カースド・プリズン・ブレイカー ~栗きんとん、開錠に挑まんとす~   作:ターニャ・オルタ

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ナズナノ花言葉ヲ知ッテルカ?

リキシボーグを名乗った男が、忍者刀付きシャッガン(ソードオフ・ニンジャソード)をカースドプリズンの体から引き抜く。

するとあっけなく、カースドプリズンの巨体が糸の切れた操り人形(マリオネット)のごとく崩れ落ちる。

 

「おじ様!」/『オジ様!』

 

重なった悲鳴を余所に、リキシボーグは淡々と言葉を紡ぐ。

 

『最初からカースドプリズンが「ディメンジョン・リッパー」を使ってくれれば何も問題は無かったのだがな。こんなこともあろうかと、この呪われた牢獄を打ち砕く者(カースド・プリズン・ブレイカー)には賢者の石を埋め込んで、イレギュラーたるカースドプリズンの小宇宙(ミクロコスモス)を吸収する機能をつけておいた』

 

「つまりは、この事態も予測済みなのだな、()()()()()()()から来た別世界のワシ(リキシボーグ)よ」

 

『フン、そこまでわかっているならば、もはや語る必要もあるまい、この世界のワシ(リキシオン)よ。剪定事象を、否、世界の全てを救う手段はもはやこれ以外にない』

 

どこか痛ましいものを見るようなリキシオンと、何の感情も見せない様子のリキシボーグ。

 

()()()である二人は、自分(リキシボーグ)が何をしようとしているのかを理解していたし、自分(リキシオン)が全てを理解したであろうことを感じ取っていた。

 

しかし、余人はそうはいかない。

 

「おじ様!しっかりして!」

 

『キサマ…!何ヲシタ!』

 

ピクリともせず倒れ伏したカースドプリズンに駆け寄るロックピッカーと、もはや憎悪すら込めてリキシボーグを睨み付けるロックブレイカー。

そんな二人の少女を目にしても、リキシボーグは眉ひとつ動かすことなく淡々と告げる。

 

『カースドプリズンは死んではいない。死んでしまえばこの世界も()()されてしまうし、せっかくのイレギュラー(ギャラクセウスに由来しない力)も失われてしまうからな。そして、この()()ならば、カースドプリズン本人でなくとも、その力でディメンジョンリッパーを発動させることが可能な()()がある』

 

その言葉を聞き、直前まで戦っていた相手が倒れて、態度を決めかねていたミーティアスが、静かな口調で告げる。

 

「つまり…アナタもまた、宇宙そのものを滅ぼさんとするヴィランなのだな、リキシボーグ」

 

『逆だ、ミーティアスよ。我が心と行動に一点の曇りなし。全てが「正義」だ』

 

「世界を根底から否定するような行為がか?!」

 

『ならば問おう。オヌシは今のこの世界を正しい姿だと思うのか?たった一人のヒーローやヴィランに、巨大な都市を壊滅させる力が与えられている……こんなアンバランスな姿が、世界の正しい在り方だと言い切れるのか?』

 

「何を言う!ヴィランの悪逆が無くならないから、それと戦うヒーローが必要なのだろう!」

 

『違うな。あの娘を見よ。カースドプリズンが生きていた世界ならば悪と戦うヒーローとなっていたハズのものを、オヌシがカースドプリズンを殺したワシらの世界では、ヒーロー憎しが昂じてヴィランとなってしまった…』

 

そう言ってロックブレイカーを見るリキシボーグの声には、今までの無感情なものとは別の憐憫と哀惜の情が初めてにじみ出ていた。

 

『その現実を見てワシは思ったのだ。ヒーローとヴィランが相争い続けるこの世界は間違っているのでは?()()()()()()()()()()()()()()()()()こそ正しいのではないか、とな」

 

「何を言って…?それとギャラクセウスを消し去ることと何の関係が…」

 

次第に困惑を深めていくミーティアスを余所に、リキシボーグは何か得心したように頷いて言葉を続ける。

 

『ともあれ、オヌシが最後の障碍だと言うのなら試してみるとしよう。これからワシはカースドプリズンから奪った力でディメンジョン・リッパーを発動させられる場所へ向かう。カースドプリズン本人ならばともかく、余人が次元圧縮による世界改変を行うには「場所」が重要なのでな。その前にワシを止めてみよ』

 

「何?!」

 

『オヌシがワシを止められるのであれば、やはりヒーローもギャラクセウスも世界には必要ということなのであろう。止められるものならば止めてみよ。ワシの絶望に、オヌシの正義が敵うというのなら!』

