カースド・プリズン・ブレイカー ~栗きんとん、開錠に挑まんとす~   作:ターニャ・オルタ

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必要経費(コラテラルダメージ)

目論見を外され、撤退を選ばざるを得なかったミーティアス。

しかし、彼はただ逃げていただけではなかった。

 

「キミの企みを聞いてしまった以上、見過ごすわけにはいかないからね」

 

『フン…ソレハコチラトテ同ジコト。次善策ニナルガ、ココデ貴様ヲ始末シテシマエバイイワケダカラナ』

 

ミーティアスは、カースドプリズンから逃走しながらも、同じくあの場から逃げ出したロックブレイカーを追走していた。

応じるロックブレイカーもまた、全くの無傷というわけでもない。

ミーティアスは疲弊した己の体に鞭打った。互いに疲弊しているならば互角。何より、正義のヒーローとして宇宙そのものの危機をもたらさんとするヴィランをこのままみすみす逃がすことは絶対にできない。

 

大地を蹴り、駆ける。壁を走り、宙を踏みしめ、時にスピンを、バックステップを入れて加速。そしてガラ空きの背後に蹴りを……

 

「え?」

 

足を掴まれた。

 

防波(さきなみ)

 

「ふぐっ!?」

 

蹴りの勢いに逆らわず、引き込むような動きで天地反転させられると、そのまま地面へと叩きつけられる。

ロックブレイカーはそのまま地面へ転がったミーティアスのマウントを取ると、右手でミーティアスの腕を極めつつ左手でショットガンを突きつけながら、青く光る眼で冷たく見下ろしながら告げる。

 

『空中カラ攻撃スル傾向ガ高イキサマ(ミーティアス)ナラ、攻撃シテクル場所サエワカッテイレバ反撃ヲ先ニ置クダケデ、後ハ勝手ニキサマノ方カラ当タリニキテクレル、トイウワケダ』

 

「くっ…!」

 

ロックブレイカーが引き金に掛かった指へ力を入れる。いかなヒーローとてショットガンの零距離射撃を受ければタダでは済まない。

万事窮すかと思われた、その時

 

「天誅!!!」

 

ロックブレイカーの肩越し、上空で金髪を振り乱した少女が、落下しながら右手の巨大な朱斧を振り下ろさんとしているのをミーティアスの目は捉えた。

というかこの軌道で斧が振り下ろされると自分ごと―――

 

「ちょあああああ!!?」

 

『チッ…!』

 

ミーティアスの目に映る上空の敵(ロックピッカー)を捉えたロックブレイカーは、ミーティアスを拘束することを諦め飛び離れる。

自由を取り戻したミーティアスもまた、咄嗟に両足から蒼色の爆発を生み出し、無理やりに体をその場から弾き飛ばして回避する。

 

二人が居なくなった地面を打ち砕きながら、非常斧(マスターキー)を振り下ろしたロックピッカーは

 

「うーん、そこは『諸共に叩き斬れ!』ってソイツ(ロックブレイカー)にしがみついて止める位はやって欲しかったなあ」

 

「ロックピッカーよ、オヌシ実はヴィランなのではなかろうな?」

 

後から現れたリキシオンが呆れたように問いかける。が、ロックピッカーは涼しい顔で返す。

 

「正義のためなら必要経費(コラテラルダメージ)よ」

 

「えぇ…?」

 

面識のあるリキシオンはともかくとして、初対面である(多分)ヒーローの少女から明らかにぞんざいというか、それを通り越して敵意(ヘイト)を向けられていることに困惑しきりのミーティアス。

そこへ歩み寄ったリキシオンは、ミーティアスを助け起こす。

 

「あやつの相手はワシと彼女に任せられよ。オヌシはこれで回復を」

 

「…鮭?」

 

「これはライブスタイドサーモンと言う。かのアーサー王が探し求めた聖杯は、大型の魚を運ぶための器であり、その魚は鮭であったと伝承にある。他にも多くの神話で鮭は河川に生まれ海に出でて、河川へと帰りまた生まれるという習性から生命の円環の象徴ともされ…」

 

「いや、それはいいんだけど。これ、どうやって回復させるの?」

 

リキシオンが差し出したのは、まるまる一匹、尾頭付きの鮭だった。

ミーティアスのこめかみを一筋の汗が伝う。

 

「…生でかじった方が回復速度が早いのだ」

 

「えぇ…?」

 

「済まぬ……普段であればエリキシル配合ニンジャピルでコズミックちゃんこ鍋を振る舞うのだが、それも全てアヤツ(ロックブレイカー)に奪われてしまった故、今最も優れた回復手段はコレなのだ」

