カースド・プリズン・ブレイカー ~栗きんとん、開錠に挑まんとす~ 作:ターニャ・オルタ
―――ほんの少し前
「…それがどういう事かわかっておるのだな?」
失われたカースドプリズンの
ロックピッカーは/ロックブレイカーはカオスが作り出した仮初めの命、
だが、ロックブレイカーは笑っていた。
『ドノ道、私達ノ世界ハ「終ワッテル」ンダ。一度ハ絶望ト諦観ノ海ニ沈ンダ私ガココマデ来レタ。ダカラ、
一点の曇りもない
『後ハ頼ンダゾ、
「任せてよ、
―――そうして現在
カースドプリズンは怒っていた。
むしろ、カースドプリズンはほぼ常に怒っている。太古の昔、ギャラクセウスに封印されるより以前から、ずっと。
鎧に封じられる前、欲望のままに力を振るっていた彼だが、それは他の多くのヴィランのように、圧倒的な力で他者を虐げる暗い悦びに浸っていたわけではない。
そこにあったのは、子供が初めて自分の足で歩けるようになった時のように、初めて自転車に乗ることができた時のように、
それなのに、自分に出来る
それを悪だと断じられ、呪われた鎧へと封じられてヴィランのレッテルを張られた彼は、別にそう呼ばれることは何も気にしていなかった。
他人からの評価など、彼にとってはどうでもいい。
今も昔も、彼の行動原理は単純明快。
ただ、封印された後は、自分がやりたくてもできないことを軽々とできるのにやろうともしない
だから、あのガキンチョのことはよく覚えている。
あの
助けたのは偶然ではあったが、気まぐれでもない。
なんとなく予感があったのだ、こいつは
だから、未来から来た
そして、だからこそ怒っていたのだ。
それはオマエが
根性足りてないんじゃないか、と。
ひるがえって、己に対して怒っていた。
もっとも、それで自責の念に沈んでしまうような精神構造はしていない。
だから
それもこれも全部
畜生リキシボーグ絶対許さねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
「粉微塵にしてやる……!」
流石に無視できるものでもなく回避するリキシボーグはしかし、理解が及ばず困惑する。
『ちいぃ…!何故、
「あ?
「おじ様……相手がヴィランだからってああいうことをするのは良くないと思うの!」
カースドプリズンが空けた穴から追ってきたロックピッカーが、顔を真っ赤にしてプリプリと怒っている。
「一体何をしていたんだ……」
「存外と元気そうだなミーティアスよ」
倒れたままで呆れた声を出すミーティアスを抱え起こしながら、同じく追いついたリキシオンが言う。
「まあ実際空元気だけどね…ダメージはそこまでじゃないけど、無理な技を使ったせいでスタミナがもう無い」
「ふむ…ならばこれはオヌシが使うがよかろう。本来はワシの
「こ、これは…!」
―――――
『無駄だ!どれだけ装甲が厚かろうとも、どれだけ馬力を底上げしようとも、錬金術
「く、そがァ!」
カースドプリズンは一方的に打たれ続けていた。
如何に強力な攻撃も当たらなければ意味は無く、如何に強靭な装甲も無限に攻撃を防げはしない。
これが
それは補給の問題。
力士のパワーとニンジャの技を兼ね備えたリキシオンは、
ただし、力士としての力を使うためにはストロング飲料水を飲まねばならず、忍法を使うためにはサイバー漢方でトランスせねばならず、
それらを補給するための時間、そして摂取できたとしても強化状態自体にも制限時間が存在する。
しかし、リキシボーグにはそれが無い。森羅万象とコネクトし忍法を操りながら、肉体的限界に縛られることのない機械の体。
何より今のカースドプリズンは自分本来の力ではなく、ロックブレイカーから与えられたカオス因子にて動いている。
全力を振るおうにも、アクションのいちいちに後ろ髪を引っ張られるような違和感がある。
まして、最も致命的なのは
そも、カースドプリズンが何故ミーティアスと戦っていたのかと言えば、己の力を模倣したミーティアスと戦って、その力の一部を奪うことで一時的に呪いを無効化し
だが、今やその力はリキシボーグの手で奪われてしまっていた。故にギャラクセウス由来の力を吸収しても脱獄自体が出来ない。
通常戦闘で不利、起死回生の切り札は使用不能。
もっと狭い空間であれば巨体を生かして逃げ場を封じ圧殺する戦法も使えたが、このジオフロントは相当な広さがあり、縦坑により高さもあるため、忍法で三次元機動するリキシボーグを捉えきれない。
『隙有り』
「しまっ!?」
既に砕けつつある装甲の隙間を狙われ、転倒させられるカースドプリズン。
リキシボーグはそのまま地面へ転がったカースドプリズンのマウントを取ると、装甲の可動範囲を逆用して動きを封じつつ、左手で
『ワシの勝ちだ。己の力を封じた武器で死ぬがよい』
リキシボーグが引き金に掛かった指へ力を入れる。
一対一では今のカースドプリズンではリキシボーグに勝てない。
では、二対一ならば?