 

言うや否や、リキシボーグの足元が爆発した。

そう見えるほどの脚力を以て、リキシボーグの姿は一瞬にして遠ざかっていく。

 

「な…逃がすか!!」

 

一瞬遅れて、ミーティアスも脚から蒼光を爆発させて追って行く。

残された者たちは、死んだようなカースドプリズンを診察するリキシオンを囲んでいた。

 

「どうなのリキシオンさん?!おじ様は…」

 

『黙ッテイロ(ロックピッカー)大医師ケルススを凌ぐ者(パラケルスス)(スエ)ガ診テクレテイルノダ、邪魔ヲスルナ』

 

「アナタは私でしょう?!おじ様がこんなことになってるのに、何でそんなに冷静なの!」

 

『…私ニトッテハ、目ノ前デオジ様ガ死ヌノハ、コレガ初メテデハナイカラナ』

 

「…!!」

 

『ソウダ、オジ様ガ死ンデ、私達ノ世界ハ終ワッテシマッタ……剪定事象ニナッテシマッタノダ』

 

 

 

―――――――

 

 

 

「何?!ボクがキミ達の世界のカースドプリズンを倒したからって、何故世界が終わるというんだ?!」

 

ミーティアスはリキシボーグへ追い付いていた。

しかし、ただでさえ忍術による挙動は厄介であるというのに、加えて義体の性能が生み出すリキシオンを遥かにに超えたスピードとクイックネスに追いつくのがやっとで、捕まえることは出来ない。

それ故か、リキシボーグは事ここに及ぶ仔細を語って聞かせる余裕すらあった。

 

『遡って原因を探れば、それがトリガーだったというだけなのだがな』

 

カースドプリズンが死んでも、世界は何も変わらなかった。()()()()

一人の少女がヒーローへの憎しみを募らせてヴィランへの道を歩んだが、多くはヴィランの死を歓迎していた。

これで世界が平和になると。

事実として、その頃から世界は平和になっていった。

ヒーローとヴィランの戦闘も少なくなった。

ヴィランが数を減らして、ヒーローが活躍する機会が減ったのだと、誰もが思っていた。

しかし、実態はそうではなかった。

 

『そう、カースドプリズンの死を境に、ヒーローやヴィランが新たに()()()()()()()()()()()のだ』

 

これまでであれば、ギャラクセウスが原因で宇宙からヴィランがやって来たりしていたが、それも無くなった。

そしてギャラクセウスが力を与えてヒーローを誕生させることも無くなった。

と言うよりも、もはやギャラクセウスは()()()()()()()()()()()()()()()()

その原因を探るため、その世界のリキシオン(当時のリキシボーグ)は時空間を圧縮することで時間を遡ることのできるディメンジョン・リッパーを作成、錬金術の知識を総動員し過去遡航に耐え得るサイボーグボディをも作った。

 

しかし、実際に過去遡航を行おうとして判明したのだ。

既に()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが。

 

「過去や未来が、無くなる…?」

 

『左様。そうなってしまった世界のことを()()()()と言う』

 

本来、この世界には無数の可能性が存在し得る。

しかしながら、その全ての可能性を許容し続けるだけのリソースが宇宙には存在しない。

故に、存続可能性の低い世界、その存在自体を削除することで宇宙全体の情報リソースを保っているのだ。

そうして削除された可能性の世界は剪定事象と呼ばれる。

 

『剪定された直接の原因はギャラクセウスが力を失ったこと。しかし、過去へと戻ろうとした時に、カースドプリズンが死んだ時間より以前が消失していたことが分かり、その時点から世界が分岐してしまったことが判明したのだ』

 

そう口にしたリキシオンが着地した場所は、つい先刻ミーティアスがカースドプリズンを()()()()()として()()()()()()()()採掘現場だった。

 

「ここは…?」

 

疑問を口にするミーティアスに答えることなく、リキシボーグは山腹に開けた坑道へとその姿を消す。

当然、ミーティアスも戸惑いながらも蒼い残光を残しつつ追いかける。

 

 

 

――――――

 

 

 

「つまりオヌシの世界では、イレギュラーたるカースドプリズンの死で世界が固定されてしまった。そのままでは過去遡航すら出来ないため、次元移動で『カースドプリズンが生きている世界』へ移動し、そこからカースドプリズンの生存が確定している時間まで過去遡航してきたというわけだな…」

 

診察を終えたリキシオンが、言い争う二人に声をかけてくる。

 

