古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第335話

 ハイゼルン砦を奪還して十日目、あれからウルム王国も旧コトプス帝国の残党共も現れない。

 王都からは定期的に連絡が来る、マリオン将軍を増援として送った事、そしてアウレール王自らがウルム王国との外交に乗り出した事、正直胃が痛い。

 

「ライル団長?」

 

「何だ、総司令官殿?」

 

 アウレール王自らが僕をハイゼルン砦の司令官に任命、そのハイゼルン砦に厄介になっている聖騎士団と常備軍の生き残り、それと宮廷魔術師第三席『慈母の女神』ラミュール殿は僕の指揮下に置くと書かれていた。

 

「代わって下さい。駄目なら僕はお飾りの総司令官で実権はライル団長が握るべきです、ラミュール殿もそう思いますよね?」

 

 拡張し総司令官室と名前を変えた部屋に僕とライル団長、ラミュール殿と後から来る予定のマリオン将軍の机が置かれている、目の前の二人が経験も実力も僕より上なのは間違い無いのだが……

 

「板についてますわ、見事な総司令官振りです。問題無いと思いますわね」

 

「俺もそう思うぞ、お前って妙に似合うんだよ。それに指示や命令も慣れてるし間違いも無い、何故だ?」

 

 アウレール王の命令はハイゼルン砦の維持管理の他に内装の改修だ、エムデン王国様式に変更しろと言ってきた。元々常備軍は土木建築工事にも長けた連中だ、陣地の構築や破壊活動も行える職人集団の側面も持っている。

 資機材の補給はアンクライムの街を拠点にライラック商会が取り仕切ってくれている、彼等は僕の御用商人だと知られているから王国から話が行ったみたいで張り切っている。

 

「現状を考えれば、誰でもやるべき事は何となく分かりますよ」

 

「いや、普通はそれが出来なくて何年も苦労するのだが……」

 

 山と積まれた書類に悪戦苦闘する、何故か二人の机に積まれた書類よりも多い、桁が違う位に違う!大事だから二回思った。

 

「僕はハイゼルン砦を更に堅牢にする為にも自分で大正門に固定化の魔法とか掛けに現場に行きたいのですが、現実は書類の処理で忙殺です。勿体無いとは思いませんか?」

 

 大正門とかを固定化で更に堅牢にすれば敵の攻撃にも長時間耐えられる、火属性魔術師の魔法攻撃だって大丈夫なんだぞ。

 

「全く思いませんわ、最高責任者は然るべき場所に居てくれるから、皆さんが安心して働けるのですよ」

 

「そうだな、リーンハルト殿の負担を減らしたい。だからこの部屋に居るべきだ」

 

 ライル団長の暖かい言葉に書類の束を指差すが目を反らされた、ラミュール殿を見ると視線すら合わせてくれない。

 

 だが所属派閥の上位者と先輩宮廷魔術師に文句など言えないし言い辛い、仕方無く書類に目を通す。確かに朝食後から夕食前は仕事で拘束されるが夕食後は自由時間、信頼出来る二人が来てくれたので安心感も有る。

 負担は減ったよ、責任は増えたけどさ……

 

 エムデン王国の娼婦ギルド本部からの親書を手に取る、中身は読みたくないな。どうせ録な事は書かれてない、多分だがバレンシアさんが人手不足だからと愚痴ってたから増員の受け入れのお願いか……

 嫌々読めば予想通りだった、現状ハイゼルン砦には二千人以上の兵士が詰めている。それをバレンシアさんと二十四人の娼婦達で捌くのは無理だ、一人当たり八十人以上だからな。

 だが五十人の娼婦達を送り稼ぎの三割を献上するので食事と部屋と安全を保証して欲しい、これが娼婦ギルドの強かさか……

 

「火種は嫌だ、レディセンス殿に丸投げしよう。個人的に利用してるんだから責任者にして担当させれば良いや」

 

 女子供に優しく弱い彼なら大丈夫だろう、総司令官としては雑務に捕らわれたくないんです、ごめんなさい。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 アウレール王自らがハイゼルン砦にやって来る、近衛騎士団と王家直属の兵士を連れてだ。この王家直属の兵士は王家の直轄領で鍛えられた王族のみに従う精鋭部隊だ、近衛騎士団と違うのは平民でもなれる部分だけ。

 常備軍は王都を守る事も任務だが彼等は違う、貴族達の私兵と同じだが士気も練度も桁違いだ。そしてサリアリス様も随伴して来た、宮廷魔術師筆頭殿が王都から出るのは八年振りらしい。

