魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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高校最後の九校戦⑤

 試合会場の三高側の控室では、真紅郎が作戦参謀として悠元と将輝の試合を見つめていた。

 

「はあ、一応作戦通りになったと言えばそうだけれど……」

 

 これまで過去二年間の試合では速攻勝負で敗北していたため、将輝が提案したのは長期戦による息継ぎが切れるタイミングか魔法行使中止のタイミングで大会用に調整した[海嶺爆裂(オーシャン・ブラスト)]を使って破壊するプラン。

 真紅郎も聞いた最初は道理だと思ったが、そのプランに最後まで反対したのも真紅郎。理由としては、悠元の元実家である三矢家の人間が例外なく[多種類多重魔法制御]を修得しているという点だった。

 

「確かに、悠元との試合で彼はそこまで魔法行使をしていない。それは事実だけど」

 

 将輝との試合以外に視線を向けると、水素結合による完璧な相対固定防御を行使しながら苛烈な攻撃魔法で相手を完封していた。そんな芸当が出来る時点で十代の魔法師レベルではない。

 それに、将輝が悠元に勝負を挑んだ今年3月の模擬戦のデータは悠元経由で貰ったが、悠元は十文字家の秘術である[ファランクス]を駆使しつつ現代魔法の範疇で決着をつけたことも把握していた。

 この競技で悠元が古式魔法の行使にまで踏み込めば、将輝の勝機は最早ないに等しくなる。

 

「それを正直に伝えたところで、将輝が聞く耳を持たなければそれまでだよね……」

 

 別に将輝自身の聞き分けが悪いとは言えない。それは親友として付き合いが長い真紅郎だからこそよく知っていることだ。ただ、それが将輝の恋愛事情に絡むとよくない方向へ傾いてしまう。

 すると、会場の方からどよめきが聞こえてきた。真紅郎が視線を窓の外に移すと、そこには真紅郎ですらも目を見開いていた。

 

「あれは……火の鳥!?」

 

 真紅郎ですらも冷や汗が止まらないほどの威圧感を放つ存在。それが会場のフィールド上空に顕現していた。

 

  ◇ ◇ ◇

 

(変に攻めてこないな……多分、息切れか魔法力の枯渇を狙ってのものだろうけれど)

 

 そもそも、悠元が選んだ手法は[偏諱解放]によって将輝を焦らす戦法だったわけだが、将輝はそれにも耐えていた。

 そもそも悠元の想子保有量は公表されていないし、悠元自身も正確な数値を把握していない。固有魔法ありきとはいえ天刃霊装を常時展開した状態で[鏡の扉(ミラーゲート)]を駆使し、更には数発の戦略級魔法を放っても“軽い運動”という認識に収まった時点で、剛三や千姫のことを言えなくなりつつあるのは確かだった。

 そんな自分の心にダメージを負いそうなことは一旦心の隅に追いやり、悠元は一息吐いた上で[偏諱解放]の発動を中断。一瞬静寂になるフィールドを見据えながら、悠元は左手を前に翳した。

 

「では、その脆弱な現代魔法でどれだけ耐えられるか見せてもらうよ、一条。天神喚起―――来い、[鳳凰]」

 

 悠元が呟くと同時に、悠元の周囲を七色に光る精霊たちが顕現し、更にはフィールドの上空に巨大な魔法陣が出現。それを門のように潜って姿を見せたのは、真紅に染まった巨大な鳥。その鳥が羽ばたくと、周囲を覆うように赤き光を纏う。

 この会場にいる者ならば、その神霊の存在を知っている。赤き炎を纏い、再生の象徴とも謳われた伝説の不死鳥。最上位神霊が一角、[鳳凰]の顕現に魔法を扱う者達は存在感に圧倒されていた。

 そして、それは一高の控室にいた達也たちも例外ではなかった。

 

「神霊を喚起して、それを使役するって……味方で良かったと心から思うよ」

「それは分かるぜ、幹比古」

「あたしですら冷や汗が止まらないわよ。本当に人間なのかも疑わしいわ」

(エリカは後で悠元からお仕置きされるな)

 

 幹比古、レオ、そしてエリカの言葉に内心で反応しつつ、他の面子の様子を見る。ほのかは存在感に中てられて気絶してしまい、雫が面倒を見ていた。修司は真剣に窓の外を見つめていて、残る深雪と泉美はと言うと

 

「流石悠元お兄様です。もはやあの人など目ではありません」

「泉美ちゃん、思っても口にしてはいけませんよ。ご主人様がかっこいいのは認めますが」

「……」

 

 こちらはある意味通常運転(いつものはんのう)だったので、達也は関わるべきでないと判断して窓の外に視線を移した。その直後、将輝側の氷柱の一本が突如音を立てて崩壊したのだった。

 

 試合の均衡を破ったのは悠元が[鳳凰]を喚起してから。将輝のフィールド全体に高温のフィールドが形成された。将輝側の残り8本となった氷柱も溶けだしており、いつ倒壊してもおかしくはない。

 

(神楽坂……!)

