魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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九校戦本番前日④

 深雪と雫、そしてほのかは、雫とほのかが宿泊している部屋にいた。深雪の場合は滝川和実と同室なのだが、和実が体育会系の先輩のところに遊びに行ってしまうため、一人でいるぐらいならと二人の部屋に遊びに来ていた。

 深雪としては、達也か悠元のところに行きたかったが、前者は起動式の改良作業が残っているということで邪魔をしてはいけないと思い、後者は夜の遅い時間まで統括役としての仕事に追われていたため、自ずと二人の部屋に遊びに来ていた。

 そういう理由はあるものの、クラスメイトであり仲の良い友人である二人のことを深雪は大切に思っている。その辺は悠元に対して“想っている”こととは流石に違うと述べておく。

 

「いよいよ明日から九校戦かあ……緊張するな」

「ほのか、私たちの出番は4日目以降よ。雫、明日のお勧めは?」

「七草会長のスピード・シューティングは必見。優勝は間違いないだろうけど、高校最後の年に『エルフィン・スナイパー』がどういうプレイを見せるのか楽しみ」

 

 ほのかの言葉に少し笑みを漏らしつつ深雪が雫に尋ねると、端末を持った雫がそう答えた。

 真由美は唯でさえ優勝間違いなしの前評判が高いことに加え、練習期間中は新人戦メンバーの模擬戦相手として面倒も見ていた。なので、その実力を肌で感じた雫だからこそ言えるが、あの時は新人戦メンバーを潰さないためにそれ程本気でなかったと断言できる。

 何故なら、練習場のデモンストレーションで行われた佳奈と真由美の試合を録画した映像があり、それを見たからだ。

 

「佳奈さんと互角に撃ち合っていたのは、本当に見応えがあったわ」

「録画映像を見せてもらったけど、あれは思わず鳥肌が立った。あそこまでのハイレベルな試合なんてそうそう拝めるものじゃないから。生で見ていた深雪が羨ましい」

「私も録画映像を見たけど……あ、私が出るよ」

 

 部屋に備え付けられた時計は22時手前を指している。明日の試合に備えて上級生は既に眠っている人が多いだろう。とはいえ、消灯時間はない(戦術スタッフや技術スタッフがいるため、代表メンバーで一律に消灯時間が設定できない)ので、周りに迷惑が掛からない程度でお喋りに興じていた。扉をノックする音が聞こえ、一番近くにいたほのかが立ち上がって扉を開けると、そこには英美やスバルを始めとした1年女子メンバーであった。

 

「エイミィにスバル、それに他の皆もどうしたの?」

「うん。みんなで温泉に行かない?」

 

 英美の言葉を聞いて、ホテルに温泉? という繋がりを見いだせないほのかだったが、それを聞いた深雪が答えを出すように言った。

 

「温泉?」

「そういえば、このホテルの地下は確か人工の温泉になってる、って聞いたことがあるわ」

「私たちでも入れるの? 宿泊しているとはいえ、軍の施設なんでしょ?」

「試しに頼んでみたら、11時までオッケーだって」

 

 そうなれば特に断る理由もないということで、1年女子メンバー全員で地下の温泉に向かうことになった。

 彼女らはそこで丁度温泉から上がってきたと思しき恰好の悠元と遭遇した。流石に髪や肌は濡れていない状態であったが、彼の恰好はTシャツに黒のズボンという学校では滅多に見せないラフな格好だった。その色っぽさには思わず雫は頬を赤く染めていて、深雪もうっとりした表情を浮かべていた。これには他の1年メンバーも悠元のカッコよさにドキッとしていたのは言うまでもない。

 

「ん? 誰かと思えば英美に深雪、ほのかに雫……1年女子メンバー全員で温泉かな?」

「あったり! でも、悠元は何で温泉に?」

「夜9時から貸してもらうようにお願いしてたからな。達也や同じ1年の面子と一緒に入ってただけだよ。俺が一番最後に出てきたってわけ」

 

