魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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九校戦三日目③

 その頃、第三高校に割り当てられたミーティングルームでは、佐保が準優勝したことで祝福されていた。それに「ありがとう」と返しつつも、佐保の表情は晴れやかでなかった。それを見た渡良瀬が佐保に話しかけてきた。

 

「浮かない顔ですね、先輩」

「渡良瀬……だって、渡辺に匹敵する選手が同じ3年にいたなんて寝耳に水だったからね。それに、正直決勝に行けたのは単に『運が良かった』だけだし。決勝の五十嵐選手の術式、渡良瀬も見た?」

「はい。水中を水上と同じように走行できる術式は、吉祥寺も『聞いたことなんてない』と言っていましたので」

 

 あの「カーディナル・ジョージ」ですら完全に『寝耳に水』の状態だったのだ。試合をした当事者である佐保からすれば、決勝に行けたことだけでもラッキーだったのに、準決勝で戦った摩利に匹敵しうる選手が同じ3年にいたことが吃驚と言う他なかったのだ。周囲の人間は「新人戦なら三高が有利だ!」などと意気込んでいることに士気を高められたのは幸いだが、佐保としては、これで終わるとは思えなかったのだ。

 

「そういえば、渡良瀬は何か知らない? 五十嵐ってことは百家本流だと思うんだけど」

「五十嵐亜実……確か、先日父から六塚家現当主の弟と婚約していた人物だと愛梨から聞かされまして」

「……え? 婚約してるの?」

 

 六塚家の名前は佐保も知っている。というか、十師族の名字ぐらい知らないと魔法使いとして生きていけない基礎知識のレベルだ。その関係者が見初めたとなれば、それだけの実力を持っていても不思議ではないと佐保は溜息を吐いた。これには流石の渡良瀬も言ってよかったのか、と思ってしまった。そんな二人の会話も余所に、1年メンバーたちは摩利の棄権を喜ぶような会話をしていた。

 

「バトル・ボードで棄権した渡辺選手はミラージ・バットの花形選手でもあったし、棄権になったのは天啓とでもいうべきなんじゃないか?」

「今年は新人も総合も三高の優勝で決まりだな!」

(……沓子が聞いていたら、「お主ら、他人の不幸で喜んだら罰が当たるぞ」なんて言ってたでしょうね)

 

 渡良瀬は正直、この場に愛梨、栞と沓子がいなかったことが天啓だと思った。愛梨はクラウド・ボールの調整でこの場にはおらず、栞と沓子はそれぞれ、明日の新人戦女子スピード・シューティングとバトル・ボードのための最終調整を行っている最中だった。そして、今聞いたことは話せることじゃないと渡良瀬は確信していた。

 すると、モニターの画面で臨時ニュースが伝えられた。

 

『ここで情報が入りました。第一高校は怪我で棄権となった渡辺摩利選手の代わりに、1年生の司波深雪選手を本戦ミラージ・バットの選手として申請しました。司波深雪選手は第一高校に次席入学し、先日の学期末試験でも―――』

 

 渡良瀬はここで、将輝がモニターに釘付けになっていることに気付く。正確にはそのモニターに映る深雪の画像に見惚れていたというのが正しいだろうが。けれど、渡良瀬はそれを見て人知れず溜息を吐いた。

 

「? どうしたの、渡良瀬?」

「いえ、何でもないです」

 

 いくら「クリムゾン・プリンス」でも下手を打つことはないと思うが、同じ種目には第一高校も十師族の人間がエントリーしている。しかも、渡良瀬ですら情報が掴めなかった生徒の一人なのだ。

 それ以上に、渡良瀬は乙女の勘で「その恋が叶うとは思えないんだけどね……」と内心で呟いたのだった。どうしてそう思ったのかと言えば、将輝はああ見えて女性に対する接し方が苦手だということを渡良瀬は知っているからだ。尤も、そんな予想が当たるか否かは渡良瀬でも分からなかったが。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 深雪が本戦ミラージ・バットに出場することが決まったミーティングの後、悠元は呼び出しを受けていた。その相手は父親である三矢元なのだが、その呼び出した先は―――ホテル地下の温泉だった。

 