 

 長期戦を選択したのは将輝自身の選択。その様子を見た悠元が膨大な霊圧を持つ存在を呼び出すと、将輝は不利に陥った。この状況を見た将輝は悠元の想子保有量がもたないと判断して勝負を決めに来たのだと推察した。

 どの道[情報強化]で耐え切ったとしても、負けは必定。せめて一矢報いると決めた将輝はコンソールを操作して悠元側のフィールドに狙いを定めた。

 

「これで勝負を決める―――[海嶺爆裂(オーシャン・ブラスト)]!」

 

 そうして放たれた将輝の戦略級魔法[オーシャン・ブラスト]は悠元側のフィールドを魔法式で埋め尽くした。無効化される素振りも無く、悠元側の防御も左程強固ではない。氷柱に付着した水滴が気化し、水蒸気となって悠元側のフィールドが一瞬にして蒸気による濃い霧で覆いつくされた。

 氷柱が崩れる音も聞こえたことで、真剣な将輝の表情が一瞬綻んだ。だが、霧によって遮られた向こう側の悠元は口元に僅かな笑みを見せた。

 

「……これで決着をつけるぞ、一条」

 

 そう呟いた直後、[鳳凰]の姿が光に包まれて巨大な魔法式が展開されると、悠元と将輝のフィールドを囲うように四角柱の半透明のフィールドが形成。悠元は開いた左手を高く掲げた。

 

「術式展開―――[天極劫火(オメガ・フレア)]、発動」

 

 開いた手を握った直後、フィールド内に巻き起こる爆発。衝撃波が将輝や観客を襲うことはなかったが、将輝側のフィールドにあった氷柱は全て消え去り、悠元側のフィールドは8本消失したが中央の1本は綺麗な状態で健在だった。

 戦略級魔法[天極劫火(オメガ・フレア)]―――新ソ連の戦略級魔法[トゥマーン・ボンバ]を改良した戦略級魔法で、特定地点のみを爆撃することによって少ない魔法力で最大威力を叩き出すことに主眼を置き、状況次第では味方への被害を一切出すことなく敵のみを葬り去る戦略級魔法へと昇華した。

 今回は将輝の[海嶺爆裂(オーシャン・ブラスト)]によって昇華した水蒸気や破壊された氷柱の残骸を利用して[天極劫火(オメガ・フレア)]の触媒とすることで、相手の[情報強化]を無視して膨大な化学変化に伴う熱量変化で将輝の氷柱を全て水蒸気に昇華させた。

 

 自陣のピラーが1本でも残っていれば勝ちは勝ちなので、完勝よりも相手の油断を誘った上での作戦勝ちを狙った悠元が上手だった。念には念を入れて[ファランクス]で防御を強固にしていたのは試合後の魔法解析で発覚するだろうが、別にバレても現在の魔法師でそこまでの魔法行使を出来る人間が限定されてしまうため、十文字家の優位性は揺らがない。

 

 別に無傷で勝つことも出来ただろうが、色々考えた結果として相手を油断させる手段を取った。将輝は有している戦略級魔法に自信を抱いているだろうが、その魔法を完成させるための技術を提供したのは悠元。

 佐渡沖では[トゥマーン・ボンバ]に対抗する形で世の中へ出た[海嶺爆裂(オーシャン・ブラスト)]。それに対する皮肉も込めて[トゥマーン・ボンバ]を改良した[オメガ・フレア]を行使した。

 

 呆然とする将輝に対し、悠元は服装を正した上で頭を下げた。この場にいる者やカメラを通して放送を見ている者達にも、日本政府が認めた神楽坂悠元の強さが知れ渡る形となったのは言うまでもないことだろう。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 悠元が控室で制服に着替え終えたところで、珍しい来客があった。それは一条家現当主・一条剛毅であった。彼は部屋に入って悠元の前に立つと、深々と頭を下げた。

 

「此度は申し訳ありません、神楽坂殿。あの馬鹿息子に喝を入れてくれて感謝いたします」

「頭を上げてください、一条殿。個人戦男子はまだモノリス・コード本戦が残っておりますので、将輝がせめて一矢報いようとしてくるかもしれません」

「それは……そうでしたな」

 

