うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる:その2   作:madamu

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人嵌めるなら色恋沙汰

「でさ、いつまでここにいりゃいいの?」

茶室で横になって寛ぐ少年。まるで虎だ。それも美しく若々しい虎である。その虎が暇を持て余している。

 

茶室に客として迎えられたのは古式魔法の大家から使者として訪れた京都府の府職員だった。

フレームの太い眼鏡に、やや安めのスーツ。

体格はあまり運動していないのかややふくよか。

顔の白さは病的というよりも優雅とか俗世間との距離を感じさせる。

この中年男性も古式魔法師であり、地方自治体勤めの魔法師としては屈指の一人でもある。

 

「鬼一様には窮屈かとは存じますが、まもなく結界役による索敵も終わりますのでお動き頂きたいのはそこからですね」

 

転生者たちの京都での前線基地。

獅子王院の京都の屋敷。

来訪した府職員を応接用の茶室に通したのは年若い、それでいて獣の空気を纏う体格の良い少年だった。

 

鬼一法楽。剣術の名家。この100年で収斂された現代剣術とは違う、人の血で積み上げられた戦場剣術。

そして古式魔法と密接に絡む1,000年の名家。

 

その若き次期当主は府職員を茶室に案内し、簡単ながら見事な茶を点て振る舞った。

府職員が茶を飲むと「応接終わり」と言わんばかりに腕枕で横になり、詰まらなそうな態度を見せる。

京都に住み名家の魔法師たちは鬼一家を重視する。

「現代剣術」に対抗する伝統の殺人剣術。それを今に伝える鬼一家は古式魔法師たちにとっては現代への抵抗の印の一つだ。

 

茶室のふすまが開くと、一人の少女が入室してきた。

法楽の隣に座り法楽の頭を叩く。

叩かれた法楽は教師に叱られた生徒のように姿勢を直す。

 

「本件において遊撃隊を指揮いたします高村マリアでございます。お見知りおきを」

綺麗な正座姿で深く一礼をする少女。

美少女と言っていいが編み込みの黒髪は茶室よりも格闘技のリングの方が似合うだろう。

(あちらが虎ならこちらは羅刹女といったところかな)

「ええ、清水寺の方からお名前はお伺いしております。高村様も相当の腕前で」

お世辞にならぬお世辞と裏腹なことを府職員は考える。

古式魔法師、特に京都の魔法師たちは自分達の事を地名や古刹に例えて話すことがある。

 

清水寺の方、東山殿、蜂岡山様etc

 

忌み名を使う魔法師は「京都式」と言われている。

 

「若輩なれど、京の地に妖魔が跋扈するのは日ノ本の術師としては屈辱です。そうならぬ様全力を持って対処いたします」

顔を上げる高村マリアの目つきに府職員は気おされた。

(16歳の小娘とは思えん)内心で汗をかきながらも、居住まいを崩さなかったのは年長者であることの小さな矜持によるものだった。

 

「俺はチャンバラ出来ればいいんだけど」

前世では77歳まで生き、古式の剣術継承で苦労した法楽としては、折角自由に動ける現世ではやりたいことを小声でごちた。

 

 

「絶対、魔法科高校には入らない」

「絶対入るよ。奈波、きっと入る」

カジュアルな服装の七海奈波は暗い顔して、隣にいる楠葉に宣言する。

その宣言をさらっと否定すると楠葉は手元のタブレットで現在の京都市内の交通情報を確認する。

奈波の方を見ずに、日本魔法協会本部周辺の車両の交通状況を注視する。

(会うたびに聞かされるのもね)

奈波は転生者に会うたび、「今度は絶対魔法科高校にい入らない」と文句を言っているので聞かされる方は飽きている。

前世では奈波と楠葉は長い付き合いであり、親友と言っても良い関係だった。

元気とミーハーを形にした奈波と、伝統と現代の魔法文化を担う楠葉は妙に馬が合った。

 

転生者として前世の知識を持つ楠葉はその秘密を一校卒業時に奈波に打ち明けたが、態度が一向に変わらない奈波に安心しつつ「鈍感か?」と疑惑もあったりした。

 

「琢磨のお守りどうするの?一校いったら暴れる・・・前に光夜先輩に黙らされるからいいか」

奈波の従弟を引き合い出したが、彼が一校に入って暴れようものなら光夜なり雪光なりぐうの音も出ないほど凹まされるのは想像に難くない。

 

