「俺のヒーローアカデミア」はじまります!   作:ばうえもん

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インターミッション「2人の英雄」 後編


 

衝撃の事実!!

俺はこの世界唯一の霊能力だが、実のところGS美神基準では厳密には霊能力者ではないのだ。

何故ならこの世界では霊能力そのものが存在しえないのであの馬呑吐(マー・トンツー)でさえ殭屍(キョウシ)の使役のような霊能力に分類される力は使えないのだ。では俺の霊能力は何か? 魂の力に違いはないが、個性の形で発現している事によって世界のルールの穴をすり抜けているのだ。だから俺が正統な霊能力に目覚めても正式な方法では霊能力は使えないわけだ。そのような理由からYOKOSHIMA'Sは俺が霊能力者では無い事を理解してはいたが特には言及せず、あくまで個性の伸ばしの方向で訓練をしていた。因みに俺は教えられるまで知りませんでした!!

 

だが6月の時点での俺は個性伸ばしも頭打ちになっていた。そこへ来て馬呑吐(マー・トンツー)に敗北だ、取りあえず現状は肉体を鍛える方向で進めてはいるがそれだけでどこまで食い下がれるか?

そこでYOKOSHIMA'Sは方針転換をする事にした。神造結界内であるアシュタロス関連の施設内では霊能力の行使は可能なのだ。そこで俺を正統な霊能力者にすれば個性の方も何らかの伸びが見られるかもしれない、仮に個性が伸びなくても霊格の階位を上げる事が出来れば霊圧がそのままでも強化は期待できるので無駄にはならないだろう。6月中頃から修行内容に正当な霊能力者への覚醒が加えられて狙い通り覚醒と共に霊格が上がり、その後も潜在霊力も伸びている。だが生憎とここでの霊圧は60マイトを超えてGS基準で中堅といった成長をしても外の個性では30マイトに届かないままであった。極端な話だが俺の個性は世界を騙すものなので当然反発も大きく効率が悪いのも当然なのかもしれない。

 

そして俺も何もしなかったわけではない。霊能力が使えないハズの世界で存在できる十二神将、そして龍神降臨の器である切奈の存在が有る以上は何らかの抜け道が有るハズだ。

 

「現状伸び悩んでいまして、参考の為に切奈の体を調べさせて下さい」

 

マンションに訓練に来た時に他の娘達には席を外して貰って、正々堂々土下座でお願いしました。

 

「伸び悩んでいるって、私に言わせればまだ強くなるのって感じなんだけど……」

 

馬呑吐(マー・トンツー)ってヤバイ奴の件で現状ではどうにもならないんです。はい」

 

「茨にも聞いてるけど"死"そのものって言ってたわね。忠雄がビビるくらいヤバイんだから大袈裟に言っている分けじゃなさそうね」

 

「ビビってるって……バレてるぅぅうう!!」

 

「みんな気付いているわよ。

 ……茨が一生懸命に縋りついてきて可愛かったって言ってたわ」

 

「……うっ、うえぇ、そ、それ以外ももっ、きっ、聞いたのでしょうか?」

 

キス(・・)してくれたらやらせて上げるわよ」

 

そこまで聞いてるんスね

 

「誤解を招きそうな表現は止めてくれ、それと取引でキスは駄目だ」

 

勢いで茨の唇を奪った俺が言うのもなんだがそれは流石に駄目だ、非常に勿体ないがそれはアカンと思うのだ。

 

「硬いわねぇ、じゃぁ関係無くキスしましょ、私とするのは嫌じゃないんでしょ❤」

 

「じゃ、じゃあ…」

 

おそらく今の俺は童貞丸出しに挙動不審者と化している事だろう。いやしょうがないだろ!!