「まさか、こういう呼び出しとは思わなかったけど……」

「気にするな。偶には親子水入らずというのも構わんだろう」

「言いたいことは理解するけどね」

 

 お互いに水着を借りて、2人でサウナの中に入っていた。悠元自身は細身ながらこれでも鍛えている方だが、元のがっちりとした肉体はとても50代とは思えぬものだった。剛三とは血が繋がってないのに仲が良いのは、その体格に起因しているのでは、とも思えた。

 

「悠元。お前の事情はまだ誰にも明かしてないのか?」

「明かしてないよ。父さんなら家族あたりに話していると思ったけど」

「言えるわけがないだろう……下手をすれば、『パラサイト』と疑われかねないからな。お前の場合はハッキリと違う、と断定できたが」

 

 悠元の事情―――元々この体に宿っていた魂ではなく、消えた魂の代わりに転生した存在であるということ。これをこの世界で知っているのは、自身以外では父親の元しか知りえないことだ。

 元の場合は、知り合った古式魔法の使い手こと幹比古の父親がいたからまだ理解できていた、と話した。

 

「明日から新人戦だが……何か、聞きたそうな顔をしているな」

「あ、うん……自分が十師族であるという意味を考えたときに、どうあればいいのかなって……」

 

 九校戦で力を示す意味は理解している。その意味で、真由美にしても克人にしても、既に高校生という枠組みをとうに超えている。それは自分にも言えたことかもしれないが……悠元のこの質問には、流石の元も思わず苦笑を浮かべていた。

 

「……難しい質問だな」

「現当主の父さんでもか?」

「無論だ。十師族はこの国の魔法師の頂点に立つ……つまりはこの国の魔法師の力を示す存在とはいうが、その力を揮うのにも制約が付きまとってしまうからな。面倒だとは思うが、これも力を持つ者の責任だろう」

 

 出る杭は打たれる……その意味で、三矢家は同じ師族二十八家のひとつである十山家に対して、屈辱的な仕打ちを受けて来た身上。それを打ち破ったのは悠元であり、十山家と国防軍の失態を招いたのも彼のおかげである。けれど、九校戦では悠元に対して一つの注文を付けねばならないと元は述べた。

 

「九校戦は、当主たちから見れば“児戯”のレベルなのは言うまでもない。だが、十師族である以上は“最強”で在らねばならない。このことは元継をはじめ、詩鶴、佳奈、美嘉にも言い含めている。無論、選手として出るお前にも求められていることだ」

「爺さんにもその辺のことを言われたよ……その上で聞きたい。俺が仮に一条家の次期当主を倒したとしても問題はないのかどうか」

 

 悠元が出るピラーズ・ブレイクとモノリス・コードで将輝と当たる可能性が高い以上、十師族同士の戦いは避けられない。将輝は表立った実戦経験ありの魔法師で、二つ名まで持つ三高のプリンスだ。その一方、自分は表立った実績がなく、三矢家でも家督継承の立場にない。

 

 一条家の現当主から好意的に見られているのは確かだが、それとはまた話が別だ。自分自身、学校生活で十師族としての力を軽々しく見られるのは問題だと判断して、燈也にいくつかの術式供与を行った。彼の場合は他校の対戦相手に十師族がいないから問題ないが、自分の場合はそうもいかない。そんな悠元の問いかけに対し、元は思わず笑みを漏らした。

 

「ふっ……悠元のことだから、本気で倒しに行くと一言目に言いそうだったが。意外だな」

「やるからには手を抜く気なんてない。そんなことをしたら、十師族の力に疑いを残すことになると思うけど?」

「そうだな。そのことは気にするな……相手が誰であろうと、十師族の一角を担う三矢の力を見せつけて来い。私から言えるのはそれだけだ」

 

 ともあれ、全力でやっていいということなのだろう……流石に戦略級魔法がアウトなのは理解しているが。すると、元が何かを思い出したように悠元へ視線を向けて尋ねた。

 

「ところで、誰か好きな人はいないのか? 義父さんは女性に興味がないのかと心配していたぞ」

「生憎常軌を逸した趣味は持ってないよ……女性に興味ぐらいはあるさ」

 