獅子王院の京都邸宅の地下にある応接室。

企業案件用に造られている部屋であり、会議机と応接用ソファのある二部屋続きのスペースだ。

会議机のあるスペースでは複数のモニターで京都市内をモニタリングしている。

また既に西日本魔法師連絡会や獅子王院京都本社、五輪鳴門の知己の「忍術使い集団」からの情報もモニターに流れている。

 

ソファでは奈波が「2095年度 制服の可愛い高校」というwebカタログをタブレットで見ている。

見ているというか睨んでいる。

 

「ユキ君いるもんね~」

「馬鹿、やめとけ」

アッシュグレイの髪。中学2年生の仙破冬彌が少し茶化す様に奈波に声をかけるが、五輪鳴門が頭を抱えてそれ以上言葉を続けない様注意する。

 

冬彌は前世の高校卒業後は即座に宮内庁関連のスカウトで新陰陽寮へと参加した。

そのため、雪光と奈波との繋がりは数年間開いており、二人の恋愛遍歴にはあまり巻き込まれていない。

 

逆に鳴門は四葉の弱み探るため、七海奈波と雪光の恋愛を「諜報の対象」として追っておりおおよそのことは知っている。

その諜報の対象である奈波(一度目の離婚直後)に身辺調査をしていたことを知られると、諜報員は奈波に拉致され八丈島沖での海洋調査に3週間従事させられた。

 

諜報員からは「あの人、軽く海賊ですよ」と報告を受けている。

八丈島沖に現れた国籍不明かつ機関銃武装した船舶二艘を「七海の想弾」にて沈没させている。

 

冬彌に向かってソファに備え付けの皮張りのクッションが思いのほか剛速球で投げつけられた時に高村マリアが入室してくる。

 

「ほら、ブリーフィングやるよ」

一緒に法楽も入室するとマリアは会議机へと向かい、モニター前に陣取る。

司波達也より下の年代は川村エカテリーナという人物をそれなりに尊敬している。

 

一代で億万長者となり四葉へ対抗した個人。

物語の司波達也とは全く違う人生設計ながらさながら偉人の如き人生。

億万長者であり、亡命者の生活を助ける機関を作り、亡命に関する法律の改定、新ロシアとの長期にわたる闘争。

 

楠葉にしてみれば一個人で近習備に殴り込み

鳴門にしてみれば一個人で内閣情報局に殴り込み

奈波にしてみれば一個人で北海道開発局に殴り込み

冬彌にしてみれば一個人で宮内庁に殴り込み

法楽にしてみれば一個人で古式魔法の大家の家々に殴りこむ。

 

カナデがカチューシャを「精密運行する暴走機関車」と評したことにみんな納得している。

 

「まもなく正午。私たちは広域結界と広範囲射程の魔法で京都全域をコントロール」

その言葉に室内の全員の視線がマリアに向かう。

皆余裕はあるが真剣な表情だ。

 

「ホットスポットには法楽と奈波ちゃんを投入。鳴門は現場で遊撃。フォローと索敵よろしく」

法楽は肩を回し、奈波は少し不服そうな顔をし、鳴門は拳を握り指の関節を鳴らす。

 

「改めて言っておくけど、横浜は向こうの一校生どもに任す。京都は敵の投入戦力は多くないが横浜に比べると広範囲。それに京都という土地柄、古式の結界が至る所にある。それを上手く使えるのは一校のあいつらよりも私たち。いい、横浜を外された二軍なんて思わないで。雪光と兵介が走り回ったら神社仏閣が滅茶苦茶よ」

最後はため息。

「たしかに」と冬彌が笑う。他の面々もクスクスと笑う。

 

マリアは全員に顔を見る。

「じゃあ仕事を始めましょう。今回の騒動の経費は重蔵持ちよ」

その冗談に皆笑える程度には荒事には慣れていた。

 

 

八辻の柳

 

鳴門の持つ<忍術>である。

自分の木霊を街の「辻」に放ち、その木霊の視界内の映像を共有する知覚魔法である。

忍術に分類される魔法は「幻覚」「知覚」に類されるものが圧倒的に多い。

 

「京都駅付近にはパラサイトはいないね」

京都駅ビルの喫茶店。そこには情報端末とCADを同期させていた鳴門が一人コーヒーを飲んで待っていた。

雪光謹製の「パラサイト感知器」である。

と言っても即席であり、これが使える人間は少ない。

情報次元でのエコー装置に近く、その取扱いについては転生者でも一部しか使えない。

現代魔法師より、想子について感覚的な認識の古式の魔法師方が向いている。

前世の世界では現代魔法師の藤林奏やカチューシャはこの装置の利用に手を焼いたことがある。

 

