魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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襲撃そのものが既定路線

 蘇我との会談を終えた悠元は、マンションに立ち寄って私服に着替えた後、専用の転送部屋から巳焼島へ[鏡の扉(ミラーゲート)]で転移した。巳焼島には悠元しか立ち寄れない専用の部屋が設けられており、これは四葉家現当主の意向も含まれている。

 悠元がその部屋に飛ぶと、部屋の外に気配を感じつつカードキーで扉を開ける。すると、待ち構えるように立っていたのは深雪だった。

 

「お早い御着きですね、ご主人様」

「……何時から待っていた?」

「5分前ぐらい」

 

 まるで悠元の移動を悟ったかのような動きに悠元が問いかけ、雫が淡々と答える。なお、深雪はそのまま悠元の左腕にしがみ付くような形で腕を回していた。普通なら他の婚約者が窘めるところだが、雫曰く『悠元に甘えると貸しが増える』とのことらしい。

 言っておくが、別に婚約者や愛人に対して貸し借りの関係など持ちこんだ覚えなどない。

 

「まあ、どうせ5日後まで事態は動かないから、訓練の面倒でも見るか」

「いつもと変わりない気もするけど」

「そんな簡単に変わったら、俺の精神が磨り減るわ」

 

 悠元らがそのまま小食堂に足を運ぶと、達也ら3年主要メンバーに加え、燈也と五十嵐亜実、ミカエラ・ホンゴウの三人もいた。どうやら話を聞くに、レオが燈也を誘い、それを聞いた亜実とミアが同乗した形となったようだ。

 

「お、深雪の旦那のお出ましね」

「茶化すな、エリカ。とりあえず、現段階で判明している情報をお前らにも教えておく」

「……いいのかい?」

「変に突っ走りかねないから、今話すんだ」

 

 幹比古は悠元が何を話すのかを悟ったが、変に首を突っ込みたがる連中が多いからこそ、情報の提示に踏み切った。深雪はそれを聞いて掴んでいた腕を離した。そして悠元は携帯端末を取り出し、操作すると近くの大型モニターが点灯して詳細のデータが表示された。

 それを見ている人間の中で、最も軍事に関わっている達也が感嘆の言葉を漏らす。

 

「これは……凄いな。南盾島で使っていた情報システムか?」

「正解。正確には俺の固有魔法[万華鏡(カレイドスコープ)]を用いた全世界情報次元探査システム[八咫鏡(ヤタノカガミ)]による全世界の軍事情報だ」

「……悠元の規格外さは色々味わってきたけど、これはもう驚く以外の反応が出来ないわよ」

 

 エリカの言い分に周囲の人間が頷くが、悠元はそれを無視して端末を操作する。そして、表示されたのはハワイから巳焼島への予定航路を示している三隻の艦船の予定航路図だった。

 

「エドワード・クラークが一か八かの賭けに出てきた。そして、この船にはSSAの[十三使徒]ミゲル・ディアスが同乗している」

「SSAのって……裏切ったのか?」

「いや、これは俺の策によるものだ。相手に戦略級魔法師がいないと、単に“弱い者虐め”の構図にしかならない。如何なる[十三使徒]が相手でも勝ち切ることが出来る証明の為、SSAには一芝居売ってもらうこととした。なので達也、彼らについては魔法を無効化することはあっても()()()()くれ。そこら辺は『神将会』で請け負う」

「分かった」

 

 どうせ艦船をこちらで接収することも含めて、達也にはベゾブラゾフに集中してもらう算段を立てている。そして、原作では戦場に立たなかったレオ、幹比古、エリカの三人に視線を向けた。

 

「レオ、エリカ、幹比古に燈也。俺は師族会議議長として四人に巳焼島防衛の協力を頼みたい。無論、危険事なので報酬は支払う」

「そりゃ、確かにその通りなんだが……念のために聞いておくが、いくらなんだ?」

「危険手当込みで一人50億円」

「……は?」

 

 どういう勘定を立てたらそんな金額になるのか分からない、と言いたげにエリカが唖然としたわけだが、これにもちゃんと理由が存在する。その最たる理由は『[恒星炉]プラントの防衛』と『要人の警護』に他ならない。