 ここの温泉はレクリエーション目的というよりも医療的な目的で使用されることが多く、温泉は湯着(ゆぎ)か水着着用であった。悠元はどうせならと達也、燈也、鷹輔に加えてレオと幹比古にも声を掛けた(幹比古は若干乗り気でなかったが、強引に押し切った)。そして、最後に上がってきたと英美に説明した。

 

「にしても、解っちゃいたけど……色っぽいイケメンだね、悠元も」

「俺は至って普通だと思ってるけどな。(残念な)イケメンなら三高の『ヘタレ野郎(クリムゾン・プリンス)』あたりだろうに……そしたら、ごゆっくり」

(今、発言の中に凄い言葉が混じっていたような気が……)

 

 英美の言葉に悠元はそう返すが、ほのかは悠元の発言に凄まじいほどの嫌味が込められているのをそれとなく感じていた。悠元がその場から去った後、若干(?)トリップしていた雫と深雪を強制的に再起動させて温泉に入ることになった。

 女子の場合は湯着を着るのだが、それでしっかり隠せているかと言われれば、水着よりも心許ない。というか、女性としての色っぽさも目立つ。1年女子メンバーの中でずば抜けてスタイルそのものがいいのは、他でもないほのか。なので、他の女子からすればほのかの胸に視線が行くのは、いくら同じ女性でも無理からぬことだった。

 

「見てもいい?」

「いいわけないでしょー! 雫、助けてー!!」

 

 英美のオヤジ魂のような目つきと手つきが迫ってきて、ほのかは雫に助けを求めた。だが、無二の親友から返ってきた言葉は非情であった。

 

「……いいんじゃない?」

「雫!?」

 

 雫からすれば、ほのかは『持っている者』に他ならない。浴槽から上がってサウナに足を向けつつ、理由を尋ねられたので雫はこう呟いた。

 

「ほのか、胸大きいから」

「雫ー!!」

 

 ある意味“お墨付き”が出たことに気分を良くしたのか、英美だけでなく他の1年女子メンバーもほのかに迫ってくる。これはどうしようもなく叫んだところで、ある意味救世主ともいえる存在―――深雪が姿を見せた。流石に温泉なので、髪はポニーテールで結んでいる。

 ちょっとした立ち振る舞いだけで人々を引き寄せてしまう深雪は、ほのかに向いていた1年女子メンバーからの視線を浴びる形となり、これには流石の深雪もたじろぐ。

 

「え? えっと……」

「皆、ダメだよ! 深雪はノーマルなんだから! 余計なことすると、皆氷水で冷水浴する羽目になるからね!!」

 

 そこに救いの手という形でほのかが援護してくれたおかげで事なきを得たが、深雪はほのかからそういう評価をされていたことに対して反論しようとしたが、この微妙な均衡状態を崩すのは拙いと判断した。

 

「……何やってるの?」

 

 結局、サウナから戻ってきた雫がそれに終止符を打つ形で、温泉が比喩抜きの冷泉にならずに済んだと言えよう。それから女子の話は恋愛話というか昨日の懇親会も含めた話になっていた。

 

「そういえば、懇親会に三高のプリンス――― 一条の跡取りがいたよね」

「見た見た。彼ったら、深雪のことを熱い眼差しで見てたよね」

「実は前から知り合いだったとか?」

 

 キャー、という黄色い歓声が飛び交う中、雫は深雪に問いかけた。

 

「深雪、どうなの?」

「一条君のことは、記事の写真で見た程度のことしか知らないわ。会場のどこにいたのかも分からなかったし」

 

 完全な一刀両断、と言わんばかりのこの言葉を将輝が聞いたらショックで倒れること間違いなしだろう、と雫とほのかはそう感じた。それを聞いて、スバルはこう呟いた。

 

「まあ、そうだよね。深雪は三矢君にお熱のようだし」

「お、お熱って……そこまででは……」

「でもさ、さっき悠元とすれ違ったとき、惚れているような顔をしてたね。まあ、私もちょっとドキッとしたけど……」

「エイミィ?」

 

