魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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建前は投げ捨てるもの

 発足式後の顔合わせにて新人戦統括役の悠元が言い放った言葉に1年女子代表の面々もやや困惑を隠せない。すると、その中の一人である雫が悠元に視線を向けつつ問いかけた。

 

「悠元、そんなにぶっちゃけていいの?」

「よくはないんだろうな。中条先輩の目の前でこんなこと言うのも」

「今更ですか!?」

 

 だが、悠元は『新人戦男子はおまけ』と発言したことを反省しつつも否定しなかった。何せ、現状において各校に進学しているであろう面々を勘案した結果、現段階のまま確実に優勝できる算段があるのは新人戦男子3種目、女子は3種目前後とみている。

 剛三によって全国を巡った際、魔法使いの家系を一通り頭に叩き込むよう言われていた。なので、同年代―――同学年にあたる人間のことも無論把握している。

 

「だが、これでも中学時代は全国を回って魔法使い絡みの家は全部頭に叩き込んでる。残るは突発的に出てくる人間ぐらいだけど……その意味でライバル候補は三高だな」

 

 「クリムゾン・プリンス」一条将輝、「カーディナル・ジョージ」吉祥寺真紅郎、「稲妻(エクレール)」一色愛梨。それに十七夜栞と四十九院沓子。十師族・師補十八家・百家の揃い踏み……正直、考えるだけで頭が痛くなってきそうな面子だ。幸いにして愛梨と栞以外の三名とは面識があり、凡その魔法特性も掴んでいる。

 

「仮に一つの競技で優勝したとしても、すぐ下を独占されたら新人戦優勝も危うくなる。だから、()()()()女子スピード・シューティングと女子アイスピラーズ・ブレイクは上位独占を狙う」

「ま、マジ? マジで言ってるの? 悠元」

「当たり前だエイミィ。そうでもしなきゃ、今年の新人戦優勝は無理なレベルだ。心配するな。その為の算段はあるんだろ、達也?」

「それをこれから考えるんだが……かなり無茶ぶりをするな」

 

 達也の言い分も分かる。だが、悠元は幸いにも技術スタッフの補助も頼まれている身だ。多少の無茶ぐらいは覚悟の上でやることも決めている。それに、この場には完全マニュアル調整できるエンジニアが“三人”いるので、競技用CADの性能をフルに引き出すことが可能である。加えて、例のCADも既に準備済みだ。

 

「ま、そこまで深刻に考えなくていい。今回の九校戦に合わせて“生徒会から発注してた”競技規格適合のCADも予定通り間に合ったからな」

「え? 悠元さん、そんなの初耳ですよ?」

「深雪は知らなくても無理ないよ。だって、その書類を見たのが俺以外だと七草会長と十文字会頭しかいないから。会長も即決して承認してたし」

 

 それは単純にアリバイ工作みたいなものだった。FLTからシルバー・ブロッサムシリーズを九校戦での宣伝も兼ねて使ってほしいという打診の書類を一高の生徒会に送り、それを代表選手が使う関係で真由美と克人だけに見せて話を進めたのだ。こういう時ほど自分の立場というものは役立つと思う。

 

 それが何なのかを達也は察していたが、あずさは首を傾げていた。まあ、これだけじゃなくて起動式のテコ入れも無論する。そのために自分が出る競技の準備は粗方済ませたのだから。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 翌日から本格的に九校戦の練習が開始された。代表選手だけでなく、スタッフも練習に余念がない状態だ。代表選手やスタッフが動いている様子を羨ましく見つめつつ、授業を受けている生徒もいたりするのはお約束といえるだろう。

 九校戦が近いということで、メディアはどこも九校戦の特集が組まれている。魔法科高校という国立の教育機関である以上は個人情報も厳しく、顔写真などのデータは一部を除いて九校戦本番まで公表されない取り決めとなっている。昨年のデータから2・3年にスポットが当たる中、中学時代から活躍している面々―――三高に進学している「クリムゾン・プリンス」こと一条将輝、「カーディナル・ジョージ」こと吉祥寺真紅郎、「エクレール・アイリ」こと一色愛梨の3人もスポットにあたっている。

