かばんちゃんで1期ラストから再構成してみる「けものフレンズ2」   作:米ビーバー

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月明かりの下、建物の中で三人の影。

「依頼内容を復唱しますね」

ニヤリと特に意味はないが意味深に微笑むフレンズーーーオオセンザンコウは目の前の依頼人に向けて、依頼内容を復唱する。

「―――“ヒト”探し。で、よろしいですか?」

復唱内容を受けて、目の前の依頼人は、「ええ」と返す。
もう一人、オオセンザンコウの隣に立つフレンズーーーオオアルマジロは隣のオオセンザンコウと目配せをして頷き合う。


「―――その依頼、お引き受けします。吉報をお待ちください」

神妙な顔で一礼すると、扉から外へ出ていく二人。


扉を閉めて、ゆっくり3歩。


「―――やったやった!久しぶりのお仕事よオルマー!」
「そうだねセンちゃん!!お仕事だー!!」

おー!と二人して腕を振り上げて、はたと気づいたようにオオアルマジロのオルマーが首をかしげる。

「ところで……“ヒト”って、どこに住んでるの?ナワバリは?」
「そういえば……聞いたことないですね。まぁ、パークを隅々までさがせばきっと見つかるでしょ?聞き込み調査からいきましょ!」

ポケットからメモ帳のようなものを取り出すオオセンザンコウのセンちゃんが歩き出すのを、慌てて追いかけるオルマー。

目的のものが存在するかすらわからないことなど知らぬままに、行き当たりばったりで歩き出す二人のフレンズがどういう旅路をたどるのか……?まだ誰も知らない。




#1 『あたらしいとち、あたらしいフレンズ』 Bパート

「ふぁ……ぁ…………ぁれ?サーバルちゃん??」

 

朝日が昇る少し前、目を覚ましたかばんは辺りを見回した。地面に置いたラッキービーストはそのまま残っているが、サーバルの姿はない。

 

『オハヨウ、カバン。サーバルナラ、キノウエダヨ』

「おはようございます。ラッキーさん」

 

 ラッキービーストに挨拶を返して再び腕に留め直して樹の上を見上げると、しっかりした枝の上でうつぶせで丸くなって眠るサーバルの姿があった。

 

『モクテキチマデハ、モウスコシダヨ。アサゴハンヲタベタラ、ガンバロウネ』

「はい。がんばりましょうね、ラッキーさん」

 

朝の食事―――ジャパリまんを荷物から取り出そうとするかばんだったが……

 

「―――みゃ??」

 

樹の上で眠っていたサーバルが起き上がり、飛び降りて辺りをきょろきょろと見回し始めた。眼を閉じて感覚をより鋭敏にしようとしているのか、その耳がピクピクと動いている。眼を閉じ耳を澄ませた状態のまま周囲をぐるりと見まわしたサーバルは――――ふいに目を見開いた。

 

「こっち!フレンズの悲鳴みたいな声が聞こえた!セルリアンかも!?」

「!!サーバルちゃん!先に行って!!その子が食べられちゃうまえに!!」

 

かばんの判断は早かった。自分の速度に合わせれば間に合わないかもしれないと、サーバルを先行させるべく檄を飛ばすと「かばんちゃんも気を付けて!危なくなったら、ちゃんと逃げてね!!」と残し、サーバルは地を蹴り猛スピードで駆け出していった。

 

 

 

**********

 

 

 

「――――ハァ、ハァ……」

 

荒い息を吐いて、草むらに隠れる影が一つ。ネコ科特有の尖った耳を草むらの外に少しだけ飛び出させて、周囲の音を拾いながら索敵をする。

 

「もう!何だってこんな時にセルリアンなんか……!!」

 

ブツブツと愚痴を吐くその顔には疲労が色濃く残っており、瞳の輝きもくすんでしまっていた。彼女の隠れている草むらの向こう側で、フワフワと浮かぶセルリアンが1体。大きさはフレンズとほぼ同等の大きさである。

 

「サンドスターさえなくなりかけてなかったら、あんなのきっとぶっ飛ばしてみせるのに……!!」

 

瞳の輝きがうっすらと翳ってきているのはサンドスターの枯渇状況を示しているのか、ネコ科のフレンズに生気がない。だが、同時にそれは、サンドスターを狙ってくるセルリアンからも気づかれにくいというメリットをも生んでいた。

