モンドサード基地の格納庫前では、悠元にセリア、そしてリーナが『ソニックラプター』に搭乗して帰る準備を進めていた。元は実験機なのでUSNA軍の識別コードを持っているが、悠元はプログラムを追加して国防軍の識別コードを入力しておいた。
「よし、これで国防空軍の戦闘機として日本の領空内に入れるようになった。とはいえ、着陸先は巳焼島になるわけだが」
「……大丈夫なの?」
「
悠元が国防三軍の大将職―――統合軍令部の将官として籍は置くが、軍の指揮は基本的にノータッチとする。なので、『抜刀隊』については統合軍令部最高指揮官直属部隊とした。
独立魔装大隊(将来は独立魔装連隊になる)の場合はと言うと、元々佐伯少将の指揮下であったが故に十師族ひいては師族会議を快く思わない部分が存在した。それでも戦力の中核に十師族の人間を据えている時点で意味が無いに等しく、隊員たちも頭ごなしに否定するような素振りは見せていない。
では、何故悠元の統制下におくような形になったのかと言えば、単純に言えば『連隊の引き取りの手段が、悠元に紐付けする以外の方法を取れなかった』に帰結する。
独立魔装大隊は魔法技術の実験的な要素を多分に含んだ部隊に加え、大隊長の風間が国防軍の中でも“訳アリ”の部類に入ってしまう。いくら蘇我が風間の名誉を回復したとしても、長いこと塩漬け状態だった彼の在り方を知る者が多い上、彼が軍人としての気質を有していない。
なので、いくら実績があろうとも、主だった師団が風間を好き好んで指揮下に置こうとしたがらなかったことに加え、魔法師部隊を扱える師団も受け入れられるだけのキャパシティを持っていなかった。結果、悠元の指揮下に置く形で決着を見た。
『抜刀隊』へのフォローは彼らが心酔する九島烈本人に任せることとした。結果、統合軍令部直属部隊に収まったことで、悠元に魔法師戦力が集中する事態は避けられた。
話を戻すが、悠元は国防空軍の階級昇進に際して“現地徴用した戦闘機の認識コードの付与権限”を求めた。空軍最高司令官は首を傾げつつも同意したが、こんなに早く使うことになるとは思っていなかった。最悪[
「じゃあ、セリアはリーナを頼む」
「オッケー。これでも空軍のパイロットプログラムを修了してるから、大船に乗った気でいてね、お姉ちゃん」
「……私、初耳なんだけれど」
「だって言ってないもの」
先程無事に飛行できていた点も含めれば、帰りは長距離移動となるが、問題はないだろう。すると、悠元の許にジェラルドが近付いてきた。
「ジェラルド。いや、この場合はシリウス准将と呼ぶべきか?」
「普通に名前で構わない。多分、また日本に行くこととなるが、互いに頑張ろう」
「ああ、そうだな。なんか、女難の相が見えているんだが……」
「……普通でいることは諦めたさ」
悠元が把握している部分でも二人だが、多分今回の[パラサイト]騒ぎで当事者を引き取ることも十分考えられる。なので、多分10人前後は下らないだろう。なお、当のジェラルド本人は深い溜息を吐いた。
「今後は友人として付き合おう。偶には相談ぐらい乗るよ」
「そうだな……お前とは良き付き合いが出来そうだ」
互いに力を持ったが故に、複数の女性を娶ることになった。しかも、悠元の愛人の一人はジェラルドの実母。義理の家族関係になってしまうが、さしものジェラルドでも悠元を義理の父親扱いするのは流石に止めた。
その頃、セリアとリーナは出迎えに来ていたベンジャミン・ポラリスと話していた。
「お世話になりました、ベン。まあ、今後も連絡を取ることはあるかもしれませんが」
「そうですね。その時はこういった諍いごとでないことを祈るばかりです」
それはご尤も、と言いたげな表情を互いに見せる。そして、ポラリスはセリアに視線を向けた。
「セリア。まさか貴女のコードネームを名乗ることになろうとは思いもしませんでした」
