魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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全てにケジメを

 後夜祭のダンスパーティーがそろそろ終わりを迎えようとした頃に、深雪は庭へと抜けだした。すると、そこには先に抜け出していた将輝が立っていた。将輝は深雪の姿に気付くと、少し申し訳なさそうな表情を見せた。

 

「司波さん、祝賀会もあるのに抜け出させてすまない」

「いいえ、構いませんよ。それで、お話があるとのことでしたが……」

 

 軽いやり取りを終え、将輝は真剣な表情を深雪に向けた。それに対して深雪は冷静を装うような仕草を見せて将輝を見つめる。見つめられた将輝は一瞬動揺したが、それに臆することなく話し始めた。

 

「司波さん、俺は君が好きだ。司波さんが神楽坂と婚約していることも承知している。だが、俺は神楽坂よりも君を幸せにすることが出来ると思っている」

「……」

 

 内心、深雪の心情としては『自分の愛している異性を貶された』ことと、婚約はあくまでも『二人の関係を公に認める』ものでしかない。それを知らずに告白した将輝に対して少しばかり怒りも抱いていた。

 更に、深雪の婚約は四葉分家が達也と悠元に対して掛けた迷惑を形として示した性質も併せ持っており、ここで婚約を解消するようなことがあれば、達也を快く思わない分家当主達が叛意をぶり返すことになるかも知れない。

 

 そして……一昨年の新人戦モノリス・コード決勝で将輝がやらかしたオーバーアタック未遂の行為についても深雪は未だに許していなかった。二人が怪我を無かったことに出来るとしても、審判が三高に忖度したとしか思えない判定を下した格好で、それに甘えて将輝は謝罪もしなかった。

 十師族―――“最強”の一角を担う身として公の場で頭を下げない意味は、四葉直系の次期当主筆頭として数多くのことを学んできた深雪も理解している。だが、最強でありながらも自分の非を認めて平然と謝罪できることも立派な強さの一つということも知っている。

 

「好いていただける気持ちはありがたいのですが、私に一条さんの気持ちを受け取ることは出来ません。先日の時と似たような答えになってしまいますが、私は心に決めた人と婚約しております。ですので、金輪際諦めてください」

 

 達也や悠元は別に気にしてないようだが、深雪からすれば兄同然の従兄と好きな人を殺しかけるような相手を好きになれる理由が無い。それに、将輝の文言にはどことなく“魔法師としての司波深雪”を見ている節が感じ取れてしまい、魔法師ではなく人として見てくれている悠元とは比較にならない、と思ってしまった。

 

「何故ですか? アイツと婚約しているからですか?」

「誤解なさっているようですので説明しますが、私と悠元さんがお付き合いしたのが先で、婚約は私たちのお付き合いを正式に認めて頂けた表明でしかありません。一条さんが婚約に対して如何なる気持ちを抱いているのかは分かりませんが……私の考え方と貴方の考えをご一緒にしないで頂きたいです」

 

 ここでしっかりと突き放すような言い方をしないと、将輝はまだ甘える……そう感じた深雪は冷たく突き放す様な言い方を将輝にぶつけた。それでも諦めようとしていない将輝に対し、深雪はとどめの一言を言い放つ。

 

「そして、来年の2月には悠元さんと正式に入籍いたします。私のことは綺麗に諦めて、別の幸せを掴んでください。一条さんなら、貴方を好いている人はきっといるでしょうから」

 

 悠元との結婚を言い放つと、将輝はその場に崩れ落ちた。彼に対してそれ以上の言葉を掛けることなく会場へ戻る深雪だが、その先にいた人物を見つけると表情を綻ばせた。

 

「悠元さん。迎えに来てくれたのですか?」

「それもあるが、やっぱり将輝と話しておきたいからな」

 

 一条家ではまともに話そうとしたところで殴り掛かられ、結局は一撃で鎮圧した。あの時は自分も大人気なかったと思った節があるのは事実だった。

 

「まあ、祝賀会まで時間はあるからな。先に戻っていてもいいんだぞ?」

「いえ、ご一緒させていただきます。私はただ見ているだけになりますが」

「別に構わないけど」

 