 

 そもそもサンドスターが潤沢にあればセルリアンなど迎撃できるというのが彼女の持論であるのだが―――。

 

ピクピクと音を探る耳が、違う音を捉えた。草むらの向こうでふよふよと浮遊して目玉部分を動かし索敵するセルリアンとは違う方向から。

 

「―――全く……冗談じゃないわ……」

 

絶体絶命の状況に、その場にぺたんと座り込んで天を仰ぐ。その背後から、セルリアンが近づいてきていた。でももうあきらめてしまった彼女の心は身体を動かすことをしてくれない。球体のセルリアンが変形し、腕のように伸びて膨らんだ部分ができると、その先端が彼女を飲み込む様に2つに分かれまるで牙の生えた口の様に変形する。

 

「―――イチかバチか……野生解放で……」

 

その全身を一口で飲み込もうと伸びた触腕に対しカラカルの瞳に僅かにサンドスターのきらめきが宿る。そんな状況を―――

 

 

「うみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃぁぁーーーーーーっっ!!!」

 

 

―――叫びとともに飛び込んできた輝く一撃が吹き飛ばした。

 

 腕部分を野生解放で輝く爪で切り裂いたサーバルの行動は素早かった。身動きをとれないフレンズを抱きかかえると、そのまま高く跳びあがり、手ごろな樹の枝の上に飛び乗ると、そこに優しく抱き下ろす。

 

「―――あのくらいの大きさだったら、大丈夫かな?」

 

目算でセルリアンの大きさから自分の力でどうにかなるかを計算し―――面倒になって「まぁきっと大丈夫」と思考を切って捨てたサーバルは、セルリアンが自分の方へと視線を向けたことを確認して、幹を蹴り地上のセルリアンに向けて飛び込んでいく。

 

「みゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃぁーーーーーーー!!えぇいっっ!!」

 

掌全体にサンドスターの輝きが収束し、指先からやや短いが爪が伸びる。目の前のセルリアンの弱点たる“石”を狙うべく突撃するサーバル。セルリアンの球体の胴体部分から二本の触腕が伸びる。それを宙がえりの様に身を捻って躱し、着地したサーバルは即座に別の木へ向かって地を蹴ると、その幹も蹴って跳び、三角跳びの様に背後に回り込むとセルリアンの後輩部の“石”を狙って爪を繰り出した。

 みしりと音をたてて“石”に爪が食い込み、音をたてて砕けると同時に、“パッカァァァン”とセルリアンが内部から破裂するように爆発し、キラキラと輝く結晶だけを残し、やがてそれも風化して消え去った。

 

「サーバルちゃん!大丈夫だった?」

 

セルリアンを倒して満足げに胸を張るサーバルに、やっと追いついたかばんが合流する。枝の上でぽかんとサーバルを見つめているネコ科のフレンズが、そこでやっとハッと目を見開いて、幹にしがみついてスルスルと地上に降りてきた。

 その瞳がじっとサーバルを見つめている。

 

「――――さ」

「はじめまして、私はサーバルだよ!こっちはかばんちゃん。よろしくね!」

 

何かを言いかけていたフレンズよりも先に、サーバルが猫の手で自己紹介すると、一瞬だけ視線が揺れ、ぷいとそっぽを向いた。

 

「―――あたしはカラカル。言っておくけど、サンドスターが十分なら、あたしだってあのくらいのセルリアンなら勝てたんだからね!」

「そっかぁ、カラカルもかりごっことか得意そうだもんね、かけっこも速そう!」

 

ニコニコとカラカルに笑顔で接するサーバルに、そっぽを向いた状態のカラカルも居心地が悪くなってか、そっぽを向いた状態から向き合う形に体制を直す。

 

―――そのお腹が、クゥ、と鳴った。

 

「―――あ、カラカル……さん?ジャパリまん、たべますか?」

「あ、私もー!さっきセルリアンをやっつけたから、お腹すいちゃった」

 

リュックからジャパリまんを取り出すかばんに、サーバルが両手を上げて駆け寄る。その両手にジャパリまんを二つ持ってカラカルのもとへ。

 

