カースド・プリズン・ブレイカー ~栗きんとん、開錠に挑まんとす~   作:ターニャ・オルタ

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俺はやりたいことをやりきるだけ

(あか)い凶星が、星の尾を棚引かせて駆ける。

その先に居る蒼い流星もまた、文字通りキラキラと光る星の道(スターロード)を駆け抜けていく。

 

緋い流星の名はプリズンブレイカー。緋色に輝くこの姿こそ、ギャラクセウスによって呪われた鎧(カースドプリズン)となった彼が、封印を破って一時的に往時の力を取り戻した本来の姿。

 

対する蒼い流星の名はミーティアス。全体に白いボディスーツの各部に金色のアーマーを付け、五芒星の形をしたゴーグルのついたフルフェイスの覆面姿のヒーロー。青い光を放って中空を蹴り、道をも作り出して自由自在に三次元軌道で駆け回る彼の力は、全能存在ギャラクセウスがプリズンブレイカーの能力を模倣して彼に与えた能力であり、故にこそ己の力を取り戻さんとするカースドプリズンから常日頃狙われることとなっていた。

 

そしてこの日も、ミーティアスとカースドプリズンは激突していた。

既にしてミーティアスの力の幾ばくかを奪ったカースドプリズンは脱獄(プリズンブレイク)を果たし、プリズンブレイカーとなって中空を自由自在に駆け回りながら、火のような連撃を以てミーティアスを攻めたてる。

 

本よりミーティアスが与えられた力はプリズンブレイカーの劣化(ダウングレード)版に過ぎぬ。星すら破壊しかねぬ凶星の力は、そのままに再現するのはあまりに危険であったからだ。故に今の状況は明らかにミーティアス不利。並のヒーローならば防御に専念するか、もしくは逃げの一手しか選びえぬであろう。プリズンブレイカーはあくまで一時、かつての姿を取り戻しただけであり、時間の経過で再びカースドプリズンへと逆戻りするのだから。

 

しかしミーティアスは違う。逆に自分から踏み込み、反撃を加える!

 

「この程度じゃ、ボクはぁ……流星(ミーティアス)は止まらなぁい!!」

 

「止めるのは息の根だ馬鹿野郎がぁ!!」

 

プリズンブレイカーとミーティアスが同時に蹴りを繰り出し、互いの蹴りが激突する。

あまりの衝撃に、轟音と共に両者の体はそれぞれ真逆の方向へと吹っ飛んでいく。

 

「うごぉ!!」

 

「ぐふぅ!!」

 

吹き飛び、露出した崖面に叩きつけられるミーティアス。

両者は戦いながら、郊外の採掘現場まで移動していた。これはミーティアスの狙い通りの展開である。

一つには、人の少ない場所へ移動することで周囲への被害を少なくするため。

そしてもう一つは、まもなくカースドプリズンへと戻る宿敵が吸収できるオブジェクトの少ない場所へと誘き出すという目的である。

 

当然のこととして、ミーティアスはカースドプリズンの能力を熟知していた。

車や瓦礫などを取り込んで自身の鎧を強化する能力であるが、これとて万能の力ではない。

まず、取り込まれた物体は耐久力が上昇するが、重さは変わらない。よって、無尽蔵に物体を吸収できるわけではない。同時に複数の物体を吸収することも可能だが、この重量の問題をクリアする必要が出てくる。

また、動力はカースドプリズン自身で賄うことはできず、外部に依存する。消防車を取り込んだからといって、無尽蔵に放水攻撃が行えるわけではなく、消火栓に接続しなければ使うことすらできない。逆に車などのエンジンを取り込めばその分だけ馬力が上がるので、取り込める物体の重量上限を引き上げることも出来る。

そして、銃器などの飛び道具は強化されない。

よって、街中でカースドプリズンと戦うことは望ましくない。動力や装甲として使える自動車等がいくらでも入手可能だからだ。

 

さらに、このような複雑な要素を勘案して吸収しなければならない能力を使いこなしていることから、実はカースドプリズンは相当に頭が回ることも知っている。

カースドプリズン自身が()()()()戦い方を好んでいるだけで、決して()()()()()()()わけではないのだ。

そんな彼に、吸収可能オブジェクトの少ない郊外へと誘い出すという己の意図を悟らせないため、ミーティアスは不利を承知でプリズンブレイカーに対して反撃しながらの逃走という困難なミッションをこなしたのだ。

その甲斐あって、展開は理想的。経験上、プリズンブレイカーの効果時間はもう切れたハズ。

予測を裏付けるように、ミーティアスの反対側、激突により生じた土煙の下から、恨めし気な声が聞こえてくる。

 

「ちっ、もう時間切れか…意気地のねえ鎧だぜ」

 

風に土煙が吹き散らされて現れたのは、黒を基調とした拘束具の意匠があしらわれた鎧姿の偉丈夫。

予想通り、既にカースドプリズンに戻っている。

この状況ならば7:3で自分が有利、これなら十二分に勝ちきれるだろうと、ダメージを負った体に鞭打って駆けだそうとした矢先であった。

 

『ヨウヤク見ツケタ』

 

ボイスチェンジャーでも通しているのか、男かも女かもわからぬ声。

どこからか跳躍してきたのか、静かに着地したものの関節などからわずかに聞こえる機械音。義体(サイボーグ)のようであるが、身長はそこまで高くは無い。全体に細身の印象だが、女性だろうか?

