魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

515 / 551
シリウスの代替わり

 USNA連邦軍参謀本部直属魔法師部隊・スターズの本拠地はニューメキシコ州ロズウェル郊外にある。なお、『ロズウェル事件』で有名な旧ウォーカー空軍基地ではない。

 この基地にはモンドサードというネームが与えられたが、その由来は“金剛(ダイヤモンド)”と“(サード)”から捩ったもの―――かの英雄である上泉剛三に匹敵する英雄の誕生を願ってのものだった。

 奇しくも、その当人によって基地が混乱させられたのは皮肉としか言いようがないが。

 

 ニューメキシコ現地時間7月17日午前6時(日本時間同日午後8時)、二機の戦闘機に護衛される形で大統領専用機(エアフォース・ワン)が滑走路に降り立った。国防総省(ペンタゴン)から事前の通達があったにせよ、早朝の時間帯に政府の専用機がスターズの本拠地に降り立つこと自体異例のこと。

 そして、見慣れない二機の戦闘機―――現行の空軍で使用されているものとは異なる仕様―――も含めて、マーシャラー(滑走路誘導員)や整備員は不満と不安を覚えていた。停泊した戦闘機から降り立った悠元の姿に基地の職員は驚いているが、それに対して声を発したのは先に降りていたジョーリッジだった。

 

「基地の職員諸君、ここにいる彼は私の客人だ。くれぐれも礼を失するようなことがあれば、私自ら拳骨を落とすと知れ」

『ハ、ハッ!!』

 

 あくまでも権力ではなく物理的な実力行使を口にしたが、それを聞いた職員たちは敬礼をした後、戦闘機や大統領専用機の整備に取り掛かる。専用機からはカノープスとアンジー・シリウスに扮したリーナ、ジェラルドに加えてカーティスも専用機から降りていた。

 すると、戦闘機から降りてヘルメットを取ったセリアがジョーリッジに話しかけた。

 

「それで、お祖父様。ここからどうするの? こんな時間だと国防総省(ペンタゴン)には誰もいないんじゃ?」

「そこについても手筈は整えておる。お前さんたちは見ているだけで良い」

 

 ここからはUSNA国内の問題―――そう言いたげなジョーリッジが先に向かった三人の後を追う形で歩き出し、悠元とセリアはその後をついていく。ジョーリッジが部屋の中に入ると、奥側にはウォーカーとその副官が、手前側にはリーナとカノープス、それと用意された椅子に座るカーティスの構図が出来ていた。

 ウォーカーはジョーリッジの登場もそうだが、その後ろにいる悠元とセリアの姿にも驚いていた。何故ならば、排除を目論んでいた対象の片割れが眼前に姿を見せたからだ。

 

 だが、ここで声高に排除を叫ぶことは許されなかった。その機先を制する形でジョーリッジが声を発したからだった。

 

「さて、ウォーカー大佐。何故私がこうやって足労を重ねた理由は分かるか?」

「い、いえ。今はシリウス少佐にバランス大佐から与えられた任務の如何を尋ねていたところですので」

「そうか……では、私が問おう。カノープス少佐以下三名の独断による収監手続き、スターズやスターダストの日本への外征手続き、更にはイリーガルMAPのミッドウェー監獄からの無断釈放手続き。いずれもホワイトハウス―――私への連絡や許可を得ていないものだが、連邦軍最高指揮官たる私を侮蔑するようなものとしか思えない所業。これらについて、貴官はどう説明してもらえるのかな?」

 

 リーナやジェラルドはジョーリッジが直接関与しているし、リアム・スペンサー国防長官の事後承諾を得て許可された案件。つまり、二人の行動はUSNA政府が保障している。一方、ジョーリッジが口に出した案件はいずれもホワイトハウス―――政府への通達が握りつぶされた格好となっていた。

 ジョーリッジの睨むような視線に対し、ウォーカーは言葉に詰まった。その態度が気に障ったのか、ジョーリッジはカノープスに指示を出す。

 