「あー、別にそこまで気負う必要はないからね? 私が暴れたのだって大概はお姉ちゃん絡みだったし。寧ろ、悪名を背負わせるようで申し訳ないんだけれど」
「構いません。却ってそれぐらいの方が望むところです」
ポラリスの言葉に先代となったセリアが苦笑を滲ませた。元々こういった生真面目さがあるからこそ、第一隊の隊長を務められていた側面があるし、スターズの隊長級の選抜に深く関与していた。
「ベンはそういう性格だものね……これから大変だけれど、頑張って。日本人となった私には応援ぐらいしか出来ないけれど」
「いえ、気持ちだけでも十分すぎるほどです。リーナ、セリア。お二人の輝かしい未来を祈っております」
そうして話している中、そこに姿を見せたのはいかにも戦闘機に乗ると言わんばかりの恰好のままのジョーリッジだった。片手にはヘルメットを持っていて、その背後には慌ただしく動く基地の整備員たちの姿が見えていた。
「あの、お祖父様? 何をしていらっしゃるのですか?」
「なに、基地の郊外まで戦闘機で見送るだけよ」
「……セリア」
「無理。こうなったお祖父ちゃんは私でも止められない」
正直、原作のUSNAよりも戦闘色が強く、仮に新ソ連が攻めてきたら数日で新ソ連が崩壊していてもおかしくないと思えてしまうほどだった。そもそも、素手でも強い大統領に対して誰も逆らおうとしない辺り、逆に諦めている部分もあるのでは……と思うほどだった。
「ジェラルドは……流石に厳しいか」
「ああ。士官学校時代に手合わせしたことはあったが、俺を含めて同期の人間は誰も勝てなかった。今でも厳しすぎるだろうな」
「……」
“シリウス”となったジェラルドですら諦め、ポラリスに至っては遠い目をしていた。恐らく、彼もその被害を受けた一人なのだろうと悟り、悠元はジョーリッジに視線を向けた。
「此度は大変ご迷惑をお掛け致しました」
「いや、寧ろ此方が謝るべきことなのは言うに及ばずだ。じゃじゃ馬の孫娘のことをどうかよろしく頼む」
「はい。自分の力が及ぶ限り、しっかりと守り抜いてみせます」
「お兄ちゃんが守れなかったら、誰も守れないと思うんだけど。精々おに」
「そこから先はダメだ」
そんな遣り取りがあった後、二機の『ソニックラプター』とジョーリッジが乗る戦闘機が基地の滑走路から飛び立っていく。ポラリスやジェラルドだけでなく、基地の兵士全員が飛び立っていく戦闘機に対して敬礼で見送った。
この国を救った新たな“英雄”―――その誕生を祝するかの如く。
モンドサード基地から西に10キロほど飛行したところで、ジョーリッジの乗る戦闘機が離れていく。そして、去り際に電文を二機に対して送った。英文で“
使用する魔法は[
巳焼島上空に到達したのは7月18日午前0時。魔法によるUSNA本土から巳焼島までの瞬間移動。1万キロ以上の工程を省略した二機の戦闘機は直ぐに巳焼島の管制塔によって認識され、誘導案内によって滑走路に着陸する。そして、地上に降り立った悠元に駆け寄って抱き着いたのは深雪だった。
「お帰りなさいませ、悠元さん」
「ただいま、深雪。帰る連絡はしていなかった筈なんだが」
「乙女の勘です」
「……深雪が言うとシャレにならないわよ」
達也が先に帰ってきたため、悠元も遅れて帰ってくることは伝わっていたのだろうが、魔法のことを勘案してもちゃんと間に合うように来ている時点で末恐ろしく感じる。これにはリーナが辛辣気味に吐き捨てた。
すると、遅れる形で達也が近付いてきた。
「おかえり、悠元にリーナ。それにセリアも」
「ただいま、達也。大事なかったか?」
「半日で劇的に変わったら大変だがな」
「それはそうだな」
真一と愛波は巳焼島に滞在するため、宿舎の客室に泊まっている。国防軍方面は完全に抑えたので、特に咎められる謂れも無い。空港から宿舎に移動した形だが、ここにいる中では悠元が完全に上位となる為、最上階の一室を与えられた。
「それで、向こうで何かあったのか?」
