うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる:その2 作:madamu
その日、相馬新こと関重蔵は森崎駿のひと騒動を助け帰路に就こうとしていた。
「ありがとうな」と騒動が終わった後、森崎駿は相馬新に少しハニカミながら感謝を伝えた。
同い年の友人に面と向かって礼を言うことに恥ずかしさを感ずる年齢でもある。
孫美鈴と公安のひと騒動につきあった相馬新は、工作員としてのテクニックと伝手を使って事態を秘密裏に処理した。
空挺時代の後輩である瀬川はから「次何かあったら手を貸しますよ」とちょっとした取引もあった。
夜天、高村マリア、十二江清姫、萬真人。
関重蔵はこれから起こる横浜騒乱にむけての戦力に多少の不安を感じていた。
四葉からの戦力提供は不透明。
西日本魔法師連絡会との関係は高村マリアとのつながりだけで組織的な協力は無理。
萬が警察機構に働きかけが出来るといっても、それは命令ではなくお願いであり、良いとこ当日の警邏警官を増やす程度。
そう関重蔵は睨んでいた。
そして、メイン戦力てある国防軍へ事件を伝えられないでいる。
転生者が知る未来を迎える確固たる証拠は無い。
今はまだごく少数による「妄想」として処理されるのだ。
国防軍をメインに据えられないと広域での防御は難しい。
100人未満が協調無しに地域戦闘に勝てるわけがない。
(どうすっかだな~)
午後8時を過ぎ夏の東京でも周りは暗い。
八王子の近く。
一校から二駅の距離のセーフハウス。
毎朝の登校にはちょっと距離があるが、公共交通を使うほどの距離でもない。
すでに諸々の処理を済ませ関重蔵は帰路についていた。
駅近くのスーパー、2095年にはほぼ無人。
出入口でIDをかざすと、自動精算される仕組みだ。
一時期は人間の顔で判別をしていたが整形、戦災傷病などで顔の作りが大幅に変わる者や、フェイスローグ(整形成りすまし)による過度の被害から、個人特定は個人の肉体からカードへと逆行した。
結局のところ、便利の代償に被害を受け、そして不便になることでセキュリティを手に入れたのが2095年という時代なのだ。
明日の食事用にパンと冷凍食品を買い入れ、重蔵は店を出る。
一瞬目を細める。
街灯の灯りが目を刺した訳では無い。
下手な口笛を吹き流がら、一つ裏の路地に入る。
この辺りは八王子でも中小企業の工場が少し残る地域だ。
一戸建てには車用のガレージ代わりにシャッターと軽トラック。
そんな家が裏通りには時折現れる。
(気配が薄いな)
距離にして120m。
殺気は薄く、闘気は朧気。
そんな存在が3人。
重蔵の経験からすると凄腕の殺し屋。
だが、三人とも距離を取らず固まって行動していることに、気配の薄さと反した素人臭さがあった。
(どこだ?四葉?萬?十二江?大穴は七草?いやいや、十文字とかなら大笑いだ)
内心、自分の尾行する組織を想像しながら、何度か裏通りを右往左往し公園を抜け一般家庭の塀に登り、道ではないところを進む。
(俺の立ち位置を知り、かつ俺を尾行する奴はいない。特に諜報屋なら、俺の後ろをつけるより軍内部のお喋りに金積んで話を聞いた方が早い。つまりはこの尾行は関重蔵目当てではない)
塀からおりると、その先は公園。
この辺りだと運動公園として使われる広めの公園だ。
敷地の中央には400mの競技用トラックがあり、今も10人ほど大学生が汗を流している。
夏の大会へ向けての最終調整だ。
公園に足を踏み入れ、大学生達が見えるところ、また大学生達から見えるトラック外周の小径を歩き出した。
(問題、俺を相馬新として尾行する理由は?解答、実力の確認)
確信を持って関重蔵は自答した。
国防軍も決して有能で信義に厚く、兵士の命を見捨てず正義と博愛で運営される組織ではない。
そこそこの金額で「一校に潜む諜報員」の情報は売れたのだろう。
何をもって自分を絞り込んだのかは幾つか想像した関重蔵だが、絞り込んだ要因など多すぎて考えるだけ無駄と思考から切り捨てた。
