九校戦は新人戦に入る。今年は新人戦のみだが湘海高等学院が出場するため、試合形式も多少変更が加わる。とは言っても、ミラージ・バット以外は予選リーグ形式を採用している為、1ブロックだけ四人ないし四組となるだけで、ミラージ・バットの場合はすべて五人のブロック分けへ変更されるだけ。
今回の新人戦は定期考査の結果からメンバー選出されている為、一部を除くと二科生が半分以上を占めている。悠元が担当するのは侍郎と詩奈の二人だけだが、二人とも個人戦に出ることとなる為、試合が被った場合は技術スタッフにも協力してもらっている。
この二人だけに限らず、数人の一科生も団体戦競技に出場する。流石にエンジニアの部分は1年でフォローするのは難しいために魔工科主体で構成された技術スタッフに任せることとなるが。
「……ここまでとはな」
ある意味悠元の“肝入り”とはいえ、現時点でどこまで出来るのか疑問でもあった。その結果は新人戦一日目のスピード・シューティングとバトル・ボード予選で如実に出ていた。第一高校は団体男子スピード・シューティングで2位、女子で1位。バトル・ボード予選は男女ともに通過と上々の滑り出し。個人戦は男女共に1位となった。
湘海は男子スピード・シューティングで1位、女子では3位。バトル・ボード予選も同組の三高を破って男女共に通過し、個人戦は男子3位、女子2位の結果に終わった。その割を食ったのは三高で、スピード・シューティングでは男子3位の女子2位、バトル・ボード予選は男女ともに予選落ちを喫した。個人戦は男子2位、女子3位の結果に終わっている。
点数は本戦の半分で湘海高等学院が新人戦参加のみとはいえ点数計算されることになるが、新人戦だけで一高が90点、三高が50点、湘海が60点。大きな開きこそないが、一高と三高の二強に一石を投じた結果となった。
「三高が苦戦したようだが……あくどいな」
「そんな意趣返しの為に湘海を設立させるよう漕ぎ着けたわけじゃないけどな」
魔法科高校で掬いきれていなかった魔法資質保有者を引き取り、将来的に魔法分野と軍事分野で人材の取り合いを避けるための施策。ただ、この時点で既に一高や三高と伍するだけの実力を見せたとなれば、大人たちも決して無視は出来ないだろう。
尤も、彼らを道具として使い潰そうとする輩は徹底的に排除する腹積もりだが。
「しかし、詩奈が二木先輩のようなことをしていたのには驚いたが」
「先輩が熱心に教え込んでたからな」
体格的な部分でシンパシーを感じたのか、真由美が詩奈を熱心に指導していたし、かつての経験から佳奈も詩奈の面倒を見ていた。アイス・ピラーズ・ブレイクやミラージ・バットについては身内の観点から深雪が教え込んでいたのは言うまでもない。
「侍郎に関しては俺が徹底的に叩き込んだからな。あれぐらいは平然とやってもらわないと困る」
「明日はクラウド・ボールだけど、悠元みたいなバグった動きにならないわよね?」
「さあな。最近は爺さんや祖母さんが教え込んでいたし……エリカには新作夏スイーツの刑な」
「ぐえええっ……」
こんな一幕もあったが、新人戦全体で一高が団体・個人で新人戦優勝をものにし、2位には新規校ながら湘海高等学院が入賞した。三高が新人戦3位となったことで、本戦競技三種目を残しているにもかかわらず一高の九校戦五連覇が確定したのだった。
◇ ◇ ◇
いくら五連覇が確定しているからといっても、気を抜いていい理由にはならない。とりわけモノリス・コードとミラージ・バットは状況次第で怪我などのリスクが伴うため、作戦の立案はより慎重なものとなる。
新人戦最終日の夜、悠元は達也と共に光宣の部屋に集まっていた。部屋の広さならば悠元が泊まっている部屋のほうがいいわけだが、流石に三高の人間がいる前で作戦会議など出来る筈がない。
愛梨や沓子が口の軽い人間ではないことぐらい理解しているが、あくまで気持ちの問題でもあったりする。
モノリス・コードは昨年の総当たり形式から一昨年の変則リーグ戦・決勝トーナメント方式に戻っており、対戦表は既に公式サイトで公表されている。一高は二高・五高・七高・九高と戦うことになる。
「達也の用事は済んだのか?」
「やるべきことは済んだからな。美月や千秋なら大丈夫だと信じている」
達也なりの妹離れはさておき、三人は作戦の打ち合わせに入る。一昨年の場合は光宣の代わりに幹比古が入っていたが、あの時とは状況が大分異なる。悠元は古式魔法を大っぴらに使っても問題なくなったし、達也も制限の解除で使える魔法の数が増えている。
「基本は達也がアタッカーでいいだろう。魔法の数を敢えて抑えても決勝まではいけるだろうし」
「そうなると、僕は達也さんや悠元さんのサポートも踏まえながら動く感じですね」
「場合によっては達也を陽動に使って光宣がモノリスの解除に回るのもありだな」