そんな俺にいたずらっぽく笑って目を閉じる切奈

 

「うん、しよ」

 

桜色のぷるぷるの唇に眼を奪われた俺は…

 

「んっ」

 

 

 

「元気でた?」

 

「凄く出た。ありがとう」

 

 

残念ながら切奈の方は器としての機能だけで恐らくは降臨する高位霊体側で解決しているのだろう。

そして十二神将にはそれらしき加護というか、おそらくは上位存在からの許可のような物が有るようだった。もっともそれがどのようなモノか分からないので単純に霊基情報のコピーなどで解決するわけでもないようだ。

そんな手詰まり感が漂う状況を変えたのはまたもやキスだった

 

『この鍵のアーティファクトでなら緩められるかもしれない』

 

榛葉との仮契約(パクティオー)で手に入れた『鍵』のアーティファクトを施設で調査した際にYOKOSHIMAの1人が漏らした言葉だ

鍵で開く事で強制的に個性の上限を開放して、尚且つ俺に対する世界からの干渉を鍵で閉じる事で遮断して減らす。計算上はそれで現状の霊力にはまだ見合わないがかなりの霊圧上昇が見込めるそうだ。

俺は鍵を自分に差し込み、施設に設置されたコスモプロセッサの予備部品から組み上げた解析用演算鬼によるサポートを受けつつ自己改造を行うのだった。

 

 

『最悪俺が全面に出れば全て解決するのだけど、ベスパの眷属に見張られているからなぁ』

 

『お前一人毛色が違うと思っていたけどやっぱりそうか。つまり鍵はお前の仕業か?』

 

『ああ、流石にこのままでは厳しいからせめてもの援護だ。これくらいなら見逃してくれると信じたい!!』

 

『ヤバイ橋渡ってんのかよ……。お前なに、義兄妹仲悪いのか?』

 

『そこまで悪くもないがアイツは真面目だからな。正直今回くらいは大目に見てくれないだろうか、ホントはそっちで処理すべき案件のハズなんだから』

 

そんな俺の様子を伺いつつユッキーと会話する影が居たのだが、意識の無い俺はそれを知る事はなかった

 

 


 

インターミッション「2人の英雄(チャンピオン)

 


 

「そういえば忠雄さんと組手はしましたけど模擬戦は初めてですね。楽しみです❤」

 

「いやまて、榛葉も参加するんか?」

 

「えっ? だって私もA組ですよ」

 

「却下だ却下、寧ろオール雄英生 対 榛葉くらいじゃないとバランス取れんぞ」

 

「榛葉氏はそこまでですか!?」

 

ヤル気になってる宍田にゃ悪いがこいつはそんくらいバランスブレイカーなんだよ

 

「この女可愛い顔して空飛ぶイージス艦なんだよ!!

 ぶっちゃけ榛葉が魔法の射手(サギタ・マギカ)で弾幕張っただけで大概の奴は退場だ、俺も激情態でも使わなきゃ近づけるかも怪しいわ! 他のA組連中に出番なぞなかろうよ」

 

マップ機能で敵を捕捉してマーキング、リンクしてメニューシステムから魔法の射手(サギタ・マギカ)1009矢を連打、それを可能とする莫大な魔力。そしてイージス艦と違って魔法障壁で硬いときたもんだ。

 

「仮に援護に回った場合は、倒された奴をすぐさま回復させて前線復帰させるゾンビアタックが可能だ。そんな不毛な戦闘は心が病みそうだから俺は嫌だぞ」

 

「最初はともかく後の方を実行するほど私は鬼ではありませんよぉ~」

 

榛葉一人居れば他の人間に出番は無いと言い切った俺を睨んできたA組連中も続くゾンビアタックを想像したのか凄く嫌そうな顔をしていた。そりゃ倒れても楽になれないとか嫌過ぎるよな。そしてそこへ相澤先生が会話に加わってきた

 

「演習試験のビデオで見たが確かにあの弾幕を防げる人間は少ないだろう。だが流石に対抗出来る人間が居ないわけではないぞ。いささか言い過ぎではないか?」

 

いや別に他を下げてるわけじゃなくて榛葉が規格外なだけなんだけどな。なんでこの人自分の生徒の実力把握していない……いや榛葉の成長はレベルアップのせいで可笑しな事になってるから無理ないか。化けたとかいうレベルじゃないからなぁ、口で言っても理解できねーだろうし非常に嫌だけど俺が相手するしかないのだろうか?

