古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第527話

 国境線付近で最大の街、領主の館も有るフルフの街の手前7㎞まで到着した。小高い丘から見下ろすフルフの街は、何と川の中洲に有る。

 コウ川と言う幅の広い川の中洲にある、立地的に防衛に優れていると思うが違う。川が増水したり氾濫すれば取り残される危険性が高い、橋を落とされても同じで孤立する。

 フローラ殿の説明によれば二百年以上も前に、高名な土属性魔術師により街の土台は嵩上げされ、岩山全体に強固な固定化の魔法が掛けられて安全らしい。

 

 確かに川の中洲に有り周囲を囲む城壁も石積みで強固っぽい、侵入するにも川の流れは早く急だ。橋は東西に一本ずつ、途中で跳ね上げ式になっている。

 ハイゼルン砦よりは攻略し易いが堅牢な街には変わりない、だが街の規模からすれば常駐する兵士は五百人程度だろう。

 確かに凄いが狭い、拡張性は皆無だから川岸に新しい街らしき物も見える。あの中に入れるのは限られた人間だけだな、貴族や富裕層だけか……

 だが川岸の周辺は肥沃な大地なのだろう、小麦畑が続いている。農民は街の外で暮らしている、そして彼等の集落を守る城壁は無い。簡単な木の柵だけ、此処にも身分と貧富の差が有る。

 

「珍しい、川の中に街が有りますね。でも狭い、周辺の集落の方が広いですよ」

 

 チェナーゼ殿の素朴且つ素直な感想に、自慢気に胸を張っていたフローラ殿が気落ちした。確かに珍しいが、街として考えれば狭い。どちらかと言えば砦か軍事要塞か、お世辞で城だな……

 

「い、今は街となっていますが伝承によるとですね!古代の城だったそうです、幾つか秘密の通路や部屋も見付かったそうです。ですが未だ隠された秘密が有ると言われています」

 

「隠された秘密ねぇ……確かに城ならば隠し通路や隠し部屋の可能性は有るかな、主に脱出経路的な意味で……」

 

 言われて思ったのだが、何か記憶に引っ掛かる。僕はあのフルフの街と呼ばれた城みたいなモノを知っている。

 色々と手が加えられては周囲の景色も変わったけど、記憶が曖昧だけど、確かに川の中洲の岩山を錬金で大規模改造……

 

「リーンハルト殿の屋敷も古代の英知が詰まっていると噂の、二百年以上の歴史の有る屋敷でしたよね?人を寄せ付けぬ呪いの掛かっていた洋館の秘密を若き宮廷魔術師が解いた、私もお邪魔したいのです」

 

「ほぅ?二百年以上も歴史の有る屋敷ですか!バーリンゲン王国の建国よりも古いとは驚きですね」

 

 え?何かを思い出しそうだったけど、彼女達の言葉で我に返る。期待に満ちた目で見られているが、アレだっけ?ブレイザー・フォン・アベルタイザーが残したトラップハウスの事か?

 今はレレント・フォン・バンデック殿から買い取った、僕の終の住処たる魔改造を施した要塞級の屋敷。正規兵千人程度で陥落は不可能、ゴーレムマスターらしくゴーレム兵団に守られた大切な人達を守る砦。

 そしてチェナーゼ殿が期待に満ちた目で僕を見るのは屋敷が見たいからか……単独で招くには誤解を招く相手だな、お茶会か何かの催し時に招くか。

 

「珍しい屋敷だと自分も思っています。過去の持ち主が人払いの陣を用いていたので、そのままの形で後世に残ったのでしょう。無事に帰ったらお茶会か何かの時に招待しますよ」

 

「ふふふ、そうですか?有り難う御座います。リーンハルト殿が自分の屋敷に客を招かれる事は稀なので、嬉しいですね」

 

「最近引っ越したばかりですし、王命により王都を離れる事も多いですからね。自分の屋敷とはいえ、居ない事も多いのが悩みです」

 

 これは少し問題かも知れない、屋敷に客を招かないと思われているのか?貴族とは付き合いと根回しも必要とされる面倒臭い生き物だ。

 どんなに権力を持とうが個人が強くても派閥関係を疎かにする事は出来ない、特に敵味方に拘る僕は味方という仲の良い連中との付き合いは重要。

 これも貴族の柵(しがらみ)だな、幸いチェナーゼ殿は敵対派閥の構成員じゃない。王宮内では、レジスラル女官長の派閥だからリズリット王妃派の僕とは微妙か?

