九校戦懇親会。九校の出場選手やスタッフが一堂に会しての立食パーティーだが、親睦を深める意味よりも“鞘当て”の側面が強い。悠元は一高の部活連会頭として深雪や幹比古と共に他校への挨拶を行った。
挨拶回りの順序は身内に生徒会長経験者がいるため、聞いた事項に留意しながら他校との挨拶を済ませていく。そして、一番最後に三高の三役と対面する。
三高の部活連会頭は悠元が一番知っているが、風紀委員長は委員会同士で連絡を取ることが少ないために面識がゼロ。そして、生徒会長の一色愛梨が挨拶をする。
「これは一高の方々。色々含むところはありますが、真剣勝負させていただきます。特に司波生徒会長、今年は一騎打ちですね」
「……ええ。ですが、負けるつもりなどないことは御承知おきください」
悠元との関わりで愛梨も強くなっている。あの言い方からするに、愛梨も個人戦で出場するということなのだろう。すると、三高の集団の中に居てもおかしくないであろう将輝はおろか真紅郎の姿がないことに気付く。
「一色生徒会長。悪目立ちしそうな男子二人はどうしたんだ?」
「あー、沓子から聞いた話では、将輝が真紅郎を捕まえて明後日からの戦いのプランに備えるみたいでして。やる気になっているのを削ぐのも面倒だと思って無視しました」
愛梨の言葉に、両隣にいる会頭と風紀委員長が苦笑を浮かべており、深雪や幹比古も将輝のことを知っているので、思わず苦笑が漏れてしまっていた。そういう事情ならば無理に呼び出す必要も無いと思い、悠元は愛梨に改めて視線を向けた。
「一条に会えたら伝えておいてくれ。泣いても笑っても最後だ。その結果ですら駄々をこねるのは十師族の存在意義に泥を塗る行為だと知れ、とな」
「(どうあっても初めから勝ち負けがついている勝負ですけれど……)分かりました、神楽坂会頭。一言一句違うことなくお伝えしておきますわ」
仮にこの勝負で将輝が勝ったとしても、逆に深雪が駄々をこねて余計に悠元への依存が高まるだけなのではないか……と愛梨は内心で思いつつも、悠元の伝言を受け取った。
挨拶回りを終えて悠元たちは一高の集団がいるテーブルに戻ったのだが、深雪は悠元へ食べ物をよそったりしつつ、悠元の傍を離れようとしなかった。二人の関係は一高の人間なら誰もが知っていることなので、余計な飛び火が来ないように
そうなると、結局テーブルに集まるのが悠元や達也をはじめとした友人グループとなるのは無理からぬことだった。
「別にそこまで噛み付くつもりもないのに、逆に距離を取られるのが癪に障るわ。まあ、別にいいけど」
「悠元からしたら、そう言っても無理ないわね」
この会場には将輝や真紅郎と言う否応にも目立つ存在がいない。そうなると、[トーラス・シルバー]で世間を賑わす形となった悠元はおろか、同じ立場だった達也にも興味本位の視線が向けられるのは想像に難くない。
事実、他のテーブルにいる他校の生徒から視線を感じる始末であった。
「[トーラス・シルバー]絡みは部活連会頭として一喝したからな。そもそも、CADのお陰で勝てるというのならば、ほぼ自力で勝っている奴らに同じことを言えるのか、という話になる」
「ほのかがいい例だね」
「わ、私は達也さんの作戦のお陰だし……」
CADはあくまでも魔法師の補助演算を担うものであり、それ自体が勝負の結果に直結しているわけではない。起動式・魔法式の創意工夫に加え、魔法師自身の合理的な演算方法、それらを支えられるだけの魔法師自身の肉体的・精神的資本。この三つが勝敗に大きく直結している。
尤も、それを高校生の段階でハッキリと認識できている人間がどれほどいるかは未知数のレベルになってしまうが。
「仮にそうだとしても、最後まで諦めなかったのはほのか自身の意思じゃない。ま、あれだけの根性があればああなっちゃうのも無理はないけど」
「エリカ、あまり突いてあげない方がいいかと思うよ」
エリカが突いたのは[ピクシー]に関する部分であり、それを察したほのかは「わ、私お手洗いに行ってくるね!」と赤面しながら駆け出し、それを見た雫と深雪が付いていく形でほのかの後を追った。
それを見送った悠元の傍にセリアが近付いてきた。
「しっかし、変に目立つのは仕方が無いと思うけど、お姉ちゃんが心配に思えてくるのですよ」
「あのね、セリア。いくら私でもルールの範疇ぐらいは守れるわよ」
原作に無いリーナの九校戦参加。尤も、国防軍にリーナの素性が元[十三使徒]アンジー・シリウスという事実は伝えていない。九島烈の縁戚という事実は知られている為、その関連の釘差しは既に終えている。
「本当? この前の料理も危うく魔法を使おうとしたくせに」
「そ、それは言わないでって!」
「……達也も苦労していますね」
「悠元に比べれば楽だろうがな」
