カースド・プリズン・ブレイカー ~栗きんとん、開錠に挑まんとす~ 作:ターニャ・オルタ
―――カースドプリズンとリキシボーグが戦っていた時
「これぞワシの隠し球、
「オッケー」
リキシオンが差し出した黒い丸薬を受け取ったミーティアスは、躊躇うことなくそれを飲み込んだ。
「エリキシル配合ニンジャピルを全て失った時の対策に、奥歯の奥に隠しておった故に無事だったのよ」
「それ飲んでから言う?!あーもう、サンドバッグにしてやるから覚悟しろ
そんなやりとりの結果、今現在ミーティアスは
「先に言えコラーッ!!」
『言いがかりも甚だしいわ!』
八つ当たりしていた。
自身が対プリズンブレイカー用に準備したコンボも破られた分まで含めて、八つ当たりの攻撃を繰り出していた。
片やプリズンブレイカーは
「どうしたどうしたァ! 疲れたなら一息で首刎ねてやろうかァ!?」
「今ボクごと攻撃しようとしたよね?!ぶっ飛ばす!!」
「返り討ちだオラァ!!」
普通にミーティアスごとリキシボーグを潰そうとしていた。
それはミーティアスも同じで、隙あらばプリズンブレイカーをも巻き込まんと攻撃している。
故に
((動きが!読めぬ!))
リキシボーグが使っている瞳術は、思考処理速度を加速させ動きをスローモーションに見せるだけでなく、攻撃がダメージを与える範囲すら視覚として捉えることができるものだ。
故に単なるコンビネーション攻撃であれば、たとえ四十連撃でも捌いてみせるつもりだった。
しかし、実際には
お互いに相手をリキシボーグごと叩き潰さんと、本気の連撃を繰り出して来る。
相手を攻撃した反動を利用して、そのまま自分に攻撃してくるような有様だ
故に、ダメージを与える範囲があらかじめ分かっていても、まるで役にたたない。
動きに無駄が多く、合理を外れた攻撃さえしてくるので、どうしても防ぎようがない一撃が出てくる。
((しかし、引くことは出来ぬ!))
リキシボーグとて、世界の全てを犠牲にする覚悟で正義を為さんとしているのだ。
『この程度の窮地、幾度も超えてきた!!』
「「こっちのセリフだオラァァァア!!」」
覚悟の機人が双眸に宿す青光と、蒼緋の双星の残光が地底にてアストログラフを描く。
それを見上げる少女は
「すごい……あれがおじ様の本気……あれなら」
((マダダ))
「え?!」
脳内に響く声に驚く。
「この声は…
突如として声を上げたロックピッカーに、リキシオンがいぶかしげに声をかけてくる。
「む、どうしたのだロックピッカーよ?」
「え、リキシオンさんには聞こえないの?」
((ドウヤラ
錬金術で言う三態、すなわち肉体・精神・魂。
今のプリズンブレイカーはリキシボーグに魂と
そこへと三態全てと、
本来ならば、自意識すら保つことすら出来ないはずである。
((シカシ、私ト同位体デアルオマエガ使ッタ「強制開錠」ノ結果、精神ダケガオジ様カラ移ッタノダロウ))
「うーん、わかったようなわからないような…」
((仔細ハドウデモイイ。ソンナコトヨリ、恐ラクハアノ連撃デモリキシボーグハ仕留メキレナイ))
困惑するロックピッカーを余所に、ロックブレイカーは淡々と言葉を続ける。
「え?どういう事?!それ以前にあの攻防が見えてるの?」
((アア、私ガ「見テ」ヤル))
そうロックブレイカーの声が聞こえた瞬間、ロックピッカーの瞳に青い光が灯る。
瞬間、世界の全てが停止したように動きを止める。
否、その視界は宙に舞うミーティアスとプリズンブレイカー、そして二者の攻撃を的確にブロッキングするリキシボーグの姿を捉えた。
「凄い…完全に見える」
((コレゾ、コーガ忍法
「じゃあ…」
((全テヲ捌ケテイルワケデハナイガ、ソレデモ決メ手ニハ足リヌ。ダカラ、
「え?!」
プリズンブレイカーは、自身本来の力ではないせいで全力を発揮しきれず脱獄終了間近。
ミーティアスは、
リキシオンは、先のロックブレイカーを倒すためのダメージで戦力には数えられない。
つまり、残るはロックピッカーのみ。
「でも、おじ様でさえ倒しきれない相手に…!」
((ウルセェッ!死ヌマデ殴レバ死ヌンダヨ!))
