魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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セキュリティで血反吐を吐く始末

 USNA首都ワシントンD.C.の大統領官邸ことホワイトハウス。

 8月20日、大統領執務室を訪れていたのはスターズ総隊長ことジェラルド・メイトリクス・シリウスと、スターズ総司令官となったベンジャミン・ポラリスの二名。二人は軽いボディチェックを受けた後、執務室に通されて大統領の前で敬礼をした。それを見たジョーリッジ・D・トランプ大統領も敬礼をし、二人をソファーに座るよう勧めた。

 

「両名共に多忙を極める激務の中、呼び出してすまないな」

「いえ、我が部隊の混乱は既に収束しておりますし、政府内部の混乱に比べれば些細な事です」

「そう答えてくれるということは、君を総司令官に据えたことは正しかったようだな」

 

 エドワード・クラークは連邦軍の軍事法廷で死刑を言い渡され、即日執行された。彼の頭脳からデータを抜き取る案も存在したが、彼程度の人間を喪っても問題はなかったし、何より全世界傍受システムの私的利用は公人として許される範疇を超えてしまっていた。

 エドワードに関する資産は全て没収され、彼に掛けられていた生命保険の保険金に相当する額を“レイモンド・クラークの養育費”という名目で彼の元妻へ支払った。エドワードの両親はまだ生存していたものの、今回の一件をジョーリッジ自らが話した結果として絶縁となり、本来キリスト教では禁忌となる火葬に処して死没した犯罪者が眠る墓地へ内密に葬られた。

 今回の罪状が国家の利益に直結している結果まで招いたため、処遇は“国家の利益を著しく脅かす大罪人により、死刑の判決が下された”という事実だけメディアで公表された。そして、彼が提唱したディオーネー計画は完全に頓挫する格好となった。

 

「さて、両名を呼び出したのは今月末に再訪日するための護衛役だ。別に私は一人でも構わないが、煩く言われないためにも協力してほしい」

「そういう事でしたら、別に特暗号メールでも構わない案件だと思われるのですが」

「その特暗号メールが今使える状況ではなくなったのだ」

 

 ジョーリッジが話した内容の理由は、今年1月にリーナ宛で送られた特暗号メールに起因する。本来の手順を守らないという軍規違反の犯人を探った結果、レイモンド・クラークがエドワード・クラークの保有していた特暗号メールシステムを使ったことが明るみになった。

 ジョーリッジはセリアからその事実を聞き、容疑者をある程度絞り込んでFBIやCIAに調査させていた。そして、エドワード・クラークの出国と同時に自宅を家宅捜査した結果、レイモンドの特暗号メールシステムの流用が明るみになった。

 

 特暗号メールはあくまでも『スターズ』を軸とした連邦軍最高機密の通信システム。その私的流用は厳禁であり、とりわけパラサイト事件で神経質になっていた所に来てのコレであるため、国家科学局は現在進められている次世代型暗号メールシステムの開発を急ピッチで早めることになった。

 無論、国家科学局が夏休みを返上してまでフル回転するという有様となり、流石に過労で倒れては困るということで、連邦政府からも必要な人員を派遣することとなった。このために[エシェロンⅢ]の処理能力を用いる事態にまで発展しており、[エシェロンⅢ]の停止は当分できない見込みとなってしまった。

 

「彼も公人だったので下手に流通させていたとは考えにくいが、そのシステムが自宅で管理されてしまっていたのだ。よって、可能性がある以上は無視も出来ない」

「確かに、万が一アンダーグラウンドに流れていれば、我々の行動が筒抜けになってしまう可能性も有り得ます」

「理解が速くて助かるよ」

 

 そもそも、本来持ち出しを禁じられている筈の機密を自宅に持ち込んでいたどころか、更には身内の私的流用まで至った。こんな人間を放置したら、いくら愛国心を有していても国家への損害は免れない。

 実際のところ、『エンタープライズ』をはじめとした兵器類の引き渡しは痛手となったが、その損失を埋めるための施策を発表することで経済面にフォローすることで国民の溜飲を下げた。

 

「話を戻そう。日本政府もとい“彼”が提唱していた魔法資質保有者の人権保障を行うための国際機関設立に際し、私も調印に赴く」

 

