魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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高校最後の九校戦④

 九校戦三日目。本戦団体はバトル・ボード男女決勝とアイス・ピラーズ・ブレイクの男女ペア決勝リーグとソロの予選・決勝、個人戦はアイス・ピラーズ・ブレイクの予選と決勝リーグという日程となる。

 一高の選手はバトル・ボード男子に六塚燈也、女子に光井ほのかの二人が決勝に進出。ピラーズ・ブレイクは男子ソロに宮本修司、男子ペアは吉田幹比古と西城レオンハルト、女子ソロは千葉エリカ、女子ペアは北山雫と六塚泉美の布陣となっている。

 本来、氷柱の精製に時間が掛かる都合で試合数が制限されていたが、神坂グループが施設を買い取ったことに伴って改修工事を行い、天神魔法に抵触しない範囲で氷柱の魔法精製技術が確立したため、試合数の制限はほぼなくなった。

 

 元々は悠元が夏に美味しいかき氷を作りたいがために魔法を設計した結果、高さ100メートル程度の氷柱が精製されたものをダウングレードした産物だと知るのは……彼と親しい友人のみが知る事実であった。またの名を黒歴史。

 

「他で忙しかったからあまり関われていないが、問題はなさそうか?」

「そうだな。しかし、エリカは意外だな」

「……否定できないのが悔しいわね」

 

 エリカの魔法スタイルからすれば、自身から動くことがないピラーズ・ブレイクは肌に合わないと思っていた。だが、他ならぬエリカがピラーズ・ブレイクの出場に意欲的だったため、今回のメンバーに加えた経緯がある。

 

「九校戦が終われば、あたしは千葉の人間じゃなくなるけどね。あのオヤジに意趣返しの一つぐらいはしておきたいのよ」

「理由は分からなくもないけど、てっきりミラージ・バットに立候補するかと思ってたよ」

「ミキ、あたしの場合は基本地上限定だから」

 

 それと、ペアに選出されたレオの存在もエリカにとって拍車を掛けていた。戦闘スタイルが似た者同士の人間が出るとなれば、負けていられないという面が出た形だ。

 

「その為の魔法は用意して貰っちゃったけど……[トーラス・シルバー]に掛かると朝飯前のように準備されたのは笑いしか出てこなかったわよ」

「元という但し書きは付くけど」

 

 基本近接戦闘特化型のエリカで、入学したころは遠隔操作型の魔法に一苦労していた。だが、悠元との関わりで強化された結果、基本的な現代魔法―――八系統魔法を使いこなせるまでに成長し、一科生でも頭一つ以上抜きん出た実力者にのし上がった。

 

「それに、今回の技術は大陸の魔法を参考にしながら組み立てたからな。エリカなら行けると踏んで渡してるし、練習でも問題なかったからな」

「……まあ、頑張るわ」

 

 どこか釈然としない様子を見せつつも、調整を終えたCADを手にしてエリカが先に天幕を後にしたのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 本戦は今日の競技が終わるとミラージ・バット、モノリス・コード、マギテクス・ボールの三種目を残す形となるが、大差をつけている一高がここでも上位入賞すれば三高の優勝の可能性は大きく低下する。

 新人戦で挽回は十分可能かもしれないが、今年は新人戦だけ湘海高等学院が競技に参加する。当該校の成績は新人戦における順位として残るが、本戦に参加しないため九校戦の順位にはカウントされない。だが、他の魔法科高校からすれば順位変動に少なくない影響を与えることにも繋がってくる。

 午前の最初はバトル・ボード決勝とアイス・ピラーズ・ブレイクの男女ソロ・個人予選が並行する。バトル・ボードの結果はと言うと、男子は燈也が危なげなく優勝した。

 

「ほのかはずるいのじゃ。わしの取っておきすら躱しおって。その胸に秘密があるのかのう?」

「何もないから!!」

 

 3年女子決勝は一昨年の決勝でデッドヒートを演じた一高:光井ほのかと三高:四十九院沓子。今回も沓子の妨害を達也への想いで乗り切ったほのかに軍配が上がり、沓子は2位となった。

 

「沓子の気持ちは分かるけど、沓子も十分ズルい」

「雫!? な、何をする気なのじゃ!?」

「言っとくけど、ほのかも同罪」

「ええええっ!?」

 

