魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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九校戦四日目⑦

 第三高校の会議室では、新人戦女子スピード・シューティングの結果を踏まえてのミーティングが行われていた。真紅郎の放った一言を聞きつつ、将輝がその結果に至った原因を述べた。

 

「ジョージの言う通り、選手のレベルでは負けていない。となると、選手以外の要素で負けたとするなら筋が通る」

「―――エンジニア、だね。多分、女子に付いたエンジニアが相当の凄腕だと思う」

 

 単純な技術だけでなく、戦術面においても卓越した人材。そういう人間が高校生の大会に出てきている、というだけでも反則級だろうと真紅郎は自分のことを棚上げにしてそう述べた。

 

「それに、ジョージ。優勝した北山って子が使っていたデバイスだが……」

「うん、あれは汎用型だったね」

 

 将輝と真紅郎は、栞の準決勝で戦った相手―――雫の使っていたものが汎用型であることを対戦中に見抜いた。真紅郎の言葉は、彼ら以外の面々を驚愕させた。

 

「そんな……だって、照準補助がついてたし!」

「そうよ! 小銃形態の汎用型CADなんて聞いたことがないわ!」

「どのメーカーのカタログにも、そんなの見たことがないぜ?」

 

 次々に飛んでくる同級生の言葉を聞きつつ、将輝は冷静にそれらの疑問を解決するための答えを返した。

 

「確かに市販はされていないだろう。だが、照準補助と汎用型を一体化した技術は既に実例がある」

「マジかよ……」

 

 将輝の答えに周囲は呆然とするが、そこにダメ押しと言わんばかりに真紅郎が答えた。

 

「去年の夏にドイツのデュッセンドルフで発表された新技術だよ」

「去年の夏!? 最新技術じゃないか」

「ああ、俺もジョージに聞いて初めて知ったからな」

 

 一流の魔工メーカーで発表された技術をこの九校戦で披露する……真紅郎は、雫が準々決勝で使っていたCADが準決勝のプロトタイプ的位置づけではないかと推察していた。尤も、それを直接聞きだすわけにはいかないため、その段階で止まってしまったが。

 細かいことを抜きにしても、それを実現できるだけの技量を持ったエンジニアがいるという事実は確かだろう。

 

「吉祥寺君は良く知ってたね。さっすが私たちのブレーンよ」

「うん。けれど、デュッセンドルフで発表されたものは“ただ繋げただけ”のものでしかなかったはずなんだ」

 

 渡良瀬の言葉をそのまま受け取れず、眉を曇らせたまま紡がれた真紅郎の言葉を聞きつつ、将輝は立ち上がって窓の外を見つめていた。

 

「だが、北山って子が使っていたものは、特化型と同等以上の速度と精度、系統の異なる起動式を処理するという汎用型の長所を兼ね備えたものだった。それがエンジニアの腕で実現しているのだとしたら……そいつは到底高校生のレベルじゃない。一種のバケモノだ」

「1人のエンジニアが他の種目を担当するのは物理的に不可能だけど……」

「そいつが担当する競技は、今後も苦戦を免れないだろう。少なくとも2、3世代分のハンデを背負っていると考えるべきだ」

 

 将輝はそう評していたが、これがまだ始まりに過ぎないということは将輝と真紅郎でも予測できていなかったのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 午後の男子スピード・シューティング。元々3年の技術スタッフが全て担当する予定だったところに悠元が燈也の担当をすることになったため、少々忙しかった。

 元々雫の調整自体は達也の腕前を信頼していたのでコンディションによる微調整程度で済んでいたが、燈也の場合は一度組まれた調整データを破棄し、彼の魔法特性に再調整する作業が必要だった。

 天幕で悠元が端末のキーボードを叩いていたのは、計測から得られた調整データをCADにインストールするための作業の一環である。

 

 緊張しがちなほのかの応援をするという女性陣に達也も同行させた。元々彼女の作戦を立案した人間が様子を見に行ったほうがいいだろうという悠元の気遣いだった。レオと幹比古は燈也の観戦をするらしく、離れたところでは服部、沢木や桐原といった男性の主力陣もその様子を見守ることとなった(亜実も行きたがっていたが、摩利が無茶をしないようにするための監視役で天幕に残っていた)。

 

「六塚君は予選Aブロックの一番手か」

「沢木、そんなに嬉しいのか?」

 