このチームでは目であり連絡役の鳴門がパラサイトの判別を行うこととなった。

 

京都は平常であった。一校での十文字襲撃、三校襲撃は他所のことである。

可能性の低い襲撃に備えるべく厳戒態勢を引くという判断を京都府は行わなかった。

観光地での人員の移動制限は生活に直接響く。

 

勿論それには「敵」を引き入れるための舞台づくりとしての意味もあった。

 

数日前から街中には九島の魔法師、古式の魔法師、そして国防軍が人の目に極力触れずに溶け込んでいる。

と言っても国防軍については小隊規模で公共施設(京都駅や、観光センター等)に分散しており危急の際は現場に急行する手はずになっている。

 

目や耳は九島と古式、手は国防軍といったように分担して警備にあたる彼らと違い、目も耳も手も独自に運用する「遊撃隊」はその行動制限は無いに等しい。

 

西日本の伝統派を本来の古式魔法師として正道に戻した高村マリアを筆頭に遊撃隊を構成する誰一人特別でないものはいない。

少人数ながら、現時点で西日本最高の即席チームである。

 

USNAの工作員の京都侵入。

結界のほころびと想子反応により、異国の魔法師と怪異たちが京都の地に入り込んだことは間違いなく、あとはどれだけ具体的に位置を特定できるか。

遭遇戦の先手を取る作業が、古式、九島、国防軍、そして遊撃隊で同時にかつ分散し、共有しつつ行われていた。

ただし各組織の手の内は十全には明かされておらず、「転生者」という最大のアドバンテージである未来で結実する最新技術を秘匿しながら遊撃隊は捜査を続けていく。

 

技術の秘匿については誰一人異論はなかった。

単純に「新製品」として出すことは可能だがそのコア技術や理論については現行の世界のバランスを崩すものばかりで、おいそれと出していいものではない、というの結論だった。

 

(アーク・リアクターの再現って今やるとまずいよな~)と鳴門は脳内で現時点までの状況を整理する。

 

早々に五輪を掌握し、内閣情報局と連携し日本の諜報・防諜を手に入れる。

それが鳴門の今の目的であり、前世で出来なかったことでもある。

現在の四葉と九島を凌駕する十師族の筆頭に五輪を据えることだ。

(関さん邪魔だな~)

前世での2105年、鳴門の動きを早々に察知した関重蔵は、村井少将と共に行動し五輪、特に鳴門にハニートラップをかけて

首輪をつけることに成功した。

4年近く時間をかけて、一人の女性を鳴門に近づけ結婚をさせたのだ。

鳴門は2歳年上の女性。まんまと嵌められた。

2111年に結婚祝いで連れていかれたレストランで、会う予定のなかった関がいたときに人生に枷を嵌められたことに気付いた。

「人嵌めるなら色恋沙汰」と言われた時は愛妻から受けた裏切りよりも諜報員としての経験と組織力で完敗と感じた。

鳴門の動きや鳴門が作り上げた組織は関重蔵に筒抜けであったし、そこから村井少将によって裏から良いように扱われたこともあった。

 

結局妻とは離婚できず、ズルズルと結婚関係をつづけた。女性は任務とはいえ、夫となった鳴門に少なからず夫婦の愛情はあったようでもある。子供も設けたが晩年は接点が無くなっていった。

 

鳴門は一度だけ、死ぬ前の関重蔵に「あんたに嵌められて楽しい人生だ」と嫌味をいったところ「人の後ろ暗いところを好きで嗅ぎ回ってるんだろ。それが自分に跳ね返っているだけさ」と言われた。

その時の関の表情はいつもの軽い笑顔ではなく、言葉とは裏腹に真面目な顔だった。

 

関重蔵のプライベートや子供の情報を漁ろうとしても工作員が死ぬばかりで、後ろ暗さをねじ伏せるだけの実力に嫉妬と尊敬のない交ぜの感情を持つに至った。

 

(今回はカナデさんが早期リタイアさせるだろうから、大きく変わるな)

 

