魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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違う、そうじゃない

 高校生活最後の夏休みはあっという間に過ぎていく。とりわけ悠元と達也は魔法科高校から卒業単位の確約のみならず、魔法大学への推薦入学も確約された状態。だからと言って、勉学や魔法の訓練に手を抜くということは決してしない。

 

「おーい、生きてるか?」

「……あと5分休ませて」

 

 普通なら夏祭りとか海水浴とかになるわけだが、水着姿であっても魔法の訓練は欠かせない。来客用のプライベートビーチとして再開発されている巳焼島南西部では、白い砂浜の上で死屍累々の状態となっているエリカたちの姿があった。

 

「強すぎるわよ、悠元は」

「俺だって、初めからいきなり強かったわけじゃないぞ? 爺さんに散々叩きのめされたり、時には無茶ぶりに付き合っていた結果でしかないからな」

「それでへこたれずに生き抜いたのが凄いと思うよ……」

 

 悠元の場合は、それこそ達也と対等に居れる存在を目指してのものであり、別に強さを自慢したくてやり抜いた訳ではない。誰よりもストイックすぎる有様に、砂浜で座り込む面々は苦笑が漏れていた。

 なお、この場でやっているのは[天魔抜刀]状態の制御訓練。現状、達也らも次々と修得しており、その状態を安定して展開するための制御の一環として悠元が相手をしている。

 

「ま、俺にはそもそも目指すべき目標があったからな。挫けることなくやってこれたのはそれが大きい」

「目標と言うと……お爺さん?」

「アレを目標にしたら、人間を辞める選択肢しか無くなるぞ」

 

 かなり大仰に述べている部分はあるが、大漢(ダーハン)軍の陸海空戦力を根こそぎ奪ったのが“たった一人の魔法師”なのだと知られれば、日本は間違いなく戦後も面倒事に巻き込まれていた。その意味で痕跡が完全に消えていて、その直後に大亜連合によって占領・併合されたことで有耶無耶になった。

 その意味で“ツイている”のは間違いないと思うぐらいだ。

 

「ここだけの話、俺が目標にしたのは達也だ。実際に会ったのは沖縄防衛戦直前だが、その前から爺さんに『四葉に面白い奴がいる』とは聞かされてたからな」

 

 上泉の戦技教導の一環で弟子を派遣しており、本人の様子や英作の話を剛三伝手で聞かされた。どこまでもストイックにこなしている達也と、無茶ぶりを初見で次々とこなしていく悠元。その姿がどことなく重なって、悠元に対する無茶ぶりが加速したのは言うまでも無かった。

 

 そんなこんなで夏休みが過ぎていき、あと数日で新学期が始まるという時期。悠元と達也、深雪と水波、そして真一と愛波は四葉家所有の伊豆高原の別荘に出向いた。単に儀式をするだけならば別に場所は関係ないが、二人がこれまでに得た記憶や経験をすべて引き継いだ上で元の世界へ返すとなれば、確実に“触媒”が必要となる。

 真一もとい九島光宣がパラサイトとなることを決断した出来事―――桜井水波がイーゴリ・アンドレイビッチ・ベゾブラゾフの[トゥマーン・ボンバ]を防御した影響で魔法演算領域のオーバーヒートを引き起こした事象の起点となる場所。達也がほとぼりを冷ますために用意された深夜の療養用の別荘に他ならない。

 そして、悠元はその引き金の一端となった[エターナルポース]を取り出し、魔法力を込める。レリックに刻まれた魔法陣が光り輝き、[エターナルポース]を基点として周囲に光が満ちる。

 

「これから、お前たちを元の世界へ帰す。帰すとは述べたが、この世界のお前たちの魂魄を情報化して元の世界のお前たちに“上書き”する形だな。何分初めてのことだから、どこまで成功するかは保証できない」

「……僕はもう覚悟を決めています」

「……私も、皆さんには大変お世話になりました」

 

 元々この世界の人間ではなかったからこそ、二人は平穏に暮らせただけでも悠元に感謝していた。光宣は将来に繋がる貴重な判断材料を貰い、水波は魔法師としても暮らせるだけの能力と寿命を得た。

