「俺のヒーローアカデミア」はじまります! 作:ばうえもん
6月第2土曜日20時 神奈川県:横浜中華街 路地裏
ビルとビルの隙間、首を掴まれた私はビルの壁に押し付けられる。男に壁ドンされる趣味はないのだがな……
いつの間にかサイドキックの2人からの連絡が途絶えていた、私は2人の安否の確認をすべくGPSを頼りに探しに向かおうとしたところを不意を突かれ一瞬で無力化されてしまったのだ。インカムから聞こえる内容から鋼鉄番長達が2人を発見してくれたようだ。幸いにも事を大きくするのを嫌ったのか奴は2人を昏倒させただけらしい。ならばこれはチャンスだ。
私の首を片手で締め上げ余裕の笑みを向ける男の名は
予知の条件は二つ、相手に触れる、目線を合わせる、私を無力化する過程で奴の方から条件を整えてくれた、せめて今は情報を手に……馬鹿な!?サングラス越しで目線が合っていなかったのか?いや、確かに個性が発動した感触は有った、だが"視え"ない! これは……横嶋忠雄を"視た"時に感じた違和感!?
予知の代わりに私が見たモノは混乱する私を嘲うかの如く朏のように弧を描いた奴の口元だった。
れっぱい
6月第2土曜日19時 神奈川県:横浜中華街 レストラン
向かいに座る茨の視線を感じる。普段はちゃんと目を見て話す彼女だが、今日に限っては視線の先は若干下を向いている。かく言う俺も気を抜くと彼女の唇をじっと見てしまうのだが……
「その、私には忠雄や榛葉さんのような力はありませんが、力になれる事があれば遠慮なく仰って下さい。私でも貴方の不安を和らげるくらいの事はできそうですので」
「勿論、頼りにしているよ」
目を伏せ頬を染めて言われるとそう答えるしかない。いやお互い本音では何をしたいのか分かっては居るが先ほどの様な勢い任せは流石に問題がある。
違う、そうじゃない、先ずは自覚しろ。あの時彼女の視線が俺に縋る様に見えたのは俺の心を映したからなのだろう。なんとなく、そうなんとなくだが理解出来た、俺自身が自覚していなかった怯えの感情を茨が読み取り、何かに縋りつきたかった俺を受け入れてくれたのだと。
そう考えると演習場での力をひけらかす行為も恐怖の裏返しなのだと思え途端に恥ずかしくなってきた。
「駄犬がキャンキャン吠えていたようなもんか…」
思わず声が洩れたのを聞いた茨は小首を傾げて「うん可愛いな」何のことか思い立ったのか何故か照れつつ
「先生方は普通に驚いていましたよ。榛葉さんの落雷に至っては所謂"ドン引き"という状況でした。それと、また声に出ていますよ」
「あふん」
いい加減考えてる事が声に出る癖は治さんとな
だが反省したつもりでいても俺は心の何処かで舐めていた……ちょっと違うか、なまじ奴の事を識っていた為に恐怖を覚えると同時に奴の力を誰よりも理解出来る自分だけが奴に対抗出来ると思い込んでいた。要するにそんな状況に酔っていたのだ。
食事も終わり、店を出てマップ情報を確認して違和感を覚えた。俺達の護衛をしているナイトアイ事務所の人間の動きがおかしい、地図を確認するに俺達から離れた不自然な場所に居るのだ。
状況を確認しようと繁華街にはそれなりに設置されている防犯用の監視カメラにハッキングを掛けるも全員が死角に居る。すぐさま事務所に居る愛美さんへ連絡を取りナイトアイに連絡をして貰うが思わしくない。
いかんな、茨にも事情を話して周囲の視線からカバーして貰って雀式神を数羽放つ。マップ情報では愛美さんの連絡で二ヵ所にはジェントル達が向かっているので最後の一人の場所へ向かう。
先行する雀式神の視界とリンクして確認を…拙い、サー・ナイトアイが!!
何らかの術で人払いをされた路地裏の奥に走り込むとナイトアイを抱えた男が居た、白スーツにサングラス、何よりも気配を完全に隠していながらもその圧倒的な存在感は
メニューシステムが教えてくれるが幸いにもサー・ナイトアイは昏倒してはいるが軽傷の部類だ。だが奴の手にある以上は……まて、何故奴の情報が習得出来ない?目の前に居るのにマップでは認識されていないだと!?
