魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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九島家絡みの交渉事

 九校戦は終わったが、まだ片を付けなければならない大きな案件は一つ残っている。それは、宮藤真一と桜庭愛波―――元の世界から飛ばされた九島光宣と桜井水波の帰還についてだ。

 

 愛波については悠元の[領域強化(リインフォース)]で治療したので、調整体に見られる寿命の短さについては解消されている。その際に愛波へ治療魔法を提供したが、彼女の立場や境遇を鑑みれば、四葉家も無下にすることはないだろう。特に向こうの穂波は死別しているようで、彼女に何らかの感情を持っている達也も無下にすることはしないだろう。

 

「ここまで魔法を提供して頂いて、本当に感謝しています」

「お礼は要らないし、元々使うのかどうかすらも分からない魔法を押し付けたようなものだからな。それでも気に病むようなら、向こうの世界の達也たちや九島光宣を救ってやってくれ。それでチャラにしたということでお願いする」

「……成程、この世界の私が惚れてしまうのも無理はないですね」

 

 そもそも、自分の転生特典のせいで絶賛増えまくっている魔法だし、中には現行の魔法水準を大幅に超える魔法が量産されている始末。かと言って、それらすべてを世の中に出すわけにはいかないが、一先ず神楽坂家の書庫へ残せるように全て書き出した。

 それが一月前のことだが、その時点で数億の魔法を書き出す羽目となり、結果として書庫を現在の百倍以上も拡張工事する羽目となった。大事には出来ないので、悠元が過去に三矢家の地下訓練場などを設置した際に使った方法を取った。

 後日、千姫に報告したら『今度は古式の家から愛人でも取りましょうか』と言い出したので固辞しておいた。

 

「それでなぜ納得されるのかは分からないが……時期的に達也が国防軍との諍いで大変なことになるだろう。向こうの深雪をしっかり守ってやることも大事だが、まずは己の身を守り切ることが前提だ」

 

 愛波のレベルアップも兼ねて、同じタイプの理璃や十文字勇人に十文字和美、それにアリサや茉莉花とも手合わせをさせて経験値を稼がせた。勇人はアリサの資質に気付いたようで、理璃から説明をしたので納得していた。本人曰く『弟には今の時点で話しても反抗しそうですからね』と呟いていたのか、竜樹には話していないそうだ。

 

「真一のほうは……かなりレベルアップしてるようだな」

「これでもまだまだですけれどね」

 

 真一は自ら学んだ魔法に驕ることなく、九島烈やこの世界の光宣と手合わせをしているし、何と達也とも手合わせをしているそうだ。達也自身も『自分よりも手数が多い相手と手合わせをする経験は欲しい』とのことだし、真一も『自分の魔法全てが通用しない相手に遭遇した時の対処を学びたい』と述べていた。

 やはり、一度達也に敗れているという事実は真一も痛感しているようで、それに九島の魔法と周公瑾の知識を有していても世界全ての魔法に精通したわけではない、ということは当人が感じていた。

 

 8月末に向けて準備を進めている中で、以前響子から伝えられた藤林家当主が直に話し合いたいという事を思い出し、響子に改めて連絡を取った。丁度向こうも暇だったようで、モニターには制服姿の響子が映し出されていた。

 響子はというと、モニターに映し出された悠元を見て敬礼をしていた。

 

『これは大将閣下。今日はどのようなご用件でしょうか?』

「響子さん、わざとやってますよね? お時間は大丈夫でしょうか?」

『ええ、新ソ連の混乱に関する情報収集の解析を頼まれることはあるけど……それで、何か急ぎの用事でもあったかしら?』

 

 専用回線で連絡したからこその対応だろうが、響子に揶揄われたことを窘めつつも響子に用件を話し始めた。

 

「以前、響子さんから『藤林家の御当主が直にお話したい』と仰っていた件で、三日後に九島閣下が過ごしている伊豆高原の別荘へ出向いていただけませんか? 都合が合わなければ別の日を指定いたしますが」

『その件ね……今父に確認してみるわ』

 

 そう言って響子は携帯型の端末で連絡を取った。すると、返事は思いのほか早く帰って来たのが見てとれた。

 

『父はそれで了承してくれたわ』

「それはありがたいのですが……何も悪いことをしていない筈の藤林家が自分に会いたいと言ってくるのか一番の疑問なのですが」

 

 烈のことを考えれば策謀で九島家を嵌めた張本人と言っても差し支えないし、寧ろ達也に会いたいと言ってくる方がまだ自然に思えた。『それもそうよね』とモニターに映る響子は疲れたような表情を浮かべた。