「強いて言うなら、リーナが米軍の人間でなくなったことだな。後は政府関係者との渡りも付けられた」
本来の歴史から大幅に逸脱した未来。これには真一も驚愕していたらしい。曰く『ここまでの人物が日本に居たら、僕がそこまで意固地になることも無かったでしょうね』とやや自棄気味に呟いたそうだ。
「残るはエドワード・クラーク絡みだが……ベゾブラゾフの復帰度合いを鑑みるに、7月22日以降が濃厚だな」
悠元が[
「達也。エドワード・クラークとイーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフを葬りたいという気持ちはあるだろうが、奴らは合法的に殺す。俺らが手を下すのではなく、彼らを生み出した国家に殺させる」
「そうなると、エドワード・クラークはまだしも、ベゾブラゾフは顧傑の時のようなことをするのか?」
達也が思いついたのは、以前顧傑を確保した時のように[
「新ソ連という国家がある限り、因縁はどうあっても付き纏うだろう。5年前の佐渡侵攻だってベゾブラゾフが関与していたようだからな」
マクロードとベゾブラゾフがディオーネー計画以前に会談したのが5年前―――その時に起きた出来事と言えば、沖縄防衛戦と佐渡侵攻の二つ。
大亜連合と新ソ連がまるで共謀したかのように襲った出来事。流石に原作で一昨年のような艦隊南下は起きなかったが、本来異なる国家同士が日本を貶めようとした。多かれ少なかれ何らかの協力・共謀関係は否定できない。
それは、劉麗雷を巡る両国間の不可思議すぎる戦闘行為からしても明らかだった。こうなると、香港方面でマクロードが関与していたのは間違いないし、巳焼島での会談でマクロード本人もその事実を肯定した。
「それは本当か?」
「ああ。何せ、ほぼ同時期に小規模とはいえ威力偵察の部隊を差し向けた時点で、誰かが入れ知恵したのは間違いなかった」
こうなると、5年前の件も『元老院』の人間が関与していたという線まで浮上してくる。物語の都合で考えれば
そして、新ソ連が日本海側で同時に動きを見せれば、東京にいる五輪澪を奄美・南西諸島方面へ動員させることが極めて難しくなる。こうなると、当時動きを全く見せていなかったUSNAが『レフト・ブラッド』を唆して裏切らせた線まで出てくる。
だとすれば、その後の横浜事変における動きの鈍さや、達也の戦略級魔法を探ろうとするような動きに加え、終いにはディオーネー計画を許容したところまで繋がることになる。達也が正直にUSNA行きを許容しなかったのは、この辺の事情も大いに関係しているのかもしれない。
「今年の佐渡沖や宗谷海峡の件を踏まえれば、ベゾブラゾフの関与の疑いは決して消えない。ならば、ベゾブラゾフには新ソ連解体の一手となってもらう。奴の戦略級魔法[トゥマーン・ボンバ]によって、新ソ連内にある全ての核ミサイル全てを起爆させる。勿論、放射能対策は講じるが」
「……[トゥマーン・ボンバ]を核の起爆スイッチ代わりにするという訳か。流石の俺でも出来ない芸当だな」
破壊するのは核ミサイルとサイロだけで、魔法によって放射能汚染を無害化する。しかも、ベゾブラゾフが魔法を行使した時点で発動するように仕組んだため、当人はおろか新ソ連政府も一切気付いていない。
核兵器を懸念する各国にとっても新ソ連の非核化はありがたいことだし、とりわけ陸続きもしくは海を隔てて隣接している周辺国家にとっては安全の度合いがかなり変わってくる。この事実について公表する気など無いし、日本国内の勢力を徒に増長させるつもりもない。
「尤も、ベゾブラゾフにはもう一つ大事な仕事をしてもらう。事が済み次第、連邦政府の要人諸共自爆してもらうつもりだ。聞いていて余り気分のいい話ではないと思うが」
「俺が言うのもなんだが、そこまで割り切れているのは感心に値する」
「人様の厚意を無下にしたからな。ならば、相応の報いを受けてもらうだけだ」