 

「ハイゼルン砦攻略、デスバレーでドラゴン討伐、旧クリストハルト侯爵領での潅漑事業……確かに全て王命ですね、そして全てを完璧に達成する」

 

「王命は絶対なのです。達成して当たり前、完璧に近付ける努力も必須です。ああ、話し込んでいたら1㎞位手前に到着しましたね」

 

 何時の間にか小麦畑を通過し農民達の集落の入り口に到着していた、その先に跳ね上げ式の橋が見える。初めて間近でバーリンゲン王国の国民達を見たが、結構身なりは小綺麗にしているな。

 表情にも疲れた感じがしない、健康そうだ。女性や子供達も元気だ、特に敵対心も無さそうだな。隣国からの国賓が珍しい、そんな感じがする。

 若い女性達も遠巻きでは有るが家から出て来て見ている、普通は他国の貴族とはいえ武装集団を伴う連中の前には姿を表さない。残念な事に酷い事をされる可能性が有るから……

 

「ふむ、良い雰囲気の集落ですね。人々が元気で活気が有る、流石は領主の館が有る街と言う事かな?」

 

「領主のキャストン伯爵はパゥルム王女からも信頼の厚い、バーリンゲン王国の内政関連の重鎮ですから。彼の領地は繁栄していますね」

 

 エムデン王国側は他民族達の領地とは隣接していない、故に治安も良く問題も少ない。そして領主はパゥルム王女派らしい、それはミッテルト王女にも繋がっていると思うべきだな。

 フローラ殿が先頭になり集落の中をゆっくりと進む、途中で子供六人の集団が僕に大きく手を振っていたので軽く微笑んで小さく手を振る。

 嬉しそうにしている、後ろにいる保護者らしき大人達も嬉しそうだ。此処の領民達は、エムデン王国を悪くは思っていないのだろう。あと妙に着飾った若い娘達が居るのは、リィナの件だな。僕等が来る事は事前に知らされていると考えるべきか……

 

「リーンハルト殿は子供好きなのですね?」

 

「次代を担うのは子供達ですよ、子供達が元気な国は発展する。逆に元気の無い国に未来は無い、だから大切にするべきでしょう」

 

 子供好きの言い方に引っ掛かりを感じた、僕は幼女愛好家じゃないぞ!子供は国の宝、子供無くして栄える国は無い。

 バーリンゲン王国も未来は無いが、キャストン伯爵は治世の面では有能らしい。ただフルフの街は繁栄しているが、通過した二つの街の発展は微妙だった。

 全ての領民を幸せにする事は難しい、何処かで歪(ひず)みや歪(ゆが)みが発生する、そして破綻するんだ。だから取捨選択をして繁栄するスペックの有る街を優遇するか……

 

「流石です、ローゼンクロス領の領民は幸せですね」

 

「領主にはなりましたが、忙しくて代官のレグルス殿に任せ切りなんですよ。時間に余裕が出来たら訪ねたいと思ってますが、現実は難しいのです」

 

 実際にローゼンクロス領にも領主の館の有るローゼンクロアの街にも行ってない。治世は代官のレグルス殿に、商業については御用商人のライラックさんに任せ切りだな。

 反省はするが現実的な問題で落ち着く迄は無理だ、バーリンゲン王国とウルム王国、旧コトプス帝国の残党共との争いが終われば一息つけるだろう。

 集落を通り抜け跳ね上げ式の橋を渡る、材質は木材で所々に鉄板で補強しているが落とすのは難しくない。巻き上げ用の鎖は剥き出しだから切られたら終わりだぞ。

 

「む、金具類は錬金で作ってあるな。これは細工がしてあり、木材の連結部分が一斉に分解し橋もバラバラになるのか……」

 