「カノープス少佐、ペンタゴンに繋げろ」

「は? 今の時間帯ですと、参謀本部には誰もいらっしゃらないかと思われますが」

「そこは心配しなくていい。前日の段階で手筈は済んでいる」

 

 ジョーリッジの命令にカノープスは少し躊躇ったが、語気が強い彼の言葉を信じる形で動き、ウォーカーの副官を押し退けてペンタゴンとの直通回線を開く。すると、モニターにはリアム・スペンサー国防長官とキャスバル・バランス内部監察局長、そしてクラウス・バラッド統合参謀本部議長の姿が映し出された。

 

 思いもかけない姿にウォーカーが言葉を詰まらせている中、三名はジョーリッジに対して敬礼を行い、ジョーリッジも敬礼で返す。そして、ジョーリッジが目線によって訴えるような形でクラウスが口を開く。

 

『シリウス少佐。事前に大統領閣下から事情を伺っているが、改めて君の口から状況説明をしていただきたい。宜しいか?』

「ハッ! 無論であります」

 

 クラウスの言葉を受けてリーナが説明を始めようとする。

 

「お待ちください、議長閣下!」

 

 だが、ウォーカーは我に返るとそれを遮った。すると、それを嗜めたのはスペンサーだった。

 

『ウォーカー大佐、君の言い分は後で聞こう。まずはシリウス少佐の主張を聞くのが先だ。宜しいか?』

 

 ペンタゴンのトップであるスペンサーにそう言われたのであれば、ウォーカーも引き下がらざるを得なかった。彼が黙ったのを確認した上で、クラウスがリーナに呼びかけた。

 

『では、シリウス少佐。貴官が止むを得ずモンドサード基地を脱走することになった経緯に加え、日本で貴官が見知った今回の件に関する事象を全て話してほしい』

 

 リーナはパラサイト化した隊員に襲われ、已む無く基地を脱走し、その際に上泉剛三・奏姫夫妻の助けを受けたこととカノープス、アルゴル、シャウラの三名によって難を逃れたこと。

 抵抗した三名の士官に無実の罪を被せ、ミッドウェー監獄へ収監した事。

 パラサイト化した兵士が日本まで追いかけ、リーナはおろか達也や彼に近しい友人までも害を為そうとしたこと。

 

 尤も、その情報全てを悠元とセリアが把握し、全て都合の良いシナリオの駒として利用されたという事実は……流石に証言を控えることとした。さしものリーナでも、未来の夫の危機に繋がるような情報など流せるはずがなかった。

 

「―――以上が小官の実体験も含んだ今回の件に関する報告であります」

『そうか……では、ウォーカー大佐。貴公の言い分を聞こう』

 

 クラウスに促され、ウォーカーは自らの無罪を主張した。その言い分を聞き終えたところで、クラウスはキャスバルに話を振った。

 

『ということだそうだが……内部監察局の意見をお聞きしたい』

『ポール・ウォーカー大佐。アークトゥルス大尉、ベガ大尉、レグルス中尉、スピカ中尉、デネブ少尉の出動に関して参謀本部の許可を得ていないようだが、これは一体どういうことかね?』

 

 キャスバルはウォーカーに問いかけるも、その答えは余りにも不十分すぎるものだった。

 いくら日本の新たな戦略級魔法が脅威となったにせよ、スターズを出動させるということは貴重な魔法師を派遣することになるため、政府及び国防総省への報告・連絡・相談は必須とされている。

 それを怠った時点で“越権行為”と呼ぶには十分すぎた。

 

『カノープス少佐以下三名についても、略式の軍事法廷しか開かれていない。そこまで急を要する案件なのかも疑問に残るが……一番はイリーガルMAP「ホースヘッド」および「コーンネビュラ」の釈放手続きという重大な報告を何故怠った?』

 

 キャスバルからすれば、身内を喪った遠因を生み出した部隊。その彼女が蘇ったことは妻から聞いていたが、これ以上彼女を軍人として働かせる気など無かったし、彼女にその意思がない以上は無理強いする必要もない、と判断した。