折角助かった命を投げ捨てるようならば、せめて国の将来の為に役立ってもらう使い方を強制させる。こんなことは前世ならば忌避していただろうが、この世界に生まれ変わった以上は情けや容赦などするつもりもない。ましてや、自身の生命に関わっているとなれば尚更だった。
すると、ここで言葉を発したのはリーナだった。
「ねえ、エドワード・クラークに関してはどうする気なの? 向こうでの会話だと司法取引で引き渡す様な事を言ってたけれど」
「奴は合法的に殺す必要があるからな。ベゾブラゾフに協力を持ち掛けた挙句、日本に災いを齎した道義的責任を全て被せるための“
既に歴史の表舞台へ出た情報だけでもエドワード・クラークの追及は免れない。それに加えて、ディオーネー計画の信憑性を揺らがせたベゾブラゾフを協力人として指名した側の任命責任も当然問われることになる。
「奴のディオーネー計画の提唱によって、同盟国である日本が貶められた。この事実はどうあっても覆ることなどない。言い出しっぺの人間として責任を取らせるというのは、日本・USNA間のみならず、ディオーネー計画に振り回された他の国家の溜飲を下げる意味でも重要なことだ」
とりわけ、その余波を一番受けたのは欧州方面に他ならず、今回の責任をエドワード・クラークが被って社会的に抹殺されれば、ディオーネー計画の中止に対する大義名分を各国政府が得る形となる。
原作だとこじつけに近い形だが、この世界では明確な証拠に基づきUSNA政府が責任を持って対処する。事の発端を起こしたのはUSNAなのだから、当事国がその責任を果たすのは道理である。
「どうせ、俺や達也をテロリストだと宣って攻めてくるのが目に見えている。ならば、奴を捕まえるついでに持ってきた兵器全てを接収する。被害は少なからず出るだろうが、奴以外の真っ当な人間は全員祖国に送り返す」
「[パラサイト]が出張ってくる場合は如何しますか?」
「今度は『神将会』全員を出動させる。それと、奴らには思い知ってもらう―――俺を本気で怒らせる意味がどういうことなのかをな」
悠元は、これまで怒っても『本気で実力行使する』という段階まで踏み切ったことはない。面倒事が一気に増えてしまうという懸念が発生するからこそだが、今度はそうも言っていられない。
世界に名を知られた二人の英雄の力を継ぐ者がいるという事実を。
世界に日本を怒らせるという意味がどういうことなのかを思い知ってもらうためにも。
後半部分の補足説明を一つ。
原作8巻の追憶編に掛かる話ですが、レフト・ブラッドの叛乱にせよ、達也らを襲った大亜連合の潜水艦にしても、物語上必要だった演出とはいえ、まるで『何かを表舞台に引き摺り出したかった』という部分が拭えません。
特に、達也や深雪らがクルージング中に狙われたという部分からして、人質の価値が理解できていなければあんな行動に至るとも思えません。なので、大亜連合に通じる“誰か”が居ても不思議ではないわけです。
その当時は周公瑾が存命でしたが、彼とて秘密主義の四葉家の全容を掴んでいた訳でもありませんし、その師である顧傑も[フリズスキャルヴ]があっても四葉本家を攻撃するには至りませんでした。
なので、四葉家の素性を知る側の誰かが諭した―――それも、深夜の素性を知っている側の人間に限定されてきます。そうなると、一番可能性が高いのは『元老院』ということになります。
そして、ウィリアム・マクロードとイーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフの会談が2092年時点で持たれていたことを考えると、沖縄で使われた戦略級魔法に関する情報交換の線はまだしも、沖縄防衛戦前に連絡を取り合っていた場合は沖縄防衛戦と佐渡侵攻が二つの国家で同時に仕組まれた策謀という線も浮上するわけです。
だとすれば、南海騒擾編の西果新島テロ未遂事件や劉麗雷を使って日本を巻き込む策謀が通るのもまだ自然なラインだと考えた次第です。