王都ルザリア、それはイヴァリースの中心であり、王家が住まう美しい都である。
この美しい都に、とある一団が忍び込んだ。

それは、ある女性のためであった。

彼女にとって守らなければいならないもの

そして果たすべき約束がそこにはあったからである。


その約束、そして再会のお話


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素直な気持ちで

 王都ルザリアは美しい都市である。イヴァリースを総べる王族が住まう土地であり、そして、ルザリア地方の商業の中心してあるこの都市は、この国で最も活気がある都であった。

 国内外の様々なものが商店の店先を彩り、商人の活気が街を満たす。大陸から来た珍しい品々、魔道具などが、所狭しと並べられ、そして売られていく。毎夜、劇場では、英雄が人々に勇気を与え、喜ばせる。貴族は、たびたび舞踏会を開き、娘たちはその場に立つことを夢見る。

 商業が回り、金が回り、そして、王都の人々が潤う。このようなサイクルを繰り返し、長い間、王都は平和を享受していたのだった。

 

 しかしこのような、豪華絢爛で汚れがない王都は獅子戦争によって、現在、かつてない混乱に巻きもまれていた。

 戦乱の世において象徴でしかない王都は、戦略上の価値を認められず戦場とはならなかった。だが、戦火を逃れようと難民が押し寄せてきたのである。抑えようにも生きるためには必死の難民たち、彼らが暴走するのを止めるのは不可能であった。貴族を誘拐し、身代金を要求することで金を稼ごうとするもの、混乱に乗じ、自らの政敵である貴族を貶めようと様々な陰謀を画策しようとするもの。さまざまな思惑が錯綜し、混沌と化していったのである。

 

 そんな混乱の中、さらに最近国中を騒がせている一行が王都へ入り込んでいた。異端者の一行である。いつもならこのような危険な行為を避ける彼らではあるが、このときは違っていた。ある人物が思い悩んでいることを知ったくせ毛のリーダーが、危険であることを承知しながら侵入計画を推し進めたのである。

 

 

 そして、侵入はあっけなく成功した。混乱の中、異端者かどうかなどより、金がある冒険者を門前払いにするほど、王都には余裕はなかったのである。何事もなかったかのように王都に入り込んだ彼らは、目的である王城へと向かっていた。

 

「ね、アグリアスさん。僕が言った通り何事もなく王都に入れたでしょう。」

 

 王城へ向かう道すがらラムザは、突入後も思い悩んでいるアグリアスに声をかけた。隊の仲間に迷惑をかけたくないと考えて、すまなそうにしている彼女を見ているのが忍びなかったからである。

 

「ああ、だけど、こんな時間。私たちにとって貴重な時間を何もない王都に費やしていいの?ラムザ」

 

 やはり、アグリアスは悩んでいた。自分の都合であるオヴェリア王女の現状が気にかかって集中できないと思われて、この策をわざわざラムザは考えたのではないか、と申し訳なさを感じていたのだ。

 

「いいんです。王都には教会の残した文献や資料もあります。情報が足りない僕らにとっては、必要なことなんです。」

 

 ラムザはこのように言ったのだが、本心ではそれほど重要な情報が王都にあるとはあまり期待していなかった。ただ仲間、そして想い人であるアグリアスの心配の種を取り除きたかったためという、かなり身勝手な決断をしたのであった。だが、その決断は彼以外の仲間にもすぐに受け入れられた。

 

「隊長、ここまで来たらもう悩んでも仕方がありません。一緒に王城へ行きましょう。」

 

 何時もの竜騎士ではなく、正装の騎士の姿をしたラヴィアンも悩んでいるアグリアスに声をかける。もう彼女は、王城へ行きたがっている隊長を引っ張ってでも連れて行こうと決意していた。アグリアスの悩みは、同じ任についていた彼女ももっていたが、アグリアスほど深く悩んではいなかった。しかし、アグリアスの悩みの深さを理解できる彼女はラムザにこの王都侵入作戦を提案したのだ。

 

「そうです。隊長。私なんかもほらこの通り、久しぶりに騎士の格好してるんですから。ああ、肩がこる。さっさとすませましょうよ」

 

 お調子者の忍者のアリシアでさえ騎士の格好をしている。彼女もまた、アグリアスの悩みを理解できる存在であった。その迷いを茶化しながらも真面目にくみ取り、ラヴィアンとともにラムザへこの作戦を進めた一人である。