 

その後も往生際悪く粘ったが結局当初の予定通り俺と宍田 対 A組の構図になった。あくまでも榛葉を外そうと足掻く俺をA組メンバーは嘲笑していたが、お前らなんにも分かっていないからな、榛葉が普段使うのは捕縛系の戒めの風矢(アエール・カプトゥーラエ)だから怪我人出てないけど、榛葉の馬鹿魔力で魔法の射手(サギタ・マギカ)撃ったら単発でも防御力低い奴は死ぬからな。こうなったらフレンドリーファイア狙って何人か巻き沿いにしてくれるわ

 

 

遮蔽物などない平野タイプの演習場でお互い端に陣取る

犬人レベル2.5に変装している俺は腰を曲げ地面に手を突いて四つん這いになる。その状態で事前に憑依合体しておいた戌の式神ショウトラに俺の霊力を加えて犬型のオーバーソウルを構成する。胴の中に入る為か体長7m程の大型サイズで先日のマコラ激情態よりデカくアフリカゾウくらいかな?

単純なサイズは隣で獣化した宍田よりデカいのだが、相対するA組の視線は宍田に釘付けだ。それもそのはず俺の方はショウトラと合わせても300マイト未満の霊圧なんだが、獣化のその先へ進んだ宍田は8ヵ所のチャクラが稼働状態で霊圧換算ならおそらく500マイト超えくらいだからその圧は相当なモノだろう。まぁマイトはあくまでも出力の指標だからデカくてもダメージ受ける時は受けるので無敵になるわけじゃないんだがな。

とりま俺の方も榛葉相手に後手に回ると摘みかねないので速攻で動けるように表面上は力を抑えつつも練で高めておく。

 

 

開始の合図と供に飛び出す爆豪を筆頭とする数名、更に後方では榛葉が箒に横座り乗りで飛び立つと同時に牽制に100柱程の光の矢を撃ってきた

こちらも溜めていた霊波を乗せた遠吠えで魔法の射手(サギタ・マギカ)を迎撃する。意図して収束を甘くして範囲をとったので威力は無いが込めた霊波が上手く術式に干渉して誘爆させた。ついでにA組の面々も音に込められた霊波に当てられて一瞬体が強張って動きが止まる。とくに爆発の反動で飛び出した瞬間の爆豪にとってスタン効果は致命的でバランスを崩して墜落した。ザマァ

 

しかし肝心の榛葉は特に影響を受けておらず、クラスメイトが立て直す為の時間稼ぎなのかすぐさま追撃の魔法の射手(サギタ・マギカ)を1000柱程を狙いを付けずにバラ撒いて面で制圧を仕掛けてきた。無双系アクションゲームをする俺達に対して一人だけ弾幕ゴッコで参戦するのは止めて欲しい

だが俺一人ならともかく俺の遠吠えとタイミングを合わせて動いた宍田がいるわけで…をおいっ!! なんで榛葉目掛けてジャンプしてんの!! そのタイミングだと至近距離で魔法の射手(サギタ・マギカ)食らうぞ!!

 

「嵐脚・乱っ!!」

 

「えええっ!! おまっ、なんで六波羅式使ってんの!!」

 

まさかこんな身近に六波羅式の使い手が残っていたとは。

榛葉の前に飛び出した宍田は蹴りで生み出した衝撃波で自身の前方の魔法の射手(サギタ・マギカ)を迎撃してそのまま月歩らしき空中移動で榛葉の上を取り

 

「嵐脚・白雷っ!!」『風楯(デフレクシオ)っきゃあああ」

 

防御ごと叩き落としやがった。流石に榛葉も途中で体勢を立て直して墜落は免れたが……宍田はそのまま空中から雑な蹴りで衝撃波を起こして追撃してA組の連中を薙ぎ払った。宍田のパワーで迂闊に嵐脚使ったら死人が出かねんから手加減したのだろう

おっしゃ、乱戦に持ち込めば榛葉も弾幕は張れまい。俺なら戒めの風矢(アエール・カプトゥーラエ)ならダメージを受けないから味方が居ても構わず撃つけどな、榛葉はそこまではしないだろう。

宍田が作った混乱に乗じて再度遠吠え霊波砲で正面の魔法の射手(サギタ・マギカ)を迎撃して道を作り俺も突っ込む、行きの駄賃に地面に転がる爆豪を踏みつけてジャンプ、榛葉目掛けて尾獣玉擬きをブッパする!!