 馬を下りて実際に木材を連結する金具に触る、難しい構造じゃないが良く考えられている。長い橋だし多数の敵を橋ごと川に落とすのか、確かに有効だな。

 微弱な魔力が流れている、絶えず魔術師が橋の管理をしているみたいだな。強い魔術師が干渉すれば橋は崩壊しない、だが気付く事は難しい。

 錬金の精度や造りからして結構前に錬金された物だ、これを考え出した土属性魔術師に会いたいが無理だろう。だがアイデアは頂いた、何かに応用出来そうだ。

 

「あの、リーンハルト殿?余り触られたり調べられたりするのは困ります、一応他国の軍事拠点なんですよ」

 

「失礼しました、この城を作った者は天才ですね。金具一つでも興味が尽きません、ですが不用意でしたので謝罪します」

 

 そう言って軽く頭を下げる、近付いて漸く思い出した。朧気(おぼろげ)な白黒の記憶に鮮やかな色彩が付いた、僕は過去にルトライン帝国の周囲に軍事拠点を幾つか作った。

 転生前の僕は色々な軍事拠点も錬金させられたんだ、此処はルトライン帝国の最終防衛ラインとして機能していた筈だ。

 強固な固定化の魔法を掛けた岩山の内側を要塞化したんだ、上部の構造体は全てダミーだ。そして要塞の中に入る方法は、特定の場所で登録された魔力を流すと道が開ける。

 

 侵入出来る入り口は幾つも有り、当然だが錬金した僕の魔力は登録してある。だが転生して魔力の質は変わった、だから侵入するには別の方法が必要だな。まぁ製作者だから問題は無い。

 此処には資金と資機材、食糧や武器と防具、それに最大な物は軍艦が収納されていた筈だ。川を利用して脱出する為の小型で足が早く防御力に優れた高速船が隠してある。

 ヤバい、楽しくなって来たな。元々は自分が所属していた国の物だ、つまりは生き残りの王族である僕の物。ふむ、悪くはない、悪くはないないぞ!

 

「ふははははっ!」

 

「なっ?何ですか、いきなり笑い出すなんて!」

 

「疲れているのですか?今夜は早めに休んだ方が良いですよ」

 

 む、二人にドン引きされてしまったか?だが自分の全盛期に手掛けた錬金に再び出会える喜びは押さえ切れなかったんだ。

 今の僕では無理なモノや、忘れているモノ。三百年前の同僚達が錬金したモノも有るだろう、それらは自分の魔法技術の向上に役立つ。

 楽しみだ、夜になるだろうが調べてみよう。多分だが国賓たる僕達の寝室は中心区画に近い、ならば隠し通路の場所にも近い。上手くすれば与えられた寝室にも有るだろう。

 

「いや、気にしないで下さい。思い出し笑いです、大した事は無いし体調も万全ですから大丈夫ですよ」

 

 疑いの目を向ける淑女二人に笑い掛ける、今度は怪しい笑いじゃなく自然に優しい笑いを心掛けだが失敗したみたいだ。

 余計に疑いが酷くなったけど、何を考えているかなんて分からないだろうから関係無い。今夜は内緒で探索する、今から待ち遠しいな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 フルフの街と呼ばれた過去に建造に携わった砦を見上げる、入り口に神経質そうな貴族らしき男がキャストン伯爵だろう。後ろに数人の男女が立っているが、一族の者達だな。

 この段階でロンメール様は挨拶などしない、対応は大臣に任せる。僕は護衛としてロンメール様の馬車の隣に控える、正式な挨拶は少し休憩を挟んでからロンメール様の部屋に先方から挨拶に伺うだな。

 少し距離は有るが比較的友好な挨拶を交わしているみたいだ、周囲に並ぶ使用人や警備兵の様子を伺うが敵意は感じない。そして正面の大門は過去に僕が手掛けたモノに間違い無いな。

 

 礼儀的な挨拶も終わり騎乗したまま大門を通過、貴賓用の馬車寄せに通される。どうやら僕達全員を中に入れてくれるみたいだな、後で先方の警備責任者と担当区分を決めておくか。

 進入禁止地区とかも有るだろうし、僕等も警備とは言え知らない連中をロンメール様の近くに居させたくない。双方の責任区分の摺り合わせは必須なんだよ。

 先方からの挨拶には同席する必要が有るので割り当てられた部屋で簡単に身支度を整えてから、ロンメール様の部屋に向かう。因みに世話をするからと、イーリンとセリシアが続き部屋に居る。

