触手になったホンワカ系な社畜女子と、もと作業用メイドロイドたちの日常なお話

以前投稿した変異したら触手になってましたの改稿版になります
なろうでも投稿しています

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今より未来の世界が崩壊したあとのお話……のはずです


触手とメイドロイド

 彼女の名はトモコ、れっきとした触手である。

 百年前までは人間だったが故あって触手に変態した。

 彼女だけではない、ある日を境に全人類が様々な姿に変態して文明は崩壊を迎えた。

 全人類デ〇ルマン、さらば旧文明、こんにちは新世紀である。

 トモコはイソギンチャクのような体と巨大な一つ目、大量のにゅるにゅる触手をもつローパー型触手となった。

 最初は変態した同族(ローパー)に交じって光合成したり、謎の白濁液ぶっかけパーリィする楽しい日々だったが、プリンが食べたいなっと正気に戻り仲間たちと別れて一人旅に出ることにしたのだ。

 

 トモコはプリンプリンなプリンを求め十年ほど彷徨い、そして立ち並ぶ大型倉庫を発見した。

 倉庫には管理するために稼動していたメイドロイドたちと、保管状態がよく使用可能な文明の利器が棚にあれんばかりに置いてあった。

 人間の頃は仕事に追われ、生活の大部分を安売り通販で賄っていた社畜下級戦士トモコ。

 プリンのことなどすっかり忘れ、以前なら手にすることも叶わなかった高級食料の缶詰(五百円~)や高価な家具(五万円~)や家電(三万円~)にたちまち夢中になった。

 

 変な鼻歌を歌いながらご満悦で倉庫を徘徊する不気味なローパー。

 最初はトモコを警戒して遠巻きで覗っていた薄汚れたメイドロイドたち。

 しかしトモコが、ナノマシンの動作不良で停止していた一体のメイドロイドを再起動してあげると、たちまち彼女たちの態度は軟化した。

 倉庫のメイドロイドたちに最低限の自己保存機能はあるが、メンテナンスなどは自動で実行できないようにロックされていて、色々な不具合を起こしていたのだ。

 彼女たちの状況を察したトモコは、解除用のキーコードを倉庫の事務所の中から探しだし、メイドロイドたちを縛るロックを全解除して自己メンテナンスを行わせた。

 汚れていた体をぬるぬるの触手で洗ってあげ、野暮ったい作業服から可愛いメイド服を着るように命じ、他にも色々指示していたらいつの間にか勝手にマスター認証されてしまっていた。

 危険な外の世界まで付いてこようとするメイドロイドたちを放置しておくわけにも行かず、トモコは旅をやめ、倉庫を住処とすることにしたのだ。

 

 触手とメイドロイド、一緒に生活を始めた頃は腹の探り合いであった。

 トモコは倉庫のどこで光合成していてもメイドロイドたちに監視された。

 マスター認証されたとはいえトモコの姿は人とはかけ離れた醜いローパーである。

 元は自信のない陰キャであったトモコは鏡を見ては凹み、メイドロイドたちの美しい人の姿を見ては凹み、自分は信用がないのかとさらに凹んでにゅるにゅるの触手を萎れさせてしまう。

 実際にそれは彼女の勘違いで、メイドロイドたちはかつての人類のように、トモコがふらりっといなくなってしまわぬよう交代で見張っていたのだ。

 主人であるトモコの見張り役はメイドロイドたちの中で人気が高く、その順番は高速通信の話し合いでも決着がつかず、全員揃っての壮絶な高速ジャンケンの末に決められたほどであった。

 

 トモコをじっと見つめることのできる見張り役は、今でもトモコの側仕えをする仕事の次に人気である。

 

 現在のトモコたち生活の場となっているのは広々としたガレージだ。

 元は事務所として使われていた殺風景な部屋は、メイドロイドたちの手によってトモコ好みの、ややファンシーな内装に変更された。

 トモコは彼女たちにかしずかれ、ごろごろとカーペットを寝転がり、膝枕をしてもらいながらジュースを飲ませてもらい、アニメや映画の鑑賞などをする悠々自適な生活を送っている。

 農業キットがトモコのために使用され、倉庫の一角は豊かな農業プラントとなっていた。

 トモコが旅をする切っかけであった好物のプリンを毎日欠かさず作ってくれる。

 食事のときは、お箸を持てないトモコにメイドロイドたちが代わる代わるに料理をアーン。

 お箸は使えないが、触手で直食べできるよと言っても、行儀悪いとアーン。

 お風呂に入れば必ず十人以上の水着姿のメイドロイドが付いてきて、触手一本一本の肉ひだの奥まで懇親丁寧に全身を使って洗ってくれる。

 風呂上りには触手の保水マッサージまで忘れずしてくれるのだ。

 倉庫内のメイドロイドたちの行動は、すべてトモコを中心として回っていた。

 メイドロイドは人間の生活を豊かにする役目で作られたとはいえ、恐ろしいくらいに健気で献身的であった。

 文明崩壊前、メイドロイドがいればパートナーはいらないと言う者が多かった。

 メイドロイドなど買えぬ貧乏人だったトモコは、触手になってからその言葉の意味を実感したのである……確かに、こんな尽くしてくれる可愛い子いたら女でも嫁いらんわ、と。

 