前世での悔いは現世で晴らせそうだと鳴門は思う。

(四葉は今回の件が片付けば円満に終わる。光夜さんあたりか竜也がトップについてお終い。関さんはカナデさんが退職させるからオサラバ。雪光はどうせ七草のお嬢さんのお尻追っかけるだけだからヨシ。同年代以下はどう動いても裏稼業には顔出さない。夜天さんの面々は…わからないがあの反応を見る限りは手は出してこないだろう)

 

数日前、久慈灘幽玄から連絡を受けてあるデータを渡された。

「お前は五輪の縁者だろう。前世で世話になった。これを渡すから五輪澪の治療に役立てろ」

幾つかの薬のリストと、そこから発展的に調薬された新薬の組成データだ。

「これを服用すれば31歳じゃなく、70歳までは生きれるだろう。体調さえ気をつければ出産も可能だ」

五輪澪、鳴門の家族だが鳴門としては忠誠を誓うただ一人の女性。

車椅子に座する公開された戦略級魔法師。12使徒のひとり。

虚弱な体質のため、年々行動範囲は狭まっていく。

軍務で長距離を移動するがそれも出来て年数回だ。

鳴門が裏の道に進み、五輪家を存続させたのはこの五輪澪への忠誠が全ての根源でもある。

 

「みんな見習って気楽に生きるのもいいか」

 

手元の情報端末のディスプレイに視線を向けて、独り言ちる。

五輪鳴門は本当に自由に生きることとはと、数秒思案した。

コーヒーは冷めている。

 

 

鳴門の探索結果を受けて奈波と法楽は京都駅から離れた。

 

奈波はスカイブルーのスクーター、法楽は大型バイク。

といっても現在は電動が主流なので、液体燃料ベースの車両の流通数も2000年代初頭より減っている。二人とも電動ではある。

 

京都太秦。その地域に入ったところで適当な駐車場に停車させる。

法楽は布に包まれた大太刀CADを背中に背負う。

 

「な~、よう」

「あんたホントに人の名前呼ばないわね」

「会話できてるからイイじゃん」

「奥さん逃げたのそれが理由よ。ちゃんと観月さんと呼んであげないと。40過ぎてから結婚してくれたんでしょ。あの雪だってオイとかな~みたいには呼ばなかったのよ。それをあんたは、どうせオイとか名前呼ばないんでしょ。結婚したからって別にあんたの付属品になったわけじゃないだけどさ。ちゃんとその辺わかってる?わかってんの?」

「その話はすんなよ…マジで…」

「そんな態度だから2年も家帰ってきてくれなかったのよ。ちゃんと謝った?ねぇ、ちゃんと一緒にお墓入ってくれたの?」

 

駐車場から出て、二人は歩きながら話続けながら周囲に目をむける。

 

京都での戦闘は戦闘車両が動き回ることは無く、人と人による近接戦闘が中心になると思われていた。

大亜連の主力は横浜。

逆にパラサイト、この場合はCIAから飛び出した情報センターの尖兵たちが京都の魔法協会本部襲撃の主力と思われる。

その読みは当たっており、京都の町は普段と変わらぬ様子を見せていた。

 

「時代劇の町太秦」というのはいくつかの元号が変わった現在では、意味が変わっており戦国期や江戸時代を模した屋外セット以外に明治大正昭和平成などの屋外セットも組まれており一大映画街の様相がある。

通りには昔の俳優・名優たちのブロマイドが掲げられ、土産物屋の軒先には3Dの立体画像で亡くなった俳優たちが店番をしている。

 

「京都本部からちょっと距離あるわね」

2020年代を代表する美形俳優の3Dパネルを見ながら奈波は情報端末を弄る。

情報端末に写された地図には現在地から魔法協会本部へのルートが示されている。

徒歩での所要時間は55分。車両で17分。

 

京都の車両移動はマニュアル運転以外だと意外と時間がかかる。

東京中心部よりもオートモビリティの設定が複雑で公共道路での自動運転の速度は西日本で一番遅く設定されている。

安全対策という面強いが、都市伝説では京都の滞在日数を稼ぐ観光協会の陰謀説がネットにはある。

 

そういったこともあり、京都の中を自由に移動するには自転車かバイクが一番よく、オートモビリティを利用しない観光客は目立つ。

遊撃隊の二人は速度を重視してのバイクだがパラサイト達が同様にバイクとは考えづらいというのは鳴門の意見であった。

パラサイトのセーフハウス強襲以来、パラサイトの足取りはつかみづらく、極力目立たぬように動いている。

そう考えると移動に関してもオートモビリティの利用を最適と思われ、探すとなると人込みやオートモービルのある各駅近くとなる。

 