「はい、カラカルも」

「―――――あ、ありがとう」

 

サーバルから差し出されたジャパリまんを受け取り、お礼を言って一口齧るカラカル。お腹がすいていたのもあってか、そこからは一気にはぐはぐと一息で平らげてしまった。

 

「と、とりあえず助かったわ……お礼は言ってあげる

 ―――あの、それでね?その……」

 

言いにくそうに下を向くカラカル。その視線がチラチラとサーバルを見ていた。

 

「あの……サーバル?あんた……あたしとどっかで会ったこと、ない?」

「えっ?――――――うーん……」

 

カラカルに尋ねられ、驚くとともに腕を組んでむむむと唸るサーバル。しかし、考えても答えは出ない。サーバルはもともと、それほど記憶力が良い方ではないからだ。

 

「―――ごめん。わかんないや」

「―――そう」

 

しゅんとするカラカル。そのお腹がまたクゥと鳴って、顔を赤くしたカラカルが素早く樹の上に飛び乗って隠れる。

 

「何よぉ!文句あるの!?お腹はだれだってすくでしょ!?」

「何も言ってないよー?いっぱい運動したらおなかすくもんね!もう一個たべよう?」

 

サーバルはかわらずニコニコとカラカルに微笑みかけていて、カラカルは気恥ずかしさも相まって幹に体を隠している。その姿はかつてのツチノコを思わせて、かばんは思わず思い出してクスクスと笑い声を忍ばせる。

 

『カバン、モウスコシデモクテキチダヨ。セルリアンニデアワナイウチニ、ハヤクヌケヨウ』

「あ、はい。わかりましたラッキーさん」

 

ラッキービーストからの声に気を引き締めたかばんがジャパリまんを取り出した後のリュックを背負いなおした。取り出したジャパリまんを包装した包みのまま、木の下に置くかばん。

 

「カラカルさん。ぼくとサーバルちゃんはもう行きますね?

「じゃあねカラカル!また会おうね!」

 

手を振り樹上のカラカルから離れていく二人を、カラカルは樹の上から少し寂しそうにジッと見つめていた。

 

 

 

**********

 

 

 

「この中……ですか?」

『ココダヨ、ココダヨ』

 

腕のラッキービーストに促されるままに、サーバルと二人で森の中を歩く。

その先に、形を残してはいるがやや崩れかけた建物があった。

 

「なにここー?ふしぎーー?」

 

ぴょんぴょんと建物の中をけんけんで飛び跳ねながら周囲を見回す。かばんもおそるおそる周囲を見回し、あたりの壁や床などを見て回る。朽ちかけ塗装が剥げた壁には、ところどころひびが入っており、床の上には矢印模様が描かれていた。

 

「これ……ツチノコさんのところで見た……?」

『エントランスダネ。ジュウデンシセツハ、コノサキダヨ』

 

ラッキービーストがさらに奥を提示する。その声に導かれるように先ヘ進むと、以前“じゃぱりカフェ”で見かけた絵柄が描かれた壁があった。

 

「あ、これですね?ラッキーさん」

『コレダヨ、ヨクデキマシタ』

 

ラッキービーストの声に「えへへ」と微笑んで、かばんはリュックに括りつけていたバッテリーを取り出し、取っ手部分を引っ張って蓋を開いて中の凹みにぴったりとバッテリーを取り付ける。かつてじゃぱりカフェでラッキービーストがやっていたことを思い出しながら、しっかりと取り付けを済ませて、蓋を閉じる。

 天井部分で光を出していたモノが、少しだけ暗くなったように、かばんは感じた。

 

『デンアツガサガッタカラ、デンリョクキョウキュウヲサゲテタイオウシテイルヨウダネ。ジュウデンガオワルマデ、ナカヲタンサクシテモ、イインジャナイカナ?』

 

ラッキービーストの言っていることはよくわからなかったが、内部の探索を勧められているのだと理解したかばんは、そこで―――サーバルのいつもの声が聞こえないことにようやく気付いたのだった。

 

「――――え?えぇぇぇぇ……!?」

 

 薄暗い建物の中はそれほど広いわけではないはずなのに……サーバルがどこにもいない。不安げな声を上げてかばんは周囲をきょろきょろと見回す。

 

