魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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当主となった家族の会話

 開かれた臨時師族会議。ジェラルドの自己紹介も終わり、巳焼島事変に関する最終報告が悠元の口から述べられる。

 

「今回の巳焼島襲撃について、既にUSNA側と落としどころについて協議済みだ。今回の事変に加担した新ソ連のイーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフは私が直接出向いて殺した」

「何と……いやはや、議長殿の言葉を信じていないわけではありませんが、我々のような魔法師と言えども“不可思議”というものを耳にするとは思いもしませんでした」

 

 悠元の報告を聞いて真っ先に反応したのは八代(やつしろ)雷蔵(らいぞう)。とはいえ、彼も師族会議では若い部類に入る為、悠元の言い分を認めつつも率直な感想を口にした。

 

「新ソビエト連邦政府がその事実を認めずに暴れる可能性はあるだろうが、軍事力の急激な低下に加えて首脳陣も合わせて消し飛ばした以上、新ソ連の解体も秒読みの段階となるだろう。新ソ連内の核兵器も消し去ったからな」

「……恐怖以上に頼もしくもありますな。私ども七宝家だけでなく、日本海側を守る一条家や一色家、八代家にとっても脅威の逓減は望ましい展開でしょう」

 

 続いての報告に反応を示したのは北海道地方を守護・監視する七宝家当主・七宝(しっぽう)拓巳(たくみ)。なお、息子の琢磨については魔法大学への進学も考慮して東京の自宅を別宅として所持しており、琢磨が家を継ぐのは大学卒業後らしい。

 拓巳の言葉に一色家当主・一色(いっしき)義道(よしみち)も深く頷いていた。

 

「全くですな。それで、議長殿。貴殿が使った魔法はやはり、戦略級魔法なのですか?」

「ええ。素粒子収束砲撃魔法[星天極光鳳(スターライトブレイカー)]、そして荷電粒子砲撃魔法[ローエングリン]。今回は使いませんでしたが、現状の[十三使徒]が使用する戦略級魔法全てを行使することが出来ます」

 

 ここには含めなかったが、達也の[質量爆散(マテリアル・バースト)]や深雪に渡した[氷結六花(ダイアモンド・ダスト)]も当然含まれることとなる。本来一人で一つがやっととされる戦略級魔法の複数保持―――その意味を他の十師族当主が理解できない筈が無かった。

 悠元は自称こそしていないが、紛れもなく世界最強格の魔法師であるという事実。それをこの場にいる人間すべてが知ることとなった。それを聞いた父親の三矢家当主・三矢元は深く息を吐いた。

 

「議長殿の並外れた才覚は幼い頃から見ておりましたが、それを聞かされた身としては複雑ですな。まるで蛇が龍でも産んだかのような御伽噺を聞かされたような気分です」

「……三矢殿」

 

 なまじ元はここにいる面子の中で悠元が“転生者”であるという事実を知っている。これまで不可思議な体験をしてきただけに、元に対して二木舞衣が気遣うような視線を送った。

 

「三矢殿に色々言いたいところではあるが、ここで言うべきことでもないために進めることとする。シリウス准将、USNA政府の見解を述べていただけるか?」

「畏まりました」

 

 気を取り直す形でジェラルドがUSNA政府の見解を発表する。

 今回を含めたここ最近の無礼に対する謝意として、日本政府に“[恒星炉]の経済協力金”として6000億ステイツドル(約70兆円)を支払う事と、技術提供交渉の準備も含めてジョーリッジ・D・トランプ大統領が来日すること。

 今回の首謀者であるエドワード・クラークの処分は“誰も目から見ても分かる形”―――軍事法廷にて判決後、即日の刑執行を執り行う事。息子のレイモンド・クラークについては軍による厳重な監視がついた“保護観察処分”となる。

 海軍空母や戦闘機を含めた米軍の機材提供についても、神楽坂家に提供される形となるため師族会議で公表された。

 

「米政府がそこまで……議長殿はその戦力を如何様にする気なのだ?」

「自国の領土の大半は海である以上、マフィアなどを含めたアンダーグラウンドの連中がいるのも事実。それに、今後発展していく我が国を狙おうとする輩もいるでしょう。それに対する“目に見える抑止力”は必須と考えた次第です」

