この〇〇のない世界で   作:ぱちぱち

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連載の息抜きに書くといった。しかしいつ書くとは言っていない。つまり、10年後、20年後……もしくは今、という事も可能だろう。

つまり書きました。

追記:前回唆されたのは宗教関係者。唆された人物は深く考えずにロックは道徳的にどうかと懸念を弄したが、なんか魔女狩りになりそうになり慌てて止める事に。結果ロックに手を出す人は激減しました。


誤字修正。五武蓮様、sunny•place様、猫缶ささみ様、所長様、kuzuchi様、a092476601様ありがとうございました!

>FAQに曲名はOKとあったと教えてもらい確認。曲名を入れました。


このアニメのない世界で(6.1修正)

 チャンスってのは急に訪れるものだってあの時分かったわ。

 タクミと仕事をするのは有給休暇みたいなものね。それまでの私は1週間に7日、毎晩音楽学校で人にギターを教えて過ごしていたの。それが急に10倍の給料で可愛い女の子と楽しく音楽をする仕事に早変わりして、1週間に2、3日働けば良いだけになったのよ。

 

~ジェニファー・ヤング ギターソロライブでのインタビュー~

 

 

 

 ぐつぐつと煮える鍋を前にしてタクミは首を傾げた。まだかな? まだかな? と鍋に尋ねる様に。

 そんな彼女の様子に苦笑を浮かべて、母親はそっと彼女の前で鍋の蓋を開ける。ふわり、と湯気が立ち上り、タクミはうわあ、と嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。そんな彼女の様子を笑顔で見つめ、そして父親が手を合わせる姿に彼女は慌てて両手を合わせる。

 

 どこからかギターの音が鳴り響く。そのメロディに合わせる様にタクミは立ち上がり、歌を歌い始めた。そのメロディは懐かしく、新しく、そしてどこか寂しい。

 

 スラムの外れに立つ一軒の掘立小屋から歌いながら出てくるタクミに、その家の前でギターケースを小銭入れ代わりにしながらジェニファーがギター伴奏を行い、そして、周囲の窓から人々が顔を出し、彼女の歌に耳を傾け、あるいは口ずさみ、あるいは涙する。そして、歌の終わりと共に周囲は暗くなっていき、ギターの音が途絶えて、完全に暗闇となる。

 

『……カット!』

 

 映像監督の声と共に室内に明かりがついた。カメラマンやスタッフ達、それに俳優たち。このムービー撮影に尽力した人々。だが、彼らは誰一人その場から動こうとしなかった。余韻のような物だろうか。確かに先程まで自分たちが居たあの空間。食うや食わずの日々を送る貧しい人々の、精いっぱいのごちそうを前にした少女の楽しげな様子。

 

 確かにあの時、この場にいた彼らは彼女の仲間だった。辛い日々を送る、けれども明日の活力に満ちた、そんな日々を過ごしていた。たったの数時間であるというのに、彼らは確かに、今、この小さなセットの中でだけ表現される世界の中に居たのだ。

 

 その様子を監督を任されたリブは叱るでもなく、ただただ頷いていた。長い事ショービジネスの世界で生きていた彼だが、こんな現象は初めてだった。

 

 ただ、凄い物を見た事だけは間違いなかった。この仕事を自身に持ってきたボビーの言葉を思い出す。『私は歴史の一ページに立った』と彼は見た事のない晴れやかな顔で語っていた。その言葉の意味が、分かった気がする。

 

「ねぇ、クロちゃん。このすき焼き、皆で食べようよ」

「……ああ、そうだな。そうしよう」

 

 屈託もなく笑って自身の義父に甘える少女の姿を見ながら、リブは小さく感嘆の吐息を漏らした。今日撮ったこのフィルムは間違いなく自身の生涯最高の仕事となるだろう。それがリブには堪らなく嬉しかった。

 

 

 

 仲間が増えるよ! やったねクロちゃん! という訳で黒井以外の旅の仲間が出来ました。パツキン美人のチャンネー(死語)、ジェニファー・ヤングさんです。

 

 いやー、黒井パッパと二人で歩いてると何故か結構な確率で警官に呼び止められてたからさ。スゲー助かります。誘拐犯じゃなくてパパ(意味浅)なんだけどね。

 

 あとパッパも男だから入りにくい場所があるからな。私としても大人の女性の手助けはそろそろ欲しかったんだよ。一人じゃ出歩けないからさ。一人で出歩いたら秒で周りを取り囲まれるんだよね。

 

 こっちが子供だと思って調子に乗って拉致ろうとされた事もここ数日でなんぼか経験してる。全員ジュウ・ジツ(腕力)でぶん投げたから私に被害はないけど、平和な日本で長らく生活してたパッパには刺激的だったらしい。その日の内にジェニファーさんに私の身の回りの世話も含めた雇用契約を結び、今は警備の確保で奔走している。

 

 そう。警備の確保。例のスキヤキ・ショートフィルム、公開したその日の内にTV局の電話が全てパンクする事態になった。パッパの様子だと多分まだパンクしてるんじゃないかな? 