金というのは恐ろしい魔力がある。
その魔力を理解している関重蔵は自分の存在も取引の対象となる事を理解していた。
(村井さん辺りが泳がしている可能性もありそうだな~)
幾つもの可能性があるが、やはり相馬新という存在の尾行だろうと考える。
(萬先輩の意を汲んだ道場生、というのが妥当なところか)
プロや戦闘経験者なら襲撃の際に固まっては行動しない。
十師族で現役の戦闘向けの魔法師や工作員を抱える十文字や七草、四葉の可能性はない。
十二江にはこういった後ろめたいことが出来る人員はいない。
気配を消せるが戦闘経験が圧倒的に不足している。
関重蔵の頭に浮かんでいるのは「戦場経験の無い格闘技の道場生」
つまりは萬家だ。
だが、警察関係者を排出する萬家がこういったことをするだろうか。
(千葉ならしそうだな~。千葉というかエリカが)
千葉エリカの性格を内心で笑いながら、公園を抜ける。
後方の追跡者との距離が詰まる。
関重蔵はそのまま追いつかれ、なし崩しの流れで対応することを考えていた。
今、工作員としてのノウハウで尾行を撒くと余計に勘ぐられる。
格闘戦で時間を稼いで、住民の注意を引いて幕引き。
算段としてはこうなる。
転生者同士手の内を見せるのも悪くは無いが、仕事の関係があるので余計なところでは見せられない。
(面倒くさい)
そう思いながらも、更に1本裏道に入る。
人影は無い。
更に距離詰まる。三人組は路地を曲がり裏道に走り込んできた。
「なんすか?」
高校1年生らしい少し間の抜けた、だが意味も無く自信満々な顔での問いかけ。
関重蔵の視線の先には三人の特徴の無い男性がいた。
(おかしい!)
態度や表情を崩さず関重蔵は自分自身に警報を鳴らす。
三人の男性の服装や年齢にバラツキがある。
下は20代、最年長は白髪のどんなに若く見ても60代。
若者はジーパン姿。年長者は上下ともジャージ。中年は洒落たスーツ姿。
力試しの襲撃者ならば、より街に溶け込む服装や、動き易さや、防御力を見越した厚手の服など工夫をする。
だが目の前の三人は違う。バラバラだ。
年長者のジャージも運動用というよりは普段着といったもので、状況に対して服装に違和感がある。
これ程チグハグな三人が固まって行動していたのだ。
スーツの二人組なら会社員として駅周辺では目立たない。ジャージの年寄りと介護者なら住宅街に馴染むだろう。
だが、この服装の設定が全く違う三人組はどこにいても目立つ。
(なんだ?四葉による精神干渉による洗脳か?)
萬家から四葉に黒幕が変わる。
素人への洗脳による即席追跡者。
だが諜報や裏仕事慣れした四葉にしてはおかしい。
素人を即席で仕込むにしては雑すぎる。
三人との距離は10m。一気に走り出し逃げることも関重蔵は選択肢に入れた。
だが、次の現象がその選択肢を選ばせなかった。
関重蔵を挟んで三人組の反対側。
関重蔵から見れば後ろに、火花を散らすような音をたてて、オレンジ色の巨大な円が空間に出現する。
円の内側は周辺の景色と違う、どこか街灯の少ない地域であった。
「さて、楽しい弱い者虐めの時間だ」
円から出て来たのは20代とも30代とも見える不思議な男。
体格的にはやせ形、いや引き締まった身体だと関重蔵判断する。テイラーはわからないが、なかなかのスーツを着ており裕福な印象がする。
「お前を殺しておけば後が楽だしね。このタイミングだとパラサイト辛いでしょ。じゃあ、死ね」
そこの薄い笑顔を見せなが男は独り言のように関重蔵に語りかける。
関重蔵は汗を一筋流す。
非人間的な存在と相対している、という本能的な危機感が汗を押し出している。
◆
「疾!」
短い呼吸を一つ吐くと常人では出せぬハンドスピードのパンチを6発見舞う。
三人組の一人、年長者は弾丸に匹敵する殺傷力を秘めるパンチにより胸に6つの陥没を作る。
常人なら即死してもおかしくは無い。
だが年長者は膝も折らずに数歩距離を取る。
