魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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フラグの折り方、知りませんか?(※)

 これから黒羽(くろば)(みつぐ)の招待に与ってパーティーに出席する。表向きは『剛三の親族の代理』という形だ。

 なお、元治は深夜との会話で完全にダウンしていたため、パーティーには自分一人で向かうことになる。念のために銃形状汎用型CADを忍ばせた上で、部屋を出た。

 

 幸か不幸か、そのパーティーが行われるホテルは宿泊先と同じであった。ということは四葉系列のホテルということなのだろう。

 そういう事情なら確かに手間はかからないが、そこに割り込める剛三の手際の良さに関心を覚えた。まあ、当の本人は今頃群馬の総本山で腰の痛みと格闘中だろうが。

 警備の人に招待状を見せると、案内された先は個人のパーティーにしては大きすぎる会場。悠元を出迎えたのは高価なスーツを身に纏った男性であった。

 

「はじめまして、長野佑都と申します。此度は上泉剛三殿の代理として参りました」

「話に聞いていたが、とても12歳とは思えぬ言葉ぶりですね。おっと、自分は黒羽貢と申します。よろしくお願いするよ長野君。ところで、もう一人参加すると聞いていたのだが…」

「兄は飛行機が苦手で疲れ切ってしまったようで。兄からも黒羽様に宜しくと言付かっております」

 

 敵対するわけでもないし、ここは丁重に礼をするのがいいと判断する。とりわけ黒羽は四葉の諜報を担っている以上、下手な動きは死に繋がりかねない。かの[アンタッチャブル]とすら謳われた四葉家と敵対して変なことになるよりはずっといい……それを口に出すことはしないが。

 一方、貢は悠元の歳に似つかわしくない挨拶に苦笑を浮かべていた。それは自分でも自覚しているが、ここまでのことになった原因の大半は祖父のせいである。

 

 それに加えて、まるで自分ではない誰かを見ているような気がした。いや、俺には分かる。貢が見ているのは、俺を達也と重ねるように見ていることだ。そのことを態々咎める気にもならないし、ましてや今の自分は12歳の少年でしかない。

 貢がその事実に自ら気付いて踵を正したので、自分から述べる必要も無くなったが。

 

「いやはや、その歳でそこまで流暢に喋れるとは。君の親の顔が見てみたいものですな」

「その半分は剛三殿のお蔭と言っておきます」

 

 そうして貢は『ごゆるりと』と言いつつその場を去った。変に騒がなければ飲食をしても咎められるわけでもないので、早速食事にありつくことにした。今回のパーティー自体プライベートの趣が強いため、どうせ三矢家の人間である自分を知る人なんてほぼいないに等しい、と判断して皿に料理を盛り付けて食べ始めていると、二人の男女が近づいてきた。

 

「すみません」

「ん? ……えと、どちら様でしょうか?」

「ああ、申し遅れました。僕は黒羽文弥(ふみや)といいます。文弥と呼んでください」

「私は黒羽亜夜子(あやこ)と申します。私も亜夜子で構いません。先程父と話されていらっしゃいましたが……」

「長野佑都と申します。僕のことは佑都でいいです。今回は知り合いの代理で出席しただけですよ」

 

 そういえばいたな、と思い返しつつ文弥と亜夜子の二人と会話することになった。二人からしても同年代の子が少ないので折角だから、という貢の計らいでこちらに来たらしい。色々話を聞いていると、二人の母親―――黒羽(くろば)亜弥(あや)が自分の子どもらに近づいてきた。向こうも悠元のことは初対面というのは直ぐに分かったというか、同年代の子が来るというのは思っていなかったようだ。

 

「黒羽亜弥と申します。まさか、文弥や亜夜子と歳の近い子が来るなんて聞いておりませんでしたので。この機会に二人と仲良くしてくださいね」

「こちらこそ、長野佑都と申します。今日は上泉剛三殿の代理として来たまでのことですから」

 

 流石に剛三という名を聞いて少し驚いたが、二人に何かを耳打ちし、自分に対して会釈してからその場を去った。それに続く形で文弥と亜夜子も頭を下げてから立ち去って行った。

 

