魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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九校戦二日目⑤

 悠元がホテルに戻ってくると、フロントから部屋の鍵をもらう際に小包を3つ預かった。そのうちの一つは達也宛なのだが、同じ高校なので……ということだった。悠元は自分の宿泊している部屋に戻って、達也宛の小包はデスクの上に置いたままにして、残る二つの小包を開けた。

 

(片方は新人戦に間に合わすために急ぎとは言ったが……牛山主任、頑張りすぎでしょ。製作担当の技師にまた無理を言ったのかもな)

 

 その辺りは九校戦が終わった後に差し入れでもしておこうと思いつつ、中から出てきたハードケース―――大きさ的には持ち運びやすいサイズのアタッシュケースが2つ。その一つ目を開いた。

 2つのアタッシュケースの内1つは2丁の銃形態特化型CAD。これは市販されておらず、九校戦のレギュレーションギリギリに設定された性能の代物。とりあえず、その内の1丁を端末に接続して、起動式のインストールと自動調整プログラムを起動させる。もう1丁はケースにしまったまま蓋を閉じると、別の小包を開けた。

 

 2つ目の小包もといケースに入っていたのは、幹比古の精霊魔法に最適化されたCAD。これも九校戦の規格に適合している。

 正直、これを使わずに済めばいいとは思っている。いくら何でも連中が十師族の直系を事故に巻き込むようなオーバーアタックは考えづらいが……いや、連中の最奥にいる奴は四葉に対して強い恨みというか、一方的な妬みに近いものを持っている。四葉の延長上で他の十師族だろうと喧嘩を売ってくることは容易に考えられる。

 ましてや、三矢家は上泉家と繋がりを持つ。“奴”が剛三のことをフリズスキャルヴで調べ上げていたとしても何ら不思議ではない。その剛三も“奴”を今度こそ葬り去ると覚悟を決めている。

 

 もしもUSNAが介入した場合、ホワイトハウスに『雷霆終焉龍』を撃ち込むつもりらしいが……正直、剛三が一人で広域魔法のオンパレードをかましたら、いくら『仮装行列(パレード)』でもよけきれない。何せ、相手の位置座標を無視して事象干渉力で押し潰す“無差別攻撃”だ。それにしても、国家相手に平気な顔で言い切るのはどうかと思う。

 

 修練ということで剛三の広域魔法を経験したことならあるが、普通は上段クラスでも無傷で乗り切るのは難しい。無論、それを無傷で乗り切った……爺さんはとても喜んで広域魔法をいくつか教えてくれたのだが、殺傷性ランクを考えてくださいと言いたかった。最低でもランクAって洒落になってません。

 なお、それを知った詩鶴による説教と半日ヨガコースと相成ったことは……殆どの人が知らない。上泉家当主と総師範の威厳は一体どこにあるのだろうと思う。単に孫に構ってほしいだけなのかもしれないが。

 

 話を戻すが、無頭竜の評判は各国の軍関係者にとってもよくはない。『ソーサリー・ブースター』と呼ばれる非人道的な代物絡みが一番の理由だ。なので、内密に上泉家経由で無頭竜のアジト関連の情報を各国の諜報機関に流してある。強制突入のタイミングは新人戦モノリス・コード1日目に合わせた形だ。

 USNAでは『スターズ』もフル投入して制圧に当たるようだ。この国とは違って、前世でいうカナダ・アメリカ合衆国・メキシコの3国が合体した形なので、精鋭部隊を惜しみなく使う理由も解る。

 

 閑話休題。

 

 悠元は2つ目のケースをしまうと、1つ目のケースと達也宛に届けられた小包を担いで部屋を後にした。すると、丁度隣の部屋に入ろうとしていた達也と出くわした。今まで言ってなかったが、達也の宿泊している部屋と悠元の宿泊している部屋は隣同士である。達也は悠元が持っている小包に気付いて問いかけた。

 

「悠元、その小包は?」

「達也への届け物だよ。自分にも届いていたんだが……ケースのほうは例の特化型CADだ」

「あの人は、また急かしたな……今開けるから、運び入れてくれるか?」

 

 達也は部屋の鍵を開けて中に入り、悠元もそれに続いた。悠元がアタッシュケースと小包をデスクに置くと、達也はケースをデスクの下に仕舞い、小包の開封作業に入った。小包のカバーを外すと出てきたハードケースの中身はというと、見た目は剣というより麺切包丁を大きくして鈍器にしたような印象だった。

 