「!」
((…ッテ、オジ様ナラ言ウト思ウ))
「ああ、言いそー」
((ダロウ?))
クスクスと、ひとしきり笑いあう少女二人。
そして、覚悟を決めた目になったロックピッカーは
「でも、私にできるかしら?」
((デキルサ。デナケレバ―――))
「―――ヒーローになんて、なってない!でしょ?」
ロックピッカーが/ロックブレイカーが力を求めたのは何のためか。
それは勿論おじ様のため。
守られるだけの存在で居たくない。助けてくれたあの人を、今度は私が助けてあげたい。
そのための力、そのための研鑽。
((動キハ私ガ「見テ」ヤル。カマシテヤレ、
「任せて、
そして、四十連撃の果て、双星と機人が墜ちる。
濛々と立ち込める土煙の下から現れたのは、
倒れ伏すミーティアスと、
再び牢獄へと囚われたカースドプリズンと、
サイバネボディは全身がひび割れ、七孔全てから血を流しながら、それでも立っているリキシボーグ。
『見事……御美事……!だが、このワシを殺すには足りぬ!』
「くっ…」
「ちィッ…!」
動けないミーティアスと、もはや吸収できる武器もないカースドプリズン。
それにトドメをささんと、満身創痍ながら確かな足取りで近づいて行くリキシボーグ。
しかし、その前に立ちふさがるロックピッカー。
堂々と、嘗て幼き日の思い出に焼き付いている、己を助けてくれたおじ様のように!
「あら、まだ踊り足りないのかしら。だったら一曲踊ってくださる?」
『オヌシか…だが、忍術も使えぬオヌシではワシの相手にはならぬ』
「わかってないわね。女が武器を取る理由なんて昔から一つだけ。大切なヒトを守るためよ」
うっとりと、恋する乙女の瞳で語るロックピッカー。
一瞬、虚を突かれたように動きを止めるリキシボーグ。
その瞬間、右手の
使うは、己の研鑽の集大成たる
「強制解錠!」
しかしリキシボーグは動じない。この技の破り方は知っているからだ。
冷静に関節技で動きを封じられていない部分だけを動かして、右腕に設置された一つ目の爆薬から雷管を引き抜く。
今だ視界は真っ赤に染まっている。一つ目の爆薬のダメージ圏は消失したはずなので、既に二つ目の爆弾が設置されている。
冷静に動きを封じられていない部分を動かし、二つ目、三つ目と雷管を引き抜いていく。
((拍子抜けだな。これならワシが鍛えた
余念を抱きながらも、体は冷静に雷管を引き抜いていく。
そして、ロックピッカーの体が己から飛び離れる。
最後の爆薬を設置しおえたのだろう。ならば次に雷管を引き抜いて終わりだ。さすれば視界を覆う真紅のダメージ圏も消える。
既に最後の雷管を引き抜いた後の、ロックピッカーへのとどめの手段を吟味しながら、リキシボーグが目にしたのは
地面に着地して微笑むロックピッカーの青く輝く瞳と、
『アナヤ!』
「『一手』遅かったわね」
ロックピッカーの言葉と共に、リキシボーグの右腕が吹き飛ぶ。
((何故?!最初に雷管を引き抜いた……
そうリキシボーグが思ったと同時、見ていた全員が「うわ」と呟いてしまうほどのドヤ顔を浮かべて、ロックピッカーは宣言する。
「アナタが最初に雷管を引き抜いた後、私が二つ目の爆薬を設置してから、アナタが最後の雷管を引き抜くまでの間に、
『な――――』
ロックピッカーがこの強制解錠を
それは、関節技がどんな相手にも有効だから、というのは結果に過ぎない。
本当の理由は、全て
自分より大きなおじ様の懐に飛び込み。
人体と構造はそう変わらないおじ様自身にも、おじ様が取り込んだ機械にも
そのためだけに開発し、そのためだけに研鑽した技。
結局、最後の条件を満たす方法が今もって見つからなかったため、代用として爆薬を設置しているだけ。
そういった意味で、この技は既に完成し完結した技ではなく、いまだ発展途上の技なのだ。
故に、常に改善を続けている。
「女の子はね、ちょっと目を離したらすぐ
だから私から目を離さないでね、とカースドプリズンへウィンクを送るロックピッカー。