「リキシオンさん!おじ様は…」

 

「命に別状は無い。身と精は無事だが、魂だけを抜き取られた状態のようだな。大宇宙(マクロコスモス)の三態である地上世界・天上世界・霊的世界に照応するのが人間(ミクロコスモス)の身体・精神・魂魄なのだが、錬金術の秘奥には魂のみを賢者の石へと移し替えることで永遠の命を得ようというアプローチ方法があった。恐らくはその術式を使って魂ごとカースドプリズンのイレギュラーたる力を抜き取った、というところだな」

 

「えーと……どういうこと?」

 

『ナラバ、オジ様ノ魂ヲ収メタ呪われた牢獄を打ち壊す者(カースド・プリズン・ブレイカー)ヲ奪イ返セバ…』

 

「無理だ。本人の魂は本人が回収しなければ元には戻らぬ。本来、人の三位一体のうち精神と肉体の二つがあれば行動不能にまではならずに済むはずなのだが、カースドプリズンは力の源それ自体を失っている状態だ。魂と力の源を奪い返したところで、これでは……」

 

「そんな!」

 

『……ダッタラ、私ニ考エガアル』

 

「何をするつもりだ?」

 

問いかけるリキシオンに、ロックブレイカーは朗らかな笑顔で答える。

 

『ナズナノ花言葉ヲ知ッテルカ?』

 

 

 

―――――――

 

 

 

リキシボーグを追って狭い坑道へと入ったミーティアスは、突然に視界が開けたことに驚く。

侵入者に対して、この空間は歓迎を選んだらしい。

原理の分からない光が灯り、謎の地下空間……その果ての全容を照らし出す

 

「なんだ、これ……さらに穴が」

 

『頓挫した大規模地下都市(ジオフロント)開発計画、その跡地だ。()()()現れたヴィランとヒーローとの戦闘が発生し、結局計画はお蔵入りとなった……それも全てギャラクセウスの差し金』

 

「何故、わざわざそんな…」

 

『宇宙はアヤツ(ギャラクセウス)の領域……天の神を殺すなら、地の底でなければならぬ。何故地球でばかり事件(イベント)が起きると思う?それはこの星がギャラクセウスの生命線にしてアキレス健だからよ』

 

「何の話をしている?!」

 

『オヌシはおかしいと思わないか?』

 

そもそも、本当にギャラクセウスが全能存在であるならば、自分の力でヴィランを全滅させてしまえばよさそうなものである。

にも関わらず、わざわざミーティアスやハイドロハンズといったヒーローに力を与えて戦わせたり、逆にゼノセルグスのようなヴィランを呼び寄せたり、カースドプリズンのような宇宙を滅ぼしかねない存在を倒さずに、わざわざ自由に動き回れる程度の封印で済ませているのか。

 

『逆なのだミーティアス。全能存在ギャラクセウスがヒーローを作り出すのではない。この地球でヒーローやヴィランが争い合っている世界でなければ()()()()()()()()()()()()()()のだ。ヒーローやヴィランの減ったワシらの世界がこの宇宙に存在を許容されなくなったことがその証拠』

 

つまり、この宇宙で最も知的生命が煩雑に存在する()()()の多い惑星である地球に、ヒーローやヴィランが争い合うという()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()状況が整っている世界でなければ、ギャラクセウスは存在証明ができないのだ。

 

『わかるか?!ヒーローがどれ程正義のために戦おうとも、この世界の存続のためには新たなヴィランとの戦いが必要となる!逆に平和が訪れれば、世界の存在が終わってしまう!ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()より他に平和が訪れる術は無いのだ!!』

 

リキシボーグとて、どこまでも正義のために戦ったのだ。

ヴィランへと道を踏み外さんとする少女には、自ら師となって教え導こうとした。

世界が滅ぼうという危機には、ヴィランとも手を取り合って回避しようと最後まで足掻いた。

その結果わかったのが、ギャラクセウスのいる世界では、争い続けるか、滅ぶかの二択しかなかったという事実。

 

あの娘(ロックブレイカー)は、カースドプリズンに新たな宇宙の基準点になって欲しかったようだが、本人が拒絶するのならば仕方ない。ギャラクセウスの干渉が最も遠いこの地の底で、あやつ(カースドプリズン)から抜き取ったイレギュラーの力を使ってギャラクセウスの居ない新たな世界を創る。これだけが本当に世界を救う唯一の方法なのだ』

 

「……アナタの正義は理解した。だが、この世界で今生きている人たちはどうなる?」

 