「そこの貴方、その男性を放しなさい」
動揺する俺に対して茨は奴と交渉に入る。流石だな、気配では怯えを感じるが気丈にも奴に声をかける。それでこそだが……
「久し振りだな、高島 今度はその女が貴様の駒アルカ」
そんな茨を奴は嘲う。駄目だ、マップに表示出来ない以上はマ-キングも不可能なのか? 拙い、ナイトアイを開放したら撤退、背後関係の情報を集めてから奇襲を掛けるつもりでいたが完全に当てが外れた
「何処のどいつと間違えたが知らんが俺の名は横嶋だ、さっさとナイトアイを放せ。そうすりゃ話くらいは聞いてやる」
「フンッ、条件を付けられる立場アルカ 韜晦しても無駄だ、この紛い物はヒヒイロカネを模した物だろう?」
そう言って奴は懐から枝村サポートから盗んだ加工済みの偽オリハルコン製の装甲板を取り出した。とするとやはりヒヒイロカネ(オリハルコン)が目的か、こうなると今日は防犯カメラの死角で行動していたのに対して枝村サポートでは防犯カメラに写っていたのは敢えて俺に姿を見せたのか。くそっ、てっきり機械の目には無頓着だと思い込んで完全に後手に回った
「ワシの体を、骨格を何処に隠したッ! 早く返答せねばこの男の首をへし折るゾ!!」
くそっ、渡すしかないの……はっ? 骨格?」
「そうだッ!! 何処へ隠したのかッ」
「いや、骨って言われてもそんなもん無いぞ」
「韜晦しても無駄だと言ったハズだ!! この男の……」
「いやまて、ホントに無いんだ。ヒヒイロカネは有るが骨は知らん」
「だからヒヒイロカネを渡せと……骨を知らんと?」
何故か微妙に会話が噛み合わず思わず無言で見つめ合う俺と
ひとまずこの隙に意識下で文珠に字を入れてストレージ内へ
「取りあえず俺はこれしか持っていない、出すから受け取れ」
そう言って奴の方へ手を伸ばし、奴が踏み出さねば届かない距離でストレージ内のヒヒイロカネのインゴットを取り出す。
「なっ、鋳つぶしたカ!?」
予想通り奴の動揺が誘えたので目視でストレージ内で発動状態の(脱)(出)の文珠をナイトアイの側に出した結果奴の手の中から弾き出された。ストレージ内では時間が止まるのを利用して予め発動状態の文珠を収納、座標指定で取り出す事でタイムラグ消す小技だ
「キサマッ! くそっ、忌々しい!! 何処ぞにヒヒイロカネを加工出来る八卦炉でも残っていたのカッ!!」
茨に回収されたナイトアイを一瞬睨むもヒヒイロカネを手に入れる事を優先して踏み込んで…低いッ!! ヒヒイロカネに手を伸ばした俺を先に仕留める気かっ、下段からいつの間にか取り出した青龍刀での切り上げが俺を襲う、ソーサーは間に合わないッ、だがギリギリのタイミングで俺は文珠の障壁で守られた
「チッ 又結界アルカ、まあ良い。ひとまずヒヒイロカネは取り戻した」
「っ、はぁはぁ、すまん茨、助かった」
茨が俺を庇おうとした為に渡しておいた文珠が発動したのだ。だが奴は最初から牽制と割り切っていたのか一撃を防がれたらすかさずインゴットを回収して間合いを取った。しかし今の青龍刀の一撃で(護)の守りがかなり削られた。元が俺の文珠だからメニューシステムで耐久度の確認できるのだが、こいつその気になれば尸解仙になれるだけあって最低でも下級魔族クラス、俺の十倍以上の出力かよ
「しかしいったいどうやって鋳つぶしたアル?」
「知らんわ、最初からそうだった。それはそうとその青龍刀は盗んだ
「そうか、これはクリティアスと言う名か。人工物は氣の浸透が悪いのが相場アルがこれは天然物並、おまけに金属で布を織るとはなかなかどうして今の科学も馬鹿に出来んアルな」
布だと?ちっ、青龍刀だけじゃなくストールにもスーツ用の素材を使いやがったのか。
刃物相手に無手はきついが狭い路地裏じゃ棍は取り回しが悪い、突きに絞って制する事ができる相手じゃねーからな
文珠の守りも数回斬り掛かれたら破られそうなので茨を庇う様に敢えて結界から踏み出す。特に名案は無いので
ちなみにモーション無しでも回転させられるし、更に質量が存在しない霊気故に慣性も何もないんだがな。あれだ、俺の気分で多少は補正入るから。
「カァァァァ」
「のわぁぁああーーーーーー!!!」
は、速いっ、一呼吸で一、二、三、沢山!? いや八連撃とか最後に突きが加わればヒテンミツルギ・スタイル!? 両手で捌くのが精一杯とかレベルアップ前だったら手首が飛んでるわ!!