 どうやらこのパーティーの主賓が到着して、文弥と亜夜子もその対応に追われる形。四葉の分家である黒羽の二人が動くとなると……その予想通りに透き通るような声が耳に入る。それが深雪の発した声だということはすぐに分かった。

 あまりジロジロ見るのも変なので、ここで[万華鏡(カレイドスコープ)]の出番だ。

 

(便利だねえ……相手に知覚させない魔法というのも。あんまりおいそれと人前で使えないけど)

 

 すると、文弥と亜夜子が達也の姿を見つけて駆け寄っていった。自然と笑みを零す達也にもどかしい思いをする深雪。それをどうにも快く思わない貢と少し悲しげな表情を浮かべる亜弥。

 実際の視界に捉えたわけではないが、変に罪悪感を持つのも可笑しな話ではないかと思う。そうさせた当人たちが罪の意識でその対象を縛るのはおかしなことではないか。

 そんなの罪の償いではなく、ただ自分たちの罪から逃げたいだけではないのかと。

 

(自らを優秀だと驕り、あの悲劇を回避するために力を望み、その結果に達也という存在がいる……だからといって達也を孤独にするようなことをしたら、それこそ本末転倒だぞ)

 

 怖いと分かり切っているのなら、対象をどうにかする前に自分たちの考えをどうにかすべきではないだろうか。自分たちの過ちから目を逸らしたいがために、達也の存在を見ようともしていないのではないだろうか……そう考えると自分も人のことは言えないな、と[万華鏡(カレイドスコープ)]を解除した。

 

(そうだな……達也とは対等でありたいと思う。一人の友人として……まずは、そこからがスタートラインかな)

 

 この世界に転生して明確な目標ができた。これは別に自分が助かりたいとかそういうものではなく、純粋に彼の力を知っているからこそ、彼の力になってやりたいと思う。なんにせよ、それを見越したようにあの武装も作ってきたのだから。

 そんなことを考えていると、自分に声をかけてくる人がいた。ドレスで着飾ってはいたが、紛れもなく今日の飛行機で同席した少女の姿がそこにいた。

 

「え……佑都さん?」

「おや……空港以来だね、司波さん」

 

 彼女の表情は必死に取り繕おうとしつつも、どうしていいか解らないようだった。それを見た悠元は深雪に対して柔らかい笑みを浮かべた。すると、何かを思い出す様に深雪が述べた。

 

「成程、知り合いのパーティーとはこのことだったんですか」

「僕も詳しいことは何も知らなかったけどね。司波さんも参加するなんて思っても見なかったし……ところで、司波さんは何に悩んでるのかな? そんな風に見えたけど」

「……」

 

 四葉とは下手に関わるべきではない―――普通ならそう考えるのだろうし、深雪に対しては適当に話を聞くだけでいいと思うだろう。だが、自分の心はそれを許そうとはしなかったし、先程達也とは友人でありたいという目標が出来たのだ。それを叶える意味でも、彼の妹が困っているのなら見過ごすのは違うだろうという結論を出した。

 深雪は会場の入り口を見つめるような視線をしつつ、呟き始めた。その視線の先にいるのは文弥や亜夜子と話している達也の姿だった。

 

「兄は、私にはあんな風に笑ってくれなかった。でも、文弥君と亜夜子ちゃんには、笑みを浮かべていた……それが、どうしても」

「理解できなかったし、納得がいかなかった?」

「……はい」

 

―――黒羽文弥と黒羽亜夜子。

 

―――司波達也と司波深雪。

 

 前者と後者は魔法力の違いこそあれど、互いに四葉の血を引くもの。

 違いがあるとすれば双子の姉弟と兄妹、あとは前者の関係には何のわだかまりもないが、後者の場合は達也が深雪の[ガーディアン]だということ。いくらなんでも四葉の部外者が下手に突いていい内容ではない。だからこそ、言葉を選びつつ悠元は言葉を口にする。

 

「自分は人より耳が良くて、先ほどの会話はある程度聞こえていた。お兄さんからすれば文弥と亜夜子ちゃんに対して会話する分に何の制約も課されていない。でも、司波さんと接する際は制約がある……そんな風に聞こえた」

「……」

「勿論、空港での自己紹介の会話も含めての推測でしかない。でもね、司波さん。一つだけ覚えておいてほしい」

「それは?」

 

 これは、核心に触れるかもしれない。でも、自分も妹がいるからそう思っているところでもある。その意味も含めて悠元は深雪に伝えた。

 

 ―――兄という存在はね、妹や弟を守ろうとする気持ちは誰にも負けないと思ってる。言葉には出さないけど、君のお兄さんも同じなんじゃないかな?