 

「アッハイ」

 

ミーティアスは考えるのを辞めた。深く考えれば宇宙めいた恐怖の淵から転げ落ちるような不吉な予感に襲われたので、回復に専念することにした。

 

一方、共にショットガンを構えて対峙するロックピッカーとロックブレイカー。

 

「やられっぱなしは性に合わないんでね…お礼参り(リベンジマッチ)だ!」

 

『無駄ナコトダ。何度ヤッテモ私ニハ勝テン』

 

言うや否や、お互いに申し合わせたように体を崩しながらの銃撃。

共にほとんどの弾を回避し、一気に距離を詰める。ロックピッカーが右手の朱斧を振り下ろすが

 

『コーガ忍法「ジャストパリィ」』

 

「くっ」

 

ロックブレイカーが右手の斧付きシャッガン(ソードオフ・ウォーアックス)の刃を用いて朱斧を弾くと、そのまま左手を鉤型に曲げたものをそのまま叩きつけてくる。

これは搗ち上げ(かちあげ)!相撲においても相当にダーティな技であり、使い方によっては相手の失神を狙うことすらできるため、正式の土俵上での使用は厳に慎まれる危険技である。そしてこれは相撲の試合ではない。ロックブレイカーは完全に失神狙いで技を繰り出していた。

咄嗟に左手のショットガンを搗ち上げ(かちあげ)の軌道上に割り込ませて直撃を防いだロックピッカーだったが、威力を殺し切ることはできず地面に転がる。

転倒したロックピッカーへ向けて右手のショットガンを発射しようとするロックブレイカーだったが、そこへリキシオンがインタラプトしてくる。

 

「ハッケヨイ!」

 

しかしロックブレイカーは冷静だった。

何しろ彼女にコーガ忍法を教えたのは他ならぬ()()()()()()()であり

そればかりでなく彼女の全身義体(サイバネボディ)もまた、ニンジャが装着者になることを前提に錬金術すら盛り込んでリキシオンが制作したものだからだ。

 

ロックブレイカーは、忍法にどうしても必要な生体部分である眼球と脳を含んだ頭部以外ほとんどを義体化している。

本来ならば、機械化した体では忍法を使うことはできない。

忍法とは、三陽三陰十二脈を以て万物自然とコネクトしチャクラを操る東洋哲学に基づいたもの。

故に西洋の科学礼賛・物質主義(フィジカリズム)の産物である機械の体では絶対に使用できない秘奥技(ミスティック・アーツ)なのだ。

 

だが、忍法と錬金術を共に極めたリキシオンは、強化セラミックとバイオマテリアル、果てはパラケルスス直系として受け継いだホムンクルス生成の知識をも合わせることで、忍法を使用可能な全身義体(サイバネボディ)を組み上げることに成功したのだ。

この世に()()()()しか存在しないその一つをロックブレイカーは与えられている。

さらに彼女の脳には、あらゆるヒーロー・ヴィランの戦闘データが収められた外部記憶装置が増設されている。

これこそロックブレイカーがあらゆるヒーロー・ヴィランに初見殺しを決めることができる所以。

ありとあらゆる攻撃を事前にデータから照応、最適な忍法を選択することでメタを張ることができるのだ。

 

((モットモ、コレガ完成スル遥カ以前ニ死ンデシマッテイタ()()()ノデータハ無カッタカラ、サッキハ失敗シチャッタケド))

 

そんな余念を抱く余裕すら彼女にはあった。

今リキシオンが狙っているのはもろ差し。ショットガンの使いづらい組みあった状態を作り、ロックピッカーに攻撃させる算段だろう。ならば組みあいに応じておいて、逆にリキシオンの体を盾にしつつロックピッカーを、スキあらば回復中のミーティアスを銃撃するのがこの場合の最善手。

 

その判断は何一つ間違えてはいなかった、()()()()()

 

予測どおり、がっぷりと四つに組むロックブレイカーとリキシオン。

 

『フン!チャンコ鍋ノ無イ力士ナド、ルーノ無イカレート同義!タダノ白米ニ等シイ!』

 

「ふむ、白米を嘗めるべきではないぞ。なにしろ良く()()()()からな」

 

そう口にしたリキシオンが何かをロックブレイカーの腕に()()()()()

 

『コレハ…!』

 

不味い、そう思ったロックブレイカーは咄嗟に張り付けられたソレを引きはがそうとするも、リキシオンに両腕の動きを封じられている。

 

