魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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戦っている領域のズレ

 西暦2097年7月30日。

 この日、世界は再び魔法の力を目の当たりにする。

 そして、二人の英雄に認められた少年が……日本の蘇った力を世界に誇示する。

 

 全ては、安寧の日々を齎すために。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 7月30日午前8時。USNAの強襲揚陸艦『グアム』が巳焼島沖合二十四海里のラインを通過した。『グアム』はそのまま西へ針路を進めるが、同行していた駆逐艦二隻の内『ハル』は速度を落とし、『ロス』は南西へ針路を取った。

 通常兵器を考慮すれば『不可解』と評されるような動きだが、魔法師による戦力を考慮すれば『妥当』と判断できるような動き。この流れは島の収容施設を改造した私設防衛指令室の指揮官席に座る国防陸軍・風間玄信大佐が各所のモニターを見ていた。

 

 風間がこの席に座っているのは、他でもない“上”からの意向があったためだ。具体的には、防衛省ひいては日本政府の意向。

 

 政府や国防軍としては私設戦力の保有を公に認めづらいが、状況と神楽坂家からの要請となれば迂闊に派遣することもできない。ましてや、島を実効支配している四葉家の悪名を考慮すれば、返す刃を受けて滅ぶ未来など誰も許容できない。

 ならば、せめてもの配慮をする意味で、国防軍が私設戦力の“監査”という名目で島に滞在している風間と響子に白羽の矢が立った。

 

「単なる物見になると思えば、こんな立ち回りになるとはな。藤林、状況はどうだ?」

「グアム、間もなく領海に侵入します。到達予測時間は約5分」

「了解した……やれやれ」

 

 指揮官席に座っていても、風間は状況を伝えるだけで実際の指揮を執る権限はない。何せ、この島には風間の直属の上司がいる上、国防軍内でも最高の階級を有する三軍の大将。彼が全て作戦の立案をしており、もしもの際のバックアップまで三重に組まれている。

 暫くすると、西進していた『グアム』に動きが見られた。

 

「グアム、減速します。領海ラインの直前で停止する模様」

「そうか……悠元、来てくれるか? 敵艦に動きがあった」

 

 いくらUSNA―――同盟国の艦船とは言え、パラサイト事件と南盾島、顧傑の件に次ぐ“傍若無人”とも取れる行動は最早『敵』と判断するほかない。風間はインカムのマイクに向けて悠元にそう告げた。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 防衛指令室に姿を見せた悠元は『神将会』の戦闘服―――和服を基調としたものだが、魔法技術によって現代のライディングスーツと遜色ない動きを実現している―――を身に纏っていた。

 

「態々済まないな、悠元」

「構いませんよ。それで、艦艇の動きは?」

「ああ、()()()()()()の配置となるような動きを見せている。ただ、各個撃破をされそうな状態に戦力を分散させるのはどうかと思ったが……まさか」

 

 風間が懸念したのは核兵器による攻撃だが、悠元は首を横に振って否定した。

 

「流石にそんなことを許せば、USNAの権威は完全に失墜します。新ソ連のせいにする可能性もありますが、そんなことになれば米ソ間で本気の戦争になりかねません。尤も、この戦いを以て新ソ連には泥沼の道を歩んでもらいますが」

 

 新ソ連が混乱すれば、大亜連合や中央アジア、新欧州連合は他人事ですまなくなる。日本も影響は出るだろうが、海を隔てている以上は地続きの国家よりマシなほうになるだろう。

 

「そうなると、考慮されるのは魔法攻撃によるものだが……敵が無知すぎると嘆きたい気分だな」

「そちらは自分が中心となって対処します。大佐殿はその席でこの戦いを見届けてください」

「分かった。自分が言えた義理ではないが、武運を祈っている」

 

 悠元はその場で[鏡の扉(ミラーゲート)]を展開し、その場を後にする。消えていく光の壁を見つめながら、風間は目を逸らすことなく悠元の姿を見送った。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 7月30日午前8時50分。停止していた『グアム』が行動を開始した。格納庫から艦尾のスリップ・ウェイを通って小型高速艇が次々と海面に降りてくる。携行武器を所持した戦闘要員を乗せた搭載艇だけでなく、戦闘車両を積んだ揚陸艇の姿もあり、それを遠目で見ていた『神将会』の戦闘服を身に着けている修司が溜息を吐いた。

 

「戦闘要員だけでなく、機動兵器まで持ち出してきたか。愚かな」

「仕方がないんじゃない? 誰だって現実を直視したくないもの」

「それは……そうだな」

 

 修司の言葉に同じく戦闘服を纏っている由夢が答えると、納得したように呟いた上で悠元に視線を向けた。

 