 

「すまないわね…みんな。心配ばかりかけて。」

 

 そんな仲間たち、部下たちの後押しを受けてアグリアスは王城へ走っていく。もう、後はこの並木道を突き進めば王城の正門である。正門さえ突破できれば王女への面会はすぐそこまでの距離となっていた。

 そんな道の途中で、ある一つの交差点に差し掛かった時である。ラムザだけ、その道を曲がろうとしたのであった。

 

「アグリアスさん、僕はこっちに用事があるんで。あとで、迎えに行きますから」

 

 突然別の用事があると言い出したラムザだが、その突然の発言に皆の足が止まった。

 王都での用事は王家に関すること以外について誰も予想していなかったからである。

 そのため、まずアグリアスがまず疑問の言葉を上げた。王都をよく知るアグリアスは、ラムザが行こうとしている道の先には墓地しかなく、彼にとって行く必要性がないところと知っていたからである。

 

「ラムザ?どんな用事があるのかしら。もしかして、何か情報のつてでもあるの?」

 

 だが、その疑問に対しての回答は、曖昧であった。何か隠しているような、でもとても大切な用事が彼にはあるように見えたのだ。

 

「まあ、ちょっと挨拶に行く必要があるところがあるんですよ。少しだけ遅くなるかもしれませんが心配しないでください」

 

 そう言葉を残しラムザは道を曲がっていく。ラムザの挨拶に行く必要性とやらも気になるが、ラムザが必要と考えたことだ。なにか本当に欠かせないことがあるのであろう。そう考え、走っていく彼をアグリアスは見送ったのだった。

 。

「隊長、それよりそろそろオヴェリア様が例の場所にいらっしゃるはずの時間です。急がないとすれ違いになってしまいますよ」

 

 そんなラムザを見送っていた一行だが、ラヴィアンがあわてたように皆の目を覚まさせた。あと少しでオヴェリアが、教会跡で祈りをささげているはずの時間になってしまう。

 

「ああ、遅れてしまってはせっかくの機会を失ってしまうわね。ただでさえ私はオヴェリア様にはご迷惑をかけている。そうね、急ぎましょう」

 

 そして、アグリアス達も急ぎ、オヴェリアが来るであろう教会跡へ走った。騎士の正装は重く、走るのには不適切な恰好ではあるが、アグリアスの心の仕えるべき主君に再び会わなければならないという使命感でその重さを感じさせない走りを続ける。

 並木道を通り抜け、王城の手前の大門を潜り抜け、だんだんと緑があふれた空間へと変貌していく風景を横にアグリアス達は走って行くのであった。

 

 そして、彼女たちの目的地には、情報通りオヴェリアが姿を現していた。彼女が、ここで祈りを毎日捧げているのはオーランからの情報通りであり、その場にアグリアス達がたどりついたときも、オヴェリアは必至に祈りをささげていたのだった。

 

「はぁはぁ…隊長、間に合いましたね」

 

 走り続け何とかたどり着いたアグリアス達。息を切らしながらもラヴィアンが声をかけるも、アグリアスは微動だにしない。先ほどまであんなに急いで走っていた彼女はただ、静かにオヴェリアを見つめているだけであった。何か思いつめているかのように。

 

「隊長、声をかけるのは隊長しかできませんよ」

 

 そんなアグリアスを不思議に思い、アリシアも話しかけた、それでも、なかなか返答はなかった。そして、帰ってきた言葉は意外な言葉であった。

 

「ここまで来て言うのも、おかしいけれど、何を話しかけたらいいのかわからないの」

 

 ぼろぼろになった聖堂跡で切なげに神に祈りをささげる、オヴェリア。そんな彼女にアグリアスは、どのように声をかければいいのかわからなかったのだ。自分が離れてしまい、心を苦しめているに違いない彼女。そんな彼女と比べて仲間とともにある自分、さらには恋までしている自分がどのよう接すればいいのだろうか。そんな気持ちが渦巻いており、立ち止まってしまったのである。

 

「隊長、さっさと思うがままに話すしかないですよ。隊長もいろいろあるでしょうが気持ちって率直に話すしか伝わらないものですよ」

 