スーツ姿は初手で関節蹴りを食らい、右膝が曲がってはいけない方向に90度曲がった。
だが片脚で立ちバランスを取ろうとしている。
20代は逆一本背負いで地面に脳天から落ち、数度の痙攣ののち沈黙した。
だが、関重蔵が有利になった訳ではない。
20代との接触から手足の力が落ちてきている。
先ほどの6連撃も本来であれば10連撃を意識したが力が続かない。
(ヤバいな)
後ろに立つ謎の男はニヤニヤと笑いつつ、時折何も無い空間から光弾を打ち出し関重蔵を牽制する。
「おい!あんら誰なんだ!」
呂律が少しおかしくなった。関重蔵の問いに男は何も喋らず、焦りを見せた関重蔵を嫌な視線を向けながら笑う。
「人は来ないよ。後は君が死ぬだけ」
会話が噛み合わない。意図的なのか、単に無視しているのか。
正面に立つスーツと年長者から距離を取る。振り向いて駆けだせば逃げれるかもしれないが隙があまりにも多すぎる。
周囲の家屋からは人の反応が薄い。
小さく深く呼吸をし関重蔵は周囲にほんの少し意識を割り振る。
正面に二名は砕けた足と破損の多い胴体で動きが鈍い。
周辺家屋で人の動き。薄い気配から襲撃者の仲間が潜んでいると関重蔵は睨んでいた。
「そろそろお終いかな」
男の言葉に反応してスーツと年長者が突っ込んでくる。
動きは鈍重だが、それと同程度に関重蔵も体が重い。
「邪!」
半歩早く踏み込んできた年長者に渾身の抜き手を肋骨下に差し込む。
関重蔵の手には内臓の温もりが伝わり、ジャージは赤く染まり始める。
直ぐに抜き手を抜くと年長者の影から突っ込んでくるスーツに正面からぶつかる。
丹田に力を入れることで小柄な関重蔵は地面との一体感が上がり、この状態なら小形のスマートモビリティに突っ込まれても揺るぐことはない。
スーツは関重蔵の不動さに負け、4歩後ろに下がる。
関重蔵はその隙を見逃さず、スーツの頭を両手で挟む。
スーツの頭は高速振動する掌で挟まれ、頭部は眼や鼻、耳から出血する。
昔見た漫画の技の再現だが、現在では不可能殺人となる暗殺技だ。
確実のスーツの男の脳は復元不能なまでに破壊された。
荒い呼吸の関重蔵は空間から現れた男に視線を向けながら徐々に後ろへ下がる。
「次はアポ取っれから襲撃しちくれ」
軽く笑う関重蔵とその姿を見た空間の男は先ほどよりも深く、不敵な笑いをする。
「イッツ、ショータイム!」
その言葉で風が薙ぐ。空気が重くなる。
関重蔵は男に背を向け走り出す。
周辺の殺気が一気に濃くなる。殺気は誰かから、何かからではなく空間から関重蔵にむけられている。
殺気のプールの中を走り出す。
だがそれは遅すぎた。
関重蔵の中に情報次元体のパラサイトが三体入り込む。
5秒後。
重蔵は地面に膝を着き、ゆっくりと倒れ込む。
「よし、一丁あがり」
動かなくなった関重蔵を見て、男は満足し登場した時の様な空間を開く。
男は知っていた。肉体の欠損は司波達也によってどうとでもなる。「死」さえ超越する可能性がある。
だが情報次元による攻撃、霊子への攻撃による死亡は事情が変わってくる。
それは再成では対応できない消失なのだ。
「あ」
忘れ物を思い出したかのように、男はナイフを一本取り出し関重蔵に投げつけつつ空間へと消えていく。
念押しのナイフは関重蔵の背に深々と刺さる。
それは心臓を狙っての一撃だった。
◆
21:00の病院。
「村井といいます」
十二江清姫は突然、相馬新の親族と言われる男性から病院へと呼び出された。
スーツ姿の禿頭の男性だった。
「相馬新の叔父でして、学校では十二江さんにお世話になっていたらしく、何かあれば連絡してくれと」
村井は関重蔵から「十二江は俺の正体に気付いている。引き込むならあの子ですね。自信満々の素人なんで懐柔簡単ですよ」と報告を受けていた。
(確かに簡単そうだ)というのが村井の十二江清姫への印象だった。
長身の美少女、大人びた感じと無邪気さが同居した不安定な魅力。