 

『私も流石に疑問だったの。だから、独立魔装大隊の再編の合間に実家へ帰って問い詰めたの』

 

 響子は悠元と実家の仲介をした際に疑問を抱いたようで、仕事の合間を縫って実家へ直接帰って問い詰めたそうだ。連絡で済ませなかったのは、下手に盗聴される危険性を考慮してのことだった。

 

『悠元君が「伝統派」を正統派の魔法師と和解させたでしょ? その皺寄せが実家に波及したのよ』

 

 百家の中には古来の忍びや修験者、僧侶などと言った古式魔法師が現代魔法師として活動している事実が存在しているし、古式魔法師の一部は師族二十八家へ連なる血筋を残している。その事実はあろうとも、やはり古きものを守ろうとする者達には新たな方法を受け入れることに理解できなくても無理はない話だ。

 だが、元十師族・現護人にして古式・現代の二つの血筋を持つ悠元が『伝統派』を和解させたことで、京都・奈良方面における神楽坂家の地位が向上した。嵐山に建立中の神宮が完成すれば、本家が無くとも影響力が更に高まる。

 

「響子さんの実家が元を辿れば伊賀上忍の一族に繋がることは把握していますが、そこまでの事態になったのですか?」

『話を聞かされた私も半信半疑どころか不可思議としか思えなくてね』

 

 元々『九』の家に対する諍いが先鋭化して『伝統派』へ発展した。だが、その和解をしたのは彼らではなく別の家の人間だった。それもかつて京都に本拠を構えていた古式の大家の人間が出向いたことで、『伝統派』に危機感が募ったそうだ。

 攻撃的な奈良方面の人間が悠元らへ攻撃を行い、悠元が結界術式で鎮圧した事実は京都方面へ伝わり、更に嵐山や鞍馬山の案件を瞬時に片付けたことで二の舞を避けるべく神楽坂家の仲裁案を全て吞んだ。

 京都方面の和解に加えて正統派の力が増すことは、隣接する奈良方面にも影響を与える。奈良の正統派は高野山の一派を中心として結束し、過激な行動をとる『伝統派』に対して通牒を送付。過激な手段すら辞さないという姿勢に奈良の『伝統派』が神楽坂家に助けを求め、神楽坂家が一括して行った正統派との会談の結果、『伝統派』は復讐を諦めて古式魔法師らしい穏やかな暮らしを手にした。

 

「京都に行ったのは周公瑾の件やコンペの件絡みでしかなかったわけですが」

『そう言えばそうだったわね。随分派手にやったことは上司から小言で言われた位よ』

「でも、俺が大々的に介入しなければ国防軍と大亜連合の癒着疑惑まで浮上しかねませんでしたよ?」

『……終わったこととはいえ、耳が痛い話ね』

 

 これで危機感を抱いたのは九島烈をはじめとした『九』の家の先代当主達。烈はこの件に悠元が大いに関係していることを悟り、箝口令を敷きつつも自身の不徳を償う機会を考えていた。

 その最中、四葉家当主・四葉真夜が烈にコンタクトを取ってきたのだ。京都市内にある四葉系列のホテルで密会を行い、真夜は元造の遺言に従って烈を許す代わりに、七草家を糾弾する権利を要求した。

 それを聞いた烈は、七草家の行いを黙認していた自身も“同罪”と述べた上で、七草家の降格の代わりにパラサイドールの件で迷惑を掛けた代償として現九島家の降格と十師族昇格権の剥奪を提案したとのこと。

 

「『伝統派』のことだって、向こうが変に首を突っ込んでこなければ適当にあしらうつもりでしたし。結局は周公瑾が暴走したせいで、俺も無駄に知識を得る形になりましたが」

『そのことは達也君から聞いたけれど、問題ないの?』

「前例という形でピラミッドのファラオの悪霊を祓ったことがありましたので、その経験が生きてくれました」

 

 その結果が師族会議での顛末となった。話を聞いたのは西果新島の一件を頼む時だが、真夜は元造の遺した手紙を読んで『自分なりに気持ちの整理をした』と語った。『姉さんも姉さんだけど、揃いも揃って自己犠牲が強いって悟ってしまってね。父さんもそんなきらいがあったから、自ずと納得出来ちゃったのよ』とも話してくれた。