 小学および中学では恋人の一人も作らなかったし、長野佑都として剛三の付き添いをしていた時も、せめて相手に悪い印象を与えないよう心掛けていた。将輝と真紅郎に対してはついカッとなった部分があったのは否定できないが。

 そんな肉体言語(サブミッション)絡みも含んだ事情はともかく、女性と付き合うという感覚がどうにも分からなかった。

 

「ふむ……なら、九校戦でお前と一緒に行動している子たち―――司波さんに北山家のお嬢さんはどうだ? 異性としての評価は?」

「見てたの?」

「知り合いから聞いたのでな。で、実際のところは?」

「そうだな……」

 

 原作知識とかを一切抜きに考えると、二人の容姿の方向性は異なるが、それでも女性として魅力的に映ると思う。男性としては、恋人として付き合えたら嬉しいだろう。

 けれど……自分と一緒に行動しているのは、雫の場合は小学校からの顔馴染みで、深雪は沖縄の一件で友人として付き合い始めたからだと認識している。懇親会では、いやと言うほど視線を集めてしまったが、それは深雪という周囲から視線を集めやすい存在がいたからだと結論付けていた。

 三高内で親衛隊とかが形成されている将輝に比べたら劣るだろう……という悠元の考えに対し、元はため息を吐きながら問いかけた。

 

「悠元。お前は詩歩に似て顔立ちの良い容姿だというのに、些か自己評価が低すぎないか? それに、その二人は私にとっても知己の娘さんだ。お前が付き合っても問題ないと思うが……私の知らない事情が、何かあるのか?」

 

 これは話すべきか迷った。けれど、この世界で自分が転生者だと知っているのは、目の前にいる今の父親だけだ。このまま引き摺るよりは話したほうがいい。それを信じてくれるかどうかは不明瞭ともいえるが、抱えたままよりは多少マシだと思いつつ、悠元は元の問いかけに答えた。

 

「……分かった、話すよ」

 

 形はどうあれ、父親として息子を心配してくれている以上、彼に甘えてしまう形となるが……悠元はその辺の事情を話した。前世に兄がいたこと……自分が付き合っていた元彼女のことも含めて。それを聞いた元の表情は悲痛に満ちていて、信じられないというよりも辛い人生を送ってきた悠元の強さに感心していた。

 

「……お前は、強いな。いや、この場合はよく話してくれた、というべきだな」

「単に痩せ我慢してただけかもしれないよ? もしくはとっくに壊れてただけかもしれない」

 

 達観というか、悟っていたというか……その中には諦めも含んでいた悠元の言葉に、元は首を横に振った上で率直な感想を述べた。

 

「私なら間違いなく怒り狂ってただろうし、一発ぐらいは殴ってただろうな。好いた人を身内に奪われる……そんな経験などしたことがないから、憶測でしか語れないがな。好きにやってみろ、とは言ったのだがな……お前のことを汲み取れてなかった私の責任だな」

「いや、父さんは悪くない。こんな事情なんておいそれと話せることじゃないし、父さんも当主として忙しい身だから」

 

 話すことができないというよりも、信じてもらえないという気持ちが大きかったのだろう。けれど、元はよく話してくれたと言わんばかりに悠元の頭を撫でた。こんな風に撫でてもらったことは前世でなかったために、新鮮に感じた。

 

「恋愛に対して臆病になる気持ちも分からなくはない。かくいう私も、詩歩に泣かれるまでは彼女への気持ちも、彼女自身が私に向けていた気持ちも理解できてなかったからな」

「……そんな話、初めて聞いたんだけど」

「恥ずかしい話だったからな」

 

 元が高校生の頃、自分を鍛える意味で新陰流剣武術の道場に通い始めたときに詩歩と出会った。高校生時代の元の体格は、第三研での訓練を経たお蔭で今のような感じに近く、話を聞いた限りではまるで克人のようだと感じた。そう述べると、元は苦笑いを浮かべていた。

 それは置いといて、その時点で高校2年生―――16歳だった元。一方の詩歩は小学6年生の11歳。しかも、奇跡的に誕生日が同じ1月1日という事実。そんなこともあって、剛三からは特に厳しく稽古をつけて貰っていたと話した。

 

