魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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電光石火の如く

 一高の校内は多くの生徒で賑わっていた。前々から九校戦の再開催は決まっていたものの、新ソ連方面の動向が注視されていたため、再び中止になるのではという危惧は少なからずあった。だが、日本政府が新ソ連方面に『その兆候は認められない』と公表したため、九校戦の開催はそのまま続行となった。

 更に、これまで会場として使用していた富士演習場南東エリアは神坂グループが施設ごと買い上げた(実際には“接収”に近い形だが)ため、態々国防軍に対して機嫌を伺うような真似をする必要も無くなった。

 流石に国防軍も将来の軍人魔法師を確保できなくなるのは困るため、『メイジアン・アクティブフィールドセンター』となった再整備計画に対して異論を唱える者はほぼ皆無だった。

 

「団体・個人戦の選手選定は提出した通りになるが、何か異論があれば遠慮なく言ってくれ」

「悠元さんが選んだのならば、問題ないと信じておりますので」

「深雪さんや……」

 

 こんなやり取りが生徒会室であったものの、個人戦の追加による人員変更は最小限の混乱で済んでいた。学校側も九校戦となれば本腰を入れてくれるようで、出場選手及びスタッフには授業に対する便宜が図られることとなった。

 達也については、出場競技の兼ね合いということで本戦モノリス・コードへの出場以外はエンジニア専念という理由で固辞した。流石に四葉直系かつ次期当主としての誇示は必要であったし、その裏では真夜が達也に我儘を述べたという事実もあったりする。

 早速各々の練習に入るわけだが、悠元は競技の練習ではなく生徒会室のワークステーションと睨めっこしていた。すると、丁度戻って来た達也が悠元に声を掛ける。

 

「悠元、行き詰ってる感じか?」

「達也か。行き詰ってるというか、ルールの範疇でどうするかを考えていた」

 

 何せ、これまでアイス・ピラーズ・ブレイクもしくはモノリス・コードに絞って考えたり、他の選手が出場する競技の補助程度だったものが、複数の競技に亘るのだ。当然、得意分野によっては複数の魔法を準備せねばならない。

 今回は個人戦が初めての試みとなる為、実施競技はスピード・シューティング、クラウド・ボール、アイス・ピラーズ・ブレイクの三種目に絞られた。更に、男子の個人戦出場者が新人戦(1年)・本戦(2・3年)のモノリス・コードに、女子は新人戦・本戦のミラージ・バットへ出場するシステムとなった。その裏に何があったのかは語りたくないわけだが。

 その点で言えば、悠元はこれまでの経験で全競技に対する経験点を得ており、他校の出場者よりもアドバンテージを有する。

 

「以前の達也のように制限されている範疇であれば、そこまで考える必要はなかった。ただ、今回は対外的な力の誇示も含むからな。面倒なものだが」

 

 一度目は十師族・三矢家の人間として、二度目は護人・神楽坂家次期当主として……今年は師族会議議長として、その強さを見せなければならない。別に魔法をただ放つだけならば簡単な話だが、それで変に恐怖を煽るのも避けたい。

 そして、日本政府に認められた魔法技能師としての強さを見せつけることで、対外的な力の誇示もせねばならない。

 

「他人事には聞こえないが、苦労を掛けるな」

「別に気にしてないよ。意趣返しを散々やっても二番煎じにしかならんから……一応プランは立てた」

 

 そう呟く悠元が座るワークステーションには複数の起動式データが表示されていた。それを視ただけで理解できてしまう達也は、改めて悠元の規格外さに感心するような素振りを見せた。

 

「そういう訳で、ハード面のサポートはするけど、エンジニア方面は達也に任せることとなる。後で光宣も加えてモノリス・コードの打ち合わせもしておくか」

「そうだな。尤も、お前と光宣がいてくれたら俺はかなり楽できるが」

 