「天っ誅ァーーー!!!」
縦坑上空へと跳躍したロックピッカーが、金髪を振り乱しながら右手の巨大な朱斧を振り下ろす。
「おじ様!
「来い、ガキンチョ!」
『小癪』
リキシボーグは己を掴もうとするカースドプリズンの腕を払いのけ、すぐさま飛び離れる。
おそらくは、マウントを取った自分の動きをカースドプリズンが押さえることを期待しての大振りであろう。
ならばさっさと避けてしまえばよい。重装甲で転がされたカースドプリズンは避けられないし、ロックピッカーもあそこまで勢いをつけての振り下ろしでは攻撃を止めることもできまい。
『愚か…己の救った娘の手で葬られるがよかろう』
そしてカースドプリズンへと直撃する
だが、二人の
ロックピッカーという存在の源は「起こらない筈の可能性を0%から1%にする」カオス因子。
今のカースドプリズンの力の源は「起こらない筈の可能性を0%から1%にする」カオス因子。
そして、
「強制
ロックピッカーの斧が、カースドプリズンの纏った
それは、
地下に、緋色の光が溢れる。
「クライマックスだ、ケリをつけてやる」
『キサマ…!』
リキシボーグは咄嗟に瞳術を再使用しようとして、
「遅え」
『がッ…!』
『くっ…!』
ようやく起動した瞳術で、プリズンブレイカーの動きを捉えようとした所へ、声をかけられる。
「よう
『何を……まさか、キサマの
カースドプリズンとは、牢獄に封印された後の名。
プリズンブレイカーとは、封印から脱した後の名。
ならば、太古の昔、封印される以前の本当の名は。
賢明なるリキシボーグは、表の歴史では決して語られえぬニンジャ神話についても詳しい。
とあるニンジャは、チョップにより紅海を割り人々をエジプトから約束の地へと導いた。
ローマのアーチ様式建築は、堅牢なるニンジャのブリッジ姿勢に着目して作られたものだ。
そして、とある神話には、自由に空を駆け、
その技は文字通りの、受けた者は誰一人として生き残らなかったと伝えられる
いかなるニンジャを以てしても再現不可能とされ、実在が疑問視されてきたその者の名は―――
『
「へぇ、心当たりがあるのか。なら話は早い」
((だが、焦ることは無い。今のワシならミーティアスの限界を超えた二十連撃すら凌ぎ切ってみせた。そして、今のコヤツは本来とは別の力で動いておる。技のキレも、脱獄時間も本来には遠く及ばないハズ!))
覚悟を決めて、
そして、緋色の凶星は天気でも聞くような、気軽な口調で
「よう、合図が必要かい」
「
『キサマ……ミーティアス!』
ミーティアスは、プリズンブレイカーの能力を熟知していた。
空中戦では劣る自分では決して敵わないからこその、妥協案として用意した対抗策の地上戦での二十連撃。
しかし、リキシオンの
即ち、これより繰り出されるのは、神話の二十連撃に非ず。
「「