うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる:その2 作:madamu
「奴らの狙いは何だ!」
夜の渋谷。
人通りの少ない住宅街と繁華街の境目。
黒羽竜也は司波雪光と並行して走り続けている。
移動魔法を使い常人以上の速度で走る。
住宅街の窓の明かりは遠く、繁華街の明かりは赤、青、緑と多種多様だ。
「なんだって、パラサイトでしょ」
「ああ、そうだったな!」
独り言を律儀に返す桐ケ谷和人特尉に怒鳴り半分でさらに返す。
黒羽竜也はこの状況よりも登場人物に対して苛立ちがある。
状況は二人の予想を超え始めていた。
パラサイトを保有するのは黒羽竜也が睨んだ通り太平洋情報センターであったが、問題はパラサイトの存在を内密に処理するため、スターズが日本に派遣されたのだ。
それも数名ではない。2小隊+α。つまりは20名以上の「一流の実戦魔法師」である。
「国防総省」による太平洋情報センターへの制裁といった面もある。
情報センターの行為は独断専行かつUSNAの軍事行動に楔を入れる行為である。
比較的友好な関係を結んでいる日本での非公式の軍事行動。
実行能力を持たぬシンクタンクが行った愚行は小さくない衝撃をホワイトハウスに与えていた。
正体不明の人物による疑似ブラックホール実験を支援し、研究所の人員を危険にさらした。
その後USNA国内では研究所のあったジャクソンビルでは行方不明者数が前年の200%を超えた。
USNA大使館からは暗に「我々で離反者は始末する」を匂わせる接触が外務省にあった。
「こちら、キリト。不動と同行して現場に向かっている」
雪光は情報端末へ報告。
不動、黒羽竜也(こと四葉竜也)の軍事行動中のコードネームだ。
司波達也が「大黒竜也」と名乗るので、大黒天ことシヴァ神がその起源とも言われる「不動明王」から取った「不動達也」として行動している。
雪光からは「ベタだ!」と爆笑されたが「どうした、イキリト」と竜也は意地悪な笑顔で返した。
「桐ヶ谷和人」というコードネームもどうかと思う、というのが夜天、光夜、竜也の感想だ。
川原礫は2010年代の日本のポップカルチャーを代表する小説家の一人でもある。
情報端末の先には、品川に居を構える警察署の会議室を占拠してつくられた前線基地。
この件の主体は「外務省外事部」である。
20人を超えるUSNA国籍職員の受け入れについては、関税関係の会議を先送りし日本の通商関係を有利にすることで黙認をした。
監視のため不動達也と桐ケ谷和人の両特尉が魔装大隊から派遣され監視に任務にあたっていた。
そして突然の戦闘発生の一報。
場所は品川再開発地域。
攻撃目標になるような高層ビル群はなりを潜め、今や低層ビルやショッピングモール、そしてリニアメトロなどを要する近代都市の手本の一つだ。
そこに「仮面をつけた赤毛の女が率いる数人が一人の男を追っている」と言う情報がもたらされた。
「…リーナいるかな」
「言うな!」
「ほのかちゃんとはどうするんだよ」
「言うな!」
「不動特尉、意外と優柔不断」
「言うな!」
間もなく外事部の車との合流地点だ。
黒のワンボックスカーが二人に向かって減速しつつ近づいてくる。
魔装大隊の偽装車両だ。
◆
昼には十文字克人を狙う襲撃があった。
そして夜にはこれである。
今、転生者たちは後手に回っている。
何となく、ほぼ確実に影の中の男が「論文コンペ」合わせで何かを起こすことを転生者たちは感じていた。
既知未来知識で「論文コンペ」に時期を合わせてくるだろうと漠然と、しかし確実に時期を感じ取っているが尻尾が掴めない。
USNAのCIAが絡んでいるならば大亜連とは違った形で工作員の隠匿手段を保有しているだろうし、パラサイトの管理については影の中の男が十二分に行っているはずである。
そう感じるのは相馬新襲撃におけるパラサイトのコントロールを見ての判断である。
四葉の情報網や関重蔵の人脈、黒羽竜也によるフリズスキャルヴによる検索でも、USNAが一枚岩ではないことは確認しているが、今二つ確信できる情報にたどり着けない。
どこで、どのくらいの規模で、事件を起こすのか。
そして直近の問題は「関重蔵=相馬新」という情報が幾つかの情報機関で確認されたのだ。
関重蔵が「諜報員」と言う情報までは出ていない。
だが「相馬新」という名前で一校に所属しているという未確認情報が国内外で出回った。
相当望遠で撮ったのかぼやけた写真も添付されている。
小さい情報だが国家機関に背景が不透明な人物。十師族とは違う特異な立ち位置。
波紋としては極小で数日で別の情報に飲み込まれるかもしれない。
「こちら大黒。現場に到着した。指示は?」
移動する車内で黒羽竜也のヘッドセットには司波達也の声がする。
101旅団 魔装大隊所属 大黒竜也特尉
司波達也は軍名をつける際に珍しく冗談めかして「竜也」と名乗るようにした。