 そして、そんな記事を鈴音は端末で眺めながら考え込んでいた。

 

(……きっと、『あの子』も出るのでしょうね……)

 

 鈴音の実家である市原家は、元々師族三十家の一つである一花(いちはな)家から降格した現状二家しかない『数字落ち(エクストラ)』の一つ。3年前の佐渡侵攻阻止作戦に一花家が反発して不参加の姿勢を取ったため、数字を剥奪された経緯がある。ただ、上泉家によって迫害などの差別は禁じられたため、一般家庭として気兼ねなく生活できるレベルとなっていた。

 数字落ちの際、分家である鈴音の一家は偶々剛三の息子と知己だったことから、彼の招きで関東に移り住んだ。北陸の本家のほうはどうやら没落したと噂で聞いた程度。その本家にいた娘―――鈴音からすれば従妹である少女は百家の一つである十七夜家に養子として引き取られた、と風の噂程度に聞き及んだ。

 

 そこそこ親交はあったものの、3年前の一件を最後にお互いの連絡を絶っていた。自分には自分の、彼女には彼女の道がある。なら、必要以上に干渉しないのが礼儀だろうと鈴音は考えていた。だが、年齢を考えるなら九校戦に出てきてもおかしくはないと踏んでいた。なので、十師族なら詳しいだろうと真由美に尋ねた。

 

「ふぇ? ふぁふぉうふぇのふぇいひょう(かのうけのれいじょう)?」

「会長、まずは口の中のものを飲み込んでから言ってください。七草家の令嬢がはしたないと思われますよ?」

 

 二人は真新しいスピード・シューティング練習場の休憩室にいた。三連覇は確実と言われている真由美も珍しく気合が入っている。

 その理由は、この前日に練習場の動作確認も含めたデモンストレーションの試合。真由美は一高在籍時代にスピード・シューティング三連覇を成し遂げた佳奈との一騎打ちとなり、そこでは文字通りの“早撃ち”勝負へと化していた。

 そのハイレベルな光景に見ていた生徒も目が釘付けとなった。

 

 結果は―――100-99、98-100、100-100(コンマ単位でも同タイム)。3セットで1勝1敗1分け。2年のブランクがあるにも拘らず、真由美と互角に撃ち合った佳奈の凄さを真由美は感じ取っていた。

 

 佳奈からあれだけ心を折りに来るようなことを選定会議の時に言われたが、それでも折れなかったのは父親譲りのしぶとさなのだろう。それを指摘すると本人は絶対に拗ねるので口に出すことはしないが。

 それに、真由美は1年の新人戦で佳奈に大分お世話になっていた側であり、ある意味“師匠と弟子”みたいな関係ともいえた。生徒会の仕事を佳奈自ら教えてもらったりするなど、可愛がられていた節はあった。

 だからこそ飴だけではなく鞭も振るったりすると理解はしている。それを納得できるかはまた別の問題でもあるが。

 

「むぐ……ふう、別にいいじゃない。ここには私とリンちゃんしかいないわけだし。それで十七夜家のことね……確か、三高の1年にいるわね。リンちゃんの知り合い?」

「まあ、そんなところです。というか、会長はその辺のこともご存じなのでしょう?」

「そりゃあ、リンちゃんの実家のことはある程度聞いてるわよ。でも、一花家の事情なんて詳しいことになったら、それこそあのタヌキオヤジに聞かないと分からない話よ?」

 

 自分の父親を躊躇いなく“狸”と言ってしまう神経はともかく、真由美の言っていることは間違っていない。師族会議で決まったことは全て七草家現当主である弘一が知っており、その子どもである真由美に全て伝わるわけでもない。

 真由美には兄二人がおり、彼らなら知っているかもしれない。だが、彼女自身彼らに貸しを作ってしまうような感じがしたことから、あまり聞く気にはなれなかった。

 