 その日のトモコは、ガレージの外にビーチチェアをだし光合成……ではなく日光浴をしていた。

 数人のメイドロイドが大きなうちわで扇ぎ、頼むとソフトドリンクやパフェなどをキッチンから作ってすぐに持ってきてくれる。

 涼しむなら扇風機でいいし、嗜好品もクーラーボックスにでも入れて置けばいいのだが、彼女たちはトモコに対しては手間のかかる奉仕スタイルを頑として崩さないし譲らない。

 今でこそ慣れたが最初の頃は、メイドロイドたちの過剰とも思えるサービスに、裕福な家庭の出ではなかったトモコはひどく物おじしたものだ。

 最も本来の家庭用メイドロイドでもそこまではしない。

 畑違いの作業用メイドロイドである彼女たちに家庭用データなどは存在せず、自分たちを救ってくれたトモコに喜んでもらうためだけに学習した。

 トモコに貰った大事な宝物であるメイド服を検索の足がかりに、サルベージした媒体からメイドを参考にして奉仕をしていたのだ。

 

 そのデータが、メイドカフェや萌えハーレム系アニメからというのがあれであるが。

 

 トモコがそんな勘違いなメイドロイドたちの手による、アラブの王侯貴族じみた贅沢をしていると、空を横切る飛行物体を発見した。

 人間サイズの体に白くて大きな翼。

 トモコが地上から口を開けて眺めていたらクルリと振り向かれる。

 美女である、癖の無い金の髪にはキューティクルな天使の輪ができていた。

 甲冑にスカートを着た姿は見るからに天使か戦乙女。

 おそらく天使、パンツをずり下ろせば確実に分かるんだけど、そうトモコは思った……天使は両性具有であるから。

 

 天使はトモコの姿、そのそばにいたメイドロイドたちに気づくとキッと睨みつけてきた。

 

 これは第二世代以降の天使だとトモコはすぐにピンとくる。

 どの種も第一世代は元は人間なので知性があるもの同士なら対話可能である。

 しかし世代を重ねるごとに種独自の価値観、本能に染まっていくのだ。

 天使は「我らこそ正義なり」な傲慢な性格の者が多いため、一部を除き、トモコとしてはあまり付き合いたくはない連中であった。

 

「魔物ごときがエルフの者たちを下僕として使役しているとは……うわさ通りの汚らわしくて卑猥な魔王めっ!! エルフたちの平和を脅かすあなたを、わたくしが討伐させていただきますわ!!」

「……下僕……魔王? エルフの平和を乱すってなんです?」

 

 天使の言葉にメイドロイドたちが顔を見合わせる。

 彼女たちの容姿は人そのものだが、この天使はメイドロイドをエルフと勘違いしているようだ。

 

「大丈夫よあなたたち、わたくしがすぐに救いだしてあげますからね? さあ魔王よ、わたくしが作りだす輝かしい伝説の一ページとなることを誇って逝きなさい!!」

 

 天使はトモコの言葉は取り合わず、メイドロイドに優しく語りかけて手を頭上にかざした。

 空が真っ暗に曇って、遥か上空で雷が発生する凄まじい轟音が鳴り響いた。

 

「受けなさい! 聖なる雷!!」

 

 天空から軌跡を描いて音速で落ちる雷の塊。

 鈍足ローパーなトモコに回避できるはずもなく被雷してしまう。

 アチチチチチチ!? と、声にださず悲鳴をあげるトモコ。

 百万ボルト以上の雷に包まれ肉体が放電する。

 ばりばりと激しい音が鳴って、トモコを中心としたアスファルトの地面に電気が流れこみ周囲の草木が一斉に燃えだした。

 幻想世界の住人となってしまった人類だが変ったのは姿形だけではなかった。

 魔法じみた力と種ごとにそれぞれ固有の能力を手に入れたのだ。

 雷が止み、メイドロイドの「ご主人さま!?」という悲鳴が聞こえる。

 トモコは意識を失いかけながらも深く安心した……彼女たちは無事のようだと。

 

「おーほほほっ! 思い知りましたか! 邪悪なる魔王など、わたくしの敵ではありませんわ!!」

 

 メイドロイドたちの敵意に満ちた視線にも気がつかず、天使は得意気に笑いながら地面に降り立つと、黒焦げローパーになったトモコに近寄った。

 

「ふふ、討伐した証拠に、この巨大な目玉でも持って行けばエルフたちも納得するでしょう」

「それは困るかな、この目玉は一個しかない貴重品だから」

 

 トモコは閉じていた巨大まぶたをバクンっと開けパチパチとウインクして見せた。

 