 流石に一昨年のようなオーバーアタックは慎むだろうが、感情の昂ぶりで威力の調整ミスをしないとも限らない。その意味でモノリス・コードまで終わってからが本当の“話し合い”になるのだろう……殴り合いになるかもしれないが、流石に弱い者虐めとなるのは御免被る。

 悠元の声掛けに応じる形で剛毅は下げていた頭を上げて悠元に視線を向けた。

 

「前以てお話しておきますが、今回の件で一条家を罰することは致しません。私も当事者側の人間であるが故、変な利害関係に発展させないと断言しておきます。跡継ぎなどの問題についても一条家の家内で決着をつけて頂きたい」

「……温情ある判断に感謝します」

 

 モノリス・コードまで負けて深雪をまだ狙うようならば、将輝を本気で物理的に沈めるしか治療法はないだろう……別に殺す気は毛頭ない。将輝の魔法師としての能力は本物なので、彼が居なくなって日本海側の守りまで担う真似は勘弁してほしいのが本音。

 

「それと引き換えになるのか分かりませんが、将輝には許婚ないしそれに準ずる存在と言うのは居るのでしょうか?」

 

 それは以前レオが抱いた疑問。気になって悠元は少し調べたものの、あまりの複雑怪奇さに匙を投げたほどだった。何故かと言えば、それは将輝の父母の家系構成が原因。

 

 まず、将輝の父方については一条の本家側なのでそれはいいし、父方の祖母についても特に問題はなかった。問題は母方のほうで、一条家現当主夫人の一条美登里の旧姓は『若狭(わかさ)』。

 この若狭家は魔法界の血統で言えば“新参者”という扱いで、美登里の母親は『鶴画(つるが)』の旧姓を名乗っていた。早い話が、若狭家は鶴画家の分家筋にあたる。更に、婿養子という形で美登里の母親と結婚したのは一色家先代当主の弟。

 一色直系である愛梨から見れば大叔父で、将輝の母親は一色と鶴画の血筋を引いている。つまるところ、血縁関係で言えば将輝と愛梨は再従兄妹(もしくは再従姉弟)にあたる。

 

「確か、神楽坂殿の婚約者には茜だけでなく一色家の令嬢も含まれていますが、お聞きにならなかったのですか?」

「変に心労を重ねたくありませんでしたので。結局は将輝の件で悩むことはありましたが」

「重ね重ね、申し訳ありません。一色殿には自分の方から詫びさせていただきます」

 

 なぜこんな問いかけをしたのかと言えば、同年代かつ一色家令嬢である愛梨に婚約者騒ぎが起きていて、将来の一条家を担うことになる将輝にそれがない、という理由付けにならないからだ。

 将輝の女性に対する付き合いが不慣れな部分は家庭環境の影響もあるだろうが、直系で唯一の男子となれば将来の一条家を担う身として政略結婚をする公算は自ずと高くなるだろうし、将輝だってそれを理解していない筈がない。

 

 自分の場合だと高校入学前に泉美との婚約が結ばれていたが、国防軍の件で一度はおじゃんになった。それについては大本の素材世代となる三枝家絡みと言うのもあったそうだ(この辺は剛三や千姫から聞いていた)が、自分に“転生による心身の融合”という変化が起きた段階で二人が元に『悠元の婚約は此方で決めたい』と申し出をし、元も三矢を安定させる意味と悠元の宣言を聞いて了承したと聞いている。

 剛三が悠元を『魔法治療』の名目で国内外へ連れ回したのは、将来の嫁探しという側面もあった。結果として英国の女王の子作りに協力するだけでなく、過去に分かたれたゴールディ家の本家筋を受け継ぐ少女をフランス政府が認めた婚約者として迎えることになった。

 

 悠元の事情は置いといて、国家公認戦略級魔法師となった将輝には将来を託せるだけの存在を求められてしまう。実際に子を産むのは彼と結ばれた女性の役目だが、だからと言って男性側がお役御免とは決してならない。

 単に魔法資質を受け継がせるだけでは意味がない。今までに受け継いだ全てを継承する役目を担うのは間違いなく将輝の義務となるし、一条家に課せられた“重み”を受け止められるだけの心を育てるのも大事な仕事だ。

 

 将輝は5年前の佐渡侵攻で活躍して[クリムゾン・プリンス]と呼ばれるほどの才覚を見せた。だからと言って家の主が直ぐに変わるという事態へは発展しなかった。法律という問題もあるが、現当主が現地での活躍に加えて多方面との交渉事や折衝役を担うことで迅速に対応できた。