『馬鹿ナ!アナタモ無事デハ済マナイゾ!』

 

「正義のためなら必要経費(コラテラルダメージ)よ」

 

言ってリキシオンが笑うと同時、張り付けられた扉破砕用爆薬(ドアブリーチャー)が起爆する。

 

『グワーッ!』

 

「グワーッ!」

 

ロックブレイカーの両腕が爆ぜ、その衝撃でリキシオンもまた吹き飛ばされる。

そう、先にリキシオンが張り付けたのはロックピッカーが必殺技(ウルト)で使用する扉破砕用爆薬(ドアブリーチャー)

 

(ロックピッカー)の攻撃も、リキシオンさんの攻撃も読み切っていても、リキシオンさんが私の攻撃をしてくるとは思わなかったでしょ?」

 

起爆スイッチを押したロックピッカーが、倒れたリキシオンを助け起こしながら言う。

これがロックピッカーとリキシオンの秘策。賢明なるリキシオンは、ロックブレイカーがそれぞれの技を予測しきって対応してくるであろうことを読み切っていた。

ならば、予測されたことを前提にして、予測以上の攻撃をするまでのこと。

ロックピッカーの爆弾を予測できても、リキシオンの相撲技を予測できても、リキシオンが()()()()でロックピッカーの攻撃を設置しにくるとは予測できまい。

 

故に、己が戦闘不能になるのを覚悟で、リキシオンは爆薬をロックブレイカーから譲り受けていた。

最初にロックピッカーが襲い掛かった時点から既にして心理的誘導が仕組まれていた。

力の源たるエリクシル配合ニンジャピルを失ったリキシオンではなく、いまだ十全な戦闘能力を残しているロックピッカーが主攻であり、リキシオンはサポートに回ったと印象づけるための布石。

 

「それにしても大丈夫リキシオンさん?やっぱり無茶だったんじゃ…」

 

「なんの、心配は要らぬ。爆発の直前に腕を放してコーガ忍法「ジャストパリィ」で防御した故な」

 

「だからなんでジャパニーズ忍法が英語表記なの…」

 

「何を言う。ブロッキング術はニンジャの必修技能。かつて偉大なりしダイゴ・ウメハラは、必敗の状況から敵の十七連撃を全てブロッキングして大逆転勝利を収めたという。私もコズミックちゃんこ鍋を食べた状態であれば…」

 

「アッハイ」

 

ロックピッカーは考えるのを辞めた。深く考えれば宇宙めいた恐怖の淵から転げ落ちるような不吉な予感に襲われたので、応急処置に専念することにした。

 

『マダダ…!私ヲ殺スニハ足リヌ!』

 

言ってロックブレイカーはよろよろと立ちあがった。が、強がりでしかないのは明らかだった。

両腕は失われ、胴体や足にも異常が出ているのが外から見ただけでもわかる状態であり、フルフェイスのマスクにも亀裂が走っている。

 

「なら、ボクが引導を渡してあげよう」

 

答えたミーティアスの足に、蒼い粒子が収束し煌々たる輝きが宿り始める。

あれは必殺技(ウルト)であるミーティア・ストライクの予備動作。

 

「待てミーティアス!ソヤツにはまだ(あらた)めねばならぬことが…」

 

「リキシオン、キミは聞いていないのだろう。彼女の目的はギャラクセウスの消滅。彼はボクに正義のための力を授けてくれた恩人だし、何よりそれは宇宙全体の秩序を破壊する行為だ。彼女は危険すぎる、だから彼女を止める、このボクの手で!」

 

『フン…手デハナク足ジャナイカ……』

 

憎まれ口を叩くロックブレイカーだが、機械変換された音声からもありありと諦念がにじみ出ていた。

 

((ゴメンナサイ()()()…ヤッパリ、私ジャ駄目ダッタ…))

 

ひび割れたガスマスク越しに覗く瞳に、涙が光る。

咄嗟にリキシオンが、ロックピッカーが止めようとするも、もはや間に合わない。

 

「ミーティア……ストライク!」

 

ミーティア・ストライクは蒼く輝く星の力を蹴り足から対象へと流し込み、内側から爆発させる技。

喰らってしまえば防ぐ方法は皆無。

そして、内側から光と衝撃が溢れ出し、爆ぜたのは

 

乱暴に引きちぎられた()()()()()()()()()()だった。

 

『ナ…ン…』

 

「だと…」

 