目的を提示、金を渡し、方法を示してやればプロパガンダの片棒位はかついでくれそうだ、というのが村井が最初に浮かべたことだ。
「それで相馬君が暴漢に襲われたとか」
連絡の主な内容がそれだった。
十二江清姫は少しだけ顔を青くし大急ぎ病院に来た。
勿論他の転生者には伝えてある。
(真人はもうすぐ、夜天さんは東京にいるなら来るだろうし、マリアちゃんは少し無理か)
「状況はどうなんですか?」
「ナイフが背中側から刺さってあわや心臓直撃だったが身体が鍛えておいたおかげで、心臓には刃は届かなかった。発見者の処置が良かったので即死ではなかったよ。だが昏睡状態のままだ」
村井は少しだけ心配するように言葉の語尾が少し弱げだ。
「君に連絡したのはアラタが君を気にしていたからなんだが、何かあったのかね」
十二江清姫はその問いかけに「大亜連のテロリストの存在」を伝えようと唇を動かそうとした。
「その人とは話さなくて結構です」
廊下の角から現れた四葉夜天。
口調は落ち着いているが村井にむける視線は敵対的な色がある。
「これは、なんというかいきなりで手厳しい」
「村井大佐。情報部支援課課長」
四葉夜天が村井大佐の立場を呟く。
額に一滴も汗を見せない村井。
夜天の呟きに村井と夜天を交互に見る清姫。
「何が起きたか詳しく。仰らないのなら独自に調べますが」
少し距離を置いたまま夜天は村井へとプレッシャーをかける。
「天下の四葉に言われると弱いですな」
「場所を変えて話を聞きます」
村井の謙遜と組織力の違いを示す言葉を無視して夜天は話を促す。
場所は関重蔵の病室のあるフロアから離れた病院1階のラウンジ。
見舞い客もいない、寂しく閑散とした空間。職員もいない。
いるのは突然呼び出された女子高生と組織をまとめる立場の者が二人。
少し離れたところに四葉の護衛と軍の護衛がそれぞれ別方向を警戒する。
3人はラウンジの丸テーブルを挟んで座る。
「簡潔に」
「謎の襲撃者により、重傷。今晩が峠。襲撃者は死亡している。襲撃を指示した人物は調査中」
夜天の言葉通り、村井は簡潔に伝えた。
「より詳しい情報は書面でいただけますか」
「難しくないですが建前をいただけますか」
村井は理由のない情報公開をよしとしなかった。
ギブアンドテイクでない単なる情報漏洩は自組織の格を落とすし、何よりも交渉相手として下に見られるのは良くない。
「では、公安経由で依頼を出します。多少を色を付けて」
「この手の話に慣れておいでのようで」
「明日の正午までには手配します」
村井の言葉に多くは応じない。
夜天の経験上、情報士官との長話は得することはない。
少なくとも前世で村井との会話で余計な仕事を2度受けさせられたことがある。
「では、相馬君の寝顔を見て帰ります」
(絶対黒幕を見つけて殺す。絶対殺す。野良犬の死骸のように路上にバラまいてやる)
この30年で感情を隠すのが夜天は上手くなった。
ただ無表情でやり過ごす前世とは違った。
薄く笑った夜天の表情から村井は何となく殺意を隠していることを感じた。
(また惚れられたか)
村井がそう思った瞬間に病院の明かりが一斉に消えた。
「確認だ!警備状況を確認して相馬君の部屋に2名、あとは警備員と合流して警戒!」
離れて護衛していた兵士に村井は即時に指示を出した。
「私も所轄と関係部署に確認してきます」
夜天へそれだけ言うと村井は席を立った。
「敵襲のようです」
事もなげにそれだけ言うと夜天は自分の護衛に向かって軽くうなずく。
四葉夜天は血縁上は次期当主候補の最右翼だ。
彼女につく護衛は見えない範囲を含めると1個小隊以上の人員である。
廊下の電気が戻る。
非常用の電灯で足元だけを照らす。
「十二江さんはどうされます。こちらでお待ちになられるなら一人置いていきます」
「私、戦闘苦手なのよね」
「そうですか。ではこちらで」
四葉夜天はそう言って護衛を置いてどこかへ行ってしまった。
特殊な糸を使用して人体を操る、その技術は魔技と言っても差し支えない。