あとコイツに呼吸が必要かは知らんが俺には必要だ。つまりこれ以上回転を上げられたら…と思ったら奴が間合いを取って壁沿いから迫った茨のツルを切り飛ばした。助かった、マジ助かった。今日救われたのは何回目だ? ほんと頼もしくていい女だわ
正攻法では勝ち目が薄いと牽制がてら戻ってきた雀式神を嗾けるが奴は此方から目を離さずに後ろから迫る雀式神を斬り飛ばした。だが案内が到着したという事は
「フン 癪だが目的の物は手に入れた
今晩はこれで失礼して、いずれ改めて挨拶に伺うとしよう」
「なっ、ちょっ待てやコラ!!」
言うや否や一跳びでビルの屋上へ跳び上がった。背後から迫るジェントルの気配を察知したのかあっさりと見切りをつけやがった!!
「無事かっ!忠雄君!!」
「ああ、俺達もナイトアイも無事だよ。来てくれてありがとう」
「そうか、奴は上だな」
言うや否やジェントルも壁を蹴って屋上へ上っていく、どうする? 決まってる、ジェントルでも危険だ、追うべきだ
だがその前に文珠でナイトアイを覚(醒)させる。クビラで霊視した限りでは妙な仕掛けも無い様子で幸いだ
「私は…、奴は!!」
「大丈夫ですか、奴なら多対一を嫌ったのか逃げました。俺もこれから追跡に加わります。
茨はサー・ナイトアイに付いていてくれるか」
未だ本調子では無いナイトアイを茨に任せて俺も奴を追う、マップに表示されなくても奴を追うジェントルの位置へ向かえば良い
「忠雄について行けないこの身が情け無く思います。わかりました、お気をつけて」
「待ってくれ、奴はナンなんだ!? 私の"予知"が一切働かないなど初めてだ!!」
跳躍しようとしたらナイトアイに腕を掴まれて詰問された。この世界の人間はなんだかんだ言っても個性を拠り所にしている、だからそれを否定される様な事態に陥ると取り乱すのか…いや、これはそうじゃない?
「以前君に対して予知を使った時に違和感を覚えたのだが、その理由が分かった!! 予知が働かない奴が関わった場面に揺らぎ生じたからだ。君では無く奴こそが……」
ああ、確か自分の予知をどうにかしたいんだったっけ。あの辺りからちゃんと読んで無いから詳しくは知らんが、そうか、だから僅かな可能性に賭けて俺に関わってきたのか、だがいざ事件に関わってみればそれが徒労と知ってしまったわけだ。流石に
「
俺は追跡に加わるべく展開したRGSホワイトラビットで強化されたジャンプで跳躍、頂点に達したら圧縮空気の噴射で更に跳ぶ
屋上へ出たらマップで最短距離割り出し虚空瞬動でぶっ跳び直ぐに視界に捕えたが、アレは?
「ジェントル!避けてぇ!!!」
叫びつつ奴の進路目掛けて最短で霊気の道を敷き、間に合えっ!!
『サイキック・ソーサー!!!』
ソーサーを作りながら
「意思の力で受けるカッ! だがその程度の意思で儂の運足を止められると思うナ!!」
奴の圧に負ける!!右手のソーサーが持ち堪えている間に左手で火行に寄せたサイキック・ソーサーを新たに作る。
右手のソーサーの限界が近いので力を込めて押し返し爆破! 反動で後退しつつ直ぐに左のソーサーを触媒に術を行使
『火剋金』「ジェントリーサンドイッチ!!」
ナイスジェントル!
いいタイミングで積層障壁を術に重ねてカバーしてくれた。これなら止められる!! 流石の奴も今度は重なった空気の壁を破る度に弾性により勢いを殺されて最後には失速した。
なんとか奴の突進を止める事が出来たが、先程の僅かな攻防で改めて力量差を実感する。奴から目を離さずに直ぐに動ける様に腰を僅かに落とした前傾姿勢、と言えば聞こえは良いが要は腰が引けているのだ。額から流れる冷や汗が目に入りそうでデートという事でバンダナを外していたのが悔やまれる。
隣に立つジェントルを意識する。ああ、本物のヒーローはやっぱり違う。強敵相手だからこそ胸を張って迎え撃つ、心で負けていないからだ。俺は弾兄ちゃんの隣に立つんだろ、だったら俺も上体を起こして構えを変えろ、迎撃の姿勢を取るんだ。
奴の右手のドリルが解れてストールに戻る、左手でストールに巻かれていたインゴットも同時に消失していた。これで奴は両手がフリーになったわけだ……背後から仕掛けた鋼鉄番長の拳を右手で捌きつつ左手で片手印を結ぶ、早いっ! が、辛うじて火行と判別出来た! 黒色の方向に霊波をずらし右手に収束、通常とは違う五角形に!!
『
奴が口から火球を吹き出すと同時に水行に特化させ梵字を刻んだソーサーの投擲が間に合ったが……足りない! 冗談じゃない、霊視で分かったが俺の文珠並みの火力だぞ!!