 

「相手は曲がりなりにも外国の正規軍に加え、[パラサイト]に侵食された連中もいる。[天魔抜刀]にまで至った今のお前らなら遅れは取らんだろうと判断したまでのことだ」

「いや、エリカは多分そういうことが聞きたいんじゃないと思うんだけど……50億円は水増しし過ぎじゃない?」

「そうか? [恒星炉]のポテンシャルの一部で既に莫大な利益を上げているんだ。ここから本格的に電力供給まで踏み込めば、日本が世界一の技術立国になることも可能なほどだ。それを守るという意味からすれば、四人合わせて200億円で済む方が安い買い物だよ」

 

 何せ、戦略級魔法師を囲い込むために国家予算の一部を割くことを考慮すれば、200億円支払うこと自体安くなるだろう。創作物における埒外の存在を囲うために支払った代償のことからすれば、この世界の魔法師に対する存在価値は明らかに“安すぎる”ぐらいだ。

 

「それに、この先のことを考えればお前たちに功績を積んでもらう必要がある」

「? どういうことだ?」

「そうだな……幹比古はまだいいとして、エリカに元老院四大老の座を継いでもらう」

「元老院?」

 

 普通の魔法師ならば聞かずに一生を過ごすであろう存在。首を傾げるエリカに対して現四大老である悠元が元老院の説明をする。

 

「元老院はこの日本において魔法の秩序を守る存在として置かれ、日本の『表』の秩序が『裏』の力―――怪異や妖魔、道を外れた魔法師や異能者の力―――で乱されないよう、そうした存在、そうした者たちを退治し、封印し、排除することにある」

「……ようは、表に出来ない治安維持組織みてえなものか?」

「目的だけを聞けばな。だが、元老の大半は自身にそこまでの実行力を有さないのが実情だ」

 

 元老院に属するメンバーの中、上泉家と神楽坂家は独自の戦力を有することで四大老としての発言力に伴う実行力を保ち続けてきた。だが、それ以外の面々は実行力のある存在を権力で囲うことに腐心した。

 これが原作の場合、全てその傾向に染まっていたことを考慮すると……将来的に達也が[雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)]で組織諸共消し去る未来しか見えない。東道青波が辛うじて見逃されたとしても、それ以外の四大老が消え去る可能性は決して低くないだろう。

 

 閑話休題。

 

「東道家に幹比古が入り、残る四大老の一角である樫和家を挿げ替えれば全ての四大老に実行力が伴う算段が付く」

「いやいや、あたしなんて愛人の子よ? どうやって正当性を持たせる気なのよ?」

「その答えはエリカの母方の祖先にある」

 

 確かに、エリカの出自を考えれば、四大老となり得る明確な根拠はないに等しい。

 だが、ここで一つの疑問が出てくる。それは、いくら剛三の手引きがあったとはいえ、ルーカス・ローゼンを婿養子とした鹿取家の背景に何があったのか。

 以前、西城家の祖先に三条西家の存在があることは説明したが、鹿取家にも特殊な事情が存在した。それは、鹿取家は香取家の分家筋ということ。香取家は香取神宮の神職を務める家柄で、クォーターとはいえその血を継ぐエリカは広義的に香取家の人間にも成り得る、ということになる。

 

「一応エリカの実家に当たる鹿取家にも確認は取れた。本家筋である香取家に事情を聞いたところ、エリカを養子に迎えられないかと好意的な返事を貰えたほどだ」

「……ちなみに、それを受け入れればあたしは千葉の娘じゃなくなるのよね?」

「血縁関係までは消せんが、表向きの関係は解消できるだろう」

 

 その前例はエリカの目の前にいる悠元であり、神楽坂家の人間となったものの三矢家や矢車家との関わりは続けている。それを理解しているからこそ、エリカは納得したように軽く頷く。

 

「そこまでは求めないわよ。いくらあのオヤジがあたしとレオとの婚約を認めたくなくて、今まで駄々をこねていたとしても」

「……ストレスが溜まっていたんだね、エリカ」

「当然よ、ミキ! あの憎たらしい姉の顔を見なくていいと思えば、レオの放浪癖なんて1億倍マシよ!」

「そ、そうか……あと、僕の名前は幹比古だ」

 

