求め、欲したモノ   作:彩たか

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自動保存に助けられました。マジで心折れた。そんなこんなで三話目です。


第三話 遠征前日準備

あの後自室に戻った俺は、小町の料理当番が終わるまでの間、部屋で久しぶりに『英雄譚』が綴られた本を読むことにした。

 

木製の本棚が五つほど並べられている俺の部屋だが、そんな部屋にも『英雄譚』だけは本棚の中に存在しなかった。俺は本棚の中から一冊の本(何も書かれておらず、中が縦横五C(セルチ)、深さ七C(セルチ)程くり()かたもの)を取り出し、中に入っている小さな鍵を取り出す。その鍵を自分の机の右下にある引出しの鍵穴に差し込み、回す。中に入っているのは、これ以上は入るスペースが無いと言わんばかりにぎゅうぎゅうに詰められた『英雄譚』の本達だった。

 

何故こんな面倒臭い方法を採っているのかというと、単純に恥ずかしいからだ。いい歳して『英雄譚』の中で見つけた、ある"()()"に憧れていることを知られたくはないのだ。

 

いくつかある『英雄譚』の中から一つを選び、ソファーに腰を降ろして表紙を捲った。(ページ)を捲る度に、義祖父が俺達の()()となった幼い少年に『英雄譚』を読み聞かせていた光景を思い出す。俺がオラリオに来た理由。全ての原点。それが書かれている本。恥を殺して言うのであれば、俺は『英雄譚』に魅せられているのだ。今も昔も、求めている"モノ"は何一つ変わっていない。

 

 

 

 

 

 

 

時計の短針が十を指した頃、部屋をノックする音と共に「おにーちゃーん、準備終わったよーっ」と、小町の声が聞こえた。「すぐ行くから門で待ってろ」と伝えた後「了解なのでありますっ!」という意味不明な了承を聞きつつ、四分の一程読み終わった本に栞を挟み、元の場所にしまい引出しに鍵を掛ける。鍵も元の場所に隠し、部屋を出て小町の待つ正門へ向かった。

 

 

 

正門で小町と合流した後、俺と小町はレノアという老婆が店主を務める『魔女の隠れ家』へ向かうべく、北西のメインストリートへ進んでいた。

「いっつも思うんだけどさ、何で前日ギリギリに武器とか装備を取りに行くの?お兄ちゃん物事を後回しにするのあんまり好きじゃないよね?」

「まぁ、色々理由はあるが、一番の理由は嵩張(かさば)るからだな。予備ならまだしも、メインで使う武器をずっと部屋に置いとくのも邪魔くさいんだよ」

 

小町の純粋な質問に、俺もまた純粋に答えを返す。と、北西のメインストリートに入った辺りで、ある提案をを小町にしてみた。

「そうだ、ここまで来たら摩天楼(バベル)に行く前にミアハ様達に会って行くか?」

「あ、そうだね!私もナァーザちゃんに会いたいしっ」

そんな話をしている内に、俺達は目的地である(くだん)の店に着いた。

 

 

 

 

 

人気の無い路地裏の奥深くから、さらに階段で降りた場所に存在するこの店は、潰れていると思っても仕方がない見た目をしたしていた。小町には店の入り口で待っててもらう。

 

「おや、やっと来たかい坊主。あたしゃ待ちくたびれたよ。ひひひっ」

軋む戸を開けて中に入ると鉤鼻の老婆がこちらを向いてケタケタと笑っていた。

「ハイハイ、すいませんね。レノア婆さん、頼んでた杖を」

「全く、相変わらず可愛げのないヤツだね。ほら、お前さんの杖だよ。」

「ありがとうございます。また来るので」

「魔法石だけは壊すんじゃないよ?あんたんとこのハイエルフが毎回壊すんで、こっちは大変なんだ」

「……善処します」

「ケッ」

 

杖を受け取り帰ろうとすると、うちのハイエルフサマの恨み言を言われた。あの人何気に無茶な使い方するからな…。まぁ、俺の場合杖はあくまでサブだ。メインの武器ではない。だから大丈夫。キットダイジョウブ。

 

 

 

「あ、お兄ちゃん終わったんだ?」

「あぁ。よし、じゃあ中央広場(セントラルパーク)に行く前に『青の薬舗』に行くか」

「おおーっ!」

 

今日の目的の一つである杖を手に入れることが出来た俺は、小町と共に寄り道をしに行った。




便利ですね。自動保存。……レノア婆さんが外伝で登場するのって何巻でしたっけ?

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