少なくとも、己の知るいかなるヒーローやヴィランにも該当する人物は居ない。

 

「ああ?何だ、テメエ」

 

カースドプリズンもまた、突然の第三者に心当たりは無いらしい。ぶっきらぼうな態度に見えながらも、すぐにも動けるよう身構えていることが何度となく戦ってきたミーティアスにはわかる。

警戒する二者の前で、ゆっくりと乱入者は言葉を紡ぐ。

 

『私ノコトハ鍵を打ち砕く者(ロックブレイカー)トデモ呼ンデクレレバ結構。私ハアナタヲ救イニ来タノダ、カースドプリズン』

 

「あ?」

 

「何?!ならば貴女はヴィランか!」

 

カースドプリズンに与するとの言葉に、即戦闘に入れる態勢へと警戒のランクを上げるミーティアス。

 

『フフ、ヴィランカ…ヒーローダノヴィランダノ、私ニトッテハドウデモイイ事ダ、好キニ呼ベ。私ハタダ、コノ「万物理論」ヲ証明スルタメニ作ラレタ「ディメンジョン・リッパー」ヲアナタニ吸収シテ使ッテモライタイダケダ、カースドプリズン』

 

そう言って、ロックブレイカーなるヴィランが手を開くと、そこには握りこぶしに収まってしまうような小さな機械があった。

万物理論、または統一場理論とは、電磁気力・重力などの相互作用力すべてを一つの理論として扱うことができるとする理論である。かのアインシュタインでさえ相対論と量子論を一つにまとめることは出来なかった。しかし、もしもそのような理論が完成したならば、宇宙の真空中に存在するとされる暗黒物質や暗黒エネルギーをモ利用可能となるため、無尽蔵のエネルギーリソースともなり得ると期待されていた。

 

「…話が見えねえな。で?ヒトを救うだのなんだ言って、その御大層な機械を使うとどうなるってんだ」

 

突然の闖入者に、不信感を隠そうともせず問いかけるカースドプリズン。

対して、ロックブレイカーはさらに衝撃的な答えを返す。

 

『簡単ダ、コノ機械ヲ起動デキレバ、ギャラクセウスノ存在ヲ()()()()()()二シテシマエル』

 

「なッ…?!」

 

「にィ…」

 

言葉は違えど、ロックブレイカーの言葉にヒーロー(ミーティアス)ヴィラン(カースドプリズン)も一様に驚きを見せる。

ギャラクセウスといえば、この宇宙を創りだした超越存在。

それを無かったことにするなど―――

 

「バカな!ありえない!」

 

『偏狭ダナ、ミーティアス。所詮ギャラクセウスナド、全能()()()トイウダケデ、全知ノ存在デハナイノダ』

 

確かに、この宇宙を創ったギャラクセウスが超越存在であることは間違いない。

しかし、この世界にはギャラクセウスでさえ予期せぬ力が存在することもまた確か。

例えば、「起こらない筈の可能性を0%から1%にする」カオス。

例えば―――

 

「この俺様か」

 

『ソウトモ。「ディメンジョン・リッパー」ハ、実験ノ過程デ人ノ意識ニ感応シテ、時空間ノ構造スラ書キ換エラレルラシイコトガ判明シタ。コレニヨッテ次元移動ヤ過去遡航サエ可能トナル。ソシテ、イレギュラータルアナタ(カースドプリズン)ガ使エバ、コノ次元自体ヲ最初カラギャラクセウスガ存在シナカッタモノニシテシマエル』

 

「…それが本当だとして、何故わざわざ過去へ来たというんだ?」

 

事態への理解が追い付かず、混乱しつつも臨戦態勢を整えつつミーティアスは問いかける

すると、一瞬にしてロックブレイカーの殺気が膨れ上がり、異様な風体のショットガンを構えながら答える。

 

『…簡単ナ事ダ。私ノ居タ未来デハ、カースドプリズンハ殺サレテイタ。キサマ(ミーティアス)ノ手デナ』

 

「ボクが?!」

 

『証拠モアルゾ。私ノ使ウコノ斧付きシャッガン(ソードオフ・ウォーアックス)、銘ヲ呪われた牢獄を打ち砕く者(カースド・プリズン・ブレイカー)ト言ッテナ、カースドプリズンガ最期ニ纏ッテイタ鎧ヲ材料ニシテ作ラレテイル』

 

そう言って彼女が掲げるショットガンをよくよく見れば、確かに特徴的な拘束具の意匠が刻まれている。

それだけなら模様を真似ただけとも思えたが、カースドプリズンも、宿敵たるミーティアスも、直感的に感じ取っていた。ロックブレイカーの言葉が真実であると。

 

「成る程、その未来を変えるためには、俺様がその機械でギャラクセウスの野郎を消してしまうしかない、と」

 