懇親会のステージでは来賓の挨拶が進んでおり、魔法産業界や魔法師社会でも著名の方々が壇上に立っては挨拶していく。そして、来賓の一人として九島烈がステージの上に立った。流石に一昨年のような試しはせず、高齢とは思えぬ足取りでマイクの前に立つ。
『まず、昨年の九校戦では都合により挨拶が出来なかった事を詫びよう。若き魔法師たちに私のような“時代遅れ”の老人が通用するかどうか分からぬが、一つの言葉を送ろうと思う。それは、「使い方を誤った大魔法は使い方を工夫した小魔法に劣る」ことだ』
それは、一昨年の九校戦でも口にした言葉。それに聞き覚えのある各校の3年生徒は驚くような素振りを見せていた。それを視線で追った後、烈は言葉を続ける。
『今の3年生には聞き覚えがあるだろう。そう、私が一昨年にこの場で同じ言葉を投げかけた。いかに優れた魔法があろうとも、いかに優れたツールを使っても、それで勝敗が全て決するわけではない。最後に勝負を決めるのは、ここにいる選手の意思とスタッフたちの意思が噛み合った時だと私は思っている。私はその創意工夫を期待させて頂く』
烈が言いたいことを終え、会釈をして退場していく。その姿に会場から拍手が贈られた。色々罪は有れども功績が大きい一端を示した形となり、これには選手として会場にいる光宣も嬉しそうに見ていた。
そして、魔法師社会の著名人となれば当然悠元も無関係ではない。
『最後に、師族会議議長・神楽坂悠元様』
司会のアナウンスで会場が騒めく。烈の挨拶の前に戻ってきていた深雪や雫に「行ってくる」と告げると、返事を待つことなくそのまま歩き出し、数歩歩いたところで飛び上がった。
そのままステージの上に立ったまま着地すると、マイクの前で会釈をしてからマイクを手に取った上で話し始める。
『ご紹介に与りました、第一高校部活連会頭ならびに師族会議議長・神楽坂悠元です。まずは昨今の世界情勢に関わらず九校戦が再開催へ至ったことは喜ばしいことです……では、ここから色々言わせていただきますが』
わずか十代で日本魔法界のトップに立った人間。しかも、元十師族・三矢家直系という事実は現3年生世代なら知られている事実。その彼が一体何を言うのかと他校の生徒の注目が集まる。
その視線を感じつつも、悠元は話を続ける。
『再開催が決まる前、我が第一高校の出場に関する賛否―――主に解散された[トーラス・シルバー]に関しての事象が多かった。言い方は悪くなるが、仮に出場していなかった場合は「所詮その程度のレベルでしかない」と自分たちが認めてしまっていたことになる、と気付いていたのか?』
世界的に名を知られた三高の[クリムゾン・プリンス]や[カーディナル・ジョージ]という前例が認められているのに、同じく世界的に知られた[トーラス・シルバー]を認めない時点で九校戦のレベルを“著しく下げる”事に繋がりかねない。ひいては出場する選手が相手に[トーラス・シルバー]がいるだけで勝てない時点で、選手のレベル上限が“視えてしまう”ことにも繋がる。
確かに、勝利の裏側に[トーラス・シルバー]が貢献しているのは事実だが、いくらお膳立てしても最後に物を言うのは選手自身の力量と確固たる意志、そしてエンジニアを信じ切れる勇気。それらがすべて噛み合った人間は順当に成績を残しているだけ。
『一昨年、私の祖父にあたる上泉剛三はこの場でこう述べた。「最後に勝つことが出来る者は、最後まで諦めなかった人間」と。それは我が第一高校の選手たちも例外ではない。口を出す暇があるのならば、一つでも多く努力すべきだと思うのが賢明な判断である―――と、九校の部活連会議でも述べさせてもらった』
一昨年の新人戦アイス・ピラーズ・ブレイク優勝と新人戦モノリス・コード優勝、昨年のピラーズ・ブレイク男子ソロ優勝とスティープルチェース・クロスカントリー男子優勝。誰も文句がつけられない成績を残す人間の言葉に、会場は静まり返っていた。
『今年は魔法科高校九校で行う最後の九校戦。ここにいる選手全員が悔いの残らない戦いを切に望む』
言いたいことを言い終えると、マイクをスタンドに戻してステージ横に退場していく。会場に声が戻ったのは、悠元が一高の集団がいるテーブルに戻ってからであった。
◇ ◇ ◇
懇親会後、私服に着替えた面々は一高の作業車に集まっていた。1年メンバーとなる詩奈と侍郎は話程度に聞いていたものの、キャンピングカータイプの作業車には目を白黒させるほどだった。
「にしても、随分ハッキリ言っちゃったわね」
「あれぐらい言っても尚文句を言うのなら、俺には関与できん範疇の問題となる。それこそ強力な陣容を擁する三高ですら文句を言ってたらしいからな」