『……平和の実現のためには必要な犠牲(コラテラルダメージ)だ』

 

「なら、ボクはそれを認められない」

 

戸惑いの消えた、決意を固めた瞳でミーティアスはまっすぐにリキシボーグを見る。

 

『それがオヌシの正義か…』

 

納得した様子で、リキシボーグは隠していたボタンを押す。

すると入ってきた坑道から爆音が響き、土煙が吐き出される。

 

『通りながら爆薬を設置しておいた。これでワシを止められるのはオヌシのみ……来い!この老いぼれを見事倒してみよ!』

 

一瞬の睨みあいの後、ミーティアスが仕掛ける。

この世界全ての命を背負った以上、敗北は許されない。

故にこそ、対プリズンブレイカー用に温存していた奥の手を切る。

 

『むっ…!』

 

すべてのヒーロー・ヴィランを通じて、最高峰のスピードを誇るミーティアスの最大速度。

そこから繰り出す、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ミーティアスではプリズンブレイカーには勝てない。これだけは絶対の事実。

ミーティアスに知覚できる程度の速度の攻撃ならば、プリズンブレイカーには必ず対応される。

ならば、自分(ミーティアス)が知覚できる限界の速度を超えた攻撃をするまで。

最大速度の、自分でも当たったかどうかすら判断できない攻撃。故に事前に多段フェイントまで組み込んで練習したコンビネーションを見えずともそのまま繰り出せばよい。

 

一撃!

二撃!

三撃!

 

手ごたえを知覚するより早く、より速く!

 

最後の二十撃目を繰り出し終えて、ようやく結果を知覚したミーティアスは

 

『コーガ忍法上級奥義(オーバーゲハイムニス)、ウメハラ・ブロッキング』

 

二十連撃を全弾凌ぎ切った、リキシボーグの青く輝く瞳と視線がかち合った。

 

「…なんでジャパニーズ忍法なのにドイツ語なの?」

 

『ワシの遠祖パラケルススはドイツ人だぞ?むしろドイツ語の方が自然だ…何より、かっこよさが段違い(ダンチ)であろう』

 

「成る程…ぐふっ!」

 

全力を使いつくし、反動で動けなくなったミーティアスはリキシボーグの掌打で崩れ落ちる。

 

『この技はこの時代のワシ(リキシオン)であればコズミックちゃんこ鍋を過剰摂取(オーバードーズ)してようやく、後の壮絶なデメリットと引き換えに使うことのできる絶技。しかし、長年の研鑽とこの錬金術ニンジャ力士サイバネボディ、そして()()が合わされば、このとおりよ』

 

全身に溜まった熱を吐き出すように言葉をこぼすリキシボーグからは、それでも容易い技でないことが見てとれる。

残心を終えたリキシオンは、静かにミーティアスへと歩み寄る。

 

『残念ながら、オヌシの正義はワシの正義には届かなんだようだな。見事な技と覚悟に免じて、苦しまないよう一撃で葬ろう』

 

言って、断頭の一撃を構えるリキシボーグ。

ミーティアスは限界を超えた連撃と先に受けた打撃のダメージで動けない。

そして、入口が塞がれた以上は、誰の助けも間に合わない。

 

地底には星の光は届かない。

 

だが、太陽すら霞ませる()()ならば?

 

 

ゴァアン!と、地下空間に轟音が響く。

咄嗟にトドメの一撃を中止し、警戒するリキシボーグ。

その視線の先に映ったのは、小城のごとき円筒形の威容であった。

 

先頭部におろし金のような細かい刃がびっしりと並んだそれは、巨大なトンネル掘削機(シールドマシン)

地下トンネルを掘るためだけのその機械は、しかし日に数十メートルも掘り進むのがやっとの速度。刃の摩耗も激しく交換が必要となる。

 

ただし、()()()()()()し、()()()()()()()()()()()()()()()()がソレを纏えば?

 

「おいおい、楽しそうじゃねえか。だがこの俺様が混ざらなきゃ始まらないんじゃないか?」

 

『馬鹿な…!何故、キサマが動ける?!』

 

「何処かのバカな()()()()()がな、自分のカオス因子(ギャラクセウスに由来しない力)を全部()()()()()()()()()()()な」

 

『なッ…では、ロックブレイカーは、()()()()()()()()()()()()…!!』

 

ナズナの花言葉とは、『I offer you my all(アナタニ私ノ全テヲ捧ゲマス)

 

「一つだけ言っておくぞ……キック・ユア・アス(俺はお前をぶちのめす)

 

 

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