「さ、サーバルちゃーん……?どこ……?」

 

おそるおそるあたりを歩くかばんの向かう先、腕のラッキービーストがライトを照らすと、薄暗がりの中で二つの光がギラリと光った。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?た、食べないくださいぃぃぃ!!」

「た、食べるわけないでしょ!!」

 

 悲鳴を上げるかばんに大声で怒鳴り返す影。その声の主は、さっき別れたはずのカラカルだった――――。

 

「カラカル……さん……?何でここに?」

「―――い、一応助けてもらったし……食べ物貰ってはいさようならって、なんか薄情っていうか……貰った分何かしら返したいっていうか……いいでしょ別に!!」

 

しどろもどろの挙句逆切れを起こすカラカルの、ころころと変わる百面相に、思わず微笑みが浮かぶかばん。脳裏には、初めてお別れをした後、後ろから付いてきたサーバルとの邂逅が過っていた。

 

“えへへ……やっぱり、もうちょっとだけついていこうかなーって……”

 

 あの時の出会いがなかったらと考えると、今ここまで旅をしてきたとは考えられなかった。きっと図書館までたどり着いていたとして、そこで旅は終わっていただろう。そんな風に、かばんは考えていた。

 

 

 

******

 

 

 

「―――それで、バスの“でんち”を“じゅうでん”するためにここまで来たんです」

「へぇー……海の向こうから来たんだ?」

 

 サーバルを探すために周囲を調査しながら、カラカルにこれまでの経緯を語っていたかばんにカラカルも徐々に慣れてきたのか、距離感をやや縮めているように感じられた。

 

「むこうでも、いろんなフレンズさんに助けてもらったんです」

「大変だったでしょー?サーバルは調子に乗ってドジばっかりだから……」

「あははは……」

 

 カラカルのやれやれと言った調子に苦笑するかばん。

 

「カラカルさんも、サーバルちゃんと同じ種類のフレンズさんと、一緒に居たことが?」

「え?ええ―――うん。すっごいドジで、呑気で、面倒な子だったわ……」

 

遠い目をするカラカルに、それ以上のことを尋ねることができないかばんは、代わりに場の雰囲気を変える様に腕のラッキービーストに話しかけた。

 

「そう言えばラッキーさん。ここは、どういう場所なんですか?」

『ココハ、シェルターダッタバショダヨ。フソクノジタイガオキタトキニ、ヒナンデキルバショトシテケンセツサレタンダ』

「――――は?!なにそれ!?腕のそれ、しゃべってるわよ!?」

 

ブワッと尻尾を膨らませて逆立てたカラカルが大きく跳び退って物陰に隠れる。

 

 “ラッキーさん”の顛末をかくかくしかじかと説明すると、ラッキービーストの声を知ることもあり一先ずの納得を得たが、二人の距離は再び開いてしまっていた。それを気にしているのか、居心地の悪そうな様子で先行し、奥の部屋を目指して駆け出すカラカル。

 

「―――ふみゃぁ……」

「あっ!サーバル!!」

 

 奥の部屋を覗き込んだカラカルが見たのは、部屋の真ん中でぐったりと倒れ伏すサーバルの姿。カラカルが素早い動きで駆け寄って抱き起こすと、ぐったりしたサーバルがゆっくりと目を瞬かせ視線をカラカルに向ける。

 

「からかる……?ごめん、わたし……」

「サーバル?!どうしたのサーバル!!?」

 

 力なく目を閉じるサーバルに必死で呼びかけるカラカル。その目尻に涙が浮かび、慟哭にも似た必死な声を上げていた。

かばんが悲鳴に気付いてカラカルたちの居る部屋に駆け込むと、その際に足元に転がる枝のようなものを踏みつけてしまい、つい気になってそれを拾い上げた。

 

 

だがそれよりもカラカルとサーバルを優先し、一先ずリュックの中に枝を放り込み、駆け寄るかばん。

 

 

 

「―――――」

「サーバル!!?サーバル!!!やだ……やだよ……嫌だってば!!サーバルッッ!!!!」

「サーバルちゃん!どうして……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――カバン、カラカル。ネムッテルダケダヨ』

「―――――――――えっ?」

 

 

 

 

*******

 