 それがどこまで元の世界へ還元されるかは分からない。だからこそ、悠元は絶対成功するとは明言しなかった。しかし、それを聞いても真一と愛波は悠元に信頼するような表情を見せていた。

 これ以上覚悟を問うのは野暮だと判断し、悠元は[エターナルポース]を達也に渡すと、ジャケットの内側から[セラフィム]と[ラグナロク]を抜き放つ。そして、悠元は一息吐いた上で両手に持った二丁のCADを前方へ構えた。

 

「領域展開―――八仙結界[北星陣(ほくせいじん)]」

 

 悠元がそう呟くと同時に、真一と愛波の周囲を囲むように展開する魔法陣。全ての準備が整ったことを確認すると、悠元は二人に対して声を掛けた。

 

「真一に愛波。いや、九島光宣に桜井水波。君たちがどのような人生を歩むのかは君たちの意思で決めるといい。ただ、他人に迷惑を掛けるような行動は慎んでおくといいよ」

「僕にとっては耳が痛い話です」

「あはは……」

「世界が大変な時代へ進むのは避けられない。でも、その中で君らが望むこととすべきことをやり遂げるといい―――[夢想天成]、発動」

 

 悠元がトリガーを引くと魔法が発動し、二人の姿は光となって空の向こうへと飛翔していく。そうして光は空の途中で弾け、何かに吸い込まれたように消え去った。それを見送った悠元はCADを仕舞って陣を解除したところで、達也が[エターナルポース]を悠元に差し出した。

 

「お疲れ様、悠元」

「別に苦労はしてないけどな。全く、コイツの無邪気さには呆れるばかりだ」

 

 達也から[エターナルポース]を受け取ったところで、またもや[エターナルポース]が光り輝く。流石に『これ以上女性は止めてくれ』と思っていた悠元の意見を汲み取ったのかは不明だが、光が収まって姿を見せたものに悠元は愕然とした。

 転がっていたのは鞘に納められた一本の騎士剣。神々しい雰囲気を放っている代物が“前世の創作物でよく見た物体”であり、昨年の騒動で感じていた代物と同一ということに盛大な溜息を洩らしつつも、騎士剣を拾い上げた。

 

「それは、騎士剣のようだが強い力を感じるな」

「……俺の知識が間違ってなければ、コイツは神造兵器だ。しかも、昨年の騒動で刃を交えた[約束された勝利の剣(エクスカリバー)]とか、どうなってるんだよ」

 

 一難去ったらそれ以上の騒動の種を拾ってくるとか想定の埒外である。しかも、おまけに[遥か彼方の理想郷(アヴァロン)]までセットで付いてきている時点で、最早溜息しか出てこない。

 一応確認したところ、達也や深雪だけでなく悠元以外の全員が触れられない状態だった。剛三や千姫、更には奏姫も触れなかったため、[エクスカリバー]と[アヴァロン]は悠元専用の武器として保有することが決まった。

 

 剣に“選ばれた”ということなのだろうが、俺は王になる気などない。四大老の座だって、そうしないと継ぐ人がいないという状況もあったし、[恒星炉]関連なんて自分が主導した事業なのでトップに立っているだけに過ぎない。国防軍関連も然りだ。

 子世代へ継ぐ話はどう計算しても40歳前後になる可能性が高いし、神楽坂家の家業や家督を継がせるにしても次代を担う人間にとっては重荷になるかもしれない。神楽坂家を継いだ際は千姫が自身に関わる柵を自らの手で解消したように、自分が退く際は次代への遺恨を残さないようにする。

 まだ17歳の若者がこんなことを考えこんでいるのはどうかと思われるだろうが、それだけ国内・国外を含めた世界情勢が“食えるかどうかも分からない味付けの闇鍋状態”なのだから、少しでも改善するために出来るところからやるしかない。

 

 そんな出来事の数時間後、国立魔法大学付属病院から連絡が入った。元治の妻である穂波が産気づいたというのだ。四葉の関係者ということで達也と深雪が同伴する形となり、病室に通されると元治と穂波がいて、近くのベッドには双子の赤ん坊がスヤスヤと眠っていた。