 

「お待たせしました、ロンメール様」

 

「構いませんよ、私達は馬車に乗ってますが騎乗し外に居るリーンハルト殿には身嗜みを整える必要が有りますから」

 

 優雅にソファーで寛ぐ姿は優雅の一言しかない、単に紅茶を飲むだけなのに他とは何かが違う。流石は現役王族、過去の僕よりも優雅だよな。

 そしてロンメール様に気遣わせる程に汚れていたかな?確かに砂埃とかは酷かったがマントを羽織っていたし、それなりには気遣っていたのだが……

 因みに僕の姿は自作のライトメイルに魔術師のローブ、手にはカッカラを持っている。完全装備だが宮廷魔術師であり王族の護衛だから正装扱いだな、歓迎会も同じだ。故に万が一にもダンス等に誘われても辞退一択だ。

 

 これは当然の警戒であり失礼には当たらない、護衛担当者が接待で浮かれてどうする?本来の職務を妨害する事は忌むべき行動、勿論だが建て前だ!

 実際僕も名指しで呼ばれた国賓、だが優先されるのはロンメール様とキュラリス様だ。一緒に歓待される事はマイナス評価、王族と臣下には歴然とした差が有るんだよ。

 それを理解しないと駄目だし、相手も離間の計とは言わないが駄目元で仕掛けてくる。両方同じ様に持て成していますってね!

 

「フルフの街、実際は軍事要塞ですね。難攻不落といわれたハイゼルン砦と同じでしょうか?」

 

 何気なく聞いてきたが、ロンメール様は僕に此処を攻略出来るか?そう質問してきたみたいだな。この品行方正で人畜無害な芸術家肌な殿下を甘く見るのは危険だ、何か引っ掛かるのだろうか?

 同席しているのは、ロンメール様にキュラリス様、チェナーゼ殿だけだ。大臣や副官は先方の実務者達と協議に入っている。

 

「難易度は格段に低いでしょう。僕ならリトルキングダム(視界の中の王国)で余裕を見ても半日、普通の戦力でも東西の跳ね上げ式の橋を落として包囲しての兵糧攻めで落ちます。此処は狭い、戦力も五百人以上は賄えないですよ」

 

 そう、ハイゼルン砦よりも狭いんだ。上部の構造体しか使えない、本来は岩山の部分に広大なスペースが有る。小規模な争い程度なら問題無いが、国家間戦争になれば小規模な砦でしかない。

 

「ふむ、バーリンゲン王国と戦う時には中間拠点にはならないか……」

 

「周辺の集落の管理が難しいですね。中には入れられない、だが周囲に無防備な領民が居ては守り切れない。結果的に彼等が襲われたら此処から出撃する必要が有る、見捨てるなら問題は無いが援軍が来なければ結局は時間の問題ですよ」

 

 援軍の無い籠城は勝てない、時間の問題でしかない。士気は下がるから内通されて味方同士で戦う可能性も有る、戦略的な意味が有れば別だが小規模な砦など放置しても大勢に影響は無い。

 だが戦争状態になりエムデン王国軍が侵攻した場合、コウ川を防衛ラインとして此処に籠もるのも有りと考えたかな?

 僕に与えられた戦力は王国第四軍と、ザスキア公爵の私兵だけだから人数的には十分な広さが有る。此処に籠る可能性は低いが、最悪は岩山の中身を見付けたと解放しても良いかな。

 

「そうですね……しかし、リーンハルト殿は中々ドライな考え方をしますね」

 

「そうでしょうか?……自国の繁栄と安全が最優先ですから、他国の扱いは低くなるのは仕方無いでしょう」

 

 それが国家に属する宮廷魔術師のあるべき姿だ、誰にも優しく博愛の精神など前王の失策で理解している。亡国の危機を個人の主義主張でやられたら堪らない、冷酷と言われようと非情と罵られても守るべき相手と順位は間違えない。

 二度目の人生は前の焼き直しにはしない、僕はイルメラ達と幸せに生きる。その為に努力し今の地位に居るのだから……

 


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