己の未来における死を告げられても、カースドプリズンは静かに答えるのみだった。

ただし、不本意ながら長らく腐れ縁であるミーティアスにはわかっていた。アレは意気消沈しているのでも戸惑っているのでもない。

アレは()()()()()()()()()ぞ、と。

別な意味での警戒を高めるミーティアスを余所に、カースドプリズンの雰囲気の変化に気づかないのか、ロックブレイカーは勢い込んで言葉を続ける。

 

『ソウダ!アナタガ助カルニハコレシカ無イ!サア、早速コレヲ吸収シテ…』

 

「やなこった」

 

『エ…?』

 

「いいか、俺様は別に勝とうが死のうがどうでもいいんだ。俺様が何より許せねえのは、あのギャラクセウスみたいに、高みから見下ろしてアレコレ指図されることだあ!!」

 

困惑するロックブレイカーを余所に、怒りを爆発させたカースドプリズンは凶星の力を解き放つ。

 

凶星引力(フォビドゥン・グラビティ)!!」

 

「何?!」

 

警戒こそしていたが、ミーティアスは吃驚する。今カースドプリズンが使った技は、吸収可能なオブジェクトを自分へと引き寄せる技。しかし、己が誘い込んだこの郊外には、ヤツの使える機械など…

驚くミーティアスへと、カースドプリズンは鎧で表情がわからないにも関わらず、間違いなくドヤ顔をしているであろうことを確信できる、煽るような声音で告げる。

 

「ようヒーロー、テメエは俺様を誘い込んだつもりらしいが、逆だぜ。俺様が採掘現場(ここ)()()()()()()()

 

告げるカースドプリズンのもとへ、何か巨大な機械が三つ、飛来して来る。

確かに、この郊外にはそこら中に吸収可能な車があるわけではない。

しかし、特定の機械が目当てで事前に目星をつけていたのだとしたら?

 

「さあ、暴君の時間だ!」

 

一声叫んだカースドプリズンがやって来た機械を叩き壊す。爆風がその身を隠した数瞬の後、煙の中から現れたのは異形であった。

ただでさえ巨大なカースドプリズンの体がさらに巨大になっただけではない。

その両腕部は体の三倍はあろうかというほど()に長く、よくよく見ればそれは両腕に一つずつショベルアームが折りたたまれた状態で装着されているのだと分かった。つまり、伸ばせばさらに倍する長さになるということ。

そして、アームの先端部には通常のショベルのバケットとは異なり、円盤のようなものがいくつも並んでいて、よくよく見るとそこには細かな刃がびっしりと並んでいる。

 

「あれは…?」

 

『…連続掘削機(コンティニュアス・マイナー)ダ』

 

連続掘削機(コンティニュアス・マイナー)とは、地下の鉱物資源を採掘するため、坑道掘りにも使われる機械である。

動きこそ遅いが、爆薬による発破など行わずとも、硬い岩盤さえ先端の回転するカッターヘッドで苦も無く掘り進むという特別な機械。

つまりカースドプリズンの狙いは最初からコレ。

プリズンブレイカーで戦闘に付き合っていたのも誘いの罠。

本命はここでショベルカーと連続掘削機(コンティニュアス・マイナー)を吸収すること!

 

「しかし、いくら破壊力があっても、その重量ではマトモに動けないだろう」

 

「確かにこの重量とキャタピラじゃあ素早く動くのは無理だな。だが知ってんだろ、俺様は吸収した(モン)()()()()()()()()()んだよ。だったら、こういう真似も出来るよなあ!!」

 

高らかに告げると、カースドプリズンは両腕のアームを伸ばし、岩盤さえ容易く砕く円形カッター群を起動させながら超信地旋回(その場でグルグル回り出)した。

 

十数メートルに渡るアームは、元々の強度であれば先端に継ぎ接ぎされたカッターの重さを支えきれない。しかし、耐久力を強化されたことで強度の問題はクリア。

そして全ヒーロー・ヴィランを通じてもトップクラスを誇るカースドプリズンの膂力に、回転による遠心力まで加われば―――

 

「この一撃は物理学の叡智ィーッ!!」

 

「なッ!」

 

『クッ…!』

 

カースドプリズンの両腕が、ヒーロー・ヴィランであっても触れればタダでは済まない質量と運動量の暴風となって吹き荒れる。

 

『キャッ…ヒ、人ノ話ヲ聞ケ!』

 

動揺しながらも、何とか交渉を試みようとするロックブレイカーであったが、

 

「ああそうだとも!よく覚えておけ()()()()()!いまこの瞬間! 今が楽しければ先のことなんざどうでもいい!」

 

『ナッ…!』

 

「うはははは! なんかどんどん楽しくなってきた!」

 

先程までの不機嫌など何処へやら、一切話を聞かずに高笑いと共に暴力を振り回すさまは正しく自己申告通りの暴君(タイラント)

 

精神的にも物理的にも、何物をも寄せ付けない暴君を前にして、ミーティアス(ヒーロー)ロックブレイカー(ヴィラン)も、その場から逃げ出すことしか出来なかった。

 

 

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