 

「元治兄さんおめでとう。穂波さんもご苦労様です」

「ありがとう、悠元。達也君に深雪さんも来てくれてありがとう」

「三人とも、ありがとうございます」

 

 お祝いということで果物の入った籠を元治に渡して、双子を見つめる。これで悠元は双子の叔父という立場になったことに若干傷つきつつも、会話に華を咲かせていた。その後、病室には三矢家や矢車家、穂波の義実家である渡辺家ならばまだしも、更には四葉家から真夜が直々に穂波の病室へと赴いた。流石に葉山が随伴なのは言うまでもないが。

 

「おめでとうございます、元治さん。穂波さんもお元気そうで何よりです」

「あ、はい。態々来てくださってありがとうございます」

 

 曽祖父母となった剛三や奏姫は早速曾孫への愛情を爆発させており、これには元のみならず詩歩も呆れ返っていた。とはいえ、上泉家は過去に剛三の息子を喪っていることもあったし、孫である悠元が病弱で短命に終わる可能性だってあった。

 そんな事情を乗り越えての曾孫誕生なので、喜んでしまうのは仕方が無いと諦めたらしい。

 

「……父さんは知ってた?」

「私は何も聞いていない。多分義父が教えたのだろうな」

 

 三矢家は数年以内に長男の元治以外の全員が実家を離れることになる。詩奈は侍郎に付いていく形で矢車本家に行く予定へと変更し、タイミングを見て京都の守護を行う修司と由夢の補佐につけるとのこと。

 元と詩歩は元治たちの子の面倒を見つつ、5年を目途に当主の家督と家業を全て元治に継がせて隠居することを決めている。当面は本屋敷の近くに住むようだが、手が掛からなくなったら舞元のいる石垣島へ引っ越して琉球空手の道場を引き継ぐとのこと。新陰流剣武術はあらゆる武術に精通していることも有り、武術の指導面での融通も利くらしい。

 つくづく上泉家が化物染みていると知る羽目になった。

 

「あとは、元治が私の想像を超える当主になってくれれば御の字だよ……義父さんみたいになってくれとは思わんが」

「アレはもう人間のカテゴリで語っちゃいけない類のモノだから」

「……決断した私やお前が言うのもなんだろうが、アレは最早呪いの類とさえ思うよ」

 

 ややカオスになっているこんな状況でも無邪気に笑っている双子に、少しばかり彼らの逞しさを感じたのは言うまでもない。

 

  ◇ ◇ ◇

 

 この出来事から少し遡り、8月22日。悠元は神楽坂家別邸でエリザベスⅢ世ことエリーとの会談に臨んでいた。

 

「お久しぶりです、女王陛下」

「もう、ここには見知った人しかいないのだから、私のことはエリーでいいじゃない」

「流石に挨拶まで砕けさせたら収拾がつきません」

「相変わらずねえ。でも、そんな貴方だからこそ好きになったのだし」

 

 世界群発戦争の終結日は国家によってまちまちだが、この国では第二次大戦の過ちを省みる意味でも8月15日に設定して政府主導の慰霊祭を執り行っている。特に今年は3月の西果新島の件でイギリスも関与している側面を考慮し、国家代表の形でエリーが赴いた。

 流石に一人では不味いので護衛も付いているし、最短経路となる新ソ連上空は国家分裂の危機で危険という判断が下された。その為、行きはアラブ同盟・IPU経由で、帰りはUSNA経由で帰路に就く。

 

「話は聞いてると思うけど、お願いしますね。貴方に養育費は求めないけど、子どもたちが貴方に会いたくなったら会って欲しいの」

「ちなみに、そちらのご両親は何と?」

「『彼ほどの人間なら、そういうことになっても仕方がない』と認めてくれたわ。父なんて貴方に返品不要の頸飾を贈りたいって話してたほどだったから」

「……無駄にハードルが高くなってる気しかしないんですが」

 

 剛三と共にロンドンを訪れた時、普通に観光しようとしたところで黒服の連中に追いかけられた。そいつらを返り討ちにして警察へ引き渡したまではいいが、連中を捕らえられたことで逆恨みに遭う羽目となった。