 彼女の言葉にどう返すのがいいのか深雪は思考の迷路に嵌り、そんな様子を見つつ放たれた英美の言葉に雫の表情が強張る。これを見た英美は乾いた笑みを浮かべつつ、話題を切り替えることにした。

 

「そ、それにしても、悠元は三高のプリンスより視線を集めてたね。単に容姿の良さだけでなく、一条君と同じく十師族というのもありそうだけれど」

「あれぐらいの振る舞いは普通にできるね。普段はあまりやらないって言ってたけど」

「私たちとパーティーで出会ったときはそんな感じだったけど、学校だとそんな印象を全く感じなかったことに驚いちゃった」

 

 意図的に対応を切り替えることぐらいは流石十師族の直系ということなのだろうが、それにしたって学校と先日の懇親会では偉く対応が違っていた。そのことは深雪もすごく感じていた。

 

「ねえ、深雪は何か知らないの?」

「私も特には知らないわ。尤も、懇親会の時は『面倒』と零していたけれど」

「め、面倒って……やっぱ、十師族って大変なんだね」

 

 いくら魔法師社会の頂点に立っているとはいえ、その十師族の直系がそういう席で言っていい言葉ではない。でも、それを口に出せるということは、それだけの面倒なことであると同時に、近くで聞いていた深雪に対して一定以上の信頼を置いていることは間違いないだろうと英美は思った。

 

「なら、好きなタイプはいないのか?」

「えと……」

「……」

 

 スバルの問いかけに深雪と雫は頬を赤く染めて黙ってしまった。どちらにしても、悠元のことを真っ先に連想してしまうからだ。これには英美もほのかに近づき、小声で尋ねた。

 

「ねえ、ほのか。深雪と雫ってやっぱり……」

「多分、エイミィが思ってる通りだと思う」

(これ、仮に二人がアイス・ピラーズ・ブレイクで直接対決したら……修羅場になるとか、ないよね?)

 

 奇しくも、深雪と雫は新人戦女子アイス・ピラーズ・ブレイクに出場する。同じ種目に出る英美は、彼女らの余波で自分にも影響が出ないよう祈ることしかできなかったのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 悠元は新人戦の戦略プランを完成し終えて、ホテルの外に出ていた。時刻的には日付を回ったあたりだろう。夏とはいえ、涼しい風が心地よく感じたのだが……その中に混じる“悪意”に悠元は眉を顰める。すると、作業車両から出てきた達也が悠元に気付いた。

 

「悠元、どうし……妙な連中がいるな」

「こんな時間に()()()()()()()()なんて、物騒極まりないが、なっ!」

 

 数は3人。その姿を達也と悠元は確かに捉えていた。すると、彼らに並行する形で生垣の内側を走る人物に気付く。悠元が先行し、達也はそのバックアップをすることをアイコンタクトで確認し、揃って走り出す。

 すると、1人のほうから放たれた短冊―――古式魔法の類である呪符だろう。だが、銃を持った連中は生垣の向こうにいる人物を殺そうと銃を向けた。

 

(流石に間に合わないか……仕方ない)

 

 悠元は銃を持った連中に対して手を翳す。金色の光が彼の手から放たれ、連中に着弾した瞬間、持っていた銃が()()された。彼らがそれに驚く暇もなく、上空に放たれた呪符から雷撃が放たれ、連中は気絶した。流石に軍の関連施設である以上、照明が行き届いていないのでよくは見えないが、並行して走っていた人物が生垣を飛び越えてきたことは読み取れた。

 

「誰だ!?」

 

 精霊魔法―――ひいて古式魔法を使用する生徒というのは、現代魔法を駆使する魔法師と比べると少ない。加えて、その声で連中もとい賊に対して魔法を放った人物は特定できた。こちらに敵意はない、ということを示す意味でも悠元は軽く両手を挙げた。

 

「俺らだ、幹比古」

「悠元に達也?」

 

 そんな中、達也は賊の状態を確かめていた。『眼』で見てもいいのだが、それを隠すためのポーズでもあるのだろう。その間に悠元は幹比古に事情を尋ねていた。確かに精霊魔法の類なら“敵意”を感じ取ることができるので、その一環だろうと推測した。