 魔法師に関する機関は国際魔法協会が存在するが、前提となるのはあくまでも『核兵器』に関する事項や実戦レベルの魔法師に対する保障。魔法資質保有者そのものに対する人権を保障する機関とは決して言えない。

 魔法協会は当然否定するだろうが、これまでの動きからしてもそれを否定する材料が無い。更には、下手すれば反魔法主義者を勢いづかせる計画を推進しようとした時点で、彼らに魔法資質を有している人間の保護なんて出来ない。

 

 なので、悠元は如何なる魔法資質であろうとも有用性を見出し、その上で魔法資質保有者の人権保障の必要性を国立魔法医療大学の設立や第一高校における二科生の躍進などで証明してみせた。

 国土で見れば小国の日本で先進的な魔法教育が確立しつつあるとなれば、他の国々も黙っていられない。しかし、それの中核に居るのが十代の少年と言われても侮る輩は決して少なくない。

 

「彼の存在を甘く見る輩は少なくないが、私からすれば『今までの人生で最も敵対したくない存在』だと言いたくなる」

「確かに、彼の年齢なら栄光や名誉に拘る自己主張をしてもおかしくはありません」

「それを一切見せないどころか、要求する素振りすらしない。いや、彼にとって過去の栄光は過去の偉人や著名人に対する評価なのだ、と割り切っているのだろうな」

 

 魔法資質保有者の互助組織―――機関名は『メイジアン・ソサエティ』。本拠地はインド・ペルシア連邦の領土となっているスリランカを独立させた上で設置。スリランカ独立の際は日本の国際開発援助による形で神坂グループ・白河グループ・ホクザングループの合同出資会社を立ち上げ、経済発展を後押ししていく。

 

 ただ、現在スリランカは独立交渉の真っ只中ということで、暫定本拠地は奈良市の旧第九研―――第九種魔法開発研究所跡地に建築したトライローズ・エレクトロニクスの西日本支部内に事務所を置く。そのため、組織の設立調印式は提唱国の日本で実施する。

 調印式には日本、IPU(インド・ペルシア連邦)、東南アジア同盟(台湾・オーストラリアを含む)、USNA(北アメリカ合衆国)、SSA(南アメリカ連邦共和国)、アフリカ連邦、アラブ同盟、新欧州連合と、新ソ連と大亜連合を除く世界各国が調印する。

 

 新ソ連については国家情勢の問題で、大亜連合についてはインド・ペルシア連邦との領有問題が片付いていないことと、過去の日本への侵攻に対する正式な賠償が成立していない件によって爪弾きとする形にした。

 実は、チャンドラセカール経由で大亜連合に関する取り決めを内密に相談していた。その結果、横浜事変における賠償請求をインド・ペルシア連邦に交渉してもらう形で任せただけでなく、5年前の二国による日本同時侵攻の説明責任と賠償請求を国際裁判という形で訴訟した。

 

 この中には日本にいた大亜連合のスパイのみならず、顧傑や周公瑾が引き起こした問題も含まれている。総額で換算すると数十兆円規模に膨れ上がる為、そんなものをまともに払えば大亜連合と言えども無傷とはいかない。

 いかに顧傑や周公瑾が仮に大亜連合の人間で無くとも、彼らが大亜連合の特殊部隊を密入国させた事実は横浜事変の時点でバレている。国土を脅かす危険分子に手を貸した時点で大亜連合政府が無関係で通すことは出来ないのだ。

 

「大亜連合に対しては強気に出ていると報告を受けておりますが、彼らが逆上するリスクも高まるのではないかと」

「寧ろ、却って暴発させることで大亜連合内を引っ掻き回すつもりなのかもしれんな……手を出せば、剛三殿が叩き出した大漢軍の被害など些事のレベルになりかねん」

 

 大漢壊滅の件はUSNAでも内密に調べていた。とりわけ大量の難民を抱えた身からすれば、難民が発生した背景を調べるのは当然と言えるだろう。その過程で四葉の復讐劇を知り、それに加担した剛三のことも把握していたわけだが、『あまりに大きい被害の有様に人一人で完遂できる規模ではない』という調査結果と共に一時闇へ葬られてしまった。