 伝説となりつつある「永久凍土」の二つ名をもつサリアリス様が公の場に姿を現す事は最強の魔術師が健在の証、これも外交圧力になるのだろう。

 

 早朝からハイゼルン砦は猫の手も借りたい位の忙しさだった、勿論アウレール王を迎える為の準備だ。

 先に知らされた情報では近衛騎士団五十人、直轄兵五千人の大部隊でウルム王国側への威嚇行動でも有る。ウルム王国側には外交の場所はハイゼルン砦を指定した、アウレール王はウルム王国との全面戦争は望んで無いとみた。

 

 ハイゼルン砦中を清掃し出迎えの準備を整えた、ウルム王国様式だった内装はエムデン王国様式に生まれ変わった。僕も暇を見ては固定化の魔法で強化したから簡単には落ちない、ハイゼルン砦は生まれ変わったのだ。

 てっきり王家仕様の高級馬車で来るかと思ったが軍馬に乗って来た、戦争中だから鎧兜を着ているが黄金甲冑なので煌めいている。国王は目立ってこそ象徴となるとか何とか言っていた、狙われ易いから止めた方が良いと思う。

 

 アウレール王の登場に直接出迎えるのは僕とライル団長、ラミュール殿とマリオン将軍の四人だ。役職の無いレディセンス殿達は後ろに控えている、兵士達も隊長を先頭に整列しているが半数以上は周辺の警戒に回した。

 奇襲や不意討ちが無いとは限らない、ウルム王国は前科が有るから安心出来ないんだ。

 

「よう、ゴーレムマスター!有言実行でハイゼルン砦を落とした事は見事だった、俺の期待に完璧に応えたな」

 

 アウレール王が、わざわざ馬を降りて肩に手を添えて労ってくれた。これは相当に珍しい事だぞ、アウレール王は本当にハイゼルン砦を取り返したかったんだな。

 マリオン将軍など目を見開いて驚いている、宮廷魔術師第二席とはいえ此処までアウレール王が砕けて接するとは思わなかったんだろう。彼女は僕に対して嫉妬と不信感を持っているのは薄々知っている。

 ラミュール殿は大分軟化してくれて当初の様子見と中立から、一応は信用しますと認めて貰った。やはり治療を担当する者として無機質でダメージ無視のゴーレム兵団には思う所が有ったのだろう。

 

「有難う御座います、期待に応えられて嬉しく思います」

 

 深々と頭を下げる、国王自らが臣下に礼を言う珍事は重く受け止めなければならない。

 

「リーンハルトや、良くやったの。儂も鼻が高いぞ」

 

 サリアリス様は頭をワシワシと撫でてくれた、周りからは殆ど祖母と孫にしか見えなかっただろう。

 

「有難う御座います、サリアリス様」

 

 此方は笑顔で応える、実際に褒めてもらえて嬉しい。流石にアウレール王を放置して撫でられっぱなしは不味いので直ぐに止めてしまったのが残念だ。

 

「お前等って血の繋がりが無い筈なのに祖母と孫にしか見えないな。他者を寄せ付けない『永久凍土』が孫馬鹿な老人に見えて、大人顔負け可愛げの無い『ゴーレムマスター』が年相応な子供に見える。不思議だな」

 

 三人で顔を見合わせて笑ってしまった、不思議な光景に周りも何も言えずに笑顔を張り付けて固まってしまっている。

 だが仕えし国王を入口で立たせっぱなしは駄目だ、早くハイゼルン砦の中に入って貰おう。貴賓室は最優先で整備したから大丈夫だ。

 

「どうぞ中へ、短期間ですがそれなりに仕上げたつもりです」

 

「そうか、ついに我が悲願のハイゼルン砦に入れるとはな。感無量とは、この事だ……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 アウレール王を貴賓室に通した、最前線のハイゼルン砦にはメイドなんて居ない。女性は保護して未だ送り返してない拐われた娘達と娼婦しか居ない。

 仕方無いのでラミュール殿が全員に紅茶を配る様にお願いした、アウレール王は侍従を連れて来ているので設備を説明すれば引き継げる。

 

 参加しているのは、アウレール王と近衛騎士団のエルムント団長、聖騎士団のライル団長に常備軍のマリオン将軍、それにサリアリス様とラミュール殿の七人。

 エムデン王国の上級将軍職の殆どと宮廷魔術師も上位三席が集まっている、国王が決定を下せば直ぐにでも取り掛からねばならない。

 

「リーンハルト、改めて良くやった。ハイゼルン砦の攻略にジウ将軍を跳ね退けた件は見事だ。褒美に望みが有れば考えておけよ」

 