 悠元の場合は16歳で神楽坂家の当主となったが、長年の問題となった『伝統派』との和解によって京都・奈良方面の問題事が良好な方向へ傾いたことが功績として評価された。加えて引き継いでいた家業でも実績を出したことで、年齢上は高齢である千姫から家督と家業を継いだ。

 

 この辺は悠元が転生者という強みもあるかも知れないが、将輝が一条家当主として引き継ぐにはこれまで以上の研鑽や努力を求められる。時として人に頭を下げることで自らの非を認める度量も必要となってくる。

 実際のところ、一昨年のオーバーアタックの件は剛毅も観戦していたために気付いており、九校戦後に将輝は『謝罪はした』と述べていたが、当事者の一人である悠元に話を聞いて嘘をつかれたことに激怒した。だが、どうせ痛い目に遭うのが分かっているからこそ、悠元は敢えて剛毅に『本人が折れるまで容赦するつもりはありませんので、その件はこちらに任せてください』とお願いをし、剛毅も茜のことがあるので了承してくれた。

 

「それで将輝の許婚の件ですが、確かに妻の本家筋である鶴画家の令嬢を許婚に推されています。鶴画家は名前ぐらいなら御存知かと思いますが」

「あー、成程。黄里恵(きりえ)ちゃんですか」

「ご存知だったのですか?」

「ええ、自分からしても親族にあたりますので」

 

 原作世界では分からないが、“この世界”では三矢家と鶴画家に繋がりが存在する。悠元の父方の祖父である三矢舞元の妻だが、旧姓は鶴画であった。厳密には鶴画家先代当主―――黄里恵の祖父の妹が舞元の妻にあたる。つまり、悠元と黄里恵は再従兄妹の関係になる。

 直接的な家ぐるみの付き合いこそほぼ皆無だった(舞元が四葉の復讐劇に手を貸していたことと、その後に元へ家督と家業を継がせて三矢本家だけでなく鶴画家とも距離を置いたことが大きい)が、上泉家経由(正確には剛三に付き合わされて)で鶴画家を訪れた際に黄里恵と面識を有することとなった。出会った当時は互いに中学生だったこともあったが、その時点で黄里恵には好いている人がいる印象を強く受けた。

 黄里恵当人も『家から既に婚約のことを言い渡されていますので』と述べていたので、変に気遣われることも無かったし、自然体で話すことが出来た数少ない相手の一人でもあった。

 

「とはいっても、それを知ったのが中学二年の時でしたが……その時には既に?」

「ええ。厳密には佐渡侵攻が起きてから1か月経ったぐらいですが、妻経由で話を持ち込まれましてな。将輝にもそのことは話しています」

 

 佐渡侵攻で将輝は一条の魔法師として存在を示し、功績を挙げた。そうなれば、将輝に期待されるのは彼の子孫世代に繋がる跡取り的な存在。これは別に将輝だけそうなっているというわけではない。現に悠元もそうなってしまっている一人なのだから。

 将輝が駄々をこねても、一色家や鶴画家が諦めるとは思えない。ましてや一色家や鶴画家のみならず、十師族の一角を担う一条家にとっても後継者の確保は今後の師族会議にも大きな影響を与える。

 

 この部分は将輝以外の直系が女性という現状も大きいのだろうし、現に茜は悠元の婚約者で瑠璃は真紅郎に好意を寄せている。鶴画家としては世界的な実績を有した婚姻が一条直系の姉妹によって期待できる以上、残る将輝に白羽の矢を乱立させるのは無理からぬことだ。

 最悪、将輝に子どもが出来なくとも茜や瑠璃の子が魔法師もしくは魔法学の研究者として期待できるため、将輝に対するプレッシャーが必要以上に掛けられていない。これが却って将輝の恋心の暴走劇に繋がっているのは否定できない。

 

 遺伝子同士の相性で許婚を決めるのは倫理的・道徳的な問題がどうしても付き纏う。しかし、これまでの現代魔法の発展における過程でその傾向が顕著に出ているとなれば、それに縋るのが魔法師の家として一番最善策とも言えるだろう。その最たる例は上泉家と神楽坂家で数代おきに行っている婚姻で、これによって護人としての資質の喪失を防ぎながらも更なる研鑽を積み続けた。

 一番いいのは血統の良し悪しに関わらず恋愛結婚出来れば最良だが、現在の魔法界を鑑みるとそこまでに至っていないのが実情。これも魔法を軍事に取り込もうとしたが故の弊害の一つなのだろう。

 

「……将輝が親の定めた許婚について快く思っていない理由は察せました」

 