『まだだ―――』
勝機と見たリキシボーグが、残った左手をマウントスペースの
その手が空を切る。
『な…』
「お探しのものはコレ?」
ロックピッカーが、またも淑女を自称するにはどうかと思うドヤ顔で、背中に隠していた
『オヌシは』
「そ。最初の爆薬に雷管を設置する他に、コレもちょちょいっと貰っちゃった。と、ゆーわけで、ここで会うたが百年目!盲亀の浮木!泥率1%!いざ尋常に、天誅!」
そのまま刃部分を前に構えて、銃剣突撃のようにリキシボーグへ突進するロックブレイカー。
『驕るな!コーガ忍法
リキシボーグの左腕が、忍法の支援を受けて忍者刀と激突し、諸共に砕け散る。
両腕を失ったリキシボーグであったが、武器を破壊した今ロックピッカーもまた無手。
ならば条件は互角!動じることなく、そのまま前蹴りでロックピッカーを文字通り蹴散らさんとする。
しかし
「
ジャンプで前蹴りを躱したロックピッカーは、そのまま
両腕を失い、蹴りをも躱されたリキシボーグには回避する術はもはや存在せず。
上空からの運動量そのままにロックピッカーが振り下ろした
「……ふぅ。上から斧が落ちてくるタイミングに合わせるのに、話の繋ぎに苦労したわ」
『完敗、だな。よもやワシを止めるのがミーティアスでもカースドプリズンでもなく、オヌシのような女童とは…』
「それは違うわ。アナタは私に負けたんじゃなくて、
『何…?』
そう、ここまでの戦闘の流れ。
斧を遥か上に投げて注意を逸らし、
強制解錠中に雷管を刺し直しつつ武器を奪い、
斧が十分に落下エネルギーを蓄えて落ちてくるのに合わせて話を引き延ばしておいて、正面から突っ込んだ後の上空奇襲二弾式天誅。
これらは全て、ロックピッカーが
リキシボーグの疑問には微笑みのみで返し、ロックピッカーはもはや半壊した
「おじ様、どうぞ。
「それでいいんだガキンチョ。武器は勝つために振るうもんだ。後生大事にして負けるより、ブチ砕いてでも勝つ方がいいに決まってる」
ぶっきらぼうに、彼なりの賛辞を口にしたカースドプリズンは、凶星の力を解放する。
「
「おじ様…?」
別に力を取り戻すだけなら、
ロックピッカーだけでなく、皆が疑問に思う中、カースドプリズンへと
「何を?!」
気色ばむミーティアスを無視して、カースドプリズンはロックピッカーに静かに告げる。
「こいつを使えば、俺様は次元自体を再構築できるんだろ?それでオマエ
「おじ様…気づいて……」
「いいか、俺様から言うことは一つだけだ。オマエらが
それだけで、あっけなくロックピッカーは、リキシボーグさえも完全にこの世界からは姿を消していた。
時空改変に耐えきれなかったのか、サラサラと崩れて消えるディメンジョン・リッパー。
そのまま、しばし佇むカースドプリズンへ、ミーティアスが声をかける。
「素直じゃないね」
「うるせえ」
「もうちょっと思いやりはわかりやすくした方が」
「ああもう、うるっせえ!」
一声叫んだカースドプリズンの左腕から、青白い収束した炎が噴き出す。
「……えーと、ソレは?」
「さっき
「いやボクまだ回復しきってないんだけど」
「遠慮することねえよヒーロー、一緒に
「ヒドくない?!」
「ミーティアスよ、正直言ってワシもそのメガネは無いと思うぞ」
「
「クーリングオフ(物理)だオラァ!」
ボロボロの状態で、しまらない喧嘩を始める
それを微笑ましく眺めながら、リキシオンはひとりごちる。
「
結局、何一つ世界は変わらなかった。
ギャラクセウスは変わらず全能存在として君臨している。
今回の騒動も、いくらでもある世界の危機の一つに過ぎなかった、と片づけられるに相違あるまい。
では、この世界がこのまま存続していくのか、それとも彼らの世界のように剪定されて終わるのか、それはいずれ、別な
未来は、世界は、いまだ一つに決定されてはいないのだから。
カーマ宝具5になったらエピローグ投稿します