 

「俺らは偶然外にいたんだが、俺が“悪意”を感じたのでな。達也にも事情を話して付いてきてもらったのさ」

「そうだったのか。僕のほうも訓練をしていたらそれを感じてね」

「で、連絡を取らずに一人で片付けようとしたって訳か……人のことを言えた義理じゃないけど、誰かを頼らずに何でも解決しようとするのはどうかと思うんだが?」

 

 幹比古は、悠元が新陰流剣武術の関連で秘術に相当する古式魔法(精霊魔法)を習得していると知っている。なので、彼の説明に対して違和感を覚えるようなことはなかった。そして、幹比古のほうからの説明を聞いて、悠元は一息吐きつつも問いかけた。

 

「というか、阿呆か? 孫子の兵法にも『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず』という言葉がある。今のお前は敵を知る前に己を見つめきれてない状態だ」

「悠元……」

 

 恐らく、達也も幹比古の放った魔法に対しての“無駄”に気付いただろう。こちらが『分解』を使ってもよかったのだが、今回は将来幹比古にばれることも織り込んだ上で秘術を使用した。

 新陰流剣武術の秘術に相当する陰陽(光と闇)の二天、火・水・木・金・土の五行からなる古式魔法―――呼称は「天神魔法(てんじんまほう)」、その一つである金の属性魔法『金鎖破鎚(きんさはつい)』を使用した。

 

 天神魔法は通常の精霊魔法における発動プロセスとは異なっている。

 精霊魔法の場合、札や短冊などの呪符に情報を書き足し、それを媒体として「存在」の定義から離れてイデアの海を漂っている「独立した非物質存在となった情報体」を支配下に置き、それを通して事象の改変を行うという三段構成となっている。

 では、天神魔法の場合はというと……その発動プロセスが現代魔法に近い。自身で魔法の設計図(起動式)から魔法を構築し、事象改変を行うという2つのプロセスを主体とする。属性付与は事象改変の段階で「独立した非物質存在となった情報体」の属性情報を、使役者が発動した魔法に基づいて“任意の属性に改変する”という形となっている。

 悠元が天神魔法を「ヤバい代物」と評したのは、その情報改変力が極めて高いためだ。流石陰陽師で名を馳せた人物なだけあって、その高度な術式をたった一人で完成させただけでなく、その時点で現代魔法を見据えていた先駆者と言うべきだろう……その時代の先取りが1000年以上早すぎたのは言うまでもないが。

 なので、この二つの発動速度については天神魔法が断然早い。現代魔法に近いということもあって、ある程度の準備と高度な知識さえ揃えば簡単に使えてしまう代物。なので、天神魔法にはそれを秘匿するために古今東西の魔術から得た知識による極めて高度な隠蔽が施されている。悠元が今回の九校戦において『アクティブ・エアーマイン』に施した処理の大本は、天神魔法の隠蔽術式から流用したものである。

 とはいっても、中級以上は極めて高い魔法制御力を求められるため、まともに使えるのは十師族クラスが関の山だろう。

 

 『金鎖破鎚』は金の属性―――現代魔法で言えば有機物・無機物干渉魔法。一つの構成物になっている物体を強制的に定義破綻させ、分解してしまう魔法。威力を上げれば分子レベルへの分解魔法にも成り得るため、コンセプトは『雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)』に極めて近い。

 これが秘術の一部として存在するわけなのだから、『分解』がどれだけヤバいのかを再確認する羽目となった。ちなみに、『再成』に相当する魔法も天神魔法に存在する……それを知ったときは頭を抱えたし、剛三も苦笑していた。間違いなく達也のことを思い浮かべたのだろう。

 

「別に誰かを頼ってもいいだろうに。ま、状況が状況だったから仕方ないのかもしれないが……そんな縛りがお前の実家にあったとは初耳なんだが?」

「……解った、話すよ。古式魔法を使える悠元なら、まだ理解してくれるだろうから」

 