 

 

『ジュウデンカンリョウ、ジュウデンカンリョウ』

 

ラッキービーストの声に、蓋を開けてバッテリーを取り出すかばん、再びリュックに括りつけるかばんの後ろでは、サーバルをおんぶしているカラカルが居た。

 

「大丈夫ですか?カラカルさん」

「平気よこのくらい。私強いからね、サーバルよりずーっと」

 

サーバルより、と強調して背中のサーバルの位置を直しながらかばんの隣に立って歩くカラカルに、かばんもサーバルを気にするようにして建物を後にする。

 

 その様子を、建物の上から、黒い影がずっと見つめ続けていた――――。

 

 

 

*******

 

 

 

「サーバルちゃん。疲れてたのかな?」

「さぁ?この子は昔から眠くなったらその辺の木の上でも原っぱでも眠っちゃう子だから、気にするだけ無駄だと思うけど」

 

背中で寝息を立てるサーバルの呑気そうな寝顔に少しだけ怒ったようにそう言って歩くカラカルに、かばんは苦笑する。顔が少し赤いのは、さっきの取り乱した自分を思い出して照れているのかもしれない。と、かばんは思った。

 

「運ばせちゃってごめんなさい」

「いいわよ、別に……」

 

余り会話することもなく、二人で歩き――――日が傾き夕暮れになる時分には、バスまでたどり着いていた。

 

『カバン、キョウハ、イチドコノアタリデヤスモウ』

「―――そうですね。じゃあ、休めそうな場所を……」

「こっちよ」

 

 ラッキービーストの提案に、休めそうな場所を地図で参照しようとするかばんをぐいと引っ張り、サーバルも背負ったままてくてくと歩き始めるカラカルと、引きずられるように追従するかばん。

 

やや歩いた先に、休息をとれそうな大樹の根元があった。

 

「―――じゃ、あたし、上で寝るから」

「あ、はい。ありがとうございました」

 

サーバルを地面の上に転がして、カラカルは樹の上にさっさと登っていってしまった。後に残されたかばんは、とりあえずぐったりした様子で眠るサーバルを木の根元近くまで移動させて、自分も樹に寄りかかるようにして目を閉じる。

 

 睡魔に導かれるままに眠りに落ちるかばんと、呑気にぐぅぐぅと眠るサーバルを、木の上からカラカルはじっと見ていた―――。

 

 

 

**** 翌朝

 

 

 

「―――んっ……はぁ……」

 

目を覚まし、伸びをして起き上がったかばんは樹の上を探す。しかしそこにカラカルはいなかった。

 

「帰っちゃったのかな……?もうちょっと、色々お話してみたかったな」

「う゛み゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛……」

 

ちょっぴり寂しくなって呟くかばんと対照的に、地獄の底から響く様な声を上げるのはサーバルであった。頭を押さえてよろよろと立ち上がるサーバル。顔色も酷い。

 

「あ゛た゛ま゛か゛……い゛た゛い゛ょ゛……」

「だ、大丈夫!?サーバルちゃん!?じゃぱりまん食べる!?」

 

サーバルの明らかに調子の悪そうな様子に、ジャパリまんを取り出し、半分に割ってサーバルに食べさせるかばん。顔面蒼白でもぐもぐと咀嚼していたサーバルは―――ふいに顔色を元に戻し、残り半分もかばんの手の上にあるそれに直接かぶりつき、掌を舐める徹底ぶりでぺろりと平らげてしまった。

 

「―――おいしかったー!なんだかあたまもすっきりした!!」

「大丈夫だったの?サーバルちゃん、ずっと変だったよ?」

 

サーバルの豹変ぶりにおずおずと話しかけるかばんに、サーバルは笑顔で「もう大丈夫だよ!ジャパリまんも食べたし!」と言って笑う。いつものサーバルの調子だった。

 

「よかった……じゃ、バスに行こう?」

「うん!しゅっぱーつ!!」

 

腕を振り上げて「おー!」とばかりに先行するサーバルに、リュックを背負いなおして追いかけるかばん。二人がバスの前にたどり着くと―――

 

「遅いじゃないの!待ちくたびれちゃったわ」

「カラカルさん!」

 