 

 それだけならば色々不満が出るため、悠元は更に付け加える。

 

「そして、国防軍や各地の造船所と折衝を続けた結果、自衛のための戦力を有して頂くこととした。手始めに佐渡の陸上要塞化に伴い、一条・一色・七宝の三家に護衛艦船の提供を実施する」

「それは……新ソ連に備えてのものということですか?」

「単に新ソ連のみならず、今後増長することも予想される大亜連合への対策も含んでいる」

 

 形式上は国防軍の装備更新に伴う払い下げの形だが、艦船自体はオーバーホールによって最新鋭の装備を搭載した状態で引き渡される。これまで自衛の範疇となる装甲船程度しか持たなかった十師族が“目に見える戦力”を有するわけだが、悠元がこれを実施したのは師族会議と国防軍が同じ土俵で戦える余地を作ることにあった。

 

「九州方面の八代家、奄美・沖縄方面を守護する七草家についても、艦船を優先的に配備することはこの場で公言する」

「それは、責任重大となりますな」

「……」

 

 反応を示した雷蔵に対し、七草家当主・七草弘一は複雑な表情を見せた。自衛のためとはいえ艦船を保有するということは、各々の動きを“見られる”ということにも繋がってくる。そういったものを大々的に持たない状態で働きを見せた人間が師族会議議長にいる以上、反論など出来るはずも無かった。

 

「太平洋方面は配備の都合により、当面国防海軍とヘキサライン・マーセナリーズで受け持つが、将来的には自衛の戦力を有してもらうこととなる。それについてはご了承願いたい」

 

 悠元が高校生の段階で魔法教育の人材育成基盤の構築を急いだのは、自衛戦力の増強に伴う魔法師獲得競争の激化を抑制するためでもあった。現状12校とはなっているが、初等・中等教育の段階で魔法教育を進められる基盤づくりについても水面下で進めており、そのモデルケースとして巳焼島に学校の創設をすることで四葉家と合意している。

 魔法師の基本的人権や保護を謳うようならば、それに見合った働きをするのが普通だと悠元は考えている。

 

 だが、実際はどうだ。魔法協会は魔法師の保護を謳っていても、実働的な戦力は完全に外部委託の恰好となっている。十師族や師補十八家、百家をはじめとした魔法使いの家は魔法科高校や国立魔法大学の卒業生を囲うことに精一杯で、即戦力の確保という概念しか持たないのが問題である。

 

 護人の二家が師族会議入りすることで、十師族や師補十八家が増長しないか不安視する側面もあった。だが、九島烈亡き後の師族会議の音頭を取るには、誰を選んでも確実に軋轢が生じてしまう。

 だからこそ、悠元は元継を説き伏せた上で師族会議入りすることで、師族二十八家の抑止力として護人を機能させることとした。こんなことをしなければならなかった原因を作った輩共についてはしっかり報いてもらう。

 

 閑話休題。

 

「日本政府はそれで納得されたと?」

「我々は既に政府の管理下ではなく、天皇家の管轄に置かれていることは御承知の筈だ。だからと言って全て反発するようなこともできない。我々魔法師は仙人のような存在ではないのだから」

 

 今後、魔法師を囲ったり“製造”したりすることは水面下で増えていくだろう。余りにも行き過ぎた場合は完全に取り潰すことも想定している。その為の抑止力を有する立場として、悠元は静かにそう述べた。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 会議が終わり、参加者が次々と退席していく。そうして会議室に残ったのは悠元と元継、そして二人の父親である元であった。三人が当主である前に血縁関係があることは誰もが知っており、誰もそれを咎めようとする者はいなかった。

 ジェラルドはUSNA大使館からの迎えが来たということで、そのまま退出した。

 

 そうして三人だけが残ったところで使用人が緑茶の入った湯呑と和菓子を差し入れ、使用人が部屋を出たところで元が一息吐いた。

 