「動員規模は1400名ほどと推測。我々だけでも十分対処できると判断できます」

「1400か……まあ、この規模の島に10万も送り込んだところで足手纏いが増えるのは明白だし、エドワード・クラークからすれば頑張った方か」

 

 動員の規模が原作よりも増えているのは想定内だし、島への被害を最小限で済ませるためにエリカたちの協力を仰いだ。なお、達也に与えた依頼は『最終防衛ラインの死守』で、島に滞在しているリーナとセリアには、達也のサポートに加えて非戦闘員となってしまうほのかや美月の防衛を頼んだ。

 水波の役割は非戦闘員の護衛で、彼女の魔法適性を考えれば妥当な役割だと判断した。ただ、お願いをした際に『強く命令して頂いても構いません』と言われた時は苦笑を滲ませたが。

 

 計十隻の高速艇が先攻する形で同時発進し、一路巳焼島東岸へ向かってくる。別々の場所に上陸する腹積もりだろう。そして、その後方には六隻ほどの揚陸艇に加え、『グアム』の飛行甲板から無人攻撃機が飛び立つ。

 前世で言うところの『軍事用ドローン』に相当するもので、全長は約5メートル。武装は対物ライフルの12.7ミリ機関砲を備えるのみ。各艦を護衛するように飛び交うものを含めて、合計50機。

 普通の陸上戦力ならば十分脅威でしかない配置に対し、悠元は息を吐いて気配の抑制を切る。

 

「……てめえらが始めた戦争だ。今更泣いて謝っても許されると思うなよ。天魔抜刀―――天都御魂叢雲」

 

 悠元が名を呟いたその瞬間、彼を中心に膨大な量の霊気が巳焼島を中心に吹き荒れる。それは普通ならば魔法師でも感じることが余りない人間でも肌で感じとれるほどだった。

 

「これは……そうか、悠元か」

 

 旧神奈川県・厚木市の三矢家本邸にいた元はその波動を感じてゆっくりと立ち上がる。

 

「……この気配。もしや、神楽坂殿?」

 

 日本の裏側に位置する南アメリカ連邦共和国の大統領官邸。ディアッカ・ブレスティーロ大統領はその波動を感じてゆっくりとペンを置き、首元に掛けていたロザリオを握りしめて祈った。

 

 世界各地で野生動物たちが躍動し、海の生き物たちがそれを示すかのように、イルカやクジラが大きく飛ぶ。大勢の鳥が存在の出現を示すかの如く、数万単位の鳥が空を駆けていく。自然すらも呼応してしまうほどの英雄の存在は、今ここに魂を刃として示した。

 そして、その様子は箱根・神楽坂本邸の離れにいた千姫にもハッキリと感じ取れていた。

 

「……行きなさい、悠君。貴方の力は、世界そのものを変える変革の力なのだから」

 

 誰よりも人の闇を知るからこそ、人の光を導く立場に置かれた少年。千姫も剛三も、次代を担ってくれるものの誕生を祝うかのように、千姫は湯呑に入れたお茶に映る自らの姿を見つめていた。

 

 そして、吹き荒れる霊気の中心に立つ少年は、現れた光の槍を掴みとり、振り払うように降ろす。顕現した漆黒の太刀を握る悠元は天刃霊装[天都御魂叢雲]を振り上げた。

 

「『神将会』総長、神楽坂悠元が発令する。各員、誰一人欠けることなく生き残り、我々の強さを知らしめる。日のいづる国の矜持を彼らに思い知らせよ」

『ハッ!』

 

 悠元が[天都御魂叢雲]を振り下ろした瞬間、艦艇の上空にいた無人攻撃機が全て斬り刻まれ、爆発を起こす。事ここに至って最早問答は無用―――その意図を汲んだ悠元以外の『神将会』メンバーと協力者は、迎撃を開始するべく各所に散開した。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 原作ならば敢えて攻撃をさせてから防衛するのが筋だったが、公的な演習でもない上に日本の領海内で武器を所持したままうろついている時点で銃刀法違反の範疇に含まれる。それがいくら同盟国のUSNAであっても、日本の領域に踏み入れれば治外法権の適用など許されない。

 それに、数々の肩書きを有する悠元からすれば、国防的にも今回の一件を“テロ行為”だと断定して取り締まることもできる。そこまであえて踏み込まなかったのは、悠元は今回の一件でUSNA内のパラサイトを一掃するためでもあった。

 

 強襲揚陸艦グアムを発進した兵士は、パラサイトだけではなかった。

 エドワード・クラークはリアム・スペンサー国防長官との密談において、『USNA国籍を有する()()()()()を使わない』と合意していた。エドワードは残っていたパラサイトから暗殺部隊を調達する腹積もりだったが、思ったよりも少ない数にまで減ってしまっていた。