 そんなアグリアスの表情を見て、普段とは全然違う真面目な声でアリシアは話しかけた。

 自分をいろいろと導いてくれたアグリアスだが、気持ちを前面に出すことが苦手な彼女。そんな彼女の恋の後押しをしたのもアリシアであるし、ラヴィアンであった。

 

 そして、この時も後押しをしなければという使命感を彼女たちは感じていた。

 

「そうです、もうここまで来たんです。女王様もきっとアグリアス隊長を待っていますよ」

 

 ラヴィアンもアリシアと同じように素直に話すことを諭す。その二人の言葉を聞き、アグリアスは、思った以上に悩んでいた自分に気が付いた。そしてここまで準備してくれたラムザや仲間たちの思いを無駄にするわけにはいかない。そう思い、結審するのであった

 

「それもそうね…少し臆病になっていたわ。ありがとう。二人とも、では先に行ってくるわ。」

 

 そして、アグリアスは、二人より先に教会跡へと入り込んでいった。彼女はもう素直に自分がいまどのような気持ちか、そしてオヴェリアのために何ができるか、そして何をしたいのかを伝えたい。そう思い、約1年ぶりにオヴェリアへと声をかける。

 

「オヴェリア様…」

 

 そんなアグリアスの声を聴いた、オヴェリアはすごい勢いで振り向き、アグリアスへと近寄っていく。そしてアグリアスは騎士礼を行い、久しぶりの主君へとあいさつを行う。

 

「!!アグリアス…!?」

 

 オヴェリアの反応とともにアリシア、ラヴィアンもアグリアスの後ろに並び、騎士礼をする。その懐かしい3人を見てオヴェリアは目に涙を浮かべた。そして、アグリアスの手を取り、やっと現実であると確認したのであった。

 

「お久しゅうございます。オヴェリア様がご無事で何より」

 

 そんなオヴェリアを見て、まずアグリアスは彼女の無事を喜んだ。さまざまな勢力から道具として利用される彼女である。傷ついていないか、気が気がなかったのだ。

 

「アグリアス…よかった…。生きていたのね、連絡が取れなかったから、もしかしたらと思っていたけれど…。」

 

 オヴェリアもまた同じく、彼女の無事を喜んだ。彼女から見て、アグリアスがどうなったかの情報など全く入ってこなかったからである。アグリアスの顔を見つめ、彼女は笑顔をアグリアスに見せた、

 

「本当に無事でよかった…。さ、顔を上げて」

 

 ずっと騎士礼を行う、アグリアスもこの言葉でようやく立ち上がる。そして彼女もまた笑顔をオヴェリアに見せる。双方無事であることの喜び、そして、会えたことに喜びを隠せない。ライオネル城から抜け出したとき、絶対に助け出すと思っていたのにもかかわらず、なかなか会えなかったためだ。

「御心配をおかけいたしました。あの後、私はラムザ殿に助けられ,今も彼らとともに行動しております。」

 

「そう…ラムザさんには感謝しないといけないわね、…………」

 

 そんなアグリアスを見てオヴェリアは気が付いた。ラムザとともに行動していることに何か喜びの表情をあのアグリアスが浮かべていことを感じ取ったのである。だからこそ、少し、自分の願いを彼女に行っていいのか迷ってしまう。しかし、やはり心細さ、さみしさ、怖さから言葉を出してしまう。

 

「何か、オヴェリア様」

 

「アグリアス、私の元に戻ってきて。私を護ってほしいの。いろいろ相談にも乗ってもらいたい…。ね…アグリアス。お願い」

 

 この言葉を聞いてアグリアスは激しく迷った。今私が抜けたらラムザたちがどうなってしまうのか。だが、オヴェリア様もこう言って自分を頼ってくれる…。どうしたらいいのだろうかとしばし考え込んでしまう。だが、結論は意外とすぐに出てきたのであった。

 

「…申し訳ございません。私にはやらねばならないことがあります。不埒な輩が、混乱に乗じイヴァリースを破滅に導こうとしております。イヴァリースが闇に飲み込まれるのは時間の問題、このアグリアス。騎士として見過ごすわけにはまいりません。奴らの陰謀を阻止することが、オヴェリア様をお守りすることにもなりましょう」

 

 この返しを話しながら、本当に騎士としての責務だけなのだろうかとアグリアスは、自問した、

 いやそうではない。自分がいないところでラムザが死んだらどうすればいいのだろうか。

 そう思ったら、すぐに答えは出てきたのである。アリシア達の素直にというアドバイスの効果でもあるが、そんなことは耐えられない。そう思った瞬間に答えが出てきていた。そして騎士としての責務としても、この判断は間違っていないと確信したのである。