その場の誰もが言葉を失う中、ギャリギャリと響く金属音。

ロックピッカーは/()()()()()()()()は知っている。

遥か遠い記憶でも、その一瞬だけは色鮮やかに焼き付けられている。

ロックピッカーというヒーローの/ロックブレイカーというヴィランの原風景。

 

呪われた鎧(カースドプリズン)の背中が、そこにはあった。

 

「どうしたヒーロー、泣いてる女の子を助けないとか、まるで一般人(モブ)のようじゃねぇか」

 

「…カースドプリズンは人助けするような奴じゃなかったと思うけど。第一、さっきはボクごと彼女を倒そうとしていたじゃないか」

 

「知るか。俺様はやりたいことをやってんだよ。さっきはその()()()()()が根性のねえ事をほざいてたからムカついたけどなあ……今はテメーにムカついてんだよ!」

 

怒号とともに、ミーティアスへと突っ込んでいくカースドプリズン。

先のショベル二台と連続掘削機(コンティニュアス・マイナー)の融合から、両腕を引きちぎった状態となった今は重量も遥かに軽く、三台分のエンジンを上乗せされたキャタピラは馬力相応の速度を叩き出す。

 

再度激突する凶星(カースドプリズン)流星(ミーティアス)

 

その光景を、ただただ涙を滂沱と流しながら見続ける()()の少女を前にして、リキシオンは確信していた。

 

「ロックブレイカーよ、オヌシは…ロックピッカーの()()()なのだな?」

 

「え?」

 

リキシオンの言葉に驚いて振り向くロックピッカーの視線の先、ひび割れていたロックブレイカーのマスクが砕ける。

そうして露わになった顔は、ロックピッカーと()()()()()()()だった。

 

『フン…ソノ通リ。私ハオマエダ』

 

「オヌシのその声、マスクによるものではなかったのか」

 

『コイツハ後遺症ダヨ。私ガオジ様ニ使ッテ貰ウタメニ持ッテ来タコノ「ディメンジョン・リッパー」ヲ私ノ脳ニ繋ゲテ、カオス因子デ起動サセヨウトシタガ、無理ダッタ。ソノ後遺症デ声帯ガヤラレチマッテ、ドウヤッテモコレ以上ニハ治セナイノサ』

 

「ディメンジョン・リッパー…成る程、それで時間を遡り、()()()()()()のだな?」

 

『今ノヤリトリダケデ、ソコマデ読ミ切レルノ、マジ狸親父ダナ…」

 

「え?え?どゆこと?!こいつは未来から来た私自身……じゃあ、ないの?」

 

混乱するロックピッカー。対して、リキシオンは()()全てを理解し終えていた。

 

「疑問だったのだ。ワシやロックピッカーを殺さないのはタイムパラドックスを防ぐためだったと仮定しても、オヌシはミーティアスを殺そうとしていた。それだけでも未来は変わってしまうのにな。それはつまり」

 

『ワシやソヤツ(ロックブレイカー)が時間移動ではなく、平行世界から次元移動してきた、ということだ、この世界のワシ(リキシオン)

 

ゾブリ、と。

くぐもった音と共に、声が聞こえた。

枯れた老人のような、それでいて若者のように張りのある声。

しかし、スピーカーから響く音のように、余計な音がこそぎ落とされた平坦な声。

 

それは、戦闘中だったカースドプリズンの真後ろ、影の中から這い出て来ていた。

男の全身義体(サイバネボディ)は、その意匠からロックブレイカーと同型の義体と見て取れる。

それでいてサイズは()()()()()()()()()遥かに大きく、その頭頂部には見事な「オオイチョウ」が結われていた。

そして、いつの間に回収したのか、その手にはロックブレイカーが使っていた斧付きシャッガン(ソードオフ・ウォーアックス)が握られていた。ただし、銃床に取り付けられた刃は斧状だったものが細長く、さながら()()()()()()()のように延伸していた。

その刃は、真後ろからカースドプリズンの体へと突き刺さり、体の正面から血に濡れた刃の先端を覗かせていた。

 

『ナ、何ヲ!話ガ違ウ!』

 

気色ばみ、叫ぶロックブレイカー。が、男は感情を感じさせない平坦な声で返す。

 

『正義のためなら必要経費(コラテラルダメージ)よ』

 

「て、めえ…誰だ…」

 

掠れた声で問うカースドプリズン。

 

『私は力士であり、ニンジャであり、錬金術師であり、()()()()()でもある。あちらにこの世界のワシ(リキシオン)がいる以上、こう名乗ろう。ワシの名前はリキシボーグだ!』

 

 

 

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