「畏れ多いお言葉です、臣下は主の命令を全うする者です。故に当然の事をしたまでです」

 

 エルムント団長やマリオン将軍の手前、臣下としての心構えを言っておく。僕は成り上がり者だから、アウレール王が重用するのは彼等からすれば面白くないだろう。

 

「謙遜は時に嫌味となる、お前は今回の件で誰よりも貢献した。信賞必罰は王の務めだ、余り遠慮すると我が娘を嫁にやるぞ」

 

 おぃおぃ、冗談でも後継者争いへの参加資格は要らないぞ。王族への引き込みにしては露骨だ、それ位重用してるんだって周りへのアピールなのは分かるが……

 エルムント団長は苦笑いだけどマリオン将軍は不機嫌だ。前者はアウレール王の考えを理解し言葉の裏を読み、後者は言葉通りに受け取った。

 

「叶うので有れば王家の宝物庫の中のマジックアイテムを見せて頂きたいのです、魔術師ギルド本部の要請により『王立錬金術研究所』の所長に就任致しました。

参考と後学の為にエムデン王国に伝わるマジックアイテムを見せて頂きたいのです」

 

「ふむ、セラスの遊びのアレか。だがエルフの謹製クラスのレジストストーンを作り出したと聞いたが、アレはリーンハルトが絡んでいたんだな。

良かろう、マジックアイテム関連に限り宝物庫の出入りを許可する。複製出来るなら王家で買い取るぞ」

 

 流通はさせず独占するって意味だろうな、僕としても有難い。下手に商品として売り出すと周りが煩いから王家に献上という形は口出しが出来ずに助かる。

 これでセラス王女と魔術師ギルド本部の依頼は潤滑に進むだろう。

 

「それでは少なくないかの?勲一等の働きに対して適正な判断をせねば他が不安になるぞ。ハイゼルン砦を落としてもその程度しか認めて貰えないとなれば士気も下がる」

 

「慌てるな、サリアリスよ。あくまでも本人の希望だ、過去の事例に照らし合わせても、リーンハルトは伯爵に叙して褒賞金か領地かを選ばせる」

 

 え?伯爵ってことは一つ飛ばしで爵位を賜るのか?しかも褒賞金か領地って今回の戦争では新しい領地は得ていないぞ。王家の直轄地か誰かを蹴落として奪うか……ああ、バニシード公爵が粛清されるのかな?

 

「領地ですか?経営ノウハウも無く家臣も少ないので無理です」

 

「その地に居る代官に任せれば大丈夫じゃよ、領地持ちは貴族として誇れる事、伯爵ならそれなりの領地は貰える筈じゃな」

 

 嬉しそうなサリアリス様を見ると褒賞金より領地を望んだ方が良いのかな?しかもアウレール王に“それなりの領地”って念押ししたぞ。

 

「全ては終わった後の事です。アウレール王、今後の方針はどうしますか?」

 

 ラミュール殿が紅茶を配り終わった頃を見計らい今後の方針を聞いてみる、外交するにしろ我々にも仕事が来る筈だ。特に今回はサリアリス様まで同行させている、アウレール王の本気度が分かる。

 

 ああ、毒味役とか居たんだ。国王って大変だな。例え味方の要塞の中でも暗殺の心配をする必要が有るのか……

 毒の有る無しは毒特化の水属性魔術師の僕には分かる、だが秘密にしてるから言えない。サリアリス様は毒味役の権限を犯さない様に様子見だった、彼女なら毒味役が見逃しても分かるだろう。

 

「ふむ、方針だな。ウルム王国とは休戦の方向で交渉するが、リーンハルトに騙し討ちした事は許さないと強気で行く。

最低限の目標は旧コトプス帝国の残党の引き渡しと領内の通行権だ、奴等は俺達の手で引導を渡さないと気がすまない」

 

「リーマ卿率いる本隊は攻めて来ませんでした、ハイゼルン砦に籠るか近くで遊撃として居るかと思えば違うみたいなんです」

 

 僕はハイゼルン砦を二時間で落としたから救援が間に合わなかったのか、初めから来る気が無かったかは分からない。ハイゼルン砦を離れる事は不可能だった、攻めて来るのを待つつもりだったが現れない。

 

「もしかしたら最初から罠だった可能性もあるな、奴等は俺達とウルム王国が戦争になった方が動き易い」

 

 なる程、増援の無い籠城戦は変だと思ったが、最初から両国の軍を誘き寄せる罠だと思えば納得は出来る。謀略戦は苦手なんだよな……

 


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