 

 前世の時はそこまで人との関わりを重視してはいなかった。

 単に人付き合いが面倒だった、というのもあるだろう。その自分が不安に駆られている少女を気遣う。その少女の正体を反則に近いことで知りつつ、表面上は何も知らないように振る舞う……まるで仮面でも身に着けているかのように。

 けれども、自分の中にある目標を達するためには彼女の困った気持ちを整理してやるのも一つの方策だろう……打算的な思いが混じっているのは否定できないが。

 

 あの後、達也との会話を終えた文弥や亜夜子も交えて会話を楽しみ、その後で会場の外を見回っていた達也にも軽く頭を下げた。部屋に戻ると、ようやく起き上がった元治に声をかける。

 

「兄さん、もういいのかい?」

「ああ。パーティーのほうは……いや、悠元なら問題はないか」

「別に十師族の当主たちと顔を合わせるわけじゃなかったから、大丈夫だよ」

 

 元治からの言葉にそう答えつつ、悠元は上着をハンガーに掛けてソファーに座る。

 『長野佑都』という仮面を意識がある限りで計算して6年弱という時間を過ごした。三矢家の肩書にすり寄ってくるのを避けるためのビジネスネームでもあり、父の付き添いで財界でのパーティーに出る際は“(げん)の親戚の子”という体を演じてきた。

 この名前で小学校も中学校も通っており、名を明かすのは高校入学の段階と父から言われていた。姓はともかく名前の呼び方自体は変わらないのでボロを出すことはなかったが、案外ばれないものだと思った。

 

 三矢家の屋敷に出入りしていることは一部に知られているが、それはあくまでも『本家とは関係ないが、現当主の関係者』としての体である。悠元の振る舞いを見て、元は思わず苦笑を零したことなど結構あると述べるほど様になっていたらしい。

 受け入れた側とはいえ、明らかに年齢不相応なのは流石に引っ掛かるようだ。言い訳がましくなるが、転生しても精神年齢自体は大学生相当のため、その状態で年相応の行動を取るよりもマシと考えた結果の行動である。

 父のように思う人はいるだろうが、無理をしてボロを出すよりも礼儀正しく対応した方が相手の印象もいい方向にもっていきやすいことに変わりない、と割り切った。

 

「それで、明日は?」

「知り合いがクルーザーをいくつか所持していてね。それの手伝いをすることになりそうだ」

 

 元治は船舶免許を取得している。魔法の面で力を伸ばす弟や妹達に負けたくない一心で猛勉強して取得したそうだ。三矢家は土地柄海にも近く、東アジア地域の情報収集を担っている。その意味で海のことを知るのは悪くないと元も取得を許可した。

 週末になると東京湾や相模湾を三矢家所有のクルーザーで遊びに行くこともある。この前の休みに相模湾へ出た際、家族で釣りをして悠元が大物を釣ったときは周囲が苦笑していた。

 俺は悪くねえ! と某親善大使のような言葉を叫んだのは記憶に新しい。そして、その大物を見て目をキラキラさせていた詩奈(いもうと)がいたのは言うまでもない。

 

  ◇ ◇ ◇

 

―――西暦2092年8月5日。

 

 早朝、悠元は紫外線を考慮して長袖のジャージに着替え、軽く流す程度に走る。真夏の沖縄なので早朝でも気温と湿度は高いが、この辺は魔法を使って、自分の周囲だけ上泉家でのランニングと同じ空気環境になるよう調節している。

 

 昨日のパーティーというか、出発から精神を擦り減らすなどとは考えもしなかっただろう。母方の祖父が四葉家と親交を持っていたことは無論知っていたが、いきなり原作主人公とヒロインに遭遇するとか誰が予想できるか、という話だ。