「これは、硬化魔法を見て作った感じかな?」

「ああ。流石にお前の言っていた技術までは搭載できなかったが。お前が会長に対して組み上げたCADに対抗したくなったのさ。流石に『トーラス』レベルとまではいかないが」

「あれでも市販品の有り合わせだし、高校の魔法工学レベルに落とし込んでるけどな。あそこから更に手を加えるとしたら『シルバー』のプログラムがなきゃ無理だ」

 

 原作を見ているので知っているが、硬化魔法の起動式一つだけを提供する単一機能型CADである。これの設計には、悠元が真由美に提供した単一魔法特化型CADと、摩利の硬化魔法の使い方を見て設計されていると達也が述べた。

 達也が悠元のハードウェア設計能力を認めているように、悠元も達也のソフトウェア開発能力を高く評価している。それを踏まえての軽口に揃って笑みを浮かべたのだった。悠元はそれを手に取り、軽く振る。

 

「ちなみに、他の起動式は入れられるのか?」

「一応はできるが、切替式のセレクタが必要になるからな」

「それもそうか。ま、いざとなったら出店からCADをいくつか調達すればいいし」

 

 そんな風に軽く言ってしまう悠元の収入は、FLTの株主と魔工技師としての報酬、それと国防軍からの給料も合わせると完全な高所得者の部類に入る。個人口座の残高を見ると、いつも頭を悩ませている。

 前世の身分では考えられない金額の多さに、悠元は未だその金銭感覚を引き摺っている。ただし、CAD関連経費は自分の身を守るための“必要経費”という形で度外視している。

 

 とても一介の高校生では考えられないことだが、「トーラス・シルバー」関連の収入が一番ウェイトを占めている。何せ、フォース・シルバーシリーズでも国から9割の補助が出ていて1台当たりの値段が100万円の大台を超える。普通に買ったら1000万円単位のレベル……住宅が一戸買えてしまうような価格だ。

 普通のCAD一つとっても国の補助ありで高級家電製品と同等以上(前世でいうところの据え置きゲーム機レベル)の値段になるため、魔法師が魔法で収入を得るというのは至極真っ当ではないかと思う。それを理解できない阿呆な連中もいたりするのは、様々な思考を持ちうる人間だからこそともいえるが。

 なお、悠元の持つ『ワルキューレ』と『オーディン』はブラックボックス部分が多いため、まともに価格をつけようとしたら最低でも数百億円に上る。これは数々のCADを見てきた達也にその二つを見せた時の答えだった。

 

 悠元はそのCADを起動させることなくケースの中に戻した。流石に部屋の中でテストして備品を壊すわけにはいかないからだ。

 

「ちなみに、レオに試させる予定だろ?」

「そうだな。お前だと出力の関係で30メートルぐらいは平気で伸ばしそうだからな」

 

 達也がこのCADに積んだ硬化魔法の起動式に似たものを悠元はやったことがある。

 あの時は、直径2メートルほどの岩を硬化魔法で100メートルまで引き離して振り回したことはある……それをやった時に風間から「君はどこまで規格外なんだ」と言われてしまった。

 自分としてはハンマー投げの要領で振り回しただけなのだが、その反応に納得がいかなかった。確かに、普通にやったら遠心力で関節が外れる案件だろう。なので、自身にも硬化魔法で対策はしたのだが……それで規格外といわれるのは心外です。人間卒業試験とも言われた新陰流剣武術の武術訓練はクリアしてしまったので、埒外というのは渋々認めていたが。

 え? 同じじゃないかって? 言葉のニュアンスの問題なんです。察してください。

 

 ちなみに、爺さんは100本の木刀を硬化魔法で引き伸ばして振り回すことがある。それを風間少佐に言ったら「あの人はもう人間じゃない」と返ってきた。成程、あれが人外の到達点なのだと勉強になった。

 最近、外見が40代から30代後半へと逆走してる爺さんにピッタリな言葉だろう。若返った理由は多分『領域強化』による魔法演算領域の修復だろうと思う。細かいことに関しては不明のままだ。

 

 まあ、それをこの場で言うのは憚られるので黙ることにしようと決意したところで、部屋の外にいる気配に気づいた。達也も気付いたが、あえて反応を待つ辺りは厭らしいと思う。入ってきても大丈夫かというやり取りの後、深雪、エリカ、美月、ほのか、雫、燈也、レオ、幹比古が入ってきた。流石に達也1人で使っているとはいえ、部屋の中に10人は多く、ベッドの上に座る人までいた。