「水克火!南から北へと立ち去れ業火!!救急如律令!」
ジェントルの前に飛び出し、迫る火球に投擲した水行のソーサーを着弾と同時に爆破させ水氣で相克を仕掛け、更に陰陽術で後押する事で辛うじて相殺する。術の行使で動きが止まった俺に爆炎を目隠しにして
『
俺は一旦間合いを取り霊波の波長を青色の方向へずらし、更に梵字を刻み強化した五角形のソーサーを五枚作り周囲に展開し霊的ラインで五芒星を描く
高島のような大規模結界はそうそう準備出来ないので代わりに検討していた木行結界はエセ高校生さんの得意技「サイキック五行陣」とループ系横島の破魔札ソーサーの合わせ技だ
この辺一帯を木行の場に変化させる事で奴の行動を霊的に阻害する。先日の元始風水盤の稼働を見る事が出来たので場に対する操作の理解を深めたのは幸運だった。
「クククッ 転生で力を落したかと思えば即興でコレカッ!! やはり貴様の存在は捨てておけん」
クソガァ!!
力を削いでいる感触は有るのにそれでも三人がかりの攻撃を捌くかよっ、もう一度
「ぐっ、カウンターだとっ」
「忠雄君!!」
この痛みは肋骨を何本かやられたか? 拙い、動きが鈍るので神経遮断で痛覚をカット。治療は…
「フン、見くびるなヨ、この世界の人間ならまだしもワシとて見鬼ぐらい使うぞ。だがなかなか面白い歩法アルナ 縮地の応用か?」
なっ、まさか俺が敷いた道を視て移動先を予測したのか?
くそっ、確かに油断だ。誰にも見えない霊能力という俺のアドバンテージがこいつには意味が無い。むっ?
「ぐっ、高島には及ばん小僧と思っていたが霊撃は奴以上カ この体でこれ以上は付き合ってはおれんな」
目に見えて奴の動きが悪くなった。それなりには効いていたのかっ!! だが何を……「
急いで五行蒼竜陣を構成していたソーサーを操作して奴目掛けて撃ち込むが、間に合わないっ!!
「では良い夜ヲ、
俺の焦りを感じたジェントル達が奴を止めようと仕掛けるが、俺達の攻撃を幻惑するような歩法で全て躱した奴はそのまま姿を消した。禹歩と武術的な体捌きの両立とかどんな達人なんだよ!?
だが僅かだが収穫もあった、奴が消える瞬間マップに映ったのだ。残念ながら奴が縮地で東京まで移動した時点で途切れたので追跡は出来なかったのだが、成程な、絡繰りの一部が理解出来たぞ
6月第2土曜日23時 東京:オフィスG&L
現在俺達は今夜の出来事について話し合っている、サー・ナイトアイ事務所の人間は全員意識を奪われたが軽傷程度で済んだ。
対してオフィスG&Lは俺が肋骨に罅、おまけにヒヒイロカネを奪われるという被害甚大である。まぁ奴の目的がヒヒイロカネなんだから俺に被害が集中するのは当然だが
「大変申し訳ない、人質に取られてしまうとは。プロでいながらこうも足を引っ張ってしまうとは」
「相対したなら分かると思いますが正直この程度で済んで良かったと言うのが感想ですよ」
ぶっちゃけ俺の気の緩みが招いた事態と思うので責める気は無いんだが、プロの矜持だろうなぁ
「だが学生の君が矢面に立った結果負傷したのだ。君がなんと言おうと我々プロの責任は重い」
オフィスG&Lの面々はヒーロースーツの機能で行動の記録を取っている。つまり奴との会話ログが存在するのでヒヒイロカネを奪われた経緯は皆に知られる事になる。そりゃナイトアイにしてみれば頭下げるしかないわな。だが個人的な問題は奴が転生と口にした事だ。真偽の証明は出来ないと前置きして高島と奴の因縁を説明する事になったのだ。
「にわかには信じがたいが今までの事はある程度の説明がつく。そして少なくとも
まぁ頭ごなしに否定されんのは
「横嶋君、それらを踏まえて
「たぶんヒヒイロカネを加工する方法を探していることでしょう。もっともアレは今の所は加工出来ないのでそうそうに見切りをつける可能性もありますが」
「ではその場合は?」
「去り際に
「道理じゃな、ワシらに出来る事は準備を整えるだけじゃわい。
それでナイトアイ、お前さんはどうする気だい? 予知次第では降りるかい?」
「
プロの矜持かな、訳も分からず昏倒させられたサイドキックは怯えているようだが大丈夫かね?
もっとも俺も恐怖を誤魔化すのもそろそろ限界で帰ったら布団被って震えていようかね、帰れればだけど
なんて弱気が顔に出ていたのか茨がそっと俺の手を握ってくれた