 数分間、三人だけとなった控室……何かをやり遂げた雫と疲れ切っていたほのかや沓子の姿を見たものは、何があったのかを悟って黙っていたのだった。

 そうして予定通り午前の試合が終わり、昼休みの休憩となった。

 

「六塚君とほのっちが優勝、ソロは修司とエリカっちが無事に決勝進出、個人も予定通り全員が決勝リーグに上がったね」

「正直、出来すぎな部分もありますが……」

 

 由夢の指摘に苦笑を浮かべたのは光宣。予選がそこまで強敵に遭わなかったのも一因だが、決勝は四人以外の知り合いで言うと、3年組は一条将輝、2年組は黒羽亜夜子・文弥の姉弟が決勝リーグに上がってきている。しかも、二人は三高の選手と同ブロックにいたが、それを破っての決勝進出。

 なお、愛梨は医師の判断で大事を取って棄権となった。自力優勝の可能性は無くなってしまったが、こればかりは仕方がないだろう。

 

「達也は何か聞いてたりするか?」

「母上に聞いてみたが、どうやら母上が発破を掛けたようだ」

「叔母様がですか? 珍しいですね」

 

 達也が聞いた限りでは、どうやら真夜が黒羽家を焚き付けたらしい。その背景には慶春会で悠元に対する無礼を働いた部分もあるようだが、現当主である貢の達也に対する態度を見た真夜が『冷酷な怒りを見せた』形だと達也は述べた。

 

「『昨年の時点で目立った以上、出場を控えさせたら逆に悪目立ちしますもの』と言っていた」

「それって、黒羽姉弟が噂の通りだと捉えていいのかい?」

「ああ。正確には再従兄弟だが、四葉の血は引いている」

 

 秘密主義の四葉家にしては思い切った判断だが、黒羽姉弟の噂を事実化することで黒羽の真の役目を隠すと共に、達也や深雪、彼らと親しい人間に対する脅威を分散化させる狙いもあるのだろう。

 尤も、達也は口にしなかったが、真夜との通信の中でモニターの下方向から呻き声のようなものが聞こえたが、それについては敢えて触れなかった。画面に映る母親の機嫌を損ねると何かしらの被害が来ると判断してのもので、葉山をはじめとした使用人の負担を考えてのものだった。

 その後、葉山から『賢明な判断を頂き、真に感謝します』という文言を聞いた事で、達也の気遣いはプラスに働いていた。

 

「にしても、エリカっちの魔法は凄かったね。影の斬撃で氷柱を破壊しちゃうなんて」

「悠元が開発した魔法でないと出来ないわよ、あんな芸当」

 

 剣術を嗜むエリカの戦闘スタイルを生かすため、悠元は魔法を提供した。

 術式名は[幻影奇襲(ファントム・レイド)]―――周公瑾が苦心した[哮天犬(シャオビェンチェン)]と千葉家の秘剣[切陰(きりかげ)]の術式をベースにして、影を媒体とした遠隔操作型の魔法斬撃で任意の対象を斬る魔法。

 斬撃の形状や効果範囲、数などは術者が自由に決められるため、自由度が高い代わりに術者の技量が要求される。そして、使用している術式の関係でエリカの専用魔法(ワンオフ)となっている。

 

「まあ、あの魔法はエリカが使える技術を使ってるから、エリカ以外には使えないのも事実だけどな」

「悠元なら真似できそうな気がするけど」

「その魔法を使う理由が無い」

 

 新陰流剣武術は千刃流の大本となっている剣術だが、態々ダウングレードさせた技を使う理由が無い。それならば使い慣れている技術で威力を抑えた方がまだマシという判断だった。とはいえ、エリカがいる手前なので『敢えて同じ魔法を使う理由が無い』と返した。

 

「そんな悠元も予選で氷柱を全て斬り倒していたがな」

「面倒になりそうなら[爆裂]で片を付けていたけど」

「あはは……」

 

 悠元の予選は全て魔法の斬撃で片を付けて決勝進出。深雪の場合は[氷炎地獄(インフェルノ)]を主体とした戦術で危なげなく決勝に進んだ。多彩な術式を駆使する光宣は言うまでもないだろうし、理璃に至っては[ファランクス]で容赦なく氷柱を圧壊させていた。