 四葉家次期当主の達也、新たに興す九島家次期当主の光宣、そして神楽坂家現当主の悠元。いずれも並みならぬ苦労と努力を重ねて力を手にした者達。だからと言って偉ぶる気など毛頭もないが。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 2097年8月3日。ジョーリッジ・D・トランプ大統領を乗せたエアフォース・ワンは巳焼島空港(プラント建設に伴って国土交通省が空港の設営認可を出した)へ着陸。大統領と数人の魔法師の護衛に続く形で十数人の技術者らしき人物が空港に降り立った。

 出迎えは悠元と深雪、水波にセリア、そしてUSNA関係者ということでリーナが抜擢。その中の一人の女性技術者にリーナとセリアが気付いた。

 

「アビー!?」

「おや、リーナにセリアじゃないか。軍を抜けてから腑抜けては無いようだね」

「腑抜けるって……そういう性格でしたか?」

「言葉の綾だよ。特にリーナはね」

 

 リーナはその女性に対して『アビー』という愛称を口にし、親しげに話している三人。すると、その女性は悠元の姿を見つけて近寄った。

 

「はじめまして、ミスター神楽坂。アビゲイル・ステューアットと申します。元とはいえ[トーラス・シルバー]の一角に出会えて光栄です」

「これはご丁寧に。師族会議議長・神楽坂悠元です」

 

 アビゲイル・ステューアット―――リーナとセリアの戦略級魔法[ヘビィ・メタル・バースト]と[ブリオネイク]を設計・開発した人物。そして、セリアから彼女が“転生者”という事実も聞かされている。

 自己紹介を簡潔に済ませ、案内役として待機していた達也にジョーリッジたちを任せると、悠元はセリアと共にアビゲイルとの会談に臨んだ。三人にしたのは彼女がジョーリッジから折衝役を任されているのもあるが、彼女がどんな前世を歩んでいたのかを少し聞いておこうと思ったからだ。

 使用人によって茶菓子とコーヒーが置かれ、三人になったところでセリアが話を切り出した。

 

「いやー、久々だねアビー。漸く日本に来れた感想はどうかな? やっぱり前世でやり残したことは叶えられそう?」

「ちょ、ちょっとセリア!? 彼の前でその話は」

「心配しなくてもいい。俺もそういう人間だからな、アビゲイル」

「あー、成程。それと、私のことは『アビー』でいいよ」

 

 セリアが躊躇わずに前世の単語を出したことで動揺するアビゲイルだが、悠元が自らも転生者という事実を明かすと、アビゲイルは納得したように頷きつつ呼び方に関するお願いをした。向こうからそう望んだのであれば、断る理由もないと判断して悠元も頷く。

 そうしてアビーに前世のことを尋ねたわけなのだが、それを聞いて悠元とセリアが絶句していた。

 

「……セリア、そこまで聞いてなかったのか?」

「聞けるわけないじゃん。というか、私の知ってる『彼女』がオタク趣味だなんて知りもしなかったし」

「え、え? あの、どうかしたんですか?」

 

 彼女から聞いた事のあらましの中に『付き合っていた人と別れて、その人の兄と最終的に結婚した』という文言が含まれていたため、それを耳にしたセリアが前世の名前に加えて結婚した相手の名前まで聞いた事で、アビーの前世が誰なのかを悟ってしまった。

 

「どう説明すればいいか……元々付き合っていた人の名前が『ゆうと』か?」

「え、は……ま、まさか」

「その本人が俺だ。で、コイツが妹と言えば分かるか?」

「は、はひ!?」

 

 アビゲイルも漸く事を理解したのか、驚愕していた。まさか元彼女が転生して技術者になっていたなんて誰しも思わないだろう。セリアが気付かなかったのは、彼女が隠れオタクだった事実を知らなかったからこそ、雰囲気こそ似ていても赤の他人だろうと判断していたからだった。

 

「今更寄りを戻そうとか、謝罪は必要ない。前世のことは前世のことだ。それで納得してくれるか? というか、これ以上女性関係を複雑化させたくない」

「最後のが本音って訳ですか。そういえば、セリアも婚約者の一人でしたね」

「愛しのお兄ちゃんと結婚できるなら、国も立場も捨てた女です」

「胸を張って言う事じゃねえよ」

 