 いつの間にか語気が荒くなっていたことに気付き、キャスバルは一つ深い息を吐いた上でスペンサーに視線を向けた。

 

『長官閣下。以上の点を鑑みた場合、ウォーカー大佐に対する疑惑は解けないものと判断いたします』

『了解した。ポール・ウォーカー大佐、現時点を以てモンドサード基地司令並びにスターズ本部司令の任を解く。また、本日中に内部監察局へ出頭せよ』

「―――了解しました」

 

 ウォーカーが背筋を伸ばしてそう答えたのは、せめてもの意地と矜持だったのかもしれない。そして、大統領専用機に同乗していたであろう軍の兵士に連行される形で、ウォーカーは部屋を去っていき、副官は逃げ出す様に部屋を出ていった。

 そうして当事者だけとなったところで、スペンサーは唯一の日本人である悠元へ視線を向けた。

 

『気分のいい茶番でなかったことは詫びよう、神楽坂悠元殿。此度のことはカーティス議員閣下から聞き及んだ。エドワード・クラークに対する処遇についてもな……君は、それで納得していると解釈して宜しいのか?』

「国内で解決できるのならば、それに越したことはありません。ただ、貴方方は三度もそれを破った。“四度目はない”―――それだけは明言しておく。日本の師族会議議長としても、『灼熱と極光のハロウィン』で新ソ連相手に戦略級魔法[星天極光鳳(スターライトブレイカー)]を行使した人間としても」

 

 ここにはUSNA政府でも重鎮と呼べる人間しかいない。だからこそ、悠元は自分が戦略級魔法師であることを明るみにした。

 余り驚かなかったのは、事情を聞かされているであろうジェラルドとジョーリッジにキャスバル、それと近しい人物であるリーナとセリア。一方、スペンサーは溜息を漏らし、クラウスは苦笑を滲ませた。

 

『君が、そうか……エドワード・クラーク絡みで()()迷惑を掛けるが、そこについては御了承願いたい。一つ聞いておくが、彼を殺す気なのかどうか』

「それも考えたが、エドワード・クラークの罪は最早国際問題のレベルにあり、隠しきることなど不可能。よって、彼を拘束した上でUSNAに送り返し、貴方方の国の法で裁いてもらう。有耶無耶にするような真似をすれば、あらゆる手段の行使も辞さない」

 

 勘のいい人間ならば、ディオーネー計画の発表から今日に至るまでの流れの中でエドワード・クラークとイーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフの共謀による疑念は決して消えない。

 ましてや、『第一賢人』が暴露した[トーラス・シルバー]の正体判明後、ベゾブラゾフの魔法攻撃が日本の国土を二度も襲った。これでいて関係が無かったというのは無理筋な証明となる。

 

『……君のような若者を“怪物”と揶揄する輩も少なくない。だが、少なくとも我々は君の味方であろうと心掛けるつもりだ』

「そうして頂けるのならば、此方としても労力をかける手間が省けるというもの。軍事的な低減は[恒星炉]提供の対価と心得てもらう。ただ、交渉は全ての諍いが済んでから。それだけは遵守して頂きたい」

 

 別に魔法を行使する必要はないし、もしもの時はあらゆる手段を以て敵を弱らせ、戦う意思や気力を根こそぎ奪う。いくら個の意志が強くとも、一人で動けば必ず結果の余波が周囲に及ぶ。それが国家間となれば尚更だ。

 スペンサーは言いたいことを言い終えたのか、黙った。すると、次に言葉を発したのはキャスバルだった。

 

『……血は争えない、とはよく言ったものだ。ジェラルド、君はそれで良かったのか?』

「誰かがやらなければならないとなれば、もう逃げるわけにもいかないと判断したまでのことです。それに、母から託された戦略級魔法を他の誰かに委ねるようなこともできない。これは私自身のけじめであり、これまで守ってきてくれた伯父上や伯母上に対する親孝行だと思ってください」

 