 ジョーリッジは政治家へ転身した際に封印された調査結果を大統領権限で掘り起こし、そして剛三と実際に出会ったことで大漢軍の殲滅劇を剛三だけで完遂したのだと納得していた。

 

「以前、閣下に教えて頂いた『四葉の復讐劇に隠れてしまった惨劇』のことですね?」

「ああ。彼ならば何を起こしても不思議ではないだろう。我らの負の遺産を取り除いてくれた以上、私の役目は彼を怒らせるような行為を慎むように伝えることだけだ」

「その意見に賛同いたします、閣下」

 

 ジェラルドは悠元の実力を目の当たりにしているし、ポラリスはカノープス時代に彼の実力を目撃している。誰よりも悠元の実力を把握している人間たちがトップにいるという意味は大きい、とジョーリッジは内心でそう思っていた。

 

「新ソ連方面で混乱しているというのは、我々にとってもいい時間稼ぎとなっている。人選はポラリス司令に一任する。場合によってはシリウス准将の出国も許可する」

『ハッ!』

 

 なお、この後にポラリスの親切心で彼の娘とデートの約束を取り付けられる羽目となったジェラルドだったのは……ここだけの話。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 旧群馬県・上泉家本邸。

 その大広間には現当主の元継と夫人の千里、神楽坂家当主の悠元と正妻筆頭の深雪、東道家次期当主の佐那とその婚約相手である幹比古、そして香取家の跡取りとして継ぐことになるエリカにその婚約相手となるレオがいた。

 これまで長いこと続いてきた『元老院』。その四大老が一気に様変わりする格好となった。更に元老たちも一新されることが決まっており、その選定は進んでいる。

 

「新ソ連方面は国家が分裂するようだ。幸いシベリア方面は親日派が多いため、水面下で支援を決定した。その一環として樺太および千島列島の全島返還に応じた……悠元のやったことが大きかったようだ」

「最近やったことはベゾブラゾフを葬ってクレムリン宮殿を復元させただけだよ」

「それをしれっとやっちゃう悠元が怖いわよ」

 

 歴史的な背景から返還を渋るかと思えば、新国家は日本に独立承認を取り付ける意味で要求を全て吞んだ。隣国にある大亜連合のことを鑑みれば、早急に事態を収めることで隙を作らないことに注力した格好となる。

 ただ、大亜連合も日本政府やインド・ペルシア連邦政府からの賠償請求で難しい舵取りを迫られている。とりわけ日本が[恒星炉]という莫大なエネルギー資源を手に入れてしまったため、その恩恵を受けているインド・ペルシア連邦と受けられない大亜連合でもパワーバランスが変化していた。

 仮に軍事行動を新国家に対して起こせば、それこそ大亜連合が首を絞める格好となる。

 

「だからと言って、その功績を公言するつもりはないがな。メリットよりもデメリットが大きすぎて、後々面倒なことになるのが避けられない」

 

 領土問題の交渉は、あくまでも外務省ひいては日本政府の範疇に収めることで決着。下手に魔法師の介入で交渉事が進んだという事実が知られれば、それこそ反魔法主義を勢いづかせる結果しか生まない。

 変に目立ったのは仕方がないし、[トーラス・シルバー]の件で表舞台に出た以上、有名税の発生はどうしても避けられないのだから。

 

「そういや、日本に逃げ込んでいた大亜連合の戦略級魔法師がいたよな? その子はどうなったんだ?」

「彼女は大亜連合と完全に切り離して日本人に帰化させた。その代償に大亜連合へ沖縄防衛戦で亡くなった兵士の遺骨を押し付けたけど」

 

 元々その兵士は魔法で痕跡一つすら残さずに消滅させたが、四葉の復讐劇で亡くなった四葉一族の遺骨を回収する方法を用いて復元し、火葬して遺骨の状態で押し付けてきた。しかも、政府にではなく遺族へ直接送る形で返したのだから、彼らが火種となって大亜連合内が荒れたとしても責任は取れない。

 むしろ、沖縄や横浜であんなことまでしておいたというのに、自国の兵士の遺骨を返してくれるだけありがたいと思ってほしい。それを反故にした場合のペナルティが非常に重くなることは覚悟してもらいたい。