 深雪が後ろに控える形で悠元が将輝に近付く。将輝も近寄ってくる足音に気付いたのか、顔を上げた。余りのショックで泣き顔になっていたが、悠元の姿を見て慌てて袖で涙を拭いていた。

 

「か、神楽坂。何だ、俺を笑いに来たのか?」

「何でそう喧嘩腰なんだ……一条家ではまともに話せていなかったからな。このタイミングなら話せると踏んだからこそ出向いた」

 

 深雪のことは妥協しないが、それ以外の部分では折り合えるだろうと悠元は考えていた。実際のところ、将輝との諍いはほぼ全て深雪のことが原因になっており、それ以外の理由での諍いは……茜との会話を見ていたことに対する侮蔑の発言を悠元が断罪した件ぐらいだ。

 

「お前の父親こと一条殿から謝罪の言葉を受けたついでに、お前の婚約に関する事情を全て尋ねた。一昨年の九校戦後に愛梨がその類で巻き込まれた前例がある以上、将輝も決して無関係とは思えなかったからな」

「……神楽坂は、婚約についてどう思ってるんだ?」

「将輝の懸念する点はまあ、俺も決して無関係とは言えんからな」

 

 遺伝的に相性の良い家同士で婚姻して、魔法使いとしての力を後世に継がせる。一般的な社会常識からすれば古典的な考え方であるものの、血を統制する考え方は皇族や王族などと言った立場の一族なればこそ必要とされるケースは少なくない。

 

 悠元も十師族・三矢家の時に泉美と婚約していたわけだが、婚約を結んだ正式な時期は沖縄防衛戦直後だった。もし十山家の一件が無かった場合は泉美が高校入学した際に公表される形となっていたらしい。この辺は破棄の段階で元から聞き及んでいた。

 長男の元治こそ例外中の例外だが、元継は幼馴染の縁で上泉家へ入った。矢車家との繋がりを考慮して詩鶴と詩奈が嫁ぎ、佳奈は四葉家へ、美嘉は十文字家に嫁ぐ。養子組ではラウラが千葉家に入り、アリサが神楽坂家へ嫁ぐこととなった。

 

「婚姻を決めていたのは主に祖父母世代だが、そこまで厳しい制限は設けられていなかった。相手との顔見知りの有無も考慮されていたから、選択肢の範囲でお前が俺よりも狭いのは否定できない」

 

 悠元によってブーストが掛かり、三矢家は養子を含む全員が将来を既に確定している。その影響は多かれ少なかれ他の師族二十八家にも影響を与えていて、悠元だけでも一条(茜)、一色(愛梨)、二木(真由美)、三矢(アリサ)、四葉(深雪・水波・夕歌)、五輪(澪)、六塚(泉美)、九島(セリア)と十師族クラスの縁を結んでいる。

 特に大きいのは四葉家と五輪家で、前者は愛人も含めると五人と結ばれることになるし、後者については前任者とはいえ国家公認戦略級魔法師[十三使徒]の一角を担っていた。言い訳がましくなるが、別にこんな未来を望んで接してきたつもりなど皆無ではあった。

 

「将輝がそれから逃げ出したいのなら、お前が今もっている全てを投げ捨てなければならない。一条家の人間であることも、[クリムゾン・プリンス]の肩書きも、国家公認戦略級魔法師の地位も、そして国籍も全て。それは言わずとも理解しているだろうが」

「……」

「お前が一条将輝として生きる選択をする以上、どうあっても付き纏う。茜ちゃんと瑠璃ちゃんの事を鑑みれば、尚のことお前に対する風当たりは強くなる。なら、逃げるのではなく自分なりに婚約と向き合ってみせろ」

 

 将輝の女性に対する振舞いは家族的な面と遺伝子に基づく婚姻の面が変に絡み合った結果。将輝が全てを捨てたとしても、今度は一色家や鶴画家の養子にする可能性だって無くはない。それは口にせずとも将輝だって想定位はしているだろうと思う。

 