「なっ!?」

 

 慌てて翼を羽ばたかせ、空に逃げようとする天使。

 しかしトモコのほうが速かった。

 にゅるにゅるの触手を伸ばし、宙に飛び上がった天使の体に絡みつかせ捕獲する。

 黒焦げになったローパーの体から、薄皮一枚がパリパリと剥がれ落ちた。

 

「ご主人さま、ご無事でございますか!?」

「うん、表面がこげた程度で死ぬ触手ではないですよ」

 

 触手ふりふり、無事だと返事をするトモコ。

 メイドロイドたちは安堵の表情で喜びの声をだした。

 内も外も変わり者のトモコとすごしたせいか、それとも無機物でも百年も生きれば妖怪になるのか、出会った当時は機械的だった彼女たちもずいぶんと人間らしくなった。

 

「い、いやぁ!? 謎の白濁液がついて気持ち悪いですわぁ!!」

「うるさい! 放電に耐えるため、咄嗟に謎の白濁液を自分にぶっかけたの!!」

 

 トモコは吠えて、悶える天使の手首を触手で一まとめに縛って宙づりにした。

 

「く、け、汚らわしい魔物めっ!! は、離しなさい!!」

「あのね、ここまで悪いことやっておいて、ただで済むとは思ってないでしょうね?」

「な、なに? ナニをするつもりなの!?」

「なにって、オイタできないようにお仕置きだよ?」

「な!? い、いやらしいことをするつもりね!? この卑猥な触手で!?」

「……卑猥って、普通にお仕置きなんですけど?」

「嘘をつきなさいエロエロな触手な癖に!! しかし、いいでしょう……いずれ伝説となる大天使エルメイア!! 逃げも隠れもせずあえて受けましょう!! 邪悪な触手なんかに負けないんだから!?」

「………………」

 

 なんだこの強引な解釈は……トモコはそう思った。

 メイドロイドたちもひどく困惑している。

 

 天使たちの第一世代は勿論人間である。

 そのため彼女たちの中には自らの体を参考にして薄い異本を描いた強者がおり、それが第二世代以降の神聖な性書として伝わっているなど、神の身ならぬローパーには分からぬことであった。

 ちなみに題材として一番多いのはオークで、触手はスライム系に並んで二位だ。

 

 実はオークは浮気をしない愛妻主義者で、ひどい風評被害であった。

 

 トモコはアンコウのように吊り上げた天使のスカートを捲ると、現れた桃尻をペチンと叩いた。

 触手でペチンペチンと叩くと「あんっ!?」と天使は声をあげる。

 トモコにとって悪いことをしたときのお仕置きとはお尻叩き。

 トモコはそうやって、トモコ母から躾けられて育てられた。

 おかげでトモコは真っすぐな子(触手)に育ちました。

 なのでトモコは「お母さん、ごめんなさいって、あなたが謝るまで叩くからね!?」そう宣言して、ソフトタッチなケツドラムし続けたのである。

 

 

 翌日……。

 

 

 トモコは昨日のことを思いだしていた。

 ペチンペチンと天使のお尻を叩いていると、彼女は体を震わせ「おっ、おっ、おっ」と語尾に♥マークがつきそうな声をだし始め、トモコが『怖いから早く謝って!?』そう思いながら叩き続けると、美女顔に合わぬ汚い雄たけび声をあげ腰を激しくビクンビクンさせた。

 それから惚け顔で白目を剥いて死んだように動かなくなったので、トモコは恐怖を感じ、メイドロイドたちに天使の体についた謎の白濁液を洗って看病してあげるように頼んだのだ。

 よく分からないが、生命の神秘の一端に触れてしまったトモコであった。

 

「ご主人さま、全員揃いました」

「は~い」

 

 始業前の朝礼である。

 とことこ歩いて、にょろにょろと触手を振るトモコ。

 ガレージの前で百人以上のメイドロイドたちが綺麗に整列している。

 社畜下級戦士であったトモコが人間の頃に勤めていた職場では、社員全員が毎日並んで朝礼をしていた。

 そのときのことを思いだし、何となく実行しているのだ。

 トモコの勤めていた会社はワンマン経営のブラック企業であった。

 

「みなさん、今日は何かありますか?」

「はい、ご主人さま、これといって特にございません……です」

 

 ブラック経営者とはほど遠い社長ローパーの質問に、本日の側付き役のメイドロイドが、やや口を濁しながらも返答する。

 トモコはそれを不思議に思いながらも「それじゃ、今日も平和に元気にすごしましょ~う!」そう、のほほんと締めくくった。

 

「了解しました、ご主人さま!」

 

 元気な返事をするメイドロイドたちの声の中に「わかりましたわ、ご主人さま!」などという、聞き覚えのない女の声が混じっていたことにトモコは気がつかない。

 トモコが翼の生えたメイドがいることに気がついたのは、しばらくしてからである。



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