「お前達のように奥義の会得まではいかなかったが、2年で中伝の目録ぐらいには至った」

「新陰流は中伝に行くまで最低10年は掛かるって言われるから、それでも凄いんだけど……」

 

 鍛錬を続けていく中で甲斐甲斐しく世話を焼いてくれていた詩歩に、元はいつしか心惹かれていたような気がした。その一方、詩歩も自分の父のように逞しい元のことを好いていた。

 周りから見れば相思相愛に見える雰囲気だが、当の元本人は気付いていなかった。いや、身分の違いということから、詩歩に対しては「父親である剛三が気に入っているから、気に掛けてくれている」と思っていたと話す。

 

「2年後、当時はまだ生きていた父から三矢家の次期当主として指名を受けた。その為の本格的な勉強をしなければならないということで、新陰流をそれ以上修得するのを止めざるを得なかった……その挨拶の時に、詩歩に泣き付かれてしまったのだ」

 

 今から33年前―――そう、四葉家による大漢復讐戦の直後の話になる。

 剛三も次期当主としての勉強をする元を無理に引き留めようとはしなかった。自身の娘も狙われる可能性というのを捨てきれなかったためだ。これには、当時存命だった剛三の妻も娘の身を案じて、暫くは周囲に対する警戒を強めるべきだと判断した。

 なので、三矢家と上泉家は、国防軍への技術供与が出来なくなるデメリットよりも身内の安全を最優先にし、第三研を閉鎖してお互いの安全のために関わりを絶つべきだと考えていたらしい。

 

「だが、それに真っ向から反対したのが詩歩だった。『元さん以外の男の人に嫁ぐなんて、絶対に嫌です!』と言われて、私に泣き付いてきたのだ。その時に気付いたんだ……私はいつしか、詩歩のことが好きになってたんだと」

 

 そのことが切っ掛けで、お互いの関係を絶つ話から結びつきを強める話に変わり、二人の縁談自体は元の両親と剛三の妻が主体となって進めた。曰く「剛三に任せると絶対に派手になる」とのことだった。

 元が挨拶に行った1週間後に婚約の話が成立、結婚はその5年後に行われることまでトントン拍子で決まった。お互いの気持ちを理解しあった二人の惚気ぶりに周囲からは「早く結婚しろバカップル」と冷やかしが飛ぶほどだったらしい。

 

「てっきり父さんが『娘さんをください』と言って、爺さんが『なら、わしに勝ってみせろ!』という展開かと勝手に思ってたけど……」

「正式な婚約の時に言われたんだが、詩歩が『いい加減にしてください、剛三様』と言って義父さんの心を折っていたから、そこまでの事態にはならなかったよ」

 

 自分の娘に名前で呼ばれたら、父親として心が折れるのは間違いないな……と二人揃って苦笑を浮かべていた。なので、悠元の姉たちの縁談はその時の経験に倣って詩歩が主体となって進めていると元は話した。彼女の御眼鏡に適う相手ならば、とのことらしい。

 

「お前もその意味で婚約を考えねばならない年齢だ。かといって、お前の望まない婚約も出来ることならさせたくはない。お前の前世の経験はこの際考えるな。自分の容姿と自己評価、それに加えて相手がお前に抱いている気持ち……お前が相手をどう思っているかを見極めてみろ。朴念仁と言われた私にもできたのだから、お前にもできる。自信を持て」

 

 お前は(おれ)詩歩(かのじょ)が愛する息子なのだから、と言って元はサウナから一足先に出た。それを見送った後で、悠元は一人サウナの部屋の天井を見上げていた。正直、甘えたことを言うなと叱咤されるのでは……と思ったが、元なりに捻り出した言葉を聞いて、自分の中で思い返す。

 

 社交辞令というか、打算的な思考を持っている人間はこの際省くとする。

 少なくとも、好意的なのは七草家の娘である真由美、香澄と泉美の3人で、泉美が兄のように慕ってくれている。一条家では将輝の妹である茜が自身を「お兄様」と呼んで慕ってくれている。