 そこで、外国籍を有する帰化希望の兵士に対し、作戦“成功”後の市民権取得を餌にして兵士を調達していた。その中には低レベルの魔法師もいる。パラサイトは『スターダスト』のメンバーが約100名で、残るは『スターズ』のメンバーで、第六隊のリゲル大尉、ベラトリックス少尉、アルニラム少尉も含まれる。

 この三名はパールアンドハーミーズ環礁にいたものの、悠元が意図的に治療せず、今回の策の為に放置した。どうせ遅かれ早かれパラサイトを駆逐するのだし、そこまで長期的に放置する見込みはないという判断からくるものだった。

 

 なお、原作ならば約200名だった予定が約七倍にまで膨れ上がったのは、ここにも悠元の策が講じられていた。

 原作だと戦乱が絶えなかった南アメリカとアフリカを独立国家として成立させたため、自ずと傭兵の需要も大々的に激減する。それで割を食うのは世界各地を転々としているフリーランスの傭兵で、悠元は間接的な資金援助と飛龍海運による護衛依頼を駆使してUSNAに送り込み、その際に『エドワード・クラークなる人物を頼れば、USNAの市民になれるかもしれない』と吹き込んだのだ。

 別に嘘は言っていないし、向こうからしても戦力が増えるのはありがたいと考えるだろう。尤も、一番割を食うのは当事者たちというオマケつきだが。

 

 今回の作戦に参加した者の中には、過去の雪辱を誓うものがいた。アレハンドロ・ミマス二等軍曹―――昨年のパラサイト事件の際に派遣され、達也との交戦で負傷したスターズのメンバー。その雪辱を晴らすべくパラサイト化して、今回の作戦に参加した。

 だが、上陸艇で向かっていく先から感じた力の波動に、ミマスは冷や汗を流した。達也への雪辱の気持ちが強かった彼の心は揺れ動いていた。

 

(先程の波動は何なのだ……何故、ここまで恐怖しているのだ?)

 

 パラサイトになる以前において、魔法戦闘で後れを取ることはあっても、戦う前から恐怖するという事例はミマスにとって未体験のゾーンであった。そして、それは同じ艇に乗っているパラサイト達にも見られていた。

 だが、上陸艇が接岸するとなれば、最早泣き言は言っていられない。自身の得意魔法[生体発火]が対物破壊に向いていない―――[分子ディバイダー]を使用できる魔法師にも拘らず―――と判断したミマスが叫ぶと、発射されたグレネードがフェンスを破壊する。

 そうして足早に次々と降りてくる兵士達だが、彼らを嘲笑うかのように突如として襲い来る炎。それはまるでマグマの津波のような有様に、ミマスは咄嗟に横へ飛んだ。

 

「状況報告……っ!?」

 

 ミマスが直ぐに上陸艇の方向を見やると、上陸艇は完全に溶かされており、砂浜には多くの兵士が横たわっている。身体が炭化している兆候は見られないものの、それまで上陸艇に同乗していた[パラサイト]の精神感応(テレパス)も消失していた。

 そうして驚愕していたミマスの視線は声を発する方向に向けられた。そこには、漆黒の戦闘服を身に着け、紅蓮の二刀一対の太刀を持つ少年が立っていた。

 

「一撃で終わらせる腹積もりだったが、やはりご先祖様のように上手くはいかないものだな」

「貴様は……何者だ。四葉の魔法師か」

「まあ、半分は当たらずとも遠からずだ。アレハンドロ・ミマス二等軍曹―――いや、パラサイトに憑りつかれて人間を辞めたものよ。ここで朽ちるがいい」

 

 ミマスは反射的に得意としている[生体発火]をその少年に向けて発した。その直後、少年の姿が炎に包まれるが、その炎はまるで生きている蛇の如くミマスに憑りつき、締め上げていく。

 

「ぐ、ぐあああっ!?」

「そんな魔法如きで俺を燃やせると思うなよ。せめてもの情けとして、一撃で逝け」

 

 その直後、ミマスの胸元を何かが通り過ぎる。彼が首を動かして視線を向けると、そこには高熱に熱せられたと思しき光の刃が突き立てられていた。

 

「宿業両断、千子一閃(せんじいっせん)

 

 その言葉と主に、ミマスに放たれる数多の光の刃。その衝撃波は海岸近くの海水に触れると、まるで水蒸気爆発を上げるかの如く海水が巻き上がった。少年はその光景を少し見つめた後、興味なさげにその場を立ち去った。

 後に残ったものは、海岸に倒れ込んでいる兵士達と、溶けて原型を完全に無くした上陸艇だけであった。

 




 最早領域外の強さを誇る悠元に教わればどうなるか? を表現するとこうなってしまう第一弾。
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