 加えて、元造の為人を剛三経由で知っている葉山からも詳しく聞き、遺してくれた手紙の信憑性を疑うことなく受け入れたらしい。それを抜きにしても悠元の使用人(愛人)になるというルートになるのは不可解としか言いようが無かったが。

 そのことについても葉山から聞いたが、曰く『しがない執事の私からすれば、年齢の差があるとはいえ奥様が添い遂げるお相手を見つけたことに嬉しく思います』とのこと。

 

「もしかしてですけど、ご実家関連で何か?」

『実家と言うか、厳密にはお祖父様絡みのようでね。父もパラサイドール開発を黙認していた手前、反対できなかったようなの』

 

 響子の説明では、今年の正月に藤林家を電撃訪問していた烈が藤林家当主・藤林長正と会談した。長い時間の会談だったにもかかわらず、長正はその内容を家族に打ち明けなかった。そして、国内事情が落ち着くタイミングを見計らって悠元へ会談を持ちこんだという事実を聞き、悠元は納得したような表情を浮かべた。

 

「成程、閣下は律儀に約束を履行してくれていたようですね」

『え? 悠元君は父の目的が理解できたの?』

 

 どうやら、響子にはパラサイドール関連の件での謝罪ということで話を纏めていたようだ。彼女を含めた三者が関与していて国防軍絡みとなると、パラサイドール開発の件か周公瑾の件ぐらいしかないため、彼女もその話を疑わなかった。

 

「昨秋、九島家を訪れた際に閣下と直接会談したことは御存知でしょうが、光宣を治療する条件に複数の条件を持ちかけました。そのうちの一つが『光宣を軸とした九島家の再構築』です」

 

 パラサイドールの件と七草家の工作黙認、そこに周公瑾への便宜を看過した件で現九島家を信用できる材料が無くなった。その為、師族会議の提唱者である烈本人に責任を持ってもらう意味で九島家を一度師補十八家へ降格させ、更に現当主を含めた連帯責任で数字(ナンバー)を剥奪する。

 そして、光宣を一時的に養子縁組で九島家の外へ出し、九島烈と藤林長正の連名で光宣に再び九島の姓を名乗らせる。戸籍上は長正の養子として登録した後、烈が後見という形で九島家を再出発させることになる。藤林家を選んだのは、九島真言(まこと)の実妹が嫁いでいることもあり、遺伝上の光宣の母親なのだから血縁関係も成立する。

 

 光宣が烈の仕事を手伝っていたことで、九島家の家業についてもそれなりに顔が利く立場。他の兄や姉たちと比べても魔法資質が優れている事実を加味しても、光宣が当主となり得る材料は揃っている。

 

「別に私怨は含まれていませんが、客観的に見ても今の九島家直系では関係の再構築など望めないでしょう。折角和解させた『伝統派』が再び生まれかねない状況を放置するのは『得策ではない』と考慮したまでです」

『……ごめんなさいね、悠元君。本来なら私たち大人がケリをつけなければいけない問題なのに』

「別に響子さんが謝る問題ではないですけどね」

 

 現状、九島家には15期60年の昇格権破棄という枷が掛けられているが、光宣が当主となった際にはこの枷を外すことも明言している。実際、パラサイドールの件では光宣からのメールで早期に気付けた部分も多く、その恩を返すには一番分かりやすい形となる。

 そして、新生九島家には現状護人が管轄している京都・奈良方面の“守護”を担ってもらう。監視については安宿家に当面任せるが、子孫世代が成熟すれば分家を新設して担ってもらうことを考えている。

 

 いきなり十師族へ復帰というのも大仰すぎるだろうが、彼の正妻となる理璃は十文字の縁族だし、戸籍も直系の養子縁組をしているために血の繋がりを考えても反論は出にくい。本家を断絶して分家を新たな本家として再興させる手法は過去にも事例が存在する。

 その後ろ盾として十文字家や神楽坂家・上泉家のみならず、四葉家や三矢家、更には七宝家も申し出てくれた。七宝家は昨年の息子に関するトラブルで十文字家にも少なからず迷惑をかけたので、その罪滅ぼしの様なものだ。

 

「それに、今の自分は師族会議議長の立場ですので、閣下より託された日本魔法界の行く末を律する必要があります。相互に高め合うための研鑽は歓迎ですが、足の引っ張り合いは許しません」

『悠元君の場合は十山家や七草家の一件があるものね。それに九島家のことも』

「大概彼らが自爆して終わったようなものですが」

 