 悠元とセリアのやり取りを見て、前世の様子を思い出したのか……アビゲイルはクスッと笑みを漏らした。その上でアビゲイルは自身の前世の締めくくりが老衰で亡くなったことも述べた。

 

「兄貴は満足して逝ったか……なあ、セリア」

「多分、どっかに転生してまた気苦労を背負う気がするね。アビーはまた兄貴と結婚したい?」

「流石に女性関係はお腹一杯だよ。一応婚約者はいたんだけどね……」

 

 聞くところによると、相手は『スターズ』の魔法師だったのだが、パラサイト事件によって処刑されてしまったらしい。その名前がアルフレッド・フォーマルハウトと聞いた悠元とセリアは顔を見合わせた。

 

「その彼だが、何の因果か生き返ってるぞ」

「生き返ってる!? 今どこにいるの!?」

「確か、今日はこの島の地下訓練場で合同訓練に参加してる予定だった筈。確認してみる」

 

 悠元が端末を取り出してスケジュールを確認すると、フォーマルハウトは巳焼島へ訓練の為に出向いていた。それを聞いたアビゲイルは悠元に詰め寄った。

 

「会いたい! 今すぐ会わせて!」

「分かった、分かった。とりあえず滞在についての交渉は終わってるし、案内する」

 

 そうして三人が地下訓練場に出向くと、十数人の魔法師が汗を流していた。その中のフォーマルハウトの姿を見たアビゲイルは一目散にダッシュした。それに気付いたフォーマルハウトは何かに怯えるような表情を見せながら逃げ出し、アビゲイルが猛追していった。

 

「待て、フレディ! 今日こそは押し倒す!!」

「来るなあああ!!」

 

 二人の叫びが木霊しながら訓練場から消えてく様子を悠元とセリアは見送っていた。

 

「……彼女が一途なのは変わらずか」

「いや、前の場合はお兄ちゃんを振ってるじゃん」

「あれは兄貴が悪いし、俺に魅力が無かっただけだ」

 

 それに、前世のことは『もう終わった事』であり、それを気にすると却ってストレスを蓄積しそうな気がする為、悠元はあまり触れるつもりも無かった。

 

「彼女が彼とくっつけば、俺が気にする必要も無くなるからな。21人なんてお腹一杯どころか食傷気味だよ」

「でも、全員を奴隷にしちゃあだだだだっ!?」

「妻や使用人を奴隷にする輩なんて、ただの鬼畜野郎でしかねえよ」

 

 なお、婚約者組の被独占欲が日に日に強まっていて、上限が見えてこない恐ろしさを感じているのは……ここだけの話にしておこうと思う。

 

「それに、フォーマルハウトが捌け口になってくれるというなら、それを拒否する権利なんて俺にはないからな」

「分かったから、とめてええ!!」

 

 尚、セリアが悲鳴を上げても止めようとする魔法師は誰一人として居なかったのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 予定通りUSNAからの技術者は巳焼島の宿泊施設で寝泊まりしながら[恒星炉]の技術供与を受ける。ただ、アビゲイルについてはその辺を全て他のメンバーに放り投げて、アルフレッドとのデートに費やしていた。

 アビゲイルから必死に逃げていたのは初日だけで、あとは観念したようにアビゲイルと一緒に居る様子が見られた。一晩で何かあったのかは言うまでもないが。

 

 九校戦の準備自体も既に整っている為、あとは各々の選手が競技に向けて練習を重ねる中……時は経って8月6日、火曜日。早朝とも言える時間だが、悠元は『星見』からの緊急連絡―――伝書鳩を象った[精霊]を用いての念話によるメッセージ―――を受け取り、事情を尋ねるために九重寺へと赴いた。

 昨晩は珍しく滝のような雨が都内に降ったためか、山門へと続く階段は水で濡れていた。そして山門の前には軽く手を振る八雲の姿があった。

 

「九重先生、珍しいことも有ったものですね。何かありましたか?」

「何かあったからこそ、彼らに連絡をお願いしたんだよ」

 