真夜は軍名で二人名前が交換されることに「達也が私の息子で、竜也が深夜の息子になっちゃうのね~」と親馬鹿的に喜んでいた。
その言葉の「達也」と「竜也」を入れ替えた言葉を深夜も言っている。
「状況は」
「USNAのエージェントと思わしき、7名…いや8名が5名の民間人風の魔法師と戦闘をしている。装備は不明だが服装は都市迷彩になっている」
竜也の質問に達也は答える。まだ精霊の眼を使ってはいない。
「あれは…エリカだ。千葉エリカと壬生沙耶香だ」
達也は視覚に捉えた二人の少女を報告する。
◆
(二人は買い物帰りか)
ウルフグレイカラーのジャケット姿で司波達也はバイクに跨ったまま、少し離れたところから状況を注視していた。
2階建ての立体駐車場。
モビリティーではなく自家用車向けの駐車場は地下よりも地上での複数階建てが一般的となっている。
(直線距離は300m。危機管理上で危険地帯に近寄らないのが常套だが)
千葉エリカも壬生紗耶香も荷物はさほど多くない。せいぜい片手にショッピングバッグがある程度だ。
千葉エリカが戦闘音に気付く。壬生紗耶香と二言三言話す。二人とも真剣な顔をして戦闘音の方向へ走り出す。
走りながらも千葉エリカは腰の後ろに手を回し、武装型CADを取り出す。特殊警棒を模したCAD。
壬生もたすき掛けにしていたボディバックからリストバンド型のCADを取り出し装着する。
服装を言えば千葉エリカは袖の長いTシャツにひざ丈のデニムスカート、スニーカー。
壬生紗耶香は紺のワンピースにデニムのジャケット、ヒールの低いミュール。
(全くあのじゃじゃ馬が)
司波達也は戦闘音に対して真剣ながら笑みをたたえたエリカの横顔が思い出された。
「エリカと壬生先輩が戦闘への介入しようとしている。こちらで静止する」
それだけ情報端末に言って司波達也はバイクを飛ばす。
後ろに司波深雪を乗せない時はやや荒っぽい運転となる。
二人の美少女剣士が現場に到着する直前で出会うことが出来た。
だが立場上、正体を明かすわけにはいかない。
建物の影にバイクを止め、そのまま武装型CADを二人に照準し撃発動する。
波の合成。
複数の波長の違うサイオン波による三半規管へのダメージ。
変数調整というハイテクニックを使うが、目標が動き回る実戦ではあまり使えない。
2秒後二人はその場に膝を着ける。
壬生紗耶香は千葉エリカの腕をつかみ、よろけるまま近くのビルの入り口まで避難する。
不意打ちからの避難。
状況に対して冷静に行動しているのは壬生の方だった。
千葉エリカは入口の近くのベンチの影に隠されており、まだ立ち上がることが出来ない。
「こちら大黒。民間人二人の行動は制限した」
その言葉を合図に少し先の商業施設で爆発。
USNAスターズとパラサイトの戦域が拡大し始めたのだ。
◆
「大黒!こちらは俺が対応する!あの、え~、仮面の奴を追ってくれ!」
竜也はリーナの名前が頭に浮かんだが、無理やりそれを言い換えた。
(あーくそ!なんなんだ!くそ国防総省め!リーナを日本に派遣しやがって!カノープスの奴どうにかしろよ!)
かつての義妹であり妻の姿を聞いて竜也は混乱をUSNA国防省への怒りに変換した。
現在のアンジェリーナ・クドウ・シールズの立場を考えれば、原作同様にスターズの総隊長である。
それも魔法師関連の殺し屋扱いを受けているという想像も難くない。
自分の義妹の扱いの悪さに勝手に怒りを覚えているのだ。
USNAの孤児院については7歳でネットワークを介し、無記名の通報で早々に潰した。
栄養失調で死んだ少女はこの世にいない。
少なくとも今現在、この世界に存在する黒羽竜也を名乗る人物は概ね平和かつ前世であった心に刺さる小さな棘もなくなり、淡い恋心を持って光井ほのかとの距離を詰めようとしていた。
だが、これである。
(どいつもこいつも!)
上手くいかないことへのいら立ちを影の中の男に全てぶつけようと固く誓った瞬間である。
爆発の直後、パラサイトが二手に分かれた。一つは品川から渋谷方面。もう一方は品川からさらに南下を始めた。
司波達也からは「仮面をつけた魔法師が南下したパラサイトを追っていった」の報告に大声で端末越しに言葉を返したのが先ほどの竜也だ。
「不動特尉!」
「この場で下ろしてくれ!俺と桐ケ谷特尉で追う!」
運転手が状況を察して指示を仰ぐように竜也の軍名を呼び、即座にこの場から追跡及び迎撃を伝える。
「不動特尉、今なら何分持つ?」
「戦闘を考えると5分ほどだ」
車を降りながら雪光は竜也に聞いた。
聞かれながらも竜也は知覚魔法を実施。
視界と言うより脳内に展開された広域グリッドに人型かつ高速で移動する集団を感じ取った。
「ここから3kmの地点だついてこい」
移動魔法を展開し、道路を走り出す。「はいは~い」と気の抜けた返事をし雪光も後を追う。
竜也は接敵までの時間を考えると移動魔法、それも高速を維持するためのサイオン消費も抑えられそうだと考えた。