「……それで、どうするの?」

「向こうが話しかけてくれば対応はしますが、昔のようにはいかないでしょう。私は『数字落ち(エクストラ)』、彼女は百家の人間ですから、寧ろこちらが気を遣わなければなりません」

「もう、一々卑下しないの。私はリンちゃんに何があっても、他の誰でもないリンちゃんだって信頼してるんだから」

「身長だけ伸びずに、スタイルだけは立派になった会長が言うと説得力がありますね」

「ちょっと、リンちゃん!? 身長はもう伸びないって諦めてるけど、今でも気にしてるんだから! というか、若干怒ってる!?」

 

 その背丈のせいで『エルフィン・スナイパー』という異名まで付けられている真由美。

 本人は嫌がっているが、各種メディアでは大々的に『エルフィン・スナイパー、スピード・シューティング3連覇なるか』という見出しまで付くほどの名の売れよう。加えて十師族の一つである七草家長女というネームバリューから、男性だけでなく女性からも『お姉様』と呼ばれるほどの人気ぶり。

 

 だが、当の本人は見るからに一人の男子にお熱である、と鈴音は断じる。婚約者のことは以前生徒会室で聞いていたが、どうやら上手くいっていない様子のようだ。

 そのことを悪びれもしない真由美もどうなのかと思う部分はあるが、名家の座から落ちた身としては他人事みたいなもの、と鈴音は思っている節があるのは否定しない。

 

「怒ってはいませんよ? 少し呆れてるだけです。まあ、悠元君なら身長のことはあまり気にしないと思いますが……ライバルは多そうですね」

「……リンちゃん、最近辛辣じゃない?」

「美嘉先輩から『真由美(かいちょう)は甘やかすと調子に乗るから、厳しめに行かないと怠ける』とアドバイスを頂いたもので。頑張ったらこの前美嘉さんから頂いた悠元君の写真データでも」

「よーし、お姉ちゃん頑張っちゃうぞー!」

 

 目の前にいる人間のご機嫌取り(そうじゅう)が本当に分かりやすくて助かる、と鈴音は思わなくもなかった。というか、気になる彼と並び立った場合、間違いなく姉よりも妹に見られるだろうということは……また別の機会の言葉として温存しようと思った鈴音であった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 所変わって、バトル・ボード専用練習場。そのコース脇で競技用ウェットスーツを着ている摩利が体を休めていた。

 すると、不意に差し出された冷たいスポーツドリンクが頬にあたり、摩利にしては珍しくも女性らしい悲鳴を上げた。

 

「ひゃっ!?……って、美嘉さん。驚かせないで下さいよ」

「ゴメンゴメン。でも、少しは水分取らないと午後から動けなくなるよ?」

「……いただきます」

 

 それの仕掛け人もとい同じくウェットスーツを着ている美嘉は、むくれる摩利に軽い謝罪をしつつ言葉を返すと、摩利は渋々それを受け取って口にした。それを見た上で美嘉は摩利の隣に座った。先代と今代の風紀委員長という関係……それ以上に長男の関係もあって親戚という関係。そして、もう一つ…2人の間にはこのバトル・ボードで因縁に近い関係があった。

 

「昨年は辛勝といったところだったね……ていうか従姉妹みたいなものだし、敬語は要らないよ」

「……美嘉(おまえ)が出ていれば、また違ったのかもしれないがな」

「仮定の話でしかないよ。それに、元々バトル・ボードは姉さんが女子アイス・ピラーズ・ブレイクにいたからそれに避けていたようなもの。私の我侭で総合優勝を逃すようなことは御免だったし」

 

 美嘉も一つ下である現3年メンバーの実力を高く評価していた。だからこそ得意としていたクラウド・ボールはともかく、バトル・ボードに摩利が出場することと佳奈の穴を埋めるためにアイス・ピラーズ・ブレイクへと競技変更を申し出た。