 四十九院家だと沓子とは付き合いの長さから親しい関係にある。一色家の場合は初対面が社交辞令の挨拶程度であったが、九校戦の懇親会では愛梨が直接会いに来ていた。

 千葉家の場合はエリカと友人(悪友に近いが)の関係にある。五輪家とは澪からの婚約話が一度持ち上がったが、自身の力の関係で断った経緯がある。

 四葉家関連の場合はというと……当主である真夜からは好意的であり、双子の姉である深夜からも好意的な感情……それ以上を滲ませる様なものを向けられている。文弥と亜夜子とは良い友人関係とお互いに割り切っている。

 

 で、深雪からはすごく好意的に見られているのは、今までのことから間違いないと思う。司波家に居候してからというものの、関わる機会が多くなったからというのもあるのだが、学校内で一緒にいる時間を考えると……あれ?

 

(……ひょっとして、深雪のことが好き……なのか? もしかして、雫のことも……?)

 

 その意味で雫とも高校に入ってから関わることが多くなった。彼女なりのアプローチ自体は気付いていたが、それが自分に向けられているとは今の今まで感じていなかった。考えてみれば、九校戦に入ってから一緒に行動するような機会が増えたことをあまり気にしていなかった自分が悪いのだが、それを嫌と感じてなかった。

 

 というか、先に挙げた人たちのことを考えると、自分が「人誑し」と言われても反論できないことに気付いた。これでは前世の兄がしてきた経験を自分が体験しているようなものだ。

 

「ははは……笑うしかないって、これは。てかさ、下手すると“兄貴”以上じゃないか、これは……何で気付かなかったんだ、俺の阿呆が」

 

 他人に物事を客観的に見ろ、だなんて偉そうなことは言えない。かくいう自分が出来ていなかったのだから。全くもって滑稽なことだと思う。この世界に転生して、自分の視点ではなく「三矢悠元」としてのフィルターを通して見ていた……そんな状態だった。その意味で『力に酔っていた』のかもしれない。

 

「まさか、これも見越して爺さんはあんなことを言ってたのか? 爺さん、変なところで鋭いからなぁ……俺が悪いことは承知してるけど」

 

 正直に言って、笑うしかなかった。自分が転生した時点で前世との関わりは断ち切れたようなものだ。それを無駄に引き摺って、愛想のいい仮面を被って生きてきた……馬鹿だの阿呆だの言われても仕方ないだろう。

 そもそも、この国の魔法師として最上位にいる十師族の直系に割り込み転生しただけでも凄いことなのに、それを凄いと感じなかったのは……この世界で生き残ることだけを考えていたせいだろう。

 

 今にして思えば、元治に対してしっかりとするように言い含めたり、詩奈に対して可愛がったりする部分は前世の二人をどことなく思い出していたのかもしれない。その二人のように……そこまで考えたところで、悠元は深い溜息を吐いた。

 

前世(むこう)でも今世(こっち)でも妹のブラコンは健在なり、か……)

 

 あの時は言わなかったが、妹は原作の深雪レベルのブラザー・コンプレックスを拗らせていた。クラスメイトからは「リアルなブラコンってあそこまでになるんだな」と言われたことがあった。妹は天才と呼ばれていても、甲斐甲斐しく自分の世話をしていた……自分がポックリ逝った後、後追いしていたなんてガチで笑えないため、何かあった時のために遺書というか妹への手紙を遺していた。

 確か転生したとき、神様にそんなことを言った記憶があった……確か『誠心誠意やらせていただきます!』とか言ってた筈だ。

 

 そんな事情は置いといて、悠元はゆっくりと立ち上がってサウナを出た。流石にそろそろ次の人が入ってくる頃合いだろうと思い、脱衣所で速やかに着替えて、部屋に戻った。流石にラッキースケベ的な展開は起こらなかったようで一安心だった。

 

「さて、明日から新人戦だし、とっとと寝るか」

 

 1年メンバーを引っ張る側の自分が寝不足では格好がつかないからな、とそう言い聞かせながら悠元は眠りに就いたのだった。

 




ご都合主義的な部分もありますが……まあ、その辺はご了承ください。
この世界だと彼しか知らないことなので、彼に頑張ってもらうことになりました。
主人公の心境の変化は4日目以降で少しずつ出していきます。

令和も不定期更新は変わりませんが、拙作をよろしくお願いいたします。

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