 立ち話もそこそこに、庫裏へと通された。門下生が粗茶の入った湯呑を差し出してから下がった後、八雲は人除けの結界を庫裏の区画に張り巡らせた。その上で頭を掻いていた。

 

「まず、事の発端は東道殿が昨晩遅くに尋ねてきてね。彼には珍しくずぶ濡れの状態だったから、魔法で乾かしてから事情を聞いてみたんだよ」

「東道殿が?」

 

 遡ること昨晩遅く。八雲はそろそろ山門を閉めようと思ったところで、階段を少し早い足取りで近付いて来る気配に気づいた。普通の視界では雨で見づらかったが、八雲は相手の気配を見て流石に驚いたと話す。

 いくら古式の術者でもずぶ濡れのままでは風邪を引きかねないため、魔法で乾くのを待ってから話を聞いたそうだ。

 

『それで、東道殿。態々お越しになった理由をお尋ねしたいのですが』

『よく聞くがいい、八雲。樫和主鷹が亡くなった。死因は落雷による感電死だ』

『……はあ?』

『その反応も分かる。一番最初に応対した儂でも驚いたからな』

 

 樫和主鷹に家族はいても、現在は一人暮らしの身。元老院四大老の立場であっても、流石に使用人ぐらいはいるものの、幸か不幸か誰も在宅していなかった。

 

「事情を聞くと、庭先にいたところをピンポイントで落雷の被害に遭ったらしい。家屋の柱が多少焦げたりはしたようだけど、家屋の火災に至るまでではなかったようだ」

「……罰が当たった、ということなのでしょうかね」

「こればかりは僕も『運が悪かった』としか表現できなかったからね。剛三殿ならやりかねない所業だけれど」

 

 確かに、剛三なら出来なくはないが『やる意味がない』と吐き捨てるだろう。悠元も可能なラインだが、それはあくまでも樫和に社会的責任を全うしてからの話にするつもりだった。となると、これは“天災”……天神様の怒りが落ちたとみるのが一番妥当だと判断した。

 

「爺さんがやるとするなら『死ぬまで扱き使われるか、大人しく死ぬか』を突き付けてからでしょうね。先代の東道は身内を殺したからこそ問答無用でしたが」

「それは納得できる話だね。で、問題は空席となった四大老の一角だけど、予定通り“彼女”を宛がってもいいのかい?」

「本人には了承を貰えています。エリカ自身、千葉の家には殆ど未練がないですから」

 

 普通ならば樫和家の誰かが継ぐことになるわけだが、四大老の後継者となる樫和家現当主は今回の事態を聞いて『四大老の座を退く』と東道家に通達。そこから上泉家と神楽坂家にも辞退の経緯を聞くことになるが、自主的な辞任ならば咎める理由も無くなった。

 いずれにせよ、元老院四大老は神楽坂、上泉、東道、そして香取が加わる。九校戦が終わり次第エリカの籍は母方の実家である鹿取家を通して香取本家の養子となり、武蔵香取家の当主となることまで決まっている。

 元老たちが騒ぐことになるだろうが、九校戦前の一仕事で黙らせることは確定事項だ。

 

「そういうことですので、根回しの件はお任せします。自分が関わると贔屓に見られかねませんので」

「了解したよ。そうそう、達也君とリーナ君に『僕を負かすぐらい本気で掛かって来なさい』と伝えておいてくれ」

「その程度でしたらお安い御用です」

 

 余談だが、流石のリーナでも九重寺での鍛錬は厳しく、それを涼し気な表情でこなしている達也に嫉妬して、最終的には達也を誘惑して押し倒される羽目になったそうだ。

 そして、それを目撃した達也の婚約者たちの歯止めがどうなったのかは……ピクシーから『達也様のお子さんたちをお世話するのが楽しみです』というメッセージを送られたことで察した。

 




 今回は色々の巻。
 前世関連はあっさりめな決着にさせましたが、変に引き摺ること自体が面倒事になる為、悠元は割り切った形での決着を要求する形に。なお、フォーマルハウトは犠牲となったのだ……
 
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