―――既にカラカルがバスの上に乗って、二人を見下ろすようにしていたのだった。

 

「なんでカラカルがいるの?」

「かばんだっけ?サーバルだけだとすぐにセルリアンに食べられちゃうでしょ?アンタたちだけだと心配だから、あたしもついてってあげるわ」

「ひどいよ!?私だってやればできるんだからっ!」

 

 からかうように「ほんとうに~?」とにやにやと笑うカラカルに、「ほんとだよ!」と声を上げるサーバル。二人の間にある昔からの知り合いのような微笑ましい空気に、かばんは目を細めて笑顔を見せる。

 

「じゃあ、カラカルさん。よろしくお願いします」

「任せておきなさい!サーバルより頼りにしてくれていいわよ!」

「カラカルがひどいよ!?」

 

 バスの座席にかばんとサーバル、その後ろに付けられたタライの部分と運転席の間の空間にカラカルが乗り込み、腕のラッキービーストが点滅。エンジンが音をたてて起動する。

 カラカルが一瞬だけビクリと身を震わせているのを見て、サーバルが笑い、ムッとした顔のカラカルに頬を引っ張られていた。

 

『ソレジャア、シュッパツスルヨ。モクテキチハ……』

「―――そういえば、どこに向かえばいいんだろう?」

 

『目的地』と考えてはたと止まるかばん。サーバルも首をかしげる。まず優先すべきはアライグマとフェネックの二人との合流である。しかし目的地にそれを設定したとして、ラッキービーストがそれを知ることなどできない。

 

「―――どうしよう?」

 

悩む二人に代わり、答えたのはカラカルだった。

 

「探してるフレンズがいるんでしょ?フレンズが住んでる場所を巡ればいいじゃないの。他のフレンズが居場所を知ってるかもしれないんだし」

「あっ!」

 

 考えていなかった部分を指摘されて、二人そろって声を上げるかばんとサーバル。やれやれと首を振るカラカル。

 

「手のかかる妹分が増えた感じだわ」

「私カラカルの妹分でもなんでもないよ!?」

「あはは……―――それじゃ、ラッキーさん。一番近い場所の、フレンズさんのナワバリまで」

『ワカッタヨ。ジャア―――』

 

 

 

 

『「「しゅっぱーーーーつ!!!」」』

 

 

 

 

ゆっくりと速度を上げ走り始めるジャパリバス。その後ろ姿を、空から眺める黒い影。

 

「―――オモシロいコ、いっちゃっタ……。もうすこし、ミていたいナ」

 

 

―――朝日も照り返さない真っ黒い影は、小さく呟いてバスの後を追いかけ始めた。




******** 一方そのころ  *******

「うぅ……じゃぱりまんがぁ……」
「アライさーん?わたし、水に付けたらだめなやつって言ったよー?」
「わかってるのだぁ……フェネックのせいじゃないのだ……うぅ」


アライグマの習性に勝てず、洗っても大丈夫ではないじゃぱりまんを川で洗ってしまったアライさんは、どろどろのグズグズになってしまったじゃぱりまんの残骸を前に、しくしくと涙を流していた――――。


「ほらほら、いつまでも泣いてちゃダメだってばー。わたしのじゃぱりまんあげるから、かばんさんをさがさないとー」
「うぅ……そうなのだ……さがさないといけないのだぁ……」

よろよろと立ち上がるアライさん。その鼻が―――

「―――おいしそうなにおいがするのだ……」

ピクリと鼻が動き、すんすんと空中の匂いのもとをたどっていく―――。

「あっちなのだ!!!」

勢いよく駆け出していくアライさんを、とりあえず追いかけたフェネック。
その先に――――以前かばんさんが見ていた“ほん”に書かれていた“もじ”のような図形が描かれた、バスのようなものがあり、そこに、じゃぱりまんのような変なものがたくさん並べてあった。

「ようこそー。パンのろばや へー」
「こんにちわなのだ!アライさんはアライグマのアライさんなのだ!
「そうなんですかー。わたしはロバです。よろしくおねがいしますねー」

ニコニコとアライさんと話をするフレンズを前に、よくわからないが、アライさんがまたよくわからない幸運で良いフレンズとの出会いを果たしたのだと思い、とりあえず合流することにしたフェネックだった……。


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