「大体さあ、お前は相手の意思をちゃんと聞いたことはあるのか?」

「いや……でも、こうしてれば相手はきっと嫌がるだろうと思うから」

「そんなてめえの我儘に俺や深雪を巻き込むな。現状でもお前の家族やジョージまで巻き込んでいるだけじゃなく、美登里さんの関係筋である一色家や若狭家にまで謝罪されたんだぞ」

 

 一条家で将輝を一撃で沈め、茜との関係を構築(伏せた言い方なのは察してほしい)してから数日後、一色家当主と若狭家当主が神楽坂家別邸を訪れて土下座も含んだ謝罪を受けた。

 最初は愛梨のお見合い騒ぎの件で新たな不祥事が出たのかと思ったが、話を聞くと将輝が暴力をふるった件に関するものだった。第三高校で前田校長と将輝が模擬戦を行い、その後将輝が授業免除を言い渡された件で両者が剛毅に事情を尋ねたそうだ。

 剛毅も同行するつもりだったが、両当主が『一条殿は息子さんの教育に集中してほしい』という理由で謝罪の伝言だけを預かるかたちになった。結局は今回の九校戦で謝罪を受ける羽目になったわけだが。

 

「だから、お前に与える罰は責任を持って黄里恵ちゃんと麗雷ちゃんを娶ってやれ。黄里恵ちゃんから話を聞いたが、彼女からの告白に誤魔化して逃げたことも把握してるからな」

「……」

「さて、そろそろ祝賀会が始まるからお暇させてもらう。後はしっかり話し合えよ」

 

 将輝は気付いていないが、彼の後ろには黄里恵が立っていて、彼女は悠元に対して頭を下げた。それを見た悠元は目礼を返した上で、深雪の手を握って連れて行くようにその場を後にした。

 ここ最近は深雪が悠元の腕にしがみ付く感じが多かったためか、手を握って歩くという行為に深雪の頬は真っ赤になっていた。

 

「深雪さんや、顔が真っ赤ですが」

「不意打ちはズルいです……今夜は私を頂いてくださいね」

「……やれやれ」

 

 手を握ったまま会場に戻ると、クラスメイトから生暖かい目を向けられてしまったのは……ある意味お約束な展開であった。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 祝賀会の夜は……まあ、大変だった。雫とセリアが焚き付け、そこに沓子が悪乗りまでしただけならばまだしも、そこに煽ったのは千姫だった。

 

『今日ぐらいは羽目なんて要りませんよね』

『羽目なんて言葉が宇宙の彼方に飛んで行っている人に言われたくないです』

『悠君がいじめる……』

 

 千姫はあろうことか婚約者たちを巧みに酔わせて、悠元への襲撃を後押しした。九校戦も無事終わったということで今日ぐらいはいいかと思った結果……一緒の部屋で寝ていた婚約者たちの腰を全員抜かせる事態にまで発展していた。

 最悪[天陽照覧]で戻すことも可能だったので、何事も無く良かったと思った。

 

「達也、おはよう」

「ああ。おはよう、悠元……昨日は大変だったようだな」

「もう諦めてるけどね」

 

 神楽坂家から婚約を言い渡されてからというものの、司波家では水波が来るまで深雪と一緒に寝る(だけではなかったが)事が多く、同居者の達也は[精霊の眼(エレメンタル・サイト)]の関係で深雪との繋がりがある為、いくら音や振動が響かなくとも“眼”を通して影響を受けることは否定できなかった。

 なので、流石にラインの線引きを決める際は達也への影響を最小限に抑えるということで深雪も合意している。そして、上位互換版の[天神の眼(オシリス・サイト)]を有している悠元が情動に関する部分のリソース制御を達也にも教えた結果、深雪や水波、偶に司波家を訪れる夕歌との逢瀬も増えたわけだが。

 

「何というか、まだ20歳にもなっていない身だけど、とっとと引退気分にも苛まれる気分だよ。いや、婚約者や愛人を嫌う理由はないんだけどな」

「お前を見ていると、俺は遥かに有情ではあるな」

 

 婚約者が複数の段階でも一般常識からかけ離れているのに、複数の愛人に加えて外国の王室から子種まで迫られている。前世なら修羅場など生温い地獄の光景しか出来ない所業だが、婚約者同士はおろか愛人との関係も良好。