躱すと背後に転がる連中に当たるから榛葉は動きを止めて対応しないと行けないだろう。そのまま足止めと割りきり結果を確認せずに反転、突撃のタイミングでスタンを食らい俺に抜き去られた前衛連中を今度は背後から蹂躙するべく本日二発目の尾獣玉擬きをブッパする。

俺に踏まれて頭に血が上ったのか俺目掛けて飛び込んで来ていた爆豪は足を止めすぐさま大規模爆破で尾獣玉擬きを迎撃したのだが、自慢の爆発が黒い球体に巻き込まれて吸い込まれていくのを愕然とした表情で見て動きを止めてしまった。これで面倒な奴は片付いたかと思ったのだが、残念ながらレシプロを発動した飯田がひっ掴んで退避させた。救助の為に躊躇なく切り札を切れる思い切りの良さは流石だな。

ただ俺の方もエネルギーで構成された実態が無いオーバーソウルなので巨体の癖に重さは無くスピードでは引けは取らない。轟が防御しようと出した氷壁に尾獣玉擬きがめり込み内部でエネルギーを開放して氷壁を爆散させた頃には前衛を再びスルーして後衛の方へ乗りこんだ。つーか爆散した氷が散弾になって前衛陣はダメージを受けたようだ。南無~

 

榛葉の方は風の障壁を使って尾獣玉擬きを上手く上空に逸らして見せたが、その隙に宍田が接近戦を仕掛けてきた人間をひっつかんで榛葉に投擲するという暴挙に出た。

 

「飛び道具確保ですぞぉおおおお!!」

 

「ちょっっ 榛葉っ! 避けてく『風楯(デフレクシオ)っ!!』グハッ!!

 

「切島ぁああああ!! 正面から挑む馬鹿があるかぁ!! 体格差考えろや!!!」

 

大混乱だな、流石に俺もそこまで思い切りは無い。やっぱ宍田のハイになる欠点はなんとかせんといかんな

 

『人の友よ、どうか気を静めてお耳を傾けてくれませんか』

 

宍田に負けじとその辺の連中を適当に跳ね飛ばしてやろうと駆けだしたタイミングだった、囁き声にもかかわらず何故か耳にしみ込むその声に急激に戦意が喪失していく、しまった!? とんだ伏兵がっ

 

「おっしゃ、今だ常闇押さえつけろぉ!! そのまま畳み込むぞ!!」

 

口田の個性:生き物ボイスで足が止まった所を常闇の黒影(ダークシャドウ)に抑え込まれてしまった。まさか俺の式神にまで効くとは!? ええい、ついでとばかりに纏わり付くテープが鬱陶しい!!端を持つのは力自慢共、拘束して榛葉の攻撃待ちか?指揮しているのは瀬呂かっ!!

宍田の方も急に漂いだした悪臭で鼻をやられて苦しんでいる。近くにはボンベらしきモノを持つ峰田、奴のスーツはガス対策がしてあるから適任だろう。ガスは八百万の仕業だろうが主導したのは峰田の奴だな。クソッ、搦め手主体の後衛陣の方が手強い!!

 

「舐めんな!!」

 

口から吐き出したサイキックソーサー二枚をコントロールして一枚は黒影(ダークシャドウ)の顔面にぶつけて閃光ダメージで怯ませ、出来た隙きにもう一枚の爆発の衝撃で常闇を昏倒させて拘束が緩んだところ跳ね除け、その場で口から遠吠え霊波砲で周囲を薙ぎ払う。テープ?振動波で掴んでいる連中に発勁魂ぶち込んでくれたわ!!