 その中で真っ先に興味津々といった感じでデスクに置かれたCADを見ていたのはエリカだった。レオも興味があるような素振りを見せているのだが、エリカに対抗してなのか視線をワザとらしく背けていた。

 達也は深雪にそのCADのことを説明すると、ハードケースの蓋を閉めて、レオに呼び掛けると同時に放り投げた。その程度の反射を危なげなくこなしたレオに達也はそのテストを頼んだ。

 

 二人がテストのために野外演習場へと行ったため、心配そうな表情を見せていた深雪と興味ありげなエリカの監視をすることになってしまった。何かしらで興味を逸らさせるのがよいと判断し、悠元はデスクの椅子に座ると意識を集中させて手を前方に翳す。すると、五芒星と逆五芒星を組み合わせた魔法陣が展開していることに周囲の視線が向けられる。

 

「悠元、その魔法陣は一体……?」

「これか? まあ、古式魔法の練習みたいなものだよ。単に魔法陣を展開させるだけで、改変自体を起こさせるわけじゃないから」

「もしかして、上泉家の秘術なのか?」

 

 幹比古の問いかけに悠元は頷く。これは天神魔法における共通の魔法陣であり、魔法式ではない。とはいえ、この魔法陣自体もかなりの事象改変力を有しており、これを通す形で現代魔法の基礎単一系魔法を使えば、微々たる消費で強力な事象改変を起こすことが可能である。この部屋にいる面々ならば問題ないし、そもそも九校戦で使用する以上は基本中の基本ぐらい知ってほしいという思いがあった。

 この魔法陣の起動式は厳重な記述によって守られており、修得する際は各々の想子波特性に応じた最適化が必須となる(個人に最適化されているため、それ以外の人間が使おうとすると全く発動しないため、固有魔法扱いとなる)。その方法自体も、口伝から書き起こされた文章の中で暗号化された部分を自力で読み解かないといけないため、新陰流剣武術において天神魔法を会得しているのは片手で数えるぐらいしかいない。

 現状では総師範の剛三、総師範補佐の元継、そして悠元の3人だけだ。

 

「もしかして、悠元ってば新人戦で古式魔法を使うつもりなの?」

「現代魔法との併用になるけどな」

 

 悠元は魔法陣の展開を止めた上でエリカからの問いかけに答える。元々現代魔法一本でいく予定だったのだが、剛三から言われた以上は現代魔法と古式魔法の併用になる。

 幸い、天神魔法は現代魔法とほぼ同様の処理形式のため、CADに組み込むのもそこまで苦ではない。セキュリティー面は手を尽くしているので、データを抜かれることはないだろうが、油断はできない。剛三も最悪の場合は魔法協会に直接圧力をかけると明言するほどだった……圧力(物理)にならないことを切に願いたい。

 

「二つを併用だなんて……そんな考えをしたこともなかったな」

「まあ、普通はどちらかに絞るのが一般的だろう。皆が皆、同じやり方は真似できないからな」

 

 ただ、「自分の持てる最高クラスの天神魔法を披露しろ」と言われた時は本当にいいのかと確認はした。流石に会場を壊すわけにはいかないので、改変規模は抑えると明言している。

 この時、悠元と剛三の間でそのやり取りに関して齟齬が発生しているのだが……これに気付くのは、実際に新人戦ピラーズ・ブレイクでその最高クラスの魔法を披露する時になってからであった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 そのほぼ同時刻。ホテルのVIPルームの一室では、三矢家当主である三矢元が、自分にとって義理の父親である上泉剛三と対話していた。元にとって、剛三の存在は実の父親同然に思っており、剛三も元を息子のように思っている。そんな二人は変に緊張することなく会話をしていた。

 

「それで、七草家とは上手くやれているのか?」

「あれ以降は特に蟠りもなくやれています。ただ、悠元と婚約をさせようと水面下で動いているようで……」

「やれやれ。国防軍のことがなければ素直に泉美ちゃんとの婚約を認めたというのに……やはり四葉に拘り続けるか」

 

 剛三は、七草家当主である弘一の行動理念に対して率直な意見を述べた。

 四葉が30年以上前のあの一件後、人らしからぬ方針で急速に力を伸ばした。これに関しては、剛三が神楽坂家現当主に頼まれて“とあること”を四葉に施していた。その一件も剛三が四葉元造から預かった手紙のことがなければまだ穏便に済んでいたと思うと、結局は剛三の自業自得であり、その尻拭いを自分でやるようなものだった。