 

「決勝リーグは特に作戦を変える必要もないだろう。悠元は予定通りに行くのか?」

「ああ。ルールに抵触しないのは確認できたからな」

 

 悠元の決勝リーグは一高と二高、三高の代表による形となった。なお、アイス・ピラーズ・ブレイクではある意味暗黙の了解となっている服装については、一昨年と同様に羽織袴姿となったが用意したのは千姫で、この大会の為だけにオーダーメイドしたことも耳に挟んでいる。掛けた金額については耳にしたところで何も出来ないため、聞くのを止めた。

 

 深雪の服装については一昨年と同様に白の単衣と緋色の女袴となったが、これは深雪の我儘が主な原因だった。曰く『一昨年と同じ格好にすることで、私が誰のものなのかを示すことが出来ますので』という言い分。

 それを聞かされた側の悠元としては惚れた弱みもあって黙認せざるを得ず、達也も諦めたように衣装の注文をした事実があったことを述べておく。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 午後からアイス・ピラーズ・ブレイクの決勝リーグが開始。今年は個人戦の好カード―――主に悠元と将輝の対戦が控えている―――があるため、団体ソロ・ペア決勝リーグが男女同時に開始。これまで氷柱の精製能力で出来なかったスケジュール進行が可能となったため、4つの試合会場で次々と試合が消化される。

 団体ソロの男女決勝が終了次第、個人戦の3年代表戦決勝が実施。ペア決勝終了後に2年代表戦決勝となるため、技術スタッフや作戦スタッフに掛かる負担はこれまで以上に重くなっている。

 

「悠元の気遣いが無かったら、俺でも倒れていただろうな」

「本気なのか冗談なのか判断に困る台詞は止めろ」

 

 団体ソロと個人3年は達也が調整を担当していた。今年になって漸く同性同士でのサポート体制が出来たという点では一つの進歩であり、これまでフォローしていた深雪なりの“兄離れ”の形なのかもしれないと達也は内心で感じていた。

 

「修司とエリカは問題なく優勝、ペアの方も問題はナシか。第一試合は呆気なかったな」

「開始1秒弱で相手のピラーを全て破壊した側がそれを言うのか」

 

 決勝第一試合は悠元と二高の代表の対戦だったが、持ち前の魔法展開能力で相手の魔法を待たずに試合を終わらせた。控室の向こうでは第二試合が始まろうとしている所だった。とはいえ、二高の代表と将輝では勝負の結果など分かり切ったようなものだが。

 

「将輝との対戦が控えている以上、無駄に魔法力を消費する道理もないからな」

「悠元は一条が[爆裂]以外の手を使ってくると考えているのか?」

「無論だ」

 

 最有力候補は将輝の戦略級魔法[海嶺爆裂(オーシャン・ブラスト)]に他ならない。元々[爆裂]によって昇華系統の相転移魔法を使える彼にとって、[爆裂]が効かない相手ともなれば使わない理由が無い。

 魔法競技で戦略級魔法は大人気ないと思われるかもしれないが、効果範囲や威力を調整すれば戦略級魔法を競技のルール内に収めることは可能。あのベゾブラゾフの[トゥマーン・ボンバ]やジャスミン・ウィリアムズの[オゾンサークル]でも器用な使い方が出来ていたので、似たことが他の戦略級魔法で出来ない道理はない。

 

「一番の最有力候補は将輝に渡した[海嶺爆裂(オーシャン・ブラスト)]だ。俺の[星天極光鳳(スターライトブレイカー)]や達也の[質量爆散(マテリアル・バースト)]と比較すれば、[チェイン・キャスト]を介する分で威力の変動はかなり容易に出来る部類だ」

 

 それに、ピラーズ・ブレイクでは威力の上限を定めていない。範囲や会場設備への損害を考慮するべきところはあるが、対人戦ではないために殺傷ランクを度外視することが出来る。なので、過去の九校戦で悠元は躊躇わずに高威力の魔法を連発していた。

 

「成程、そういう見方からすれば範囲が限定されるピラーズ・ブレイクに使うことは出来るか」

 

 達也が返した後、会場の方から歓声が聞こえてきた。モニターでも将輝が完勝した様子が映し出されていた。これによって1勝同士となる悠元と将輝による決勝戦が確定した。

 