「この辺りってどっかのセーフハウスでもあるの?」

奈波は情報端末に話しかける。

「その辺りの寺社の結界が歪んだとの報告があってね。鳴門の探知も太秦方向で一致している」

マリアの返答。

「じゃあ、そこに誘導をよろしく~」

店先の3Dモデルに手を振りながら奈波は誘導を求める。

周囲には平日ながら観光客がまばらに歩く。

 

13時10分を過ぎたところだ。

 

 

獅子王院家の会議室でモニターチェックしていた冬彌が最初に気付いた。

「嵐山から情報。数8」

「冬彌」

「アイマム」

「嵐山には?」

「九島の主力部隊が展開」

「陽動でしょうけど、騒ぎになると面倒ね」

マリアは口元に手をやり数秒考えこむ。

この手の戦術判断は重蔵や光夜、竜也、達也の範疇と思われがちだが劣らずマリアも荒事には慣れている。

USNAの最大手銀行から発注されたウェットワーカー、いくつかの大国から送り込まれた殺し屋、資本家を狙う社会共産主義者気取りのテロリスト、その悉くを逃げ切り、倒し、生き抜いてきたマリアの前世は表と裏を行ったり来たりする人生でもあった。

 

USNAのセーフハウス代わりがスターズの少将とアンジーシリウス少佐の家なので大抵の悪党は手を引く。

たまに元四葉の当主だった女性が安物の普段着でドアの前で待ち構えていたことを何度も見た。

日本では四葉本家やカナデの家に転がり込むことが多く、複数の死神に狙われる状況の割には平和でもあった。

 

「何か数値は示している?」

「計測値が奇妙だね。現代魔法にはない」

モニターを冬彌が指さすと横から楠葉が顔を出す。

確かにモニターに表示されるサイオン量や周辺濃度、その他の魔法師の専門用語を指し示す数値が、並列して表示されている嵐山の先月平均と大きく違っている。

 

「奇門遁甲だね。方位をずらす系じゃなくて、守備陣だから範囲地域内での使用魔法に増減ポイントが発生するやつ」

奇門遁甲は「方術」以外にも戦陣としての意味がある。

 

一説には砦を中心に組まれた柵の配置方法という意味もあり、特定の侵入方法を知らないと砦にはたどり着けないことから

侵入者を惑わす方術という捉えられ方をされており、実際方術士たちは戦陣としての奇門遁甲と同様の使用ができる方術を生み出した。

それが方位をずらす「奇門遁甲」の起源とも言われる。

 

楠葉が喝破したの方位をずらすのではなく、範囲内の特定の地点では特定の分類される魔法の効果を弱め、また特定の箇所では魔法の効果を微増させる効果を持つ、方術「奇門遁甲」である。

彼女の実家は呪禁師と呼ばれる古来からの防御魔法を司る一族でもあり、この手の陣については造詣が深い。

 

「対応方法は」

マリアは視線を楠葉に向けずモニターから視線を外さずに聞く。

「現代魔法の方が良いわね。古式だと呪殺合戦になる」

概略ではあるがマリアの求めるに答えに合致した言葉を伝える。

呪殺合戦は京都の地ではデメリットが多い。

下手な寺社近くで行うと地脈の干渉で、術者に倍返しで帰ってくる。

もっと不味いのはこれだ。

「あと嵐山は応仁の乱の影響でたまに怨霊でるから古式の魔法使うと大惨事になる」

「つい最近の?」

「そう、つい最近」

冬彌が軽く聞く。楠葉は真面目に答える。

笑い話。

 

「国防軍に連絡、対古式ではトラブルが起きる地域なので現代魔法で上手くやるよう伝えて。楠葉、そっちのフォロー」

即時冬彌は手元のコンソールを動かし、国防軍へのチャンネルをオープンにし、依頼内容を伝える。

「私、現地に向かうけど大丈夫」

後衛組から一人外れることでの、補助要員の不足。それを心配しマリアに楠葉は視線を向ける。

 

「冬彌が残っているから働かせる」

マリアは少し笑うと冬彌に視線を移す。

「まあ、働かせないとサボるからね」

「え~」

 

楠葉は冬彌の不満の声を背中に聞いて会議室を出た。

 

 




1万字超えたので割って更新。
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