 

「忠誠を誓った身でありながら、このご無礼…なにとぞお許しください」

 

 このアグリアスの言葉、そして表情から、オヴェリアは確信した。ああ、彼女は私を大切にしてくれるけど、もっと大事なものができてしまったんだなと。

 

「わかったわ…アグリアス。」

 

 そして、オヴェリアはもう少しだけ自分で頑張ろうと考えた。不安でいっぱいだが、アグリアスの道を縛るのは自分の本意ではないと、踏ん切りをつけたのだ。とても怖くて苦しいけれども、何もできない。そんな自分と比べて輝いているアグリアスの邪魔だけはしたくないと思ったのである。

 

 

 そんなときである。教会跡にもう一人の影が現れた。

 

「またここだったのか、オヴェリア」

 

 そして、現れたのは、ラムザの旧友でありオヴェリアの庇護者であるディリータであった。前に出会った時とは違い、騎士の格好ではなく、権力者の衣装に身を包んだ彼の登場に伴い、アリシア・ラヴィアンは一瞬緊張した。だが、そんな緊張とは関係なく、アグリアスの目の前に彼はたったのであった

 

「ディリータ…」

 

 遠くで見守っていくと言い離れていく友人と、自分を助けてくれるが、蔭では王女を利用すると言い切った男を前に。複雑な気持ちでオヴェリアは声を上げる。

 そんなオヴェリアの気持ちには気づかず、ディリータはアグリアスに声をかけた。前にあった時からも感じた、ラムザの相手という雰囲気を隠せない彼女が単独で動いているのを見て不思議に思ったからだ。

 

「おや、久しぶりだな。確かアグリアスといったか。」

 しかし、そんな彼の振る舞いは、アグリアスの怒りを呼び起こした。

 

「無礼な!! オヴェリア様を呼び捨てにするとは何事か!?」

 

 だが、その叱責はほかでもないオヴェリアによって止められた。

 

「アグリアス、いいの…」

 

「しかし………」

 

「もう、いいの。気にしないで…」

 

 初めて、明確な意思でアグリアスの意見を封じたオヴェリアを見て、アグリアスは驚きを隠せなかった。彼女もまた私と同じように気を許せる存在を見つけたのだろうかと。そう一瞬喜んだものの、やはりこの男は信じられない。

 だが、自分はもう王女をずっと守っていられない。だから、アグリアスは決めた。

 

「まことに不愉快だが、貴殿に頼みがある、オヴェリア様をお護りするのは私の役目。しかし、今オヴェリア様の元に戻るわけにはいかぬ。オヴェリア様をお護りする役目、不本意だが貴殿に頼るしかない。オヴェリア様を守り通してくれ」

 

「大丈夫だ。オヴェリアは必ず護る」

 

 こういいながらも、アグリアスは、本当に自分は向こうで必要な存在なのかと問いなおした。戦力としては、オルランドゥ伯、ベイオウーフなど歴戦の強者がラムザを支えている。おそらく、彼女はいなくても何とかなるかもしれない。

 だが、やっぱりラムザのそばにいたいと思ったら、こうディリータに頼むしかない。そんな情が彼女の中では湧いていた。

 

「…その言葉を信じよう。もしオヴェリア様のみに何かあったら遠慮なく貴殿をたたききる。それを心しておけ!」

 

 だが、それでもディリータは信頼しきれない。そのため、必ずオヴェリアを守ることを頼み、そしてそれが破られた際の誓いまで求めるのであった。

 そんな、アグリアスの表情を見てオヴェリアは、自分のことを彼女は深く心配してくれていることを痛感し、そしてその気持ちを超える存在を羨んだ。

 

 そんなオヴェリアの気持ちに気付かないまま、アグリアスは次に準備していたものを懐から取り出した。それは純白の柄のナイフで、誰にでも扱いやすいように加工された小さなものであった。

 

「オヴェリア様。万が一御身に危険が迫った時のためこれをお持ちください」

「確かに護身用のナイフ位は持っていたほうがいいだろうな」

 

 このアグリアスの思いがこもったナイフを見て、オヴェリアは泣きそうになった。こんなにまで彼女は自分のことを思ってくれているのかと思うと、感情が爆発してしまいそうであったのだ。