「まさか、悠元が複数の戦略級魔法を……しかも、[十三使徒]の戦略級魔法すらもとは。大方は義父の影響によるものだろうが、良かったのか?」

「別に隠す理由が無い。というか、変に疑いを掛けられて大切な人に危害が及ぶぐらいなら、秘密は共有してもらうに限る」

 

 変に腹の探り合いをするよりは、此方の力を明るみにすることで等しく責任を負わせる。ましてや戦略級魔法師の詳細に繋がるとなれば、悠元がバレると同じ立場の達也にも波及する。つまり、変に情報を漏らしたら四葉家への導火線も含まれている形だ。

 

「言わんとすることは分かる。元治には当主継承の際に話すが、構わないか?」

「それぐらいは許容するよ。まあ、あまり表沙汰にはして欲しくないけど」

 

 力を求めつつも、常識の範疇の外にあるものを直ぐに受け入れるというのは極めて難しい。悠元とてそれを押し付ける気など無かった。

 

「出来るわけが無かろう。全く、蛇が龍を生んだとは口にしたが、寧ろ空想上の表現すら出来んかもしれんな」

「あの、父さん……それはストレスでやられるから止めて」

 

 この世界に来てまだ10年も経っていないが、数々のトラブルやアクシデントで10倍以上の年数を味わったような気分を覚えていた。それでいて家族からのツッコミには異論を唱えたくなった悠元で、それを見た元は笑みを零した。

 

「元継も大変だな。義父の後を継ぐことになるとは」

「いや、俺なんてまだマシすぎる方だろう。悠元に比べたら“全然”だろうな」

「それは……確かにな」

 

 恋愛結婚とはいえ、表向き政略結婚の側面も垣間見えていた元。そして、その煽りを受けたような形となった元継に比べれば、20人以上の女性を囲う羽目となった悠元が一番大変なのは言うに及ばずだった。

 尤も、その当人は疲れたような表情を見せていたが。

 

「流石に爺さんあたりから嫁を押し付けられることは想定していたけど、こんな未来になるなんて想像もできなかったよ」

「悠元は、良かったのか?」

「もう今更かなって。それに、本当に嫌なものは全てお断りしたから」

 

 変な興味を持たれないよう立ち回った結果、逆に興味を持たれたのは自分の落ち度だとしても、余りにも認識のない人間と婚約を結ぶことだけは許容しないと自分の意思を示した。婚約関係はまだいいが、それでいて愛人関係(表向きは専属使用人の契約)を結ぶことだけは最初釈然としなかった。

 

「好感度を稼ごうとカッコつけたつもりなんて微塵も無かったんだけどね」

「その点は私も同じだな。やはり悠元は私の息子だよ」

 

 真夜や深夜、怜美や水波は仕方が無いとしても、自分が持ち込んだレリックの影響があるとはいえ知り合いの母親まで巻き込んでしまった。しかも、悉く元の世界に帰ることなく愛人関係を許容してしまった(帰ったところで墓の下に行く未来しか見えない、というのもあるだろうが)。

 関係を持ってしまった以上は責任を完遂する腹積もりだが、被独占欲が強まる婚約者・愛人たちを見て色々複雑だった。どう転んだとしても、彼女たちを道具扱いする気はない……と思っていたら、雫から『その振る舞いがジゴロ』と言われてしまった。解せぬ。

 

「ただ、懸念点はいくつか残ってるんだけどね……主に将輝に関して」

「一条殿の息子の件か。ただ、それは解決したと思っていたのだが」

「普通ならそうなんだけれどね」

 

 悠元と将輝。戦略級という括りこそ違えど、日本政府から認められた魔法師という点では“同格”とも言える。それを盾にしてどうこう述べるのは筋違いだろうが。

 そもそも、深雪が将輝の告白を丁重に断ったのが今年3月の話。一条家も四葉家や神楽坂家の意向を今年2月の師族会議で既に把握しており、現当主の一条剛毅は息子である将輝の主張に無理筋があることを認識している。

 

「リーナの件も含めて一条家へ出向いたとき、将輝に問いかけられた挙句に殴り掛かられたよ。男同士の殴り合いに発展させても良かったけれど、此方は無傷になっちゃうから一撃で沈めた。後のことは一条家に放り投げた」