 しかも、ヒロインである深雪に割と興味を持たれた形となった。昨日のパーティーでは自分なりの考えで彼女に諭したが、それを以てどうなるかは二人次第であろう。

 一応言っておくが、達也や深雪とは友人としての友好的な関係を求めているのであって、それ以上の関係は求めていない。彼らが孤立しない様にせめてもの逃げ道ぐらいは作れるようになりたい……と思っている。

 

 元治はホテルで休んだおかげか、精神的に大分持ち直したようだった。

 本人としてはあまり思い出したくもないだろうが、相手は四葉家現当主の姉なので無理もない。寧ろ、あの四葉の関係者相手に三矢の人間だと明かさずに乗り切ったのは、正直褒めてもいいだろう。似たような意味で、深雪の魅力の片鱗に耐えきった自分が言うのもおかしな話だが。

 

 ホテルに戻ると、元治に引率される形で知り合いの業者を訪れることとなった。彼の名は渡久地(とぐち)といい、息子は現役の軍人をしている。

 昔は防衛海軍の軍人として名を馳せていたらしい(ガタイが良くてサングラスを掛けており、いかにも海の男というか“海坊主”という綽名が似合いそうである)が、退役後は海を感じたいという理由で家族や団体向けのクルージングを営んでいるそうだ。

 自分は剛三を介する形で知り合っており、見るからに厳つい出で立ち(ヤクザが見たら逆に泣いて逃げ出しそうな風貌)だが、話してみると結構気さくな印象を受けた。

 

 最初にクルーザーの動かし方や魚群探知機などの計器類のレクチャーを受けた後、渡久地の監督を受ける形で団体のクルージングを受け持つこととなった。風貌で目立ってしまう渡久地のお陰で事なきを得た形だが、一度戻ってきたところで渡久地から16時のセーリングヨットでのクルージングを受け持ってほしいと頼まれた。

 

 何にせよ、沖縄に来てクルーザーも悪くない……この時は自分もそう思っていた。その時に原作のことを少しだけでも思い出していれば違ったのかもしれない。

 後悔は先に立たず、とは非常によくできた言葉だと思う。

 

「あら、基晴さんに佑都さん。あなた達がクルーザーを?」

「は、はい。よろしくお願いします」

「(どうしてこうなった……いや、マジで)今日は副長として兄さんの補助を担当します。よろしくお願いいたします」

 

 完全に失念していた。原作のことはある程度記憶の中に入っているが、追憶編は後半が自分にとって衝撃的過ぎて、それ以前の構成が思い出せていなかった。

 そんなことを心の中で思いつつ、悠元は深夜達に軽く頭を下げた。すると、元治がお付きである桜井(さくらい)穂波(ほなみ)に見とれていたので容赦なく肘鉄を入れる。今はそんなことをしている余裕もないのだと。

 

「ほら、兄さん。色ボケしてないで出港準備をするよ」

「あ、ああ……そうだな」

 

 その光景に深夜は面白そうに微笑み、穂波は首を傾げ、深雪はキョトンとし、達也は…相変わらずのポーカーフェイスである。今の達也にそこまでの反応を求めるつもりはないが。

 

 クルーザーを動かすのはある意味力仕事でもある。とはいえ、武術を嗜んでいたおかげでそこまで重労働というわけでもない。爺さんの本気の拳に比べたら赤子の手を捻る程度のレベル。そんな自分もだいぶ毒されているな、と思う。毒されたというよりは染まってしまったというのが妥当な表現だろうとは思うが。

 今日は西風がでているので、北北西の方向―――伊江島へと進路を向けている。平然を装いつつも穂波のことが気になる元治の手綱を握っている悠元に深雪が話しかけてきた。

 

「佑都さん、夏の沖縄は南東の風のはずですよね?」

「東の海上に低気圧があるんですよ。まあ、台風になるほどの勢力ではないですし、大丈夫だと思います」

 