 

「嵐脚・周断!!」

 

宍田の方もブレイクダンスのトーマスフレアで体を旋回させて嵐脚を放ちガスごと群がってきたA組メンバーを吹き飛ばした!! やべっ、ダンス技カッコいいじゃねーか!!

これで後衛陣はほぼ半壊したといっていい状態だ、先程の氷壁の爆散で分断されていた前衛陣もダメージが軽いのは戦線復帰してきそうだな。

 

決して気を抜いたわけではない。常に榛葉を意識に入れていたし、一か所に留まらず、それでいて常にA組メンバーに接近する様に動き回るのも榛葉の範囲攻撃を封じる為の立ち回りだ。

だけど俺は榛葉の一撃を食らってしまった。

正直に言ってアレはあんまりだと思う。何しろあのアマは男の純情を踏み躙るような真似をしたのだから

 

 

来れ雷精(ウェニアント・スピーリトゥス)風の精(アエリアーレス・フルグリエンテース)

 

演習場で響き渡る榛葉の声、その気になればメニュー経由で無詠唱で撃てるのに何故だ?

敢えて詠唱するのは俺に対する牽制? 範囲攻撃である以上は味方も被害を被る、可能性としては接近して至近距離で中てるのか?

 

雷を纏いて(クム・フルグラティオーニ)吹きすさべ(フレット・テンペスタース)南洋の嵐(アウストリーナ)

 

だが榛葉の位置は寧ろ俺から遠ざかり……宍田の周辺が嵐脚で吹っ飛ばしたせいで空白になっている、本命はそちらか!!

先程魔法の射手(サギタ・マギカ)を嵐脚で迎撃されたから高威力の呪文を選択したのか? だが長々と詠唱するより宍田が榛葉を警戒して移動するのが早い、違うのか?

ならば遅延でいったん待機させて。次の呪文で俺達に直撃させる為の何らかの策を実行する気かっ!!

 

雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)

 

完全に詠唱した? 遅延ではなくいきなり撃つのは演習場の端? 何処を向いて……

俺は完全に榛葉の策にハマってしまった。詠唱に気を取られ自身に対する魔法干渉に対して後手に回ってしまった。

何しろ本来は味方に対しての魔法だ、危害を与えない強制転移魔法(それ)は俺にとってレジストの対象ではない為に破るには相応の手順が要るのだ

 

召喚(エウォケム・ウォース)!! 亜里沙の従者(ミニストラエ・アリサ) 横嶋忠雄(ヨコシマタダオ)!!』

 

「なっ! 亜里沙ぁっ そんなんズリーぞぉぉぉおおお!!」

 

まさか俺に攻撃する為にカードの召喚機能で目の前に呼び寄せるなんて誰が考える!? しかも既に呪文は唱え済み

絶賛発動中の雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)の真っただ中に召喚された俺は成す術も無く吹き飛ばされながらオーバーソウルを風に切り裂かれ雷に焼かれて地面に激突した……

 

 

 


英雄計画(project G)


 

演習場に朗々と響き渡る声は何時か聞いた外国語の旋律、あれは榛葉さんが高速移動した時のモノ? 最後は天に向けて視認出来る程空気が歪む突風と雷を撃っていた。

アレならば横嶋君達も只では済まないだろう、だがこんな乱戦で中てられるものだろうか?

そんな思考をいったん止めて僕はどうにか横嶋君の元に走りだす。中てられるかじゃない、中てる為のチャンスを作るんだ!!

宍田君は先ほど空中を蹴り跳び回っているのを見た、まるでオールマイトのようで少し、いやかなり羨ましい光景だった。僕ももう少し強化率が上がれば可能になるだろう。

だが横嶋君はジャンプはしたが空中移動はしていない。本人は飛べるが犬の状態ではどうだろうか、仮に飛べたしても不意打ちで打ち上げた直後ならば。

頭の中で作戦とも呼べない雑なプランを立てて横嶋君の巨体の足元に走り込む、隣に飯田君も追いついてきた、レシプロバーストの時間制限が以前よりも伸びている?凄い!!