 愛人のうち半分は第一夫人である深雪の身内という部分もあるが、若返ったとはいえ元人妻が三人(深夜、ヴィルヘルミナ、ダリヤ)もいる。あのレリックのせいもあるが、千姫がすんなり認めたのは子育ての経験者という点も大きいのだろう。

 

「魔法界を引き継ぎ、国防軍や政府も押さえ込めるようになったわけだが……裏のことは爺さんと母さんが嬉々として引き受けていたよ」

「母上も関与していそうだな。亜夜子から聞いた限りだと、貢さんも多忙を極めてるらしい」

 

 剛三と千姫曰く『二十二世紀への遺恨は全て排除する』とのことで、奏姫が元継の補佐をする形で上泉家に残りつつも二人は実働部隊として粛清しているそうだ。復讐劇後の反動で武術に傾倒した時も奏姫が差配をして上泉家を支えていたようで、特段問題はなかった。

 

 更に四葉家へも裏家業という形で依頼をしており、報酬の総計は政府の政策予算クラスにも匹敵するらしい。元手は『元老院』の元老たちを整理した際に生じた用途不明金の一部を使っているらしく、四大老として詳しいことは聞いているが、『懐が痛まなければ別にいい』と匙を投げた。

 

「なお、この前母上の下敷きにされていたようだが」

「……達也としては何とも思ってないだろうが、嫁の実家だし一応フォローしておけよ?」

「そうしておくことにする」

 

 そう言えば、司波家の“便宜上の父親”だった龍郎だが、FLTが淡路島で新たに新設することになる研究施設の所長に就任した。とはいえ、実情は本社から派遣される取締役が全ての権限を握る形となり、彼の役割は高い給料を貰って座っているだけに等しい。そして、愛人から妻となった小百合も会社の厚意で同じ勤務地となった。

 このことは嬉々とした表情で深夜から聞かされることになった。

 

「達也からしたら、もしかしたら自分が殺されていたかも知れない相手なのに、暢気と思われても仕方がないけれど」

「それは否定できないだろうな。実際、亜夜子からも『あの父親を跪かせて土下座させましょうか?』と笑顔で提案されたが、流石に断った」

 

 達也のスタンスとしては『変に危害を加えない限りにおいて自発的な制裁はしない』という価値観がある。国防軍を嗾けられることはあったものの、慶春会において悠元と真夜による制裁を受けた以上、それに対してどうこう述べるつもりはなかったし、[トリリオン・ドライブ]の披露によって達也への態度も大分変化した。

 

「仮に俺が乗り気だと、母上が葉山さんまで巻き込んで大事になってしまう。暫くはこちらの味方を増やすほうがいいと判断した。その意味だと悠元の敵は少なそうだが」

「普通なら敵が多いレベルだという自覚はあるんだけどな。どうせ、爺さんの悪名を良い意味でも悪い意味でも引き継ぐことになるのは避けられんし」

 

 感情の振れ幅が一定を超えると『よく分からない感情に変化する』というのは古今東西あることだが、悠元は剛三との付き添いで世界各国を旅して要人と顔を合わせている。驚きも麻痺して『いつものことか』と諦めるようになっていた。

 

「俺とは別の意味でハードな人生だな」

「もう諦めたことだけど」

 

 世界を渡り歩いて第三次大戦の爪痕をいろんな形で味わうこととなった。そんな経験があったからこそ、『恒星炉』のことについても達也と出会う前から準備を進めていた。

 雫経由で潮と面識を持った際、将来のプランとしてそれとなく話したことがあり、潮も現実的な可能なラインとなったら相談してほしいと話していた。南盾島の件にも積極的に関与してくれ、ホクザングループがライバルグループと案件で競っていた時に話を持ち込んで、神坂グループが仲立ちする形で事業の斡旋をしたこともあった。

 

 前世でも社会人になっていなかったのに、今世で未成年なのに社会人同然の働きまでさせられ、色んな人間に対して『しっかりしやがれ』と罵りたくなったのは言うまでもない。

 




メイジアン最新刊読みました。四大老の全名字が把握されたわけですが、彼らも怒る時はあるのですねと感心しました(苦笑)
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