「それじゃ、頑張ってきますかね。達也には念入りに調整してもらったから、不敗神話を傷つけないように最善を尽くすけど」

「俺は別に気にしていないが……勝ってこい、悠元」

「ああ」

 

 元から[トーラス・シルバー]の功績に対してもあまり執着していなかった達也からすれば、別に一敗ぐらいしようとも構いはしなかった。だが、担当している人間の実力からすれば、また不敗神話に新たなページが刻まれるのは確定的。

 達也は悠元に激励を送り、衣装に着替えた悠元はCADを受け取って控室を去っていった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 個人戦:第3学年代表戦の第三種目、個人男子アイス・ピラーズ・ブレイク決勝リーグ第三試合。会場は立ち見の客が出るほどに満員の様相を呈しており、VIP席には十師族当主らがその様子を見守っていた。

 

 第一高校代表の神楽坂悠元。元十師族・三矢家三男で護人・神楽坂家現当主、史上最年少で師族会議議長に就任した人物で、師族会議の提唱者である九島烈が後継者と公言した国家公認魔法技能師。

 

 第三高校代表の一条将輝。十師族・一条家長男で、5年前の佐渡侵攻で敵を食い止めて[クリムゾン・プリンス]の異名を持つに至った魔法界若手ホープの一角にして国家公認戦略級魔法師。

 

 双方共に日本政府から認められた魔法師同士の対戦。銃状デバイスを持つ将輝に対し、両腕にブレスレット型のCADを身に着け、腰にも脇差程度の武装一体型デバイスを持つ悠元。会場にいる観客が固唾を呑んで見守る中、試合のカウントダウンを告げるランプが灯り始める。

 灯火が色を変え、試合開始を告げた瞬間―――双方が魔法を展開した。

 

 将輝はこれまでの敗戦を鑑み、まずは自陣側の氷柱を[情報強化]で強化する方針を取った。速攻で[爆裂]を仕掛けて敗北した事実からすれば、悠元は過去二年間でカウンター戦法を主体としていた。

 一方の悠元も自陣側の氷柱を強化していた。だが、悠元が掛けた魔法は大半の魔法師が見れば[情報強化]のように認識できているが、達也はその魔法に仕込んだ仕掛けに気付いた。エンジニアとして深く関わっているのだから、その魔法のことも聞き及んでいた。

 

(強度的にはギリギリ一条の[海嶺爆裂(オーシャン・ブラスト)]で破れるようにしてあるようだな)

 

 双方共に一手目を防御に割り振った。だが、その選択を取ることも悠元からすれば想定の範疇。次に動いたのは悠元で、[偏倚解放]で将輝側の氷柱に攻撃を仕掛ける。フィールド内に風が吹き荒れるものの、被害は全くと言っていいほどない。

 それに対して一々驚く素振りを見せることなく、次から次へ[偏倚解放]を繰り出す。

 窓の外やモニターを見ながら観戦している達也の許に、扉が開いて来訪者が姿を見せた。

 

「お兄様、試合は終わりましたか?」

「いや、はじまったところだよ深雪。その様子だと結果は聞くまでもないが、おめでとう」

「ありがとうございます」

 

 訪れたのは深雪だけでなく、別の会場で試合していた修司やエリカ、レオや幹比古、それに雫やほのかまで訪れて控室は一気に賑やかとなっていた。そして窓の外に映る試合の様子を見たエリカは、膠着状態の試合を見て“察してしまった”。

 

「で、悠元と一条君は……あー、完璧に悠元の術中に嵌ってるわね」

「そうだね。一度に出せる手数の時点で悠元に分がある」

 

 エリカと幹比古は悠元の魔法の強みを誰よりも知っているからこそ、今の戦況が悠元にとって有利な状況を作り出していることを誰よりも察した。

 

「昨年の練習で私がやられたパターンですね。一条さんには申し訳ありませんが、ご主人様の完封で終わりますね」

「深雪。ここに知り合いしかいないからって、その呼び方は止めた方がいいと思う」

「あ、あはは……」

 

 既に見えた勝負に対する深雪の言葉を聞き、雫は悠元への呼び方に対して一応釘を刺し、ほのかは二人の会話を聞いて苦笑を漏らしたのだった。

 

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