奇しくも三人がオールラウンダーに近い訳だが、予選で手の内の全てを見せる必要はない。三高がどんな作戦を考えて来るかは不明だが、まずは決勝よりも予選を勝ち抜くことに集中する。決勝トーナメントや三高対策を考えるのはその後でも決して遅くない。
「今のところは第一試合のフィールドしか告知されていないが、森林フィールドなら俺が休んでもいいだろう」
「自陣のモノリスを守ることを休むと言いのけるのは悠元さんぐらいですよ……」
なお、達也の泊まっている部屋も悠元ほどではないにしろ、婚約者で固められて宿泊している。光宣の場合は理璃との関係が公然の秘密と化している為、彼女の出入りを考慮して一人部屋になっているのは言うまでもないが。
◇ ◇ ◇
大会九日目。本戦のミラージ・バット予選・決勝とモノリス・コード予選リーグ。施設改修によってミラージ・バットを昼間でも夜間と同様にできるようになったため、昼間に予選を行い、日が落ちてから夜に決勝が行われる。
選手兼エンジニアである達也としてはハードスケジュールになるが、深雪の調整は既に完了しており、“奥の手”も含めて準備は抜かりなく行っている。
そして、出場校の中で一際目立つ一高の選手陣。
現師族会議議長にして護人・神楽坂家現当主の悠元、四葉家現当主の長子で次期当主の達也、そして九島烈の孫である光宣。良くも悪くもも名立たる祖父を持つ三人となれば、優勝の最有力候補と見られても別段おかしくはなかった。
その中でも悠元は誰の目から見ても大きなデバイスを左手に持っていた。一昨年に試作した[小通連]よりは小さいものの、木刀サイズの武装一体型CADを持っていることに訝しむ人間は少なくない。
そして一高と五高の第一試合のサイレンが響き渡ると、悠元は木刀サイズのCAD[
「仕込みは飛ばした。後は頼むぞ」
「ああ」
「了解しました」
悠元の言葉と共に達也と光宣が自陣のモノリスを離れていく。二人を見送ったところで悠元は印契を結ぶような素振りを見せると、悠元の周囲に光が集まり、光は数多の揚羽蝶へと姿を変える。
悠元の指示で本来の蝶とは比べにならない速度で森林の中へと飛んでいき、その内の二羽が達也と光宣の肩に乗っかる。二人はそれが悠元の魔法であることを知っている為、驚く素振りを見せることなく各々のポジションに向かう。
そして、先に飛ばした刀身がポジションに到着したのを確認すると、悠元は静かに瞼を閉じる。
「―――見えた。情報を送る」
悠元の魔法[
更にそれが見破られたとしても方向を狂わせる認識阻害の効果も備わっている。これは周公瑾が使用していた[鬼門遁甲]の技術を応用しているため、大陸系魔法に馴染みの薄い魔法科高校の生徒相手では極めて破りにくい。
そして、術者を介して味方に必要な情報を送ることで的確な動きや連携を容易に行うことが出来る。この魔法は昨年に琢磨との模擬戦で見せた[
悠元への負担についてだが、そもそも悠元の固有魔法の特性で負担がほぼ負担にならないという意味不明なことになっており、これだけの魔法を使っても別に片手間程度の負担にしかなっていない。
悠元は敵陣のモノリスの位置を確認すると、魔法を発動。すると、周りに誰もいない筈の敵のモノリスのガードが敗れ、512文字のコードが露出。それを確認した悠元はコードを入力し始める。
規定では特定の魔法を使ってモノリスのガードを解除しなければならない。その射程は10メートルだが、悠元は別にその術式以外でモノリスのガードを解除していないし、規定された魔法を使用して解除している。
その秘密は先に飛ばした刀身にある。複数に分裂した刀身は刻印型術式が組み込まれており、悠元は飛ばした刀身を中継する形で鍵の魔法式を発動。通常、鍵の魔法式は10メートル以内でないと発動しないが、悠元は魔法の発動起点をモノリスの10メートル以内とすることでモノリスを解除した。
従来の魔法では術者が発動起点となるケースが大半で、術者から離れた場所で発動させるとなると、従来は呪符や精霊などの触媒を介する形でのケースが殆どだ。ましてや、術者が視認できない地点から魔法の発動起点を自在にコントロールできるとなれば、それは最早魔法師としての領域を超え、『超能力者』の領域に踏み込む。
その気になればそうすることもできるが、それを隠す為の武装一体型CAD。512文字目を打ち込んで送信した瞬間、試合終了のサイレンがフィールドに鳴り響く。一高と五高の試合は一高の完勝となった。
流石に一昨年の様な妨害による負傷もなく、一高は予選を全勝で通過。同じく全勝の三高と並ぶ形となるが、試合時間の差で一高が予選一位通過、三高が二位通過となった。そして、決勝トーナメントは勝敗数の関係で二高と四高が勝ち上がり、準決勝は一高と二高、三高と四高という形で決まった。
◇ ◇ ◇