その技を持つ夜天にとっては凡百の魔法師など相手にはならない。
(真人早く来ないかな、ヤバいな)
二呼吸して清姫は簡易な感知系の術を起動する。
ブランシュの件よりも何段も上のレベルの事件だと清姫は肌で感じた。
国防軍情報部と四葉が絡むことの件は収束点が見えない。
そう言った「先の見えなさ」が清姫を不安にさせていた。
原作の敵ではなくもっと異質で物語の外から来た敵。
いや、原作から外れたことによることで新たに敵が生まれたのか。
明かりの乏しいラウンジに看護師が横切り清姫へ
「こちらにいて大丈夫?ナースステーションへいらっしゃいますか?」と声をかけた。
清姫は軍人による確認が取れ安全なら帰宅するつもりであること、この場を離れることで連絡が遅れることを懸念していることを伝えた。
看護師も何かあればナースステーションに来るよう念を押し、仕事へ向かっていった。
5分、7分、10分と時間が経過する。
廊下の角から人の走る複数の音。悲鳴。魔法師の魔法行使の光が暗い廊下の壁を照らす。
「逃げろ!」
角からは一人の護衛が飛び出し、清姫に叫ぶ。
護衛の頭を飛び越えるように先ほど声を空けた看護師が床と水平に飛んでいく。
看護師の身体には力が入っていなかった。
清姫は(パラサイトだ!)と看破した。
正しくは家伝の「魂魄英視法」により看護師の霊子の輝きが弱まったことから連想だ。
古式には情報次元へのアクセス方法として五感を通して行うことがある。
十二江では霊子の確認に視覚能力を特殊に強化する方法が秘伝の一つとして伝わていた。
すぐに席を立ち、廊下とは反対側に走ろうとした。
だが、進行方向の先に常人とは違う霊子を纏う存在が二人いる。
清姫の後頭部には護衛の男性の断末魔が聞こえた。
「周公瑾の部下なの!?」
膝が震える。生死の合間に立っている。
原作やアニメとは違う本当の生命の危機。
自分のチートが自分を救うのに役に立たない瞬間。
相手に問いかけるのが精一杯だ。
口の中が渇いている。
問いには答えず前方の二人が距離を詰めて来る。
後ろを振り向くと一つの人影が床に倒れ込んだ護衛を跨いで近づく。
十二江清姫は数少ない攻撃的な術を起動しようと手元で印を結び始めた瞬間である。
稲妻が空間を横に走る。
清姫を避けて三人に稲妻が直撃する。
肉体は一瞬で炭化し朽ちる。
清姫はパラサイトの魂魄が空中に集まり始めたのを目視したが、その魂魄も人型のオーラが現れ一瞬で消滅させていく。
パラサイトの完全消滅を見た清姫に次の衝撃が襲った。
突然の頭痛。片膝を着き、吐き気が襲う。
(これは…転生だ!何か世界に起きた!)
痛みでうすぼんやりする頭で思ったのはこの衝撃が転生者しか受けていないこと、そして転生者に関わる何かが起きたこと。
「ガハッ」
胃の内容物が出た。
その身に襲う違和感と戦う。
今年の新入生総代は?
入学後の騒動は?
生徒会にいるのは?
二科生の問題児は?
九校戦の1年生選出は?
九校戦のモノリスコード新人戦の優勝メンバーは?
経験したことのない記憶が清姫の脳裏に浮かぶ。
それはあり得ない過去。存在しない過去。
だが今は、清姫を襲う違和感は過去を改変し事実とし、一瞬で世界の有り様を変えた。
全知全能、万能の御技。
「無理をしない方がいい」
落ち着いた声。少年というよりは男性といった少し低く人を引きつける声。
非常灯の灯りでは廊下の向こうにいる人物の顔は見えない。
だが身に纏う服装は一校の制服。
ゆっくりと近づき、顔が見えてくる。
穏やかに見えるが意志の強い瞳。
長い黒髪を紐、帯留めだろうか、まとめている。
長身に決して薄くない胸板。
美しさと気高さと雄々しさを併せ持つ。
「アラタは、相馬新は3階の奥の病室ですね」
確認を清姫にするが、清姫はそれに答えられなかった。
答えられたのは突如現れた人物の名前だけだった。
「四葉光夜」
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