 

 もう初放送から1週間たったんだけどね。一応3大ネットワークの放送局の一つって話だったから反響大きいかなって思ったけど早すぎるだろ。放送の次の日、様子を見に行ったら局全体が鬼気迫る状況でそのまま回れ右をして帰る羽目になったからな。興奮状態に陥ったピラニアを連想したぞわたしは。

 

『しょうがないわよ。あのムービー、私大好き。ずっと見ていたくなるわ。どこか懐かしくて、ちょっぴり切なくなるの』

 

 ホテルに缶詰めになった事に不貞腐れてるように見えたのか、ジェニファーさんがあのムービーがどれだけ凄いのかと切々と語ってくれた。彼女が生まれた時にはすでに今の音楽スタイルが確立されており、あんなプロモーション・ビデオは見たことも聞いたこともないと語った。まぁ無いだろうね。

 

 色々起源と思われるものはあるけど、ある種のきっかけだったビートルズが居なきゃ普通の歌を歌った映像を撮るプロモーション・ビデオで終わったんだろう。私もビートルズに肖って最初にMVを作って一々色んな番組で歌わされるのを回避したんだけど、まさかその結果影響が大きくなりすぎて身動きできなくなるなんて想像していなかった。

 

 そう。影響がデカすぎた。私としてはこの曲、『スキヤキ』で米国音楽業界に立場を築き、その実績を軸にして様々なジャンルのミュージックスタイルを発表していくつもりだった。まさか軽いジャブのつもりで作ったMVが綺麗に(大衆)に突き刺さり失神KO寸前になるなんて思わなかったのだ。

 

 TVをつけるとどのチャンネルも私のMVを流している。凄いのはニュース番組の最中にVTRのような形でMVを流して、それをキャスターが涙ながらに歌っているという物だ。こいつは新しい。21世紀でもこんな番組見たことなかったぞ。

 

 各局やマスコミはこぞってこのMVの出元、黒井タクミ(わたし)の身柄を追っている。ホテル側に大金を払って(ボビーおじさん経由で支払った)最上階を丸々貸し切り、外の情報をシャットアウトしているため今は平穏だが、初放送から2、3日経った辺りではパパラッチが列をなしてこの街をうろついていた。

 

 あいつら全然隠れてなくてちょっと笑ったわ。お陰様でここ数日、日本に電話をかけて銀さんの声を聴く事が出来なくてフラストレーションの貯まる日々を過ごしている。盗聴されるかららしい。ファッキンゴッドと何回か叫んだ。

 

『まぁ、今は大人しくしていましょうよ。ねぇ、そんな事よりちょっと聞いてくれない? 良いフレーズが思い浮かんだんだけど』

『うん、いいよー。聞かせて!』

 

 ベッドの上でバタバタと暇そうにもがく私にジェニファーさんが声をかける。本当にこの人ギターが好きで、暇さえあれば延々とメロディーを流しているんだ。私のロボアニメ好きに通じるところを感じて、数日の付き合いだが大分仲良くなった気がする。

 

 というかこの人、多分マイコーのリードギターのあの人だ。名字が若干違うけどまぁサブちゃん(?)も名前が違ったしそういうもんなんだろう。プレスリーはそのままだったのに変なところは拘ってるなあのクソ女神。あれ、女神だったっけ? まあいっか。

 

 さて、私の評価は辛いよジェニファーさん。さぁ聞かせてみなさいな。ふんすふんす。

 

 

 

 じぇにふぁーさんのギターソロにはかてなかったよ。

 

 何あれ指一本一本が別の生き物みたいに動くんだけどヤバくね? 津波みたいに押し寄せてくる音の奔流に翻弄されっぱなしだったんだけど。思わず無様なエヘ顔を晒してしまった。でも久しぶりに思いっきり音楽のエネルギーをぶつけられた気がして幸せすぎてエヘ顔から戻ってくる気持ちも起きない。

 

 こんなんFIRE BOMBER(強調)のライブ聴きに行った時以来だぞ。でも久々に良いもの聞いたわ。ちょっと今度おばちゃんと一緒にセッションやらね? いやいやロックだよロック。突撃ラブ〇ートって言う曲なんだけどね。

 

 さて、現在私はボビーおじさんからようやく態勢が整ったのでTV局に来てくれと言われて移動中だ。ここに来るまで2週間。警備やらなにやらの手配にかかった時間を含めてもすでに初放送から2週間かかってる。2週間の間に色々衝撃的な事が分かったりひたすらジェニファーさんとセッションしたりしてたんで特に退屈だとは思わなかったんだけど、この間のセッションを録音できなくてパッパが大分歯噛みしてた。

 

 ジェニファーさんマジで凄いのだ。びっくりする位丁寧にこちらが欲してる音楽をエレキギターで表現してくる。ライブで活躍するタイプよりどちらかというとスタジオミュージシャンよりかな? ライブでも十分以上に活躍できるだろうけどね。

 