「ありがとう…アグリアス」

 

「では、これにて失礼いたします」

 

 そして、このナイフを渡した後、アグリアスもまたこれ以上いると泣きたくなってしまう自分に気が付いた。自分が本当にしなければならないことのため、そして自分の気持ちのためにオヴェリアからまた離れてしまうことで彼女を傷つけてしまわないか心配でしょうがなかったからである。

 

「どうか気を付けて…」

 

「すべてに決着をつけ、必ずやオヴェリア様の元に戻ってまいります。それまで、どうかご辛抱ください」

 

 そんなアグリアスを見て、オヴェリアは改めて決意していた。彼女を私の下に縛ることは彼女の人生にとってよくないことである。そして、彼女の敬愛以外の気持ちを知りたい。そう思ったオヴェリアは、去ろうとしてゆくアグリアスに向けて、こう言葉を発した。

 

「それで本当にあなたはいいの?ラムザさんと一緒にいなくて」

 

 この言葉は、アグリアスにとって大きな衝撃であった。オヴェリアに見抜かれていたとは思いもしておらず、あたふたと顔を赤くするアグリアス。そんなアグリアスを見て、オヴェリアは笑い声をあげた。

 

「うふふ、やっぱりあなたもそういった表情をするのね。アグリアス。で、どんなところが好きになったの?」

 

 その反応を見て、さらにからかいたくなるオヴェリア。いままで楽しい話題が乏しかった彼女にとって、このときは久しぶりの本当の笑顔を見せる機会であった。そんなオヴェリアを見て、ディリータは顔を丸くして驚き、アリシア達はどこかで見られる風景を思い出し、笑いをかみ殺していた

 

「オヴェリア様、そんな私はラムザと、一緒に出掛けたり、料理したりする関係では……」

 

 そのオヴェリアのからかいにさらにぼろを出していくアグリアス。そんな彼女の様子を見て、さらにオヴェリアは笑い声をあげる。いままでの窮屈な空気から解放されたかのようにまぶしい笑顔で笑った、

 

「そんなに隠さなくても、私でもわかるくらいなんだから。そこの2人にはすぐに気付かれたんでしょうね」

 

 その言葉に、大きく会釈で同意するアリシア達。そしてそんな彼女たちを見てオヴェリアはまた笑った。そして、アグリアスのことを全然知らない自分に驚き、もっと仲良くなりたいと思ったのである。

 

「すべてを終わらしたら、ラムザさんと一緒にお茶でも飲みに来なさい。そこまで私も頑張るから。」

 

「オヴェリア様ったら……。もう」

 

 一人の男が気まずい顔をしている中、彼女たちは先ほどよりも明るく、素直に話を続けた、それは、日が真上から斜めに落ちて行くことがわかるくらい長い時間であり、

 それでもまだ短いと彼女たちが感じる時間であった。

 

 

 このように彼女たちの笑顔が聖堂跡を満たしている中、ふと顔を見上げて風景を眺めたオヴェリアの目に峠の向こうからもう一人の金髪が近づいてくるのが入った。

 金髪のくせ毛が前と会った時と変わらないように見えるものの、先ほどの話を聞いてずいぶん印象が変わって見える青年。まだまだ、アグリアスと一緒にいたいけれど、そろそろ彼に返さなければならない。アグリアスのいるべきところは彼のそばなのだから。

 

「さて、あなたの王子様が心配して迎えに来てくれたみたい。そろそろ帰りなさい」

 

 だから、彼女はからかいながらもさびしげな表情でオヴェリアは別れを告げた。そんなオヴェリアの言葉にアグリアスもうなずく、

 

「王子様って……、でも確かにそろそろ、お別れすべき時間です。オヴェリア様」

 

 この言葉の後、自然に彼女たちは再び手を握り合った。その時間は短くとも、彼女たちにはとても大事で、手が離れるときはお互い顔を見つめあっていた。

 

 

「では、オヴェリア様、失礼いたします。行くぞ、アリシア、ラヴィアン」

 

 そして、アグリアスは振り返り、教会跡へと歩みを進めていった。その一歩一歩にオヴェリアとの別れの重さ、そして決意を込めて去って行った。そんな彼女の横を一陣の風は通り過ぎていき、この短い再会の時は終わったのであった。

 



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