モノリス・コードが一段落したころ、ミラージ・バットも全予選を修了。一高は個人戦の深雪に加えてほのかと理璃が出場しているが、全員予選を突破した。ただ、決勝進出の六名の顔ぶれはというと、全て悠元と達也の顔見知りで埋まる格好となった。
どういうことかというと、深雪とほのか、理璃の三人に加えて三高の愛梨と沓子、四高の亜夜子という有様で、ほのかと亜夜子が達也の婚約者で、深雪と愛梨、沓子は悠元の婚約者という有様。これには達也のみならず悠元も苦笑を滲ませていて、深雪もこれには苦笑を禁じえなかった。
「一高の人間としては三人を応援したいところだが……怪我が無く終わることを祈るよ」
「そうだな」
「二人からしたら、そうとしか言えないものね……」
そうして始まったミラージ・バット決勝。悠元から教わっている魔法訓練や飛行魔法の洗練度合いも相まって某超次元アクション漫画でも見ているのかのような激しいポイントの応酬。最早誰が勝ってもおかしくない試合の結果、タイムアップギリギリでポイント取った深雪が優勝を勝ち取った。
あまりの喜びで飛行魔法を使って悠元に抱き着いたことから、その喜びようは本物だった。
「やりました、悠元さん!」
「おめでとう深雪。嬉しいのは分かるが、淑女らしくない行動は感心しないからな?」
「あう……でも、そんな風に言ってしまえる悠元さんに惚れ直しちゃいます」
「……達也」
「すまないが、俺には何も出来ない」
何を言ってもプラスに変換されてしまうのは今に始まった事ではないが、深雪の様子を見た悠元が達也に助けを求めても、求められた側の回答は『打つ手がない』という残酷なものだった。
流石に明日はモノリス・コード決勝が控えている為、流石の深雪も自重したわけだが、この後に待っている展開が予測可能回避不可能となっていることに、悠元は人知れず溜息を吐いたのだった。
いくら惚れた弱みだとしても、限度というものはある。それを無暗に嫌うつもりはないが、かつて千姫に言われた自身の精力を鑑みると“自業自得”の側面もあったりする。
◇ ◇ ◇
九校戦最終日。マギテクス・ボールの予選・決勝とモノリス・コード決勝が行われる。マギテクス・ボールは男子がレオ、幹比古、燈也、侍郎、そして碓氷威満と全学年混成チームになった。女子はエリカ、由夢、香澄、泉美、詩奈の五人でこちらも全学年混成。
基本ルールはフットサルに準じて前後半各20分の計40分で競い、魔法については接触の有無を問わず相手に直接干渉する魔法は禁止されるが、プレイヤー自身のみを対象とした魔法あるいはボールを蹴る際にボールへ魔法を行使する行為は認められている。
魔法科高校ではレッグ・ボールが体育実技のカリキュラムに組み込まれているが、それよりも更に実戦的な競技。とはいえ、一高のエースクラスが揃ったメンバーだと、自ずとこうなる。
「レオが鉄壁すぎよ……相手の心が折れてたわよ?」
「そうか? けどよ、練習の時はああでもしねえと悠元のシュートを防げなかったし」
「そう文句を言ってるエリカっちもあまりのドリブルの速さにゴールネットまで突撃してたし」
「やめて由夢」
点数差はあまりにも他校が可哀想なので言及しないが、圧倒的大差で一高男女が優勝。そうなると残すは本戦モノリス・コード決勝トーナメントのみ。とはいえ、三高は苦戦を強いられる可能性が高い。その理由はメンバーの中に黒羽文弥がいるからだ。
彼の固有魔法[ダイレクト・ペイン]はルール上使える(名前を誤魔化して使用している)ため、四高が決勝に上がってこれたのは文弥の功績が大きい。三高側も対策が無いとは思えないが、三高と四高のステージは渓谷となった。
そして、決勝トーナメント第一試合。一高と二高の試合は岩場ステージ。
視界が開けているステージの為、モノリスの解除よりも相手を戦闘不能にしたほうが速い。そのため、誰かが矢面に立つ形となるのは必定なわけだが、立候補したのは悠元だった。
「……暇だな」
「まあ、否定はしませんが」
達也と光宣がぼやいている眼前には悠元が平然と敵陣地へと歩いている。二高のチームは魔法を放って悠元を止めようとするが、岩が飛んでこようが電気を浴びせられようが、悠元は立ち止まることなく歩を進めるだけでなく、傷を一切負っていない。
別に悠元が魔法を使っていないわけではなく、武装型干渉装甲魔法という魔法を使用している。これは[情報強化]や[接触型術式解体]のように術者の周囲を覆うタイプのもので、この魔法は現在悠元しか使用できない。
纏っているのは[ファランクス]だが、あらゆる物理現象を受けても無傷でいられている。彼我の距離が20メートルに差し掛かったところで、悠元は手を翳して[偏倚解放]を発動。二高チーム三人を瞬く間に気絶させて戦闘不能に追い込んだ。
一昨年で将輝が八高にやった時のような戦いで完勝した一高。これは悠元の将輝に対する“返礼”でもあり、無論挑発も兼ねていたのだった。
ハイライト気味になっているって? 反省はしますが後悔はしていません(ぇ