 まるで少年のような表情を垣間見せていることに対して、服部は肩を竦めるとともに息を一つ吐いた。この2人からすれば、燈也の実力の一端を知っている人間でもある。燈也はマーシャル・マジック・アーツ部には所属していないが、沢木と山岳部の部長の誼で偶に顔を出すこととなった。

 女性のような顔立ちを持ちつつもその一撃は強烈で、『レンジ・ゼロ』の二つ名を持つ彼と同学年の十三束(とみつか)(はがね)を魔法も使わずに沈めたのだ。沢木も挑戦したが、結果は燈也が勝利を収めた。

 それでいて荒事は好まないと燈也は零していて、実はモノリス・コードの打診もあったのだが、それを辞退してスピード・シューティングとクラウド・ボールの2種目に出場することになった経緯がある。克人も本人がやる気のある競技なら良い結果も出せるだろうと考え、無理強いはしなかった。

 

「彼が本気で魔法を使ったところを見たことがないからね。そりゃ楽しみで仕方ないよ」

「お前なあ……まあ、気持ちは分からんでもないが」

 

 まるで遠足前日の小学生のような面持ちを浮かべている沢木の言葉に、流石の桐原も呆れが混じったような表情を見せていた。とはいえ、桐原も十師族の人間である燈也がどんなことをするか興味があったのは否定しない。

 

「そういや、三矢が六塚の担当をするとはな。正直、十師族同士って反則じゃないのか?」

「その恩恵を受けていたお前が言うのか……ただ、三矢の実力は確かだ」

 

 服部は、桐原の言葉にそう答えつつも競技フィールドのほうを見やっていた。既にシューティングレンジで競技の開始を待っている燈也の様子は、明らかに場慣れしているとしか思えない振る舞いだった。

 

「見事なもんだな。とても新人戦に出る奴の振る舞いとは思えねえ」

「ああ……」

 

 十師族はこの国の魔法師にとって頂点に立つ存在……それは服部も理解している。それを抜きにしても、九校戦という大舞台を前に落ち着いた振る舞いができている燈也の様子を見て呟いた桐原に、服部は短く答えるしかできなかった。先日の事故(正確には事故未遂だが)でも悠元や深雪と共に連携して適切に止めた実力の持ち主。その実力を見ようと服部はいつの間にか目を凝らしていた。

 

 競技開始のシグナルが鳴り、燈也は魔法を発動させる。最初のクレーを振動魔法で破壊した後は、その破片を移動魔法で次々と破壊していく。その魔法に服部は見覚えがあった。そう、女子スピード・シューティング予選で三高の女子こと十七夜栞が使っていた『アリスマティック・チェイン』そのものである。

 5分間の試技の結果はパーフェクトで、文句なしで予選突破を成し遂げた。

 

「三矢も凄いと思ったが、六塚もバケモンだな、ありゃあ……」

「格闘だけでなく、射撃も得意とは。彼が山岳部というのが惜しいな」

「無理強いはするなよ? どうした服部?」

「あ、いや……何でもない」

 

 沢木から垣間見えた向上心に対して、相手が相手なので無理強いはするなと念を押すように桐原が窘めると、服部が何かを考え込んでいるような表情が見えた。それに気づいた桐原が声を掛けると、服部は我に返ったように返しつつもまた黙った。

 

「どうした、服部? まさかとは思うが、先日の一件をまた思い返していたのか?」

「いや、そうじゃないし、本当に大丈夫だ」

 

 服部は昨年の自分自身を思い返していた。一高の同学年ではトップクラスであったが、流石に九校戦では緊張していた。けれど、先程の燈也の試技は観客の視線を一切気にすることなく完全に集中しきっていた。見るからに線の細そうな人間だが、胆力は現3年の面々にも劣らないと推察した。

 現3年である真由美や克人と同じ十師族……その一端を、服部は改めて感じていたのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 男子の予選が全て終了。第一高校は燈也と森崎が通過したのだが……森崎が少し調子を崩したようで、2位通過となっていた。CADに細工をされていたわけではなく、単純に本人の調子とCADの調整が噛み合っていなかったのだろう。

 その原因の一つに女子スピード・シューティングの結果のこともあるとみている。彼はガチガチの実力主義のため、二科生である達也に対して必要以上に敵対視している(同じ風紀委員というのもあるだろうが)。選手とエンジニアでは役割が違うとはいえ、彼の担当した選手が上位に食い込んだことに苛立ちを感じていたのかもしれない。