 

「流石に返しきれなかった部分は共同墓地へ内密に弔うようお願いをしたけど」

「……主に裏切った[レフト・ブラッド]の連中か」

 

 彼らが主犯格だが、それ以外にも基地内部の反乱分子には厳しい処分を科した。処分内容は全て国防軍へ丸投げしたため、当時特尉でしかない自分には関与の無い話として完結した。というか、その時は深夜のスキンシップ攻撃を耐えるので手一杯だった。

 

 正月の挨拶で深夜と深雪に絡まれた際、その辺についてもバレる形となった。深雪は深い溜息を吐きつつも『私があの時悠元さんへの気持ちを自覚していたら、きっとお母様以上に誘惑していたでしょう』と半ば認めるような発言が飛び出しつつ、悠元に襲い掛かっていた。

 その結果として正月三が日に何があったのかと言えば……倫理的に言えるラインを超過しまくっているわけで、冬なのに熱い夜を過ごすことになった。

 

「それに関して付け加えるが、劉麗雷は春に東京へ越してくるそうだ」

「そうなの? やっぱり戦略級魔法師だから?」

「無論、その事実もあります。最大の理由は一条家当主の意向です」

 

 将輝は現在、父親の剛毅から一条家の家業を厳しく叩き込まれている最中だが、彼は新陰流剣武術を習わせる意味でも東京に引っ越させることを思案していた。加えて、国防軍ひいては日本政府から国家公認戦略級魔法師となった将輝を首都に近い場所へ置くことで守りの要としたい思惑があった。そして、極めつけは新ソ連の国家解体がカウントダウンの状態となったことで、将輝が日本海側で睨みを利かせる必要性が薄れた。

 そんな思惑に加え、剛毅としてはしっかりと勉学や社交性を積ませる意味でも魔法大学への進学を勧めており、一条家夫人の美登里も夫の意見に賛同している。更には彼の親友である真紅郎がいち早く魔法大学への進学を決めていた。

 

「ジョージの奴からすれば気の毒だがな。本人としては『僕抜きでもしっかりと独り立ちしてほしい』と思っての進学なのに、結局は将輝も大学進学になりそうだからな」

「そういう悠元は進学するのか?」

「進学は決定というか確約事項だからな。『何を学ぶの?』と宣う奴らはいるだろうが、人の意見を聞いて新たな発見を得る探究心を忘れたら、成長はそこで終わってしまう」

「どこまで進化する気なのよ、アンタは……」

 

 無敵超人とまで言わしめた達也の牙城を崩せる魔法まで会得したものの、結局は自分が過労死する未来しか見えないどころか、深雪と達也によるマッチポンプの無限ループまで成立してしまった。達也は真一から聞き及んだ“彼の知っていた司波達也”を耳にした際、『俺の平穏は悠元によって成し遂げられたという訳か』と口にしたほどに。

 

「世界を回っても、世界全ての魔法を会得したわけじゃない。それに、これが終わっても火種はまだ燻ぶったままだ……世界各地に眠っている古代文明魔法という存在がある限り、諍いは止まらんだろう」

 

 別に、それはこの世界に限った話ではない。力を求めるがゆえに禁を破って闇に堕ちる人間の存在が出てきても何ら不思議ではない。それに比べれば、『伝統派』や強化調整体の問題など“些事”でしかなくなってしまう。

 

「そう考えれば、爺さんに無理やり連れられた意味はあった。当代側の人間になるとはいえ、良からぬことを考える輩が出るのは致し方が無い。後は、その被害を少なくすることが求められる」

「そこまでの規模の話になるんだね……僕も他人事で済まないのは自覚してしまうよ」

 

 文明が滅ぶというのは、当時の人間でも回避できなかった事象によるもの。それは当然、今の世界に生きる自分たちも決して無関係ではない。過去に遺したものが歴史の舞台に出た時、結果がどうあれ歴史に刻まれてしまうのだから。

 




 原作だとどこまで追及されたかは不明ですが、少なくとも暗号メール関連でひっ迫しているのだろうと思って書きました。なお犠牲になるのは数多の丸太の模様(ぇ
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