 難なく受け答えをすると、深雪は離れていった。達也の視線が深雪に向いていることも気づいているが、気が付かない振りをしつつ計測器に目を向ける。

 ソナーに表示されている魚群の群れらしきものを見て、スキューバダイビングとかしたら楽しそうなんだろうなと思っていると……明らかに魚群ではない大型の物体がソナーに表示された。

 

「兄さん、これ」

「これは……船の残骸、とは思えない。悠元、無線で呼び掛けられるか?」

「やってみる」

 

 呼びかけるといっても……言語って何語になるんだ? 原作だと相手が解っているし中国語でもいいのだが、後で何か言われそうなので英語にすることにした。

 すると、転生特典の一つが機能した。それは[言語理解]―――相手が何語であろうが理解し、自分の思ったことを相手の言語で伝えられる。翻訳や通訳泣かせの定番チート技能である。

 

「海中に停泊中の潜水艦に告げる。ただちに所属を明らかにし、その場に浮上せよ―――繰り返す、海中に停泊中の潜水艦に告げる。ただちに所属を明らかにし、その場に浮上せよ」

 

 警告はした。全周波数にセットして呼びかけたので、問題はない。最悪国防軍に連絡をつないで対処してもらう。

 だが、相手から見ればたかがクルーザーだと思っているのだろう。案の定通信妨害を掛けてきたようだ。この時点で敵対する気満々だろうと内心ため息をつきつつ、操縦を元治に任せて悠元は四人に近づく。

 クルーザーが突如速度を上げたことで四人も驚いているため、悠元が事情を説明した。

 

「お騒がせしてしまい申し訳ありません。どうやらこの近隣に潜水艦が潜んでいるようです。呼びかけに応じなかったことからして、国防軍の可能性は低いかと思われます―――どうやら、警告もなしですか」

 

 武術のおかげで気配や存在の探知能力も上がっている。クルーザーが速度を上げたのを見て、潜水艦も見つかることなど考えずに追跡している。二発の魚雷に気付いて四人は構えるが、それよりも早く悠元は懐から銃形状のCADを取り出し、海面に向けて魔法を放つ。更に海面に見える大きな影―――潜水艦に対してもう一発魔法を放つ。

 呆然としている深夜達に気を向けるわけでもなく、悠元は自身の異能で潜水艦の“消滅”を確認。悠元は元治に探知機で潜水艦の反応が消えたことを伝えると速度を落とした。そして、海面に浮き上がってきた魚雷にゆっくり近づくと、信管部分を“凍結”させて元治と小声で確認する。

 

「これって……あれかな?」

「そうだね。このタイプとなると……後で“知り合い”に確認してみるしかないね」

 

 父親の職業絡みでそれが大亜連合で使われている代物だということはすぐに解ったが、あくまでも今の自分たちは『三矢』の人間ではなく、一介の民間人。それを今の時点で『四葉』の人間に明かすつもりなどない。

 とはいえ、魔法を使った段階で悠元が魔法師だということを認識したのだろう。それに動揺する素振りを見せることなく、悠元は深夜達に視線を向けた。彼女らの手にはCADを持っていたので、魔法師という単語を出しても問題ないと判断した。

 

「そうなるか……すみません、見たところ魔法師の方もいらっしゃるようですが、自分の魔法ではこの魚雷をただ海底に沈めるぐらいしかできません。ご足労をお掛けすることになりますが、ご協力をお願いできないでしょうか? 無論、使った魔法については知らぬ存ぜぬと致しますので」

「え、ええ……達也」

「分かりました、奥様」

 

 悠元の魔法で魚雷を海に沈めた。それを確認してから達也はCADなしで手をかざし、放たれた魔法は魚雷を[分解]せしめた。お互いの魔法について必要以上にとやかく言うことはなく、元治がクルーザーを操作して港に引き返すこととなった。

 

 その後、国防軍の沿岸警備隊に事情を聞かれることとなったが、こちらとしても突然のことで動揺が収まらないため、事情が聞きたいのであれば直接訪ねるように取り計らった。その方向で深夜らの了解も取れたため、この部分の対応についても問題は出なかった。

 




 ご都合的展開もあるかもしれませんが、その辺は『テンプレ的お約束』ぐらいの気持ちで見ていただけると幸いです。

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