 決勝トーナメントの組み合わせは、燈也と真紅郎が別のブロックのために直接当たるとしたら3位決定戦か決勝になる。森崎は準々決勝で真紅郎とぶつかる形となった。

 

「大丈夫でしょうかね……必要以上に思い込んで、かえって空回りしないといいのですが」

 

 酷な言い方だと思うが、自意識過剰は本来の実力を出させなくする。護衛を家業としている森崎がその辺を弁えていない筈がないと思うが、ここまで来てしまった以上、割り切れるかどうかは本人の問題だろう。燈也の懸念に対して、悠元が答える。

 

「ここから先は本人次第だな……燈也はどうする? このまま準決勝まで『アリスマティック・チェイン』で行っても問題はないが」

「では、そうしましょうか。他の射撃魔法はお蔵入りになっちゃいますが、決勝は“アレ”を使うわけですし。でも、よく思いつきましたね?」

「相手への直接的な干渉はできないが、フィールド自体に障害物を設置するのは反則にならないからな」

 

 これは大会運営に確認している。というか、今までそういう考えをもって魔法を使用した人がいないというのも驚きだろう。高校生の大会で求める基準としては魔法のハードルが高すぎるのかもしれないが。それに、そういった類のものを設置するのはリスクが伴うため、知覚系魔法でもないと無理だし、そもそも事象改変による想子の消費が洒落にならないのだ。

 

「そういえば、カーディナル・ジョージとはどこで面識を持ったんだ? 以前聞いたときは触り程度にしか教わっていなかったんだが」

「そうですね。悠元なら大丈夫でしょうし、それほど時間はかかりませんから」

 

 燈也と真紅郎が面識を持ったのは3年前―――新ソ連(当該国は否定しているが)による佐渡侵攻にまで遡る。当時は姉のせいで髪を伸ばして結んでおり、男物の服は着ていてもボーイッシュな女性に見られていた。今でも見られる可能性があることは否定できないが。

 佐渡には観光目的で来ていたらしく、偶発的に島の中学校の周囲にいた敵兵を一人残らず殺し、そのシェルターで真紅郎と初対面を果たした(燈也は元々避難するついでで片づけていたらしい)。そこまでは良かったのだが、真紅郎が顔を赤らめて燈也を見ていたことに気付き、その場で説明したのだが……取り合ってくれなかったため、シェルターを出て全速力で実家(六塚家)に帰ったと説明した。

 

「法規的に問題はなかったのか?」

「ええ。姉が秘密裏に取り成したお蔭でその辺はどうにか。彼には自分のトラウマを弄られましたが」

反則行為(ダイレクトアタック)だけはやめとこうな……というか、一条家の人間によくバレなかったな」

 

 一応、この部屋全体に遮音フィールドは張っているので問題ないが、まさか燈也が実戦経験のある魔法師だとは初耳だった。

 燈也はその時名前を名乗っていなかったので目立った実績として名を残していないが、佐渡侵攻の際に“謎の美少女魔法師”が「クリムゾン・プリンス」と並んでの功績者として名を連ねていたことは知っていた。

 “秘密裏”とは言ったが、その辺については深く聞かなかった。トラウマを思い出させるのはストレスにしかならない、と理解していたからだが。

 

「海水を凍らせた上で渡って帰りましたので。『クリムゾン・プリンス』との面識はありませんし、帰った後に髪をバッサリ切りましたので」

 

 それでバレていないというのは、大方燈也が戦う際に熱量操作で視界を屈折させていたのだろうと考える。モノリス・コードを辞退したのは、その動きから見破られる可能性を危惧してのことだろう。クラウド・ボールに比べればモノリス・コードはより実戦的な魔法競技なだけにだ。

 

「なので、悠元には感謝してるんですよ。ぐうの音も出ないほど叩きのめしてあげます」

「……燈也なら、ぐの一文字が出る前に終わらせそうだな。調整は終わってるから、チェックだけはしておいてくれ」

 

 その後、燈也は何の問題もなく『アリスマティック・チェイン』で準々決勝と準決勝で勝利を収めた。森崎に関しては善戦していたが、真紅郎の『インビジブル・ブリット』で得点を思うように伸ばせず、準々決勝で敗退してしまった。

 真紅郎が決勝まで勝ち上がったことで、男子スピード・シューティング決勝は燈也と真紅郎の一騎打ちとなった。

 




彼はいい人だと思う。思うんだけどね……うん(謎の納得)
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