 エリカを出しに使うような形となったが、このままエリカが四大老になれば、四大老そのものの世代交代が一気に進む。その際に元老たちの一新もせねばならないが、その際に得たものを全てエリカに渡すだけで強固な力を確立することに繋がるし、神楽坂・上泉・東道の三者で協議した結果なので、誰の文句も言わせない。

 

「にしてもよ、そんな簡単に挿げ替えてもいいのか? 絶対反発するんじゃねえのか?」

「実は最近占術を覚えてな。それで未来を占ったら樫和家に良くないことが起きると結果が出た」

「悠元がそんなことを言ったら、現実に起こりそうで怖いんだけど」

「俺は無関係だと主張しておく」

 

 正確には『星見』による天文占術によるものだが、一応周公瑾の知識の中に占術もあったため、それで試した結果は全く同じだった。こうなると変えられない未来だと思って見ない振りをすることにした。

 

「なので、樫和家が没落する未来を確定事項とした場合、早急に次の座を確保する必要が出てくる。とはいえ、流石に神楽坂・上泉・東道の身内から出すこともできない。色々考えた末に出した結論は、傍系とはいえ香取家の血を引くエリカに四大老を継がせる方法だ」

「……腐れ縁もここに極まれりね」

「エリカ……」

 

 具体的にどう没落するのかは分からないが、その背景に“天神様”が関わるとなれば、絶対ロクでもない未来としか思えない。それが分かり切った以上は救いの手を差し伸べる気にもならない。

 『触らぬ神に祟りなし』とは、まさにこのことだろうと思う。

 

「言っておくが、無理強いする気はない。これを聞いて判断するのはエリカ自身だからな」

「……まあ、いいわ。あのクソオヤジに頭を下げるよかマシだと思うことにするわよ」

 

 これで、四大老全てが悠元の幼馴染・親類で固められた形となる。権力の基盤となる部分は香取家にも協力を仰ぎ、元老たちを刷新した際に生じたものをエリカに丸投げする腹積もりだ。

 

「あと、こんな金額に設定したのは、事後処理を此方に委任してほしい部分も含んでのものだ。俗に言う『箝口』だな」

「箝口? 別に戦闘のことを大っぴらに話す気なんてないけれど」

「今回、『神将会』七人全員を戦闘に出す。本来、『神将会』の素性は国家重要機密に位置付けられている為、その秘匿をお願いしたいからな」

 

 エリカたちは悠元、雫、そして深雪が『神将会』だと知っている。姫梨、修司と由夢についても薄々は勘付いているだろうが、今回の戦闘では全員を巳焼島の戦闘に参加させる。多少の損害は最悪魔法で修復できるため、最高戦力による蹂躙を見せつける算段は立った。

 

「俺と元継兄さん、姫梨、修司、由夢、雫に深雪。この七名が現行の『神将会』だ」

「あー、納得ね……そういえば、色々あるだろうけれど国防軍に援軍は頼まないの?」

「こちらの数を増やしてフレンドリーファイアする方が危険だ。俺を含めた『神将会』にエリカたち、四葉家の戦力と真一にも協力を仰ぐ。これでも十二分すぎるぐらいだが」

 

 別に頭数自体が問題ではなく、天神魔法を使用する意味で味方を巻き込む公算が高くなるリスクを減らす方がいいと判断した。とりわけ修司と由夢の火・金属性は陰陽五行の中でも苛烈な攻撃力を有するので、防衛に当たる人間が巻き込まれる可能性を捨てきれない。

 

「[天魔抜刀]まで有していればそこまで気にすることでもないんだが、念には念を入れたい。達也、一応見届け人として風間大佐と藤林“中佐”が来る手筈になっているから、四葉家に説明を通してくれるか?」

「それはいいが……響子さんも苦労しているな」

 

 響子の階級が上がったのは、連隊長副官という立場からして連隊長に準ずる階級を有するのが妥当という判断によるもの。なお、昇進した当人は辞令の書類を見つめて『殉職した覚えもないんだけれど』と達也の前で溜息交じりに話していた。

 