「……一条殿の苦悩に比べれば、三矢(うち)の悩みなど贅沢が過ぎるやもしれんな」

 

 恋愛結婚が羨ましいという部分は、男性の魔法師として理解はする。だが、自分の気持ちを押し通そうとして相手の都合を無視するのは如何なものかと思う。深雪を第一夫人として確定させた自分も一目惚れしてのものなので、将輝を悪しく言える立場ではないだろうが、せめて深雪の心情を慮るぐらいの配慮は見せてほしいものだと思う。

 

「というか、達也と深雪の関係に気付いた段階で、自分の非を認めて謝らなかったのは将輝の失点だと思うけどね。それで深雪の印象が変わるかどうかは知らんけど」

「……将輝君と吉祥寺君を沈めた件は義父から聞いたが、それを言いのけて実行してしまう悠元が凄いと思うがね」

「それには同意する。同年代の男子でそんなことが出来る奴の方が稀少だろう」

「二人とも……」

 

 強さを示す立場として弱さを認めるような行為は、相手を付け上がらせることにも繋がる場合がある。

 それを考えれば将輝の態度も別におかしい訳ではないし、懇親会の場で謝罪なんかすれば他校の生徒にも目撃され、新人戦モノリス・コードでのオーバーアタックが表沙汰にされるリスクもあったし、一条家の問題が回りまわって師族会議に波及する可能性もあった。なので、将輝の取った対応が間違っているとは言い難い。

 

 悠元の場合、あの時は三矢の名字を名乗らずに剛三の親族として参加していた。そんな人間が十師族と同格の対応なんか出来る筈もないし、ましてや人をロリコン呼ばわりした主賓の二人(明確に誤解を招くような発言をしたのは将輝だけだが)を容赦なく気絶させたのだ。

 普通ならば後々尾を引く問題となるわけだが、一条家と吉祥寺家は謝罪を受け入れてくれた。その引き換えとして一条茜に惚れられてしまった。彼女を婚約者としたのは、その件に対する明確な謝罪の意味も含まれていた。

 尚、茜にその辺の事情を説明したら『人らしく対応できている悠元さんは間違っていません。人を平然と侮辱した兄さんと、それに便乗してしまった真紅郎君が悪いんです』と返してくれた。

 

「ところで、穂波さんの方は? そろそろ出産の時期だと思うけど」

「大事を取って魔法医療大学付属病院に入院している。元治も暫くは付きっきりだそうだ」

「家が近いので俺も様子を見に行っているが、大きな問題はなさそうに見えたな。この前は四葉殿と葉山殿に出くわしたが」

 

 元治にとっては初めての子、元にとっては初孫になるので、万全を期す意味で入院するのは妥当な判断だろう。何せ、悠元にとっても[領域強化(リインフォース)]で治療した人間が出産前後でどのような影響を及ぼすかというのは今後を考える上で大事なケースになってくる。

 にしても、今までは隠してた穂波と四葉家の関係をここにきて出し始めたということは、四葉家も代替わりを進めるという意思が見えてきたということになる。

 

「……その四葉殿が当主を引退したら、自分のところに転がり込んでくるんだよね。俺はそこまで節操無しと思われてるのかな?」

「20人以上の女性を完全に捌き切っている悠元にしか出来ない芸当だと思うがな。俺には一生考えられん」

「ははは……」

 

 ちなみに、戦闘が終わった後で深雪と雫、姫梨とセリアに部屋に連れ込まれた。何があったのかは察して頂きたいところだが、その際に真夜まで乱入してきた。

 流石に一線は弁えているので問題はないが、『近々引退しそうな四葉家現当主を使用人として引き取る』というチートでも使わない限りは無理筋なルートを開拓してしまったことになる。

 精神を安定させたり、性欲を発散させる意味で非常に助かっているわけだが、節度という概念は存在しなかったのかと問い詰めたい気分に苛まれたのは……気のせいではないと断言しておく。

 




 暑さが悪い(責任転嫁)
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