カースド・プリズン・ブレイカー ~栗きんとん、開錠に挑まんとす~ 作:ターニャ・オルタ
―――今より未来、ロックピッカーの世界
今日も、世界は喧噪に満ちている。
「だから、どうしておじ様ったら逃げるの?!」
「だから、テメェが襲って来るから逃げてるんだろうがガキンチョ!」
過去にカースドプリズンが発動したディメンジョン・リッパーにより未来へと戻されたロックピッカーは、早速未来のカースドプリズンを追い回していた。
次元移動してきたロックブレイカーにより一度は未来における存在を失ったカースドプリズンであったが、過去の出来事から再び存在確率を収束させることで、無事未来においても確かに存在し続けていた。
「だから、おじ様だって覚えているでしょ?私に『本当にやりたいことをやれ』って言ったのはおじ様なんだから」
「テメェのやりたいことは俺様をボコることなのか…」
「違うわ!今も昔も、例え世界が違ったって、私
呪われた牢獄の鍵を開け放つこと。すなわちカースドプリズンの呪いを解くこと。
その方法は、これまで封印を施したギャラクセウスの力を取り込む以外に発見されていなかった。
しかしロックピッカーは過去において、
「つまりは手順の入れ替えよっ」
「はァ?」
「私がおじ様をボコっておじ様の力を吸収すれば、私の手でおじ様の
「いやそのりくつはおかしい」
「さあ、おじ様。私の愛情……受け取ってねっ!」
「愛情(物理)じゃねえかァ!」
二人の逃走劇/追走劇は続く。これまでと同じく。
―――剪定された未来、ロックブレイカーの世界
『終わりの決まった世界に戻されるか……酷なことをする』
『敗軍ノ将ノ倣イダロウ?ヴィラン的ニ言エバ、敗ケル奴ガ悪イ』
リキシボーグと、一度は存在を失ったロックブレイカーもまた己の世界の、元いた時間軸へと戻されていた。
二人とも損傷さえ元通りにされていたが、この世界が終わってしまう事実は変わらない。
しかし、ロックブレイカーの声は、機械音声であってもはっきりとわかる程に晴れ晴れとしていた。
何故なら、もう一度おじ様に会えて、おじ様の役に立てて、言葉を送ってもらった。
それはかつて自分には出来なかったことだから。
『本当にやりたいことをやれ、
『決マッテイルサ。ギャラクセウスヲブッ飛バシテ、コノ世界ヲ救ウ』
『何?!それは―――』
かつて、ロックブレイカーは己自身で次元干渉をしようとしたこともあった。
ディメンジョン・リッパーは観測するヒトの意識により波動関数を落とし込み次元干渉を行う。
元々ロックブレイカーは、己の「起こらない筈の可能性を0%から1%にする」カオス因子を利用した次元干渉を行おうと、ディメンジョン・リッパーを搭載するために全身義体化を行った。
しかし、ヒトの意識で観測せねばならないにも関わらず、ディメンジョン・リッパーは搭載した人間を
それでもロックブレイカーは実験を強行したが失敗、一命は取り留めたものの声を二度と修復できない状態となってしまった。
『だからこそ、ディメンジョン・リッパーを体に直接搭載せずとも起動できるカースドプリズンに使ってもらうために、別な世界の過去まで行ったのであろう?』
『ダガ、アンタハ隠シテイタダロウ?
『む、それは…』
『責メタイワケジャナイ。ソイツヲ使ッテギャラクセウスノ力ヲ奪エバ、今度コソ私ノカオス因子デ次元干渉ガ出来ルカモシレナイダロ?』
『それはワシも考えた!しかし実現可能性はゼロに等しい』
『ダロウナ。ダガ、ドウセコノママジャア世界ハ滅ブンダ。ナラ、
決断的に口にするロックブレイカーを見て、リキシボーグは眩しいものを見たように目を細める。
老いては子に従え、とはこのような心持ちであったろうか、と。
『そうだな……しかし、いくら力を減じているとは言え
『ッ!ソレデモ!』
『故に、ワシも手を貸そう。一人では無理でも、二人ならできると、ついさっき過去でオヌシらに教えられたしな』
『ハッ、ソウコナクッチャア!』
絶望と諦観を超えて、瞳術ではない、挑戦する決意の輝きをその眼に取り戻した二人。
そこへ―――
「いよう、楽しそうじゃねえかガキンチョも力士崩れも。当然、俺様も混ぜてくれるんだよなあ?」
―――あり得ない、声がかかる。
『馬鹿な!オヌシは…』
『嘘……オジ……サマ?』
そこに立っていたのは、全身を緋色に輝かせた痩身長躯の男。
もはや隠されなくなった面貌に、白い歯を覗かせながら言う。
「いやあ、
ある次元の科学者からは「量子的存在確率が不安定になり、隣接する次元へと滑り込んだ」と言われた。
ある次元の修行僧からは「我執を以て六情を呑み大悟を得た」と評された。
世界は、観測するヒトの意識がすべてを確定する。
本当にやりたいことをやる、だからこそ波動関数の収束を己の思った世界へと落とし込む、人の思考こそがエネルギーとなり世界を変える。それ即ち
『阿頼耶識、空であるハズの宇宙を観測によって実体に落とし込んでいるのか?!それではまるで―――』
「
緋色の男がそう口にするだけで、少女の声は機械音声ではあるものの、ボイスチェンジャーにかけられたようなくぐもった声ではなく、生身の頃と遜色ない声となる。
『私の…声…!?』
「さあ、言ってみろ。オマエが本当にやりたいことは何だ?」
ニマニマと、悪戯に成功した子供のような表情で問いかける男に、少女は生身の瞳から涙をこぼしつつ答える。
『おじ様と、一緒に、居たいです……!』
「もう一声」
さらに笑みを深くした男から再度問われて、少女は涙をぬぐうと声を張り上げる。
『一緒に、ギャラクセウスを、ぶっ飛ばしましょう!』
「おう―――」
遥かな昔、「
今や、かつての呪いを克服し、幾多の次元を渡る旅の果て、少女の元へと帰ってきた男の名は
「―――俺様は、