少尉、シャウラ少尉にも一定の責任が生じる話です」

「……貴官は生真面目だな」

 

 ジョーリッジは頭を上げてそう零す。これにはジェラルドやリーナも苦笑を滲ませていた。カーティスもこれには表情を緩ませたほどだった。

 

「ならば、カノープス少佐にはその責任を全うして頂く。現在、エアフォース・ワンはニューメキシコ州―――ロズウェル基地へ向かう。ベンジャミン・()()()少佐には、今回の責任を果たす形でスターズ第一隊隊長の任から外れてもらう」

「……その言葉を額面通りに受け取るならば、小官は別の立場を担うことになると想定されますが」

「その通りだ。貴官にはポール・ウォーカー大佐の“引責辞任”に伴い、スターズ本拠であるモンドサード空軍基地司令ならびにスターズの統括役に任命する」

 

 ジョーリッジが口にした意味は、無論[パラサイト]による騒動が大きいのもそうだが、本来あるべき統制が全く取れていない、というのが大きな問題だった。それを正す意味でも、ジョーリッジは軍人としての教育を受けているカノープスに『スターズ』の統括を任せることとした。

 その上で、ジョーリッジはジェラルドに視線を向けた。

 

「そして、ジェラルド・メイトリクス大佐。略式だが、貴官にはアンジー・シリウス少佐の後任としてスターズ総隊長の任を与え、これより[十三使徒]ジェラルド・メイトリクス・シリウス“准将”と名乗るように」

「……閣下、小官のような若輩者がポンポンと昇進したら反感が生じかねませんが」

「仕方が無かろう。塩漬けになっている佐官・尉官を昇進させようとした場合、据え置きだと階級が足りなくなるのだ。なので、ベンジャミン・ロウズ少佐も“中将”へ昇進だ。ただ、時間を置いての昇進となる為、手間がかかることは承知してほしい」

「は、ハッ!」

 

 何せ、アンジー・シリウス(リーナ)の階級によって約6年間も塩漬け状態が続いていた。魔法師部隊ということで昇進に反感を抱く者も出てくるだろうが、反感を抱くぐらいならば職務を全うして正当な評価を稼げ―――というのが、ジョーリッジの率直な感想だった。

 

「それとシリウス准将。君には幾人か妻を娶ってもらうこととなる。流石に私の孫娘たちは嫁ぐ先が決まっているので無理だが、『スターズ』や『スターライト(スターズの隊員候補の名称)』から募ることは覚悟してくれ」

「……フフフフフ」

「大佐!? いえ、シリウス准将!?」

 

 そして、ジョーリッジから衝撃の発言が飛び出した後……ジェラルドは分かっていたこととはいえ、現実となったことに不気味な笑い声を発し始め、これにはリーナが驚きを見せていたのだった。

 




 こういう存在は明示されていませんが、魔法があるのならば居てもおかしくはないということで出しました。
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