 まだ十代の人間がやるべきことではないだろうが、自分の何倍も生きている人間の不始末をここまで見る羽目になるとは思いもしなかった。これならば好き勝手に生きている剛三や千姫の方が後始末もしっかりしているだけに、彼らの爪を直接飲むぐらいの気概は見せてほしいと思わなくも無かった。

 

『そういえば達也君から聞いたけど、深雪さんと来年には入籍するそうね。これからは義理の従姉弟になるわけだけど……お姉さん呼びはしないで頂戴ね』

「何故です?」

『出来の良すぎる弟を持つみたいで恐縮しちゃうから』

「貴女の能力も大概だと思うのですが」

 

 九島烈はこの件が終わると国防軍の顧問役も降りて、伊豆高原の別荘で遅すぎる隠居生活を過ごすらしい。それだけではなく、健康の一環で本格的な運動を始めることになり、それを聞いた剛三が新陰流剣武術の道場へ連れ込むつもりらしい。その辺は奏姫からの連絡で知った。

 あの見た目に反して肉体は所謂“細マッチョ”だったようで、武術の鍛錬をしながら精力的な老後生活を過ごすようだ。光宣はその話を聞いた際に『まあ、一度決めたことは梃でも動かないので、僕でも止められません』と苦笑しながら評していた。旧第九研の面々を纏めていたのは、その気質もあって逆らえる人間がいなかったのもあるだろう。

 

 現九島家は“工藤(くどう)”の姓を与えられることになる。現当主の保有している会社の経営権などは長正が後見とする形で光宣が保有することになり、業務などは光宣が社会的地位を確保するまで九鬼家や九頭見家がフォローすることで既に合意。騒動のお詫びに神坂グループ系列会社で大口の取引を持ち掛け、十年単位での合意形成も既に取り決めている。

 

 既に社会人となっている現当主直系の子女については、今後の日常生活で不利となる様な裁定はしないが、彼ら自身が師族二十八家の人間へ返り咲くことは出来なくなる。それに不服があるようならば、法的措置も含めた対応をする用意があることも既に伝えているし、最悪裁判沙汰になっても構わない。

 過去の悠元に対する態度も要因の一つになっている為、もしもの時は烈が一喝することも約束してくれたし、現当主の妻の実家も味方につけているので、彼らに拒否権は存在しない。まあ、彼らの子どもが師族二十八家へ嫁いだりするのは敢えて止めないが、それで工藤家が外戚面をすることは許さない。

 

『ベゾブラゾフを瞬殺したどころか、新ソ連の首脳陣を消し去ったのは達也君から聞いたけど、間違いなく剛三さんの孫だって実感したわ』

「念書を書かせても襲い掛かって来た自己中心的な連中に持ち合わせるだけの情けはございませんので」

『達観してるのね……』

 

 光宣の嫁は理璃一人に決めたかったようだが、藤林家以外の上忍三家の血筋を引く服部家や百地家が嫁を送り出したいと申し出て来たらしく、長正が会談を持ちたかったのは神楽坂家の許可を得たいのだろうというものだろう。

 

 話を戻すが、実は理璃の実父が長正の実弟で、その事実は烈と長正の両親以外知らなかったのだ。長正よりも優秀だった実弟は長正の居場所を残すためにも烈に相談し、絶縁同然で藤林家を飛び出した。その部分は理璃の母親が遺した日記にも書かれており、理璃が高校生となった時に明かすつもりだったらしい。

 実弟は真言の妻の実家である富士林家の養子となり、国防軍に従事していた。富士林家に対しても烈は『知人の息子の法的な後見人になってほしい』とだけ頼み込んでいたのだ。これは自身の弟である九島健に対する後悔も含まれていた。

 なお、千姫にそのことを聞いてみたら知っていた。八雲へ直々に頼んで調べていたらしい。そのことを公に話さなかったのは、烈への切り札として持つことで黙らせる意味も含まれていたようだ。義理の母親ながら逞しいと思った。

 

「婚約者の間で色々話がついているので、俺はかなり楽させてもらってますが」

『それでいて愛人もいるんでしょ? 深雪さんのお母さんもその一人だってことも』

「意味が分かりません、としか言いようがありませんが」

 

 なお、こんな会話の裏側で将輝が恋慕されている二人に関係を迫られて追い込まれているのは……ここだけの話である。その事実は真紅郎から一条家の養子に関する相談を受けた時に知ったということも付け加えておく。

 




 明けましておめでとうございます。今年も不定期更新は変わりませんが、よろしくお願いします。
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