 悠元や達也も実家から婚約者を決められたが、それ以前に各々の人付き合いが発展しての婚約者であった。悠元の場合は何故か第一夫人のガーディアンだったり、父母世代の未亡人やら元国家公認戦略級魔法師やら、終いには実家の繋がりで通っている学校の保健医のみならず、世界最高峰の実力を有する十師族現当主が愛人となる始末だが、それは一旦置いておく。

 達也の場合は片思い(ほのか)や尊敬からくる恋慕(亜夜子)もあれば、殺し合いに発展してからの関係構築(リーナ)や敵の洗脳による妨害から恋愛感情を抱いた(千秋)ケースがある。関係構築の複雑怪奇さで言えば達也に勝てる相手はいないだろう。

 

 では、将輝の許婚は違うのかと言えば、結論から言えば“同じ”だった。

 

 元々一色家の繋がりが存在するため、将輝と黄里恵は過去に親戚ぐるみでの付き合いが存在する。更には茜が悠元へ恋慕したことで、同じ悩みを持つ立場となった黄里恵と茜、そして真紅郎に惚れた瑠璃は本当の姉妹のように仲良くなった。

 

 一色家や鶴画家の父母・祖父母世代は二人をくっつけようと画策していたわけだが、黄里恵の感情を見て鶴画家が若狭家を通す形で一条家に黄里恵を将輝の許婚へと推した。だが、妹らとの拗れで女性との付き合い方に慣れていない将輝は黄里恵の感情が汲み取れず、親が決めた関係に強制されてのものだと信じ切っている。

 簡単な話、将輝が早合点しているせいで拗れに拗れ、その手段として深雪への恋慕を諦めていないという行動に繋がると考えれば、もっと納得がいく。しかも、当人の女性への気質も相まって、将輝は自分の身を削りながら振舞っている始末だった。

 更に言えば、黄里恵は元々大人しい気質であり、将輝の家柄もあってか自分の意見を押し通せずにいる部分も大きく影響している。

 

「自分が言えた義理ではありませんが、不器用にも程があり過ぎるでしょう……何はともあれ、お教え頂き感謝しております」

「いえ、この程度の事など苦労にもなりません」

 

 最悪、将輝の関係者繋がりで愛梨や茜に話を持っていくことも考えつつ、悠元は剛毅よりも先に部屋を後にしたのだった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 宿泊先のホテルは基本二人一組。それは選手もスタッフも同様であるし、悠元も当初はそのつもりでいた。

 だが、神坂グループ取締役にして師族会議議長という肩書が働いた結果、グループ役員専用のスイートルームが大会中の悠元が泊まる部屋となってしまった。そして、それは悠元の婚約者たちも例外ではなかった。

 もはやキングサイズと言っても差し支えない天蓋付きのベッドを筆頭に複数の人間が泊まれるよう配慮されており、この部屋には悠元だけでなく深雪や雫、姫梨や水波、セリアに泉美といった一高組だけならばまだしも、三高組の愛梨と沓子までもが同じ部屋で寝泊まりしていた。

 

「愛梨、大丈夫か?」

「ええ、優勝こそ出来ませんでしょうが、残るミラージ・バットで活躍をお見せいたします。父経由で見舞いの言葉まで頂いて感謝しますわ」

「流石に突然倒れたと聞いたら、心配しないのも変だからな」

 

 九校戦では対決する形だが、それを引けば悠元の婚約者の一人。魔法師としての活動に支障が出るようならば治療していたが、それが無かっただけでも幸いだった。

 

「とはいえ、九校戦では敵チームだ。それは許してほしい」

「……深雪さんをはじめ、惚れてしまう理由が分かってしまいますね」

「人付き合いでは結構人見知りを決め込んでるけどな」

 

 容姿で寄ってこないように振舞っているわけだが、それに反してバレンタインのチョコの数が増えたという実績がある。それを見た深雪が不満を溜め込んだ結果、悠元に襲撃して放送コードに激突するぐらいの勢いで引っ掛かった事態に至ったのは……今更なのかもしれない。

 

「お兄ちゃんなら学校で好き勝手やっても許されると思うのですよ」

「どこかの元会長みたいに職権を乱用したらアウトすぎるだろうし、後々の悪しき慣例になりかねん行為はアウトだろうが、阿呆が」

「にゃああっ!? でも、これはこれで新しい世界が」

「くたばれ」

 

 シリアス空気を平気でぶち壊すセリアに対して悠元が関節技で気絶させ、これを見た周囲の人たちが苦笑を零したのは言うまでもない。

 

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