 そして、幹比古は話した。

 1年前の『星降ろしの儀』によって、今までのように魔法の制御ができなくなり、魔法力が落ちたこと。

 悠元やエリカを避けていたのは、そのことを知られたくなかったこと。

 今回の九校戦の懇親会にバイトとして参加したのは父親の無理強いがあったこと。

 いつの間にかそれを悠元の後ろで聞いていた達也のことは置いといて、悠元はこう結論付けた。

 

「お前さぁ……以前にも散々『星降ろしの儀』をやってきてるんだから、上位クラスの喚起をすれば、その前後でどうなるかぐらい想定してなかったのか?」

「え? ……いや、えっと……ゴメン、そこまで気にしたことがなかったから」

「ま、そうだよな」

 

 単純な話だ。幹比古は1年前の『星降ろしの儀』で急激に魔法知覚力と魔法制御力が伸びた。だが、当の本人は今までと変わらない感覚で魔法を使おうとした。その結果、歯車がうまく噛み合わないような形となり、結果的に魔法力が衰えてしまったと錯覚を起こしているというわけだ。

 先日、実験棟で喚起魔法の練習をしていたことが関連しているとするなら……恐らく、喚起魔法で呼ぼうとしていたのは“竜神”クラス―――天神魔法でも水属性において高位の召喚魔法に属する類の代物だ。そのクラスを対象として喚起するとなると高速かつ高度な演算を求められるため、幹比古は“竜神”の演算能力に無理矢理引き込まれたというわけだ。

 その辺は原作知識と齟齬がないと思うが、場を改めて幹比古から聞くのが良いと判断した。

 

「理解はしたし、原因は突き止められた。達也、聞いてた代わりと言っては何だが、九校戦の後でもいいから、幹比古用にCADを用意するので調整してやってくれないか?」

「えっ……そんなことで解決するのかい?」

「別に構いはしないが……それより、これをどうする?」

 

 そういえば、そんな連中もいたなと足元に転がる賊を見やった。すると、幹比古が提案をしたので、二人はそれに乗る形とした。

 

「あ、そしたら僕が警備の人を呼びに行くよ」

「じゃあ頼む。さっきの話はまた今度にしよう」

 

 幹比古が頷きつつ、その場を後にした……すると、悠元は一息吐いた上で第三者から見れば“誰もいない”空間に向かって声を発した。

 

「さて……賊の対処を高校生に任せるどころか盗み聞きとは些か趣味が悪すぎませんか、()()()()?」

「―――やれやれ、既にお見通しか。いや、新陰流の忍術を学んでいるのだから、無理もない話だな。流石は上条特尉だ」

 

 悠元の言葉に返しつつ、風間は姿を見せた。顔を合わせたのは3月下旬に三矢本家での連絡以来になるため、4ヶ月少々と言ったところだろう。彼の登場に達也はいつの間に、と思いつつも驚くには足りなかった。

 風間は九重八雲から指導を受けた九重門下の筆頭であり、彼に本気を出されると達也も『眼』を使わなければ察するのが困難な相手。だが、その相手を悠元は幹比古と話している段階から見通していたことに達也は内心で驚いていた。

 

 それは置いといて、悠元の入学式での行動を一切合財台無しにした当事者と被害者。厳密に言えば風間の上司もその当事者側なのだが……悠元は改めて一息吐いた上で頭を下げた。

 

「私的な事由で少佐殿からの連絡を絶っていたことをお詫び致します。この度は、本当に申し訳ありませんでした」

「……いや、こちらも悠元が学生であったことを失念していた。許してほしい」

 

 風間としては、正直一発殴られることも覚悟してこの場に来ていた。だが、実際に起きたのは彼からの謝罪であった。これには風間も思わず動揺したが、すぐに持ち直して悠元に頭を下げた。これには達也も少し呆れていた。悠元に対してというよりは、その温情を受ける形となった風間に対してだが。

 




前日編はこれにて終了。
次から九校戦本番なのですが……それだけで入学編超えそうな気がしています(白目)

主人公が将輝に対して毒を吐くのは、以前のロリコン疑惑騒動が尾を引いている形です。理解はしていても、再燃させる可能性があることは残ったままですから。

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