 それを摩利からすれば『勝ち逃げ』と挑発されるような行為に思えてしまったことがあり、昨年のメンバー選定会議で険悪なムードが漂った。

 

「分かってはいるのだがな。チームリーダーとしての重さや総合優勝のために、時として妥協をしなければならないというのは」

「ここは私が譲るべきと思った。でも、摩利には悪いことしたなって思ったのは事実だよ」

「いや……私もそういう意味で未熟だと昨年の九校戦後に気付いた」

 

 昨年の本戦女子バトル・ボード決勝。水に関わる競技で強さを発揮する七高に逃げ切る形で優勝はしたものの、相手のほんの少しのミスに助けられた部分で勝てた所を摩利は感じ取っていた。

 九校戦後に一昨年の競技映像を見て、摩利は改めて美嘉の力の凄さを感じ取った。本来減速して曲がるカーブを彼女はなんとボードをレーシングカーのようにドリフトさせるという技巧を見せていた。一昨年は摩利も新人戦に出ていたが、自分のことに集中していてそこまで気を配れる余裕がなかった。

 

 通常、そんなことをすればボードへの抵抗と遠心力で選手が投げ出される危険を伴う行為。

 美嘉は自身とボードの位置を相対的に固定させ、最も負荷が掛かりやすいボードのフィンとボード前方下部に移動・加速系統の水流操作術式を4ヶ所発生させた。つまり水の中で動くタイヤのような動きを意図的に発生させて、その手法を成立させたのだ。摩利が硬化魔法で自身とボードの相対位置を固定するという方法は彼女の手法の一部を使ったものである。

 

「でも、未熟だと分かってるなら方法はある……私の手法、試してみる気はある? 随時4種類のマルチ・キャストができる摩利なら、そんなに難しくはないと思う。ただ…」

「ただ?」

「最初に言っておくよ摩利。この方法はかなり体に負担が掛かる。私の場合はそこに4種類のマルチ・キャストを追加して軽減させてるけど、摩利の場合だと“回数制限”付きの代物。それでも……会得する気はある?」

 

 美嘉の言っていることは事実だ。

 何せ、この手法は最高速度をほぼ維持したままカーブを曲がりきる技術。一時も術式制御が手放せない上に、ドリフト中は身体への負荷軽減を鑑みて移動ベクトル・慣性・空気抵抗・遠心力の制御まで組み込むのが本来の手法。けれど、それは合計9個の術式のマルチ・キャスト―――これは十師族クラスの魔法処理能力が必要になる。一定の回数を超えれば肉体が悲鳴を上げることも美嘉は理解した上で“回数制限”という条件を付けた。

 それを聞いて摩利は少し考え込んだ後、真剣な表情を向けて言い放った。

 

「それを聞いて、私が断ると思うか?」

「まあ、断らないだろうね。摩利は強さに貪欲だし……練習では速度を落とした状態でやるから、そこまで負担にはならないし、万が一は私が止めるから。回数制限は全力でやって一日に“3回”。4回以上やったら、間違いなく骨が折れると考えて」

「了解だ。なら、早速始めようか“姉貴”」

「……ええ、“妹”だからって加減はしないからね?」

 

 一高の最強世代―――その一角である摩利の闘志は燃え滾っていたのであった。

 




俗にいう原作キャラのパワーアップフラグその1。
真由美のキャラが多少崩壊してる気もしますが、本音を言える相手だからこその対応ということで。

市原家絡みの設定は優等生も混ぜた上でのオリジナル設定です。
ご了承ください。

気が付いたらお気に入りが2000の手前……正直、私が吃驚してます。
何故にホワイ? みたいな感じです。

あと、元継の思考が脳筋な面はありますが、私としての元継のイメージは、イメージ元より多少筋肉がついている某キセキバスケ漫画のでっかい主人公格(CV:小野友樹)が私なりのイメージです。……ああ、思考的に『強い奴と戦いたい』というのは一緒でした。 
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