 たまたま見かけてギターの上手いチャンネーだなぁと思って声を掛けたらURだったというこの幸運。逃すことなく契約に持って行ったパッパホントに有能。米国にいる間はこのジェニファーさんが私のギター伴奏を請け負ってくれるというし、後はドラムとベースがそろえば最低限の形は整う。次はロック業界を席捲しないといかんからな。

 

 えっ、坂本久スタイルは良いのかって? あれは黒井タクミ個人名義でこっちはバンドとして出すんだよ。2,3個バンドを掛け持ちする奴も居るんだし良いだろ。何よりロックにテコ入れしないとヤバすぎるんだ。というのも、ハードロック死滅してました。

 

 というかプレスリーがめっちゃ早くに死んでました。具体的に言うと兵役中に西ドイツで戦死したらしい。ビートルズなんかも出てこず、ハードロックも芽が出てすぐに枯れて。70年代を通して生き残ったと言えるバンドやらは皆受け身に回って旧来のスタイルから変える事はなさそう。

 

 この辺り全部ジェニファーさんからの受け売りなんだけど、彼女は言わばこの時代に最も花開くはずだったミュージシャンの一人だ。そんな本来ならばエネルギーバリバリで動いているはずの彼女が涙ながらに『私たちは70年代に力尽きてしまった』と語っていたのだから、事態は深刻だろう。彼女と同年代で現在も音楽の最前線に居る人物は殆どいないらしい。

 

 という訳で次のカンフル剤だ。私のMVがアメリカに与えた影響は私の想像以上に大きかった。それだけ現状の音楽業界に皆が皆辟易としていたという事だろう。今現在、アメリカ国民(大衆)は音楽に対する興味を再び持ち始めている。この機会を逃すわけにはいかない。何せ、私にとってはここはまだ出発点の前の前なんだからな。

 

 私が頭に思い描く一連の流れに上手い事乗ることが出来れば、私(とパッパ)の立場は日米双方でかなり強固な物となる。それこそ前世におけるプレスリーやビートルズの辺りに収まることになるだろう。そうなれば結構なレベルでの我がままは通せるようになるはずだ。プレスリーのように。

 

 興行結果を無視して連続で映画を作るくらいの金を稼ぎ出すなんて無茶だってやってやれないことは無い筈だ。プレスリーが出来たのだから。

 

『ふんふふーん』

『あら、またコミックを読んでるのタクミ。車の中で見ると目が悪くなるわよ?』

『大丈夫! 道の向こうを歩いてるおじさんの歯茎までちゃんと見えるよ』

『それは怖いわね』

 

 苦笑するジェニファーさんに本当なんだがなぁとボヤきながら私はコミックを読み進める。アメコミまで死んでなくてよかった。もしここまで死んでたらいっそニンジャ・タートルズでも連載始めてやろうかと思ってたところだ。コミックはともかくとして、アニメ業界は目を覆うばかりの光景だけどね。

 

 どうもアメリカのアニメ業界は50年代の黄金期からTVの台頭による衰退を迎え、そのまま緩やかに停滞してしまっているらしい。トムとジェリーはあったよ? でもそっから進歩がないせいで完全に子供向けで終わってしまっているのだ。夢の国系列ですらすでにアニメ映画から見切りをつけ始めているらしいから相当な物だろう。

 

「だからこそ狙い目なんだよね」

「……どうした?」

「なんでもないよ」

 

 需要が無いわけではない。ただTVとの付き合いを間違えたせいで業界自体が新しい波に乗り切れていないのだ。ならもう一回波を起こしてしまえば良い。その波の根元に自分が居ればなお良し。方向性を調整しやすいからな。そうなればこちらのものだろう。でかいロボットが嫌いな人間が居るはずがないし(偏見)、実際グレンダイザーなんか日本より外国で人気あったしな。

 

「まあ歴史にのっとり、まずはレオパルドンからだね」

 

 スパイダーマンのコミックを閉じて私はそうつぶやいた。TV局の建物が見える。ジェニファーさんが気合を入れているのを横目に見ながら、私はぼんやりとどうやって全米の度肝を抜くかを考えた。インパクトは大事だしゾンビで行くか。流行ったし。




起承転結って難しい(震え声)
次はいつ書くかは本当にわかりません。多分筆が乗ったら……?(汗)


リブ:撮影監督。

プレスリー:実は本名が微妙に違ったりする。西ドイツで暴漢? に襲われ死亡。

坂本スタイル:元ネタは世界一有名な日本歌手。アメリカだと日本人の歌手と言えばこの人ってレベルです。何故か曲名が美味しそうになってるけど

ジェニファーさん:元ネタはマイケル・ジャクソンのリードギターやってた人。恐らく女性ギタリストとしては5本の指に入る人。

レオパルドン:日本の戦隊物に巨大ロボが出てくる発端。レオパルドンの爆売れが全ての始まりだった……でも登場作品はスパイダーマン(東映)




クソ女神
「あ。微妙に名前間違えたや。まぁ役目も終わったし良いよね」

「何でロックが発展しないの???」

タクミさんのコメント
「どっかの誰かがロックを弾圧した上に旗印が消えたからでは?」
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