うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる:その2 作:madamu
四葉。
触れてはならぬ存在。
一国を崩壊せしめた狂気の魔法師集団。
謎と殺戮と秘密に彩られた一族。
闇の魔法師。
それが四葉に対する世界の見方だ。
概ね俺も同意する。一度だけ、四葉の関係者と紹介された人物と会った事がある。
道場見学に来たスーツの男性。
隙なく歩き、常在戦場なのに余裕のある態度。
道場に通いに来る警官や軍人よりも荒事慣れした空気に高い理性と知性を感じさせた佇まい。
俺の直感では「敵対するな」である。
裏番もおおよそ同意見。
なんで、そのトップである四葉真夜が九校戦に来るんだ。
「大変恐縮ですが」
会場正門に乗り付けた四葉の車両の列を囲むように警備の軍人たちが立つ。
先程から正門警備を担当する軍の少尉が四葉の人間と問答している。
車輌の点検を「する」「しない」でもめ始めた。
「あなた一校生?」
四葉真夜の微笑みは美しいというよりおっかない。
この人に目を付けられたら平穏な人生が送れない気がする。
「はい。一校の生徒です。本日はどなたかのご招待ですか」
目立つ制服がこの場合は裏目に出た。
九校戦はネットワーク放映される学生の人気イベントだが性質上会場の、特に競技場内への立ち入りは少し厳しい。
会場周辺にはCADメーカーやスポーツメーカーの出店(正しくは展示スペース)があるが、競技場内は魔法師の卵たちが持ち寄った機密技術がそれなりにあり、競技場内への立ち入りには「招待」「来賓」「関係者」「応援学生」などの身分証明が必要となる。
論文コンペにおける産学スパイ問題もあるが、九校生も産学スパイが手を出す魅力がある。
「ご承知と思いますが九校戦競技会場内に入るには、招待や関係者パスが必要です。お持ちでしょうか」
俺は怯えを極力見せぬよう四葉真夜に説明する。
軍人たちは四葉の使用人たちとの押し問答と車両検査で手一杯で、ちょうど近くにいた学生警備の俺が自然と四葉当主の相手となった。
学生が相手をするのも変だが一触即発な状態に突入しそうになっている軍人vs四葉使用人には混ぜるわけにいかないだろう。
「そうね。関係者パスは持ち合わせていないわ。知り合いが来賓としていらっしゃるから取次ぎしていただけます?」
「知合いですか?」
「九島烈先生よ」
四葉真夜は鈴のなるような声で微笑みながら答えた。「ほら知ってるでしょ?あの人有名人だから」と言った気楽な笑みだ。
ゲロ吐きそう。
片や世界最悪の殺し屋集団のトップ。片や世界最高の魔法師。
そんなのが九校戦で気軽に会おうというのだ。
それも殺し屋集団のTOPはアポなし突撃でだ。
絶対いいことは起きない。原作を知る人間だからわかる。黒幕と黒幕の会話の余波が学生に来るはずだ。
こんなことなら来訪者編より先も読んでおけばよかった。
映画合わせで来訪者編までは読んだが、どう考えても十師族まわりはそこから先が重要だったよな。
「協会のスタッフに話してまいりますので、しばらくお待ちいただけますか」
突然の疲労と混乱を極力、極力悟られぬようそう言いつつ、一礼して協会スタッフの元へと歩き出す。
そして俺の背には最悪な言葉がかけられた。
「卒のない対応、さすが萬家のご長男ね」
妙に感心した四葉真夜の声が俺の背に刺さる。
俺の顔と名前を把握してやがる。
◆
10分は経過していない。
協会スタッフを連れて正門前に戻ると、警備の人間と四葉の使用人の睨み合いは継続していた。
「四葉様ですね」
協会スタッフが四葉真夜に声を掛ける。
何でも九島烈が「突然来るのは昔から変わらんな」と言ったらしく、「九島烈の招待」として四葉真夜の九校戦観戦が決まった。
もう間もなく新人戦のバトルボードが始まる。
「お母様」
四葉真夜に声をかける女性。
年齢は…20歳くらいか?
40代には見えない四葉真夜の隣に立つと外見からの年齢推察は難しい。
先程の車列の一台の中にいたようだ。
腰までの長い黒髪。ストレートで埃一つない。
肌は白い。目元は涼しく、月下に煌めく一凛の百合の花。
服装も黒のジャケットを着た落ち着いた女性。
そんな感じだ。
裏番が「妖しい」なら「艶やか」といったイメージか。
その女性は協会スタッフから離れた俺に軽く一礼する。
落ち着け。俺。
裏番と確認した世界設定と齟齬が起きている。
どういうことだ。四葉真夜に子供。それも娘?
この世界の異物は俺と裏番以外にもいたのか?それとも何かの副作用か?
過去に転生者でもいて歴史の改変が起きていたのか?
「行きましょうか。夜天」
「はい。お母様」
協会スタッフに連れられて、四葉真夜が会場に入っていく。車列は粛々と駐車場へと誘導される。
場の緊張もほぐれ始める。
軍人たちもそれぞれの持ち場へと戻っていく。
本当に場を支配していたのは四葉真夜の動向だった。
彼女の存在は支配者として周囲に認知されるほどのものなのだ。
俺は一人取り残された。どうにかして裏番と連絡を取らねば。
四葉に娘がいた。
この事実を、この重さを本当に理解しているのは俺と裏番だけだろう。
そう思った時、また俺の背中に声が刺さる。
「よろしければ九校戦が終わりましたら会いませんか。こちらからご連絡しますね」
夜天と呼ばれた女性。少し哀しそうな表情をしている。
彼女は鈴ではなく美しき幽女の声でそれだけ言って会場へと歩を進める。
何かが起きるのか?それとも起きているのか?