 敵側の戦力だが、原作ではほのかを誘拐したイリーガルMAPが追加戦力として含まれているが、今更増えたところで『焼け石に水』程度のものでしかない。今回は加減を考えずに敵を殲滅するため、手心など加えるつもりもない。

 それと、沈黙を保っているベゾブラゾフが現時点で巳焼島へ攻撃を加えないのは、以前の失敗を踏まえてのものであり、達也とエドワード・クラークのいざこざに乗じて戦略級魔法を狙い撃つ腹積もりなのだろう。

 その証拠として、巳焼島の南方を目指して潜行している新ソ連の潜水艦『クトゥーゾフ』の存在も明るみになっている。

 

「話を戻すぞ。部隊撃退後、俺は東京に飛んで日本政府との合同記者会見に臨む。その際、自分を国家公認戦略級魔法師として公表させる。多少目立つリスクは避けられないが、その後の九校戦がある以上はさほど変わらない、とみている」

「ちなみに、達也も戦略級魔法師として名乗るのですか?」

「そちらも『どの道を取ったとしても同じ』だからな。尤も、本人の希望によるものだと述べておく」

 

 そもそも、本気を出せば風間や八雲ですら認識を掴むのが難しい悠元。そんな人間が国家公認の戦略級魔法師となったところで、リスク自体が大きく変動するというわけではない。達也の場合は四葉家―――『アンタッチャブル』の悪名が噂程度に流れている以上、ここいらで確定させることで“明確な抑止力”として顕在させる。

 

「尤も、それに異を唱えられる人間がいれば、是非お目にかかりたいものだと思うよ。国家を引っ繰り返すリスクを承知の上で敵対する気概があればの話だが」

「……お兄ちゃんの存在だけでUSNAが味方に付いている時点で、誰も勝とうなんて思えないような気もするけど」

「分からんぞ? 西の大国が敵対の意思を見せない保証なんてないから」

 

 達也は巳焼島で戦略級魔法を使用しない。だが、悠元は戦略級魔法を使用する。この辺は存在の認識に対する明瞭・不明瞭の差もあるわけだが、神楽坂の継承者として明確な力の誇示をしなければならないことは千姫から言い含められていた。

 イリーガルMAPが含んだところで趨勢に大差が無い。だからこそ、敵方に[十三使徒]クラスの魔法師を入れておく必要があった。その代わり、SSAに対して[恒星炉]の技術教導に伴う技術者の受け入れを決定している。

 

「話を変えるが、九校戦の練習は進んでるか?」

「勿論だよ。燈也には申し訳なかったけど」

「いいんです、幹比古。僕もようやく因縁にケリをつけれますので」

「……そんなことを平気で言えるあたり、燈也も立派に十師族の一人なのね」

 

 個人戦に悠元が出るため、団体戦(従来の九校戦)では達也と幹比古、燈也の三人が本戦モノリス・コードへ出場する手筈となった。更に、復活する運びとなったバトル・ボードと昨年から引き継がれるロアー・アンド・ガンナーの女子ペアにリーナが出場する。

 昨年度のソロ・ペア出場方式がそのまま継続となり、エリカはクラウド・ボールの女子ソロとアイス・ピラーズ・ブレイクの女子ペア、レオはアイス・ピラーズ・ブレイクの男子ペア、燈也は先述した競技とクラウド・ボールの男子ソロに出場する。

 

 幹比古はモノリス・コードとアイス・ピラーズ・ブレイクの男子ソロ、ほのかはバトル・ボードとミラージ・バット、雫はスピード・シューティングとアイス・ピラーズ・ブレイクの女子ペア、姫梨はアイス・ピラーズ・ブレイクの女子ソロとミラージ・バットを受け持つ。

 

 個人戦に出る六人を除くとしても、“歴代最強”という名を冠されても否定できる材料は皆無だった。




 メイジアン6巻を読みましたが、着々と大亜連合の滅亡フラグが構築されているような気がしました。これで深雪に手を出そうと決めた時点で大亜連合そのものが世界地図から消える未来が出てきました。
 そうなったら、ある意味『歴史は繰り返す』を地で行くようなことになりますが、流石にそこまで愚かではないと……思えない材料が多いんですよね、残念なことに。
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