大体、[トーラス・シルバー]云々で文句を言うのであれば、それこそ歴代の一高メンバーに対して同様の発言が出ていてもおかしくはないし、三高の[カーディナル・ジョージ]こと吉祥寺真紅郎が選手兼作戦参謀を務めていることだって他校からすれば槍玉に挙げられる案件になってしまう。
「三高の連中もか……まあ、達也は何だかんだ強いからな」
「レオ、俺はこれでも普通の魔法師には負けるんだが」
「そうやって弱さを認められるのが達也の強みだと思いますけど」
保持している魔法のせいで誰よりも強さと鋼の精神を求められたからこそ、今の達也がある。その事情全てを明るみにすることは出来ないが、達也の周囲にいる人間はその背景を多少なりとも把握している。
「しかも、『棄権しろ』とか宣った奴らもいたから、部活連合同会議で『文句を言うようなら九校戦に出てもらわない方が賢明な判断だ』とハッキリ言ってやった。そのついでに国立魔法大学学長にも話を通しておいた」
別に脅迫はせず、ただ『同調圧力で一校に出場を辞退させるような事態を国立教育機関たる魔法大学は許容されるのでしょうか?』と質問を投げかけたに過ぎない。それを送ったのは[トーラス・シルバー]の解散直後だったこともあって、対応はすさまじく早かった。
大学側としても入学の確約を取り付けたところで辞退なんかされれば、魔法界からの信頼が地に落ちかねない。なので、魔法科高校各校に対して九校戦の再開催の支障となるような誹謗中傷の流布を禁じた。
「2年連続で種目優勝している悠元に物を言える人間なんて、そうそういないからね。僕ですらも少し恐縮しちゃうよ」
「俺は別に幼馴染や友人相手に高圧な態度を取る気なんてないんだが」
「嘘ですらも現実にしちゃう悠元はジゴロ」
「やめて」
競技は明後日からで、それにしても『リラックスし過ぎている』と言われれば否定できない。既に準備が整っている中でこれ以上何をすればいいのかと言えば、精々最終調整と作戦の確認ぐらいしかない。
「言うまでもないだろうが、個人戦に入ると俺はほぼ団体戦の面倒が見れなくなる。なので、采配に関しては七宝に放り投げたから、部活連メンバーは必要な時だけフォローしてやってくれ」
個人戦の日程は団体戦の後で実施される形となる。今年の場合は試験的な運用も加味されている為、午前中は団体戦の試合が実施されて午後に個人戦の試合が組み込まれている。一昨年のような人数配分に戻した場合はその限りといかないだろうが。
更に、3年組の調整部分は悠元が単独で行い、達也には深雪に集中してもらう算段だ。
「ちなみにだけど、一昨年みたいなCADの乱発は考えてたりする?」
「アレは二木先輩の我儘もあったから、そこまで酷くはならんよ。CADに関しては」
「含みのある言い方をしてるあたり、魔法はそうじゃないんですね……」
変に新型CADを乱発したところで、開発第三課の仕事を増やすだけでしかない。なので、CADについては競技用にダウングレードしたものを使用することで折り合いをつけている。その代わり、魔法については更にブラッシュアップさせたものを投入する。
「今回の競技で使用する魔法については、殆ど達也に目を通してもらってる。見せていない隠し玉もいくつかはあるが」
「や、やっぱり……大丈夫でしたか、達也さん?」
「問題は一切なかった。既存術式のブラッシュアップでここまで改善させるとなると、俺でも出来ないことだからな」
無理に新たな術式を出す必要はないし、それならば既存の魔法をブラッシュアップするだけでも戦っていける。万が一を考慮して新たな術式は何個か用意しているが、少なくとも本戦において大きな変化を迫られることは無いと踏んでいる。
「さて、休憩も済んだから調整の続きでも進めるか」
「まだ調整するの?」
「モノリス・コード用に投入する新型の術式がいくつかあるからな。完成すれば、相手の視認を完全に封じた上で勝利できる」
2年連続で勝っていても、将輝がれっきとした実力者なのは確かな事実。だからこそ、完膚なきまでに叩き伏せる必要がある。これまでの戦績で心が完全に折れていない頑丈さだけは尊敬に値すべきことだが、この心情を本人に対して述べる気はない。
「自重をかなぐり捨ててもいいのなら[ファランクス]の絨毯爆撃で瞬殺する方法はあるが、達也と光宣の活躍の場を奪う気はないからな。あのバカはいい加減自分のやっていることを学べって言ってやりたい」
「まあ、例え勝負がどうあろうとも私は悠元さんのものですけれど」
「深雪……」
他の友人がいる前で堂々と“悠元のもの”だと発言した深雪に対し、隣で聞いていた達也は反射的に頭を抱えながら呟いたのだった。
スピンオフ新刊買って読みました。感想は細かく言うとネタバレになるので避けますが、一言で言うと『あいつら、喧嘩を売った相手を間違えすぎだろうに』に尽きます。