 

「緑谷君、何か策があるんだな!!」

 

「榛葉さんが撃ち易い様に横嶋君を下から打ち上げる!!」

 

「わかった!!」

 

榛葉さんがこれからやる事を知っているのか横嶋君は榛葉さんに対する警戒を強めてそのぶん動きが緩慢になっている。これならばどうにか

光で出来た犬の巨体の下に滑り込んだ僕らに気が付いたのか横嶋君は呆然として、違う僕らを見ていない?

僕のアッパーと飯田君の蹴りが横嶋君を捕える直前に彼は叫んで……「なっ! 亜里沙ぁっ そんなんズリーぞぉぉぉおおお!!」……消えた

 

何が起きたの理解出来ない僕の視界の端に、風に巻かれ吹き飛ばされる巨大な犬の姿が写った

 

空気を切り裂く雷と突風の爆音で演習場の時が止まる

 

「あれ死んだんじゃね?」

 

それは峰田君の呟きだったが、僕らの思いはだいたいそんな感じだった。

流石にこれは拙いと判断したのか相澤先生が土埃が舞うそこへ向かおうとした瞬間

 

「クソが!

 結局防御で文珠(一日分のストック)使わされた!! つーか使わなきゃ死んでたぞ!!」

 

響き渡る悪態に続いて爆音と供に土埃を吹き飛ばして現れたのは棒を構えた猿の化身、中に入っている横嶋君は元の姿にもどっている。横嶋君にとって僕達相手には犬で十分でも、犬を破壊してみせた榛葉さんは演習試験の時の猿の力を使う程の相手、それはつまりオールマイトと同程度という認識なのだろうか。

 

「先日とは別物ですね、先程の犬と同程度でしょうかって、あれっ? 気のせいかどんどん強くなっているような、ひょっとして使ってます?」

 

榛葉さんの見立てでは先程までの犬と同程度らしい、つまりオールマイト級というわけではないらしいが、それも怪しくなってきた。なにしろ僕にも増していく圧がわかるくらいだ。詳しく理由は分からないけど相当怒っているのだろう。

そして何か違和感が……よく見たら中の横嶋君が小さい、つまり試験の時とサイズが違う!! 目算で10メーター前後、ならばあの棒も10メーター以上ということか? 更に背後の空間が波打ったかと思えば幾つかの金属パーツらしい物が現れて猿の巨体を覆っていく、金属の鎧、ならば手にする棒もおそらくは金属製。つまり試験の時と違い相応の重量があるという事。その事実に気付いてゾッとした。

 

(えん)を悪用してここまでの事をやってくれたんだ、(えん)に変わるのも必然だろう?

 ましてやオーバーソウルの名は『猿王(えんおう)悟空(ごくう)』俺は言葉遊びが得意でな、(えん)(えん)に改めりゃ属性も変わる、負のオーバーソウル『怨魔(えんま)美猴王(びこうおう)』別に文珠(ストック)使わなくてもこの感情を糧にすれば激情態に近いパワーも出せそうだ』

『そしてコイツは原典通り8トンの重量を持つ棍だ、侮ると死ぬぞ』

 

先程の爆音は棒を振るった音、つまり衝撃波が起きる程の速度で振るわれる8トンの金属塊。パンチ一つで天候を変えるオールマイト程じゃない、だからといってまともに受けられる威力ではない。仮に演習試験の時より弱くても、僕達にとっては一発貰えば終わりという意味では大差ないんだ

 

「えっとぉ、その、怒っていますか? それと燃えてるのは(えん)(えん)をかけたのでしょうか?」

 

そう、猿の形相が怒りの顔に代わり、更に黒い炎を纏い始めた。

 

『よく分かったな、正直俺が絆の証と思っていたアレをそう利用するとは思わなかったぜ。どうやら仲良くなれて嬉しかったのは俺だけのようだな』

 

「ちょっと、榛葉!!