 ウィリアム・シリウスの血を継ぎ、図らずも託された戦略級魔法[スピリット・ディバイダー]。その存在を誰かに委ねるぐらいならば、自分が矢面に立つ。それに、ジェラルドは二十代前半でかつ正規の軍人としての階級も有している為、姿を隠さなければならないリーナよりは正当性が生まれると考えてのもの。

 

「これより、ジェラルド・メイトリクス・シリウス准将はアンジー・シリウスの後任としてスターズ総隊長の任に当たります。長官閣下、内部監察局長閣下、ならびに統合参謀本部議長閣下。至らぬ点もありますが、どうかご承知おきください」

『……君が至らなければ、大半の同年代の兵士など凡骨以下なのだがな。了解した、シリウス准将。まずはスターズの立て直しという重大な任務が待ち受けているが、引き受けてくれるか?』

「了解いたしました」

 

 この遣り取りにより、アンジー・シリウス少佐はスターズ総隊長の任を外れ、ジェラルドが新たな“シリウス”としてスターズのトップに立つ。部隊の立て直しには伝手がある為、そこを活用する腹積もりだった。

 そうして、通信が遮断された。

 

 一連の流れを終えた後、司令官の席に暫定ながら座ったのはジョーリッジだった。リーナとカノープスに関する処遇についてペンタゴン側が何も申さなかったのは、既にホワイトハウスとペンタゴンで話がついていたからに他ならない。

 その場にはカーティス上院議員や悠元、セリアもいるが、彼らはいわば立会人のようなもの。少し落ち着いた上でジョーリッジが話を切り出す。

 

「さて、ベンジャミン・カノープス少佐。既にエアフォース・ワンの中で話したと思うが、そこにもう一つ重要なことを伝える。君には“ポラリス”のコードを名乗ってもらうことだ」

「閣下、その名は……」

「そうだ。アンジー・シリウスをコントロールしていたセリア・ポラリスにあやかる形で、君にはスターズをコントロールする立場に置く以上、その肩書きは有って然るべきだ。それに、君がロウズの姓を明るみにした場合、良からぬ連中の追及を避ける意味合いもある」

 

 念頭にあったのはケイン・ロウズが関与した件。このままカノープスをスターズから外した場合、ロウズのファミリーネームで野党から追及が飛ぶことは想定の範囲内。ならば、現在空席になっている“ポラリス”のコードをカノープスに与えることで、スターズを統括する司令のコードネームとして機能させることを選んだ。

 

「今後、この措置を続けるかは次代の人間に任せるが、国家に忠誠を誓う魔法師たる君に対する私からの勲章だと思って受け取って欲しい。それと、今回の一件が済んだら叙勲式を行う故、必ず出席するように」

「……了解いたしました。ベンジャミン・ポラリス中将、スターズ総司令の任を拝命いたします」

 

 ジョーリッジとカノープスもとい新ポラリスのやり取りを終えた後、ジョーリッジはリーナに視線を向けた。リーナはそれを見て[仮装行列(パレード)]を解除し、元の金髪碧眼の姿に戻った。

 

「アンジェリーナ・シリウス少佐。本日を以て戦略級魔法師[十三使徒]の退任と連邦軍からの退役を勧告する。過去の功績も鑑みて名誉大佐の称号を贈る」

「閣下、小官は殉職しておりませんが」

「本当ならば、功績を鑑みて昇進させなかった軍の怠慢に対する私の気まぐれだ。別に何かしらあるわけでもないので、受け取ってくれ」

「……了解いたしました。そして6年間、お世話になりました」

 

 ジョーリッジの言葉に嘘があるとは思えず、リーナは渋々ながらも答えつつ、ハッキリとした口調で感謝の言葉を述べたのだった。

 




 原作では押し付け同然でしたが、本作では軍の最高司令官による法的な手続きによってリーナは除隊することになりました。なお、名誉大佐の階級自体は“せめてもの恩赦”という体であり、これを利用しようとした場合はジョーリッジ自ら鉄拳制裁の構図になります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。