 尤も、そのことを自覚したのは孫に手紙を見つけられたからという情けないものであった、と剛三は内心で苦笑した。

 

「そうなると、また泉美ちゃんか? それとも真由美ちゃんか?」

「どうでしょうね……五輪家長男のことは聞いていますが、下手に進めて周囲から要らぬ警戒をされたくないのも事実です。無論、本人たちの気持ちを優先させてやりたいとは思いますが」

 

 魔法師は早婚が望ましいとされているため、現在20歳の詩鶴、19歳の佳奈、そして18歳の美嘉に対して縁談の申し込みが後を絶たない状況である。実を言うと、十文字家からも克人と美嘉の縁談を十文字家現当主から打診されている状況にある。詩鶴と佳奈に関しても、師族二十八家だけでなく百家から打診が来ている。

 

「娘達は私の薦める人間なら構わないと言っていますが、自分にとってはそれが却ってプレッシャーです……なので、妻にも手伝ってもらっています」

「詩歩の御眼鏡に適うのなら問題はなかろうな。あやつは妻によく似ておる……そうなると、やはり悠元か」

 

 それを元が推し進めようとしない理由は、悠元に対して好意を抱いている面々を考えた場合だ。いくら彼が非公式の戦略級魔法師とはいえ、このまま三矢家に置いておくのは十師族のパワーバランスを偏らせかねないということ。

 

 彼に対しての縁談で表にしていない部分や一度断ったものも含めれば、十師族だけで一条家・四葉家・五輪家・七草家の4つが該当する。

 四葉家に関しては、本家筋に極めて近い同い年の少女のことは元も知っていたが、その彼女が悠元に対して好意を抱いていると知ったのは高校入学後であった。その意味で悠元と泉美の婚約解消は相手にとって失礼だと思ったが、かえって幸運だった。それのきっかけが三矢家にとって天敵ともいえる十山家というのは皮肉ともいえたが。

 

 話を戻すが、悠元をこのまま三矢家の人間として婚姻を結ばせるのは、十師族のパワーバランス的に宜しくない。ただでさえ三矢家は『護人』の一角である上泉家と縁戚関係にあるのに、これ以上の力は確実に十師族の一つ上の存在へと成りえてしまう。そうなれば、七草家や九島家辺りが横槍を入れてくることになると元は読んでいて、剛三もその意見に納得した。

 悠元の婚姻に関しては、元の手から既に離れて上泉家と神楽坂家の両家に委ねられている。これは元と剛三が交わした『約定』に基づくものでもあった。父親として、元は悠元の問題を片付けるのが先決と判断し、それが片付き次第娘たちの縁談を進める方針だった。

 

「それで、例の件は約束通りと仰られたのですか?」

「多少予定は狂ったが、大筋で問題はないと言ってきおった。あやつ、直に見たいと九校戦にも顔を出すらしい。その後に約定を果たすことになるだろう」

「それは……神楽坂家の当主様を動かすとは、悠元も大物の資質があるということですか」

 

 元々その約束は悠元が18歳の誕生日に履行される予定だった。だが、彼の予想外ともいえる成長と動きに際して予定を前倒しにする形となったため、結果的に3年ほど早まることとなった。剛三が悠元に新陰流剣武術師範の名乗りを許したのも、元を辿ればこの流れからきているものだった。

 

「あとは、あ奴が恋愛をもう少し理解できるようにならねばな……全く、誰に似たというんだか……」

御義父(おとう)さん、それは貴方ではないかと……無論、人のことは言えませぬが」

「……男子で恋愛に敏感だったのは、元治だけだからな」

 

 剛三と元がここまで仲良くなったのは、恋愛に対する感受性が非常に似ていたためであった。ようはお互いに朴念仁と言われるほどの鈍感だった。恋愛観が母に似た元治はともかく、元継は元や剛三に似て超がつくほどの朴念仁だった。その気質がある悠元に対しても一筋縄で行かないだろう、とお互いに深い溜息を吐いたのであった。

 




 補足説明ですが、主人公は武術方面だけ自分の力を自覚している状態です。その辺を把握してないとこの世界で生き残れませんので。
 CAD開発も(九校戦ではレギュレーションに従ってはいますが)自分の身を守るために妥協しないというだけです。なお、その発想と度合いの基準点は本人の事情に起因しているということです。

 主人公の細かい事情などは追々触れていきます。


 父と祖父の憂鬱は如何程に。
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