 その翌日、女王陛下が乗っていると思しき高級車を追いかけ回す数台のバイクを見つけ、前世の惨劇を避けるべく悠元が自ら介入してバイクを分解した後、ライダー全員の素性を暴いた上で警察へ突き出した。

 その1時間後、事情を知った剛三によってロンドンのビルが数棟地下へ沈むという珍事に発展した。その際に反政府・反王室の犯罪組織がいくつか潰れ、彼らの資産は剛三を経由して悠元に支払われた。額としては数百億ポンド規模に膨れ上がった。

 

「私としては、貴方の婚約者たちに申し訳なく思ってるけど、そこは先生からお墨付きを貰ったわ。まだ十代で父親なのは大変だと思うけど」

「倫理観がバグり過ぎて頭が痛くなりそうなんですけどね」

 

 政府が組織の金を受け取らなかったのは、過去の剛三が成した功績に対する支払いが履行されていなかった事実を有していたためだった。当時は戦争状態で魔法師に対する報酬の取り決めも曖昧だったため、これには剛三も渋々受け取る羽目になったそうだ。

 当人曰く『ここで止めないと対岸の火事で済まない代物を放置など出来なかった』とのことで、核兵器の威力だけでなく放射能汚染の被害まで含めれば、遺恨を残さないことに集中したのは分からなくもない話だと思う。

 

「私は女として不十分?」

「いや、寧ろ魅力的ですよ。でも、俺には婚約者がいますので、あまり胃薬案件は抱えたくないんです」

「使用人兼愛人もいて、それでも『彼女たちは大丈夫かしら』と先生がぼやいていたのも聞いているけど」

「精力的にオーバーでも、精神的には普通の人間ですよ、俺は」

 

 この世界に転生してから前世の価値観を悉く破壊されている―――順応している、とも言えなくはないが―――としても、婚姻関係はどうしても前世というか一般的な社会常識や民法の観点で常軌を逸している。魔法師の後継という意味で必要な措置だと分かってはいても、大概の魔法師は一夫一妻の家庭で、強いて挙げるなら愛人がいるぐらいだろう。

 自分自身の気持ちとしては、婚約者たちの気持ちを無碍にすることは出来ないし、行動に至っている時点で好意は有している。それでも無秩序にすれば一般社会にまで波及することは確実なため、場所と時間に制限を掛けている。『一人に決められないヘタレ』と言われてしまわれると否定は出来ないわけだが。

 

「そんなに一途な性格だからこそ私も惚れちゃったし、貴方の子どもが欲しいって先生にお願いもしたのよ。父だって『彼の役割が無ければイギリス王室に婿養子として迎えようか』って話したぐらいだし」

「俺に対するハードルが大気圏を突破してるようにしか聞こえないのですが」

「まあ、父からしたら娘の命を助けてくれた恩人だったからね。知らなかったとは思うけど、悠元君たちが捕まえてくれた連中には反政府・反王室の組織の人間もいてね。警察が不敬罪の一環で大々的な家宅捜索までして芋蔓式に逮捕者まで出たの」

 

 イギリス政府からすれば、自分たちと敵対する勢力が減った上に証拠を残すヘマまでやらかしたため、嬉々となって取り締まったのだろう。まあ、その後にマクロードのやらかしで騒然となったわけで、巳焼島訪問の後、特使の報告を聞いた上でマクロードに勲章を与え、ケンブリッジ大学の客員教授の任を解いてオーストラリアの魔法研究所に“永世顧問”という形で送り出したらしい。

 これで、マクロードはこの先イギリスに戻るどころか、オーストラリアから出られなくなるという状態に陥った。なお、彼のオフィスにあった通信機器は全て“迷惑料”という形で悠元に引き渡され、通信系に強い響子へ解析を依頼した。

 

 イギリスの件で一番被害を受けたのが誰か、と問われると……間違いなく佐伯に振り回されてしまった風間だと断言できてしまう訳だが。

 




『女性か、ぶっ飛んだ装備か』の二択しか用意してくれない外道の所業
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