 めっちゃ怒ってんじゃん。何したか知らないけど早く謝りなよ!!」

 

『あ~、芦戸嬢、命までは取る気は無いから安心して八つ当たりを受けてくれ』

 

「いやあああああ!!

 ほら、榛葉っ!! 早く謝って!! アレ絶対ヤバイやつだから巻き込まないでぇ!!」

 

「ゴラァ!! 榛葉てめぇ横嶋怒らせるとか何しやがった!! 男の純情踏み躙りやがったのかぁ!!」

 

「ケロッ、私思った事を何でもいっちゃうの、榛葉ちゃん名前呼びして貰えて良かったわね。でも痴話喧嘩に巻き込まないで」

 

「横嶋、色々と言いたい事はあるが模擬戦はイレイザーが言い出した事だ。多少の怪我は目を瞑る」

 

『ウッス』

 

「まてブラド、模擬戦の結果多少の怪我は仕方がないがこの空気は何か間違っている!!止めろ!!」

 

「そもそもお前が言いだした模擬戦は横嶋にとってなんらリターンが無い。それにも関わらずやらせているのだ。止めたければお前も戦線に加わるがいい、俺は御免だがな」

 

「「「「「ブラド先生も止めて下さい!!」」」」」

 

だがそんなクラスの皆にもブラド先生は取り合わず、逆に相澤先生を演習場内に投げ入れる始末だった

 

「えっとぉ、ごめんなさいぃぃぃ!!」

 

逃げ出す榛葉さんを追いかける横嶋君の前に最初に立ちはだかったのは相澤先生だった、だが個性:抹消を受けても猿の化身はなんら影響も無く相澤先生は無視された。ならばと捕縛布を絡めるも布を伝わる黒い炎が捕縛布を焼き、なんとなく、なんとなくなんだけどチラリと相澤先生に向けた猿の顔はめんどくさそうに見えた。視線を榛葉さんへ戻しながら棒を一振り、相澤先生を発生した衝撃波で弾き飛ばした。相性といえばそれまでだがプロヒーローがまるで相手にされていなかったのは少しショックだ。

 

続いて苦い顔をした轟君、試験で苦戦した相澤先生をああもあっさりと攻略されたのだから無理もない。彼の生み出す氷壁は突きの連打で砕け散り、炎もその速度が生み出す衝撃波で散らされる。衝撃波に煽られバランスを崩したところに口から放たれた火球の爆発で轟君も気絶したようだ

この場の前衛陣で無事なのは僕と飯田君とかっちゃん

それまで動きを止めていた宍田君側も再び動き始めた

 

「榛葉ぁ! 今行く」

 

「行かせませんぞぉ!!」

 

「ちっ、打撃なら防御でき獣厳(ジュゴン)っ!!!」

 

硬化で防御した切島君を殴った宍田君の拳はガンッと硬いモノがぶつかった音を立ててそのまま押し潰す。拳を引いた後にはピクリとも動かない切島君

背後から蛙吹さんがドロップキックをするがまた硬化の個性でも使ったような硬い音がしてダメージを受けたのは蛙吹さんの方だった。彼は硬化の個性並みの防御力があるのか!?

だがその隙に麗日さんが触って空中に浮かせて……駄目だ!!

 

「麗日さん! 逃げてっ!!」

 

「遅いですぞ」

 

先程その超パワーで空中を跳ねた彼ならば地に足が付かない状態でも移動して反撃可能なんだ! たまらず駆けだした僕に対して手で掴んだ麗日さんを投げつけてきた!!

 

「きゃっ、デク君、あり…」

 

なんとか麗日さんをキャッチするのに間に合ったが両手が塞がったタイミングで宍田君が突っ込んで、通り過ぎた!? 何故、

そして麗日さんはお礼を途中で止めたのは、赤く染まる驚愕の表情は、瞳に映るのは?背後から火か!!

体を捻り背後を確認、迫る火球は気のせいか回転しているような、あの黒い珠の炎版なのか!?

両手が塞がったままなので足に力を籠める、下手に迎撃するときっと爆発するから風圧で軌道を逸らす様に下から掬い上げるように蹴り上げる

 

St. Louis SMASH(セントルイス スマッシュ)!!」

 

幸いにも手本ならある! 先程見た宍田君の蹴り、衝撃波を起こすイメージ!!

鞭の様に撓るキックを振りきる一瞬、今の限界を越える15%の出力を出す。瞬間的に加速した蹴りが空気を圧縮、振りきったところで開放された空気が爆風を起こして火球を掬い上げ軌道を変えた!!土壇場でぶっつけ本番だけど出来た!!

ノーダメージとはいかなったが骨が折れる様な致命的なモノではない、許容範囲だ。

刹那の一瞬、ダメージを抑えてかつ威力を出す為のコントロール!! 今の僕に必要な次の課題!!

 

成功から来る安堵、そして開けた道に気を取られた僕は麗日さんを抱えたままの背中から落下した、2人分の体重を受けて息が詰まった僕は動きを止めてしまい、対応が遅れたのだ

僕の視界に映ったのは榛葉さんが撃ったらしい吹雪を棒の一振りで薙ぎ払う横嶋君の姿だった。薙ぎ払われた冷気と氷雪が僕らに降り注ぐ、急激に体温を奪われた僕らは気を失ってしまった。

 

後で見た記録映像や聞いた話ではその後も横嶋君が棒を振る度に衝撃波で人が倒れるだけだった。耳郎さんの音も芦戸さんの酸も棒の一振りで弾かれ、もう一振りすれば気絶

青山君のネビルレーザーは衝撃波では防げないのか普通に回避したようだが、青山君の方も衝撃波を防ぐ術はないので気絶

上鳴君については話を聞いても良く分からない。金属ならば電気を引き寄せそうなものだが記録映像を見ると電気が逸れて地面に落ちているのだ、それでも直接触るのは避けたようで地面を叩いて爆散した土で吹き飛ばしていた。石も混じっていて何気にダメージが大きかったそうだ

一番怖いのは峰田君だ、彼だけは普通に棒の突きで吹き飛ばしていた。スーツの防御力が高いからそこまでする必要があったそうだ。実際映像で確認すると力場で棒が止まっていて直撃はしていない、だが衝撃は完全に殺せないようでそのダメージで昏倒したらしい。その時の話を詳しく聞こうとしたところ半泣きでガタガタと震え出して話にならなかった。無神経に峰田君を追い詰めてしまった僕は女性陣に叱られ、PTSD寸前の峰田君は珍しく女性陣に優しくされていたのだが本人は覚えていないようだった。

 

かっちゃんは横嶋君とスイッチした宍田君相手に空中戦で善戦するもノックアウト。

飛行も攻撃も爆発で行う性質上どうしても動作の制限があるかっちゃんに対して蹴りで空を飛び回り殴り掛かる宍田君の方が手数が多く、更に攻撃を受けても切島君に匹敵する硬化でダメージを抑えて構わず反撃をする宍田君、笑顔で牙を剥く様はかっちゃん並みに怖かった。

姿が見えない葉隠さんも宍田君の鼻の前では隠れきれず、飯田君も速度で翻弄しようにも常に位置を捉えているのかカウンターを入れられて接近できずに時間切れ

 

それ以外の前半戦で早い段階で倒された面々、八百万さんや口田君などはそれなりに相手を苦しめて善戦出来た分だけましだったのかもしれない

 

 

最後に問題の榛葉さんについては映像が残ってなかった。彼女の名誉の為に横嶋君が消去したそうだ。

うん? それってハッキングとか言うんじゃないかな? でも怖くて本人には聞けないし、先生方も黙認する位だから藪を突くのは止めようと思う。横嶋君に対する対応については僕だって学習するんだ。